なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十五話・優しい願いの元に

 

 

第十五話・優しい願いの元に

 

 

 

空から一直線に降りて来た俺は闇の書の意思とやらに斬りつける。

が、片手間に展開された障壁にあっさり防がれた。

 

「…無駄だ。」

「そうか。」

 

俺の魔力がなのは達に比べて格段に低いから侮っているのだろう。

事実、ほぼ相手にしていないような感じだった。

 

二刀を以って連続で斬り付けるが、障壁はまったく揺るがない。

 

「穿て、ブラッディダガー。」

 

赤い苦無が幾つも出現し、一気に俺に迫る。

お返しをしてやろうと片手間に切り裂こうとして…

 

 

爆発した。

 

 

「だから無駄だと」

「何が無駄だって?」

 

爆煙の中、俺はほぼ無傷で立っていた。

 

「何…」

「爆風って位だから『風』だろ?俺の変換資質だし、どっかの馬鹿妹が人を爆殺しようとしてくるから、流す方法を覚えたんだよ。」

 

もっとも、熱まではそうは行かないため少し熱い。

バリアジャケットで軽減されるダメージで十分な程度の熱量だが。

 

「それに、言ってなかったがな…」

 

再度刀を振りかぶり、闇の書は防御魔法を展開する。

 

「ぐっ…な…に?」

 

障壁を抜けていないはずの手が訴えた痛みに顔を顰めた闇の書は、表情を歪めて俺を見た。

 

 

 

徹。

 

 

 

たとえどんな強力な障壁だろうが、この一撃は必ず相手に徹る。

 

「俺はどんな魔導師にも負けないんだぜ。」

 

ダメージを徹した俺を障害と見たのか、初めて真っ直ぐ俺を見る闇の書。

…確か管制人格だったか?そいつにはやてが上手い事指示出せればよかったんだよな?

 

「おーい、八神はやて、聞こえるか?俺は高町速人、なのはの兄でヒーローだ。」

「ソニックセイバー。」

 

語りかける俺に向かって魔力の斬撃が飛んで来る。

俺の魔力も入ってるから同質のウィンドスラッシャーだって使えるはずなのにあくまでリライヴの方使うかコイツ。

ちょっと腹立ったけど、魔法がメインの生活してないわけだし、変換資質の事もあるからしょうがないだろうと流す事にする。

 

「取り込まれちまったもんはしょうがないけど、今がチャンスなんだ。折角だから起きて管制人格とやらにちゃんとした願い事を言ってやれ。」

「主は騎士達を奪ったこの世界が悪い夢である事を願った、だから私はそれを叶えるだけ。」

 

直射砲撃がすっ飛んでくるがよく回避しているため簡単に避けられる。

 

「願いを叶えるのが生きがいだけど、下手にウイルスプログラムに逆らえば速効暴走。今のお前が願いを叶えるには何かしら破壊に結び付けなきゃならない。まったく、けなげな話だが…病気は治さないと根本的解決にならないぜ?」

「ぐ…黙れ…私は道具だ…」

 

管制人格とやらが揺らいだせいか景色が少し歪む。拒否すればするだけ暴走が早まるか…さすがにプログラムの身で組み込まれたプログラムに逆らうのは無理か。

 

となればやっぱり主様に頼むほかないな。

 

「はやて、無茶は言わない。戦えなんてこれっぽっちも言わない。ただちょっと願い事を言うだけでいい。それだけで十分だ。なんてったって…クリスマスなんだからな。」

 

展開される無数の魔力弾。

リライヴの魔法か、対策考えておいてよかったな。

 

俺は発射される前に接近して、幾つかの魔力弾を切り裂いて闇の書の腕を左手で掴む。

 

全てが放たれる系統の射撃である以上、密着していればどれだけあっても一発も当たらない。

それに、この距離なら防御魔法も展開できないだろう。

 

「クリスマスプレゼントはきっちり届けてやる、だから…ちょっとは楽しい願い事でも願ってくれ!!」

 

寸掌を叩き込んでよろめいた所に足払い。

地面がないとは言え上下の感覚が変わるからよろめかすには十分効果がある。

 

 

「疾風…吼破っ!!」

 

 

模倣した吼破に風を付加することで全力で相手を吹き飛ばすために使える拳。

きっちり頭に打ったから飛行魔法を制御しようにもバランスが取れるまで時間がかかるだろう…

と、思ってたが、割とアッサリ立ち直ってしまった。

 

うーん、バリアジャケットってずるいなぁ、俺も着てるけど。

 

 

 

Side~月村すずか

 

 

 

よく分からない、けどきっと強い力を持った光から知らない男の子が護ってくれた。

なのはちゃんは何処か苦しそうで、フェイトちゃんは右腕が血で真っ赤に染まっていた。

 

「とりあえず回復する。ただ、流した血まではさすがに…」

「大丈夫、出血が止まってくれれば」

「フェイトちゃん!無茶したらダメだよ!」

 

男の子がなのはちゃんとフェイトちゃんに向かって何かを呟くと、二人が緑色の光の中に納まった。

 

「僕は二人を安全なところへ連れて行く、二人ともちゃんと回復するまで動かないでよ?」

「分かってる、ありがとうユーノ君。」

 

なのはちゃんは聞きなれたフェレットさんの名前で男の子を呼ぶ。…久遠ちゃんみたいな子なんだろうか?

 

それに…二人ともあの光を放った人に向かうんだろうか?

 

「じゃあ二人とも、危ないから動かないで」

「あ、あのっ!待ってください!!」

 

私は思わず叫んで男の人を止めて二人に駆け寄る。

 

「ちょ、ちょっとすずか!」

「あ、危ないよ!!」

 

光の中の二人に近づく。

暖かい光だった。

 

「だ、ダメだってば!本当に危ない」

「二人とも…その危ない所に行くんだよね?」

 

私の言葉に頷くフェイトちゃん。

…顔色が悪い、やっぱり血を流しすぎたんだ。

どんな事が出来るのか知らないけど、きっと危険なんだろう。

 

…分かってる、みだりに明かしちゃいけない事だって言うのは。

だけど二人だって不思議な力で私とアリサちゃんを助けてようとしてくれて、今また危険なところへ行こうとしている。

 

 

このまま何もしないなんて…出来るはずがなかった。

 

 

「なのはちゃん…お願いがあるんだけど、しばらくの間この中の様子を誰にも見せないようにって…出来る?外の二人にも。」

「え、えっと…できるけど…」

「お願いできないかな?」

 

私はなのはちゃんを真っ直ぐ見る。

少し戸惑っていたなのはちゃんだけど、少しして桜色の光に包まれて、外の様子が見えなくなった。

 

「あの…すずかちゃん、本当に危ないから」

「分かってる、だから…二人には無茶して欲しくない。」

「すずか、お願いだから素直に避難」

 

私は困ったように見つめてくるフェイトちゃんに近づく。

そして抱きつくようにして腕を回して…

 

 

首筋に噛み付いた。

 

 

「な…」

「すずかちゃん!?」

 

さすがに驚く二人。だけど私はそのまま離さずに、血を送り込む。

 

…何の補給もしないままやったんじゃふらふらする。

けど、これから危険な所へ行こうとしてる二人と違って私は休むだけでいい。

 

だから、ひたすら血を送り続ける。

 

「す、すずか…何を…」

 

まだ全快になった感じがしない。どれだけの血を流したんだろう…私はもう限界なのに…

 

「っ…ぷはっ!こ、これで…どう?」

「え?あ…調子が良くなってる?」

「えっ!?」

 

フェイトちゃんが手を握ったり開いたりして自分の状態を確認している。

どうやら良くなったみたい。良かった…

 

「す、すずかちゃん!?」

「あ、ご、ゴメン…ちょっと無茶しちゃった…」

 

私は立っていられずに座り込む。

 

「すずか…その…」

「二人とも…行くんだよね?私はこの後安全な所に行くだけだから…」

 

辛かったけどできるだけ笑顔を見せる。

 

「頑張って、ちゃんと無事に帰ってきてね。」

「…ゴメンすずか…ありがとう…」

 

フェイトちゃんからお礼を言われて、桜色の壁が消えていく。

 

「いったい何が…って!どうしたのよすずか!!」

「あはは…ゴメン、なんでもない。」

 

言ったものの立てない私はフェイトちゃんに抱えられてアリサちゃんの傍に連れて行かれる。

 

「ユーノ、二人をお願い。」

「あ、うん。それじゃあ二人とも、動かないでね。」

 

男の子の作った光に包み込まれて、私達はなのはちゃん達の前から姿を消した。

 

 

 

Side~フェイト=テスタロッサ

 

 

 

二人が去った場所で、私は思いっきり拳を握る。

 

すずかが私やなのはに隠し事をしていた。それはいい。

誰にだってそんな事一つや二つあるし、私なんか魔導師でクローンだ。

 

 

 

問題なのは、首筋に噛み付くなんて事をして、秘密がばれることも覚悟して、それでも疲れていた私に力をくれたことだ。

 

 

 

仲良くなったすずかとアリサだけど、私だってクローンだって話すとなれば、きっと物凄く躊躇うし恐い。

あんな…まるで吸血鬼みたいな真似までして、きっと不安だってあった筈なのに…

そんな力を立てなくなるまで使ってくれた。しかも、私達に何一つ聞かないで。

 

なんだか本当にありがたくて、申し訳なくて、助けに来たはずなのに防御魔法すら使えないまま倒れた癖に、そんな秘密を明かさせてしまった自分が悔しくて…

 

「はやて…助けよう、絶対に。」

「…うん。」

 

私は誓って飛んだ。

 

絶対に助ける…助けてみせる!!

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「デアボリックエミッション。」

 

闇の書の宣言と共に黒い球体が巨大化していく。

…マジか?あんなん回避できねーし、防ぐにしたって俺の魔力じゃ…

 

「速人お兄ちゃん!」

「速人!大丈夫!?」

 

と、タイミングいい所でなのはとフェイトの声がしたが…

 

この距離じゃ間に合わない。

 

『マスター、障壁を!必ず耐え切って見せます!!』

「きついけど…しょうがないか!!」

 

仕方ない、あまり得意じゃないが防ぐしかないか。

そう思って手を翳した時…

 

「さすがの速人も完全全包囲のエネルギー攻撃を技術で捌くのは無理みたいだね。」

 

そんな声と共に、俺の目の前に純白の衣装を身に纏った少女が現れた。

周囲を飲み込む闇は見えない障壁に完全に遮られた。

 

「リライヴちゃん!」

 

魔法が終わった瞬間になのはの声が飛んでくる。見れば複雑な表情をしていた。

無理も無いか、怪我してるのに逃げるわ犯罪者で敵なのに俺を庇うわで、立場がころころ変わるから心配していいのか怒っていいのか分からないんだろう。

 

だが…

 

「遅れてごめん速人、とりあえずはやてと守護騎士が救出できるまでは協力したいんだけど、捕まえる?」

「だから!呼んでるのに無視しないで欲しいの!!」

 

当のリライヴはなのはそっちのけで俺に話しかける。

対してスルーされたなのはは今度こそ完全に怒って叫ぶ。

このやり取り変わらないなぁ…

 

「相変わらずだねなのは。で、管理局としてはどうするの?」

「この状況でお前と闇の書敵に回すようなアホなら俺もお前についてやるよ。ま、事件が終わってお前がいたら多分次の標的になるとは思うが。」

「そうだね、少なくとも今は闇の書を。」

 

再三の質問に呆れるように答える俺。フェイトも同意して頷いてくれた。

なのはは少しだけ不満そうにリライヴを見ている。

 

「…とりあえず今は闇の書さんが先だから。」

 

無茶して逃げたり相手にしなかったりととことん相性悪いみたいだからなぁ。

とは言え承諾してくれたなのはに、リライヴも笑みを返す。

 

「ありがとうなのは、お礼に情報伝えておくとね…」

 

言いつつなのはを指差して、闇の書に向かってその指を移す。

 

「なのはの蒐集で増えたのは大体30ページ、総ページ数666だから簡単に考えるとなのはの20倍は強いわけだね。」

「「え?」」

 

呆然と闇の書を見るなのはとフェイト。

うっわぁ聞きたくねぇ数字。

 

「じゃ、がんばろうか。」

 

にこりと微笑んだリライヴ。ったく楽しそうに言い切りやがって、絶対確信犯だなコイツ。

とはいえ、そんな数字が分かってるにも拘らず何一つ気負う様子のないリライヴが味方についてくれるのは頼もしかった。

 

色々あるとは言え、今回も事件解決のために皆が集いつつある、さぁ…反撃開始だ。

 

悲劇は俺が打ち砕く!!

 

 

 

 




本日はここまでで…ってまた日をまたいでますね(汗)

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