なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十四話・動き出した運命、悲劇で終わらせないために

 

 

第十四話・動き出した運命、悲劇で終わらせないために

 

 

 

「はぁ!?何の冗談だよそれ!!」

 

いきなり闇の書が覚醒したなんて一足飛びの話を聞かされた俺は、さすがに焦って問いかける。

 

『僕がわざわざ君に冗談で通信を入れると思うのか?』

 

だが、クロノ静かな返答に、確かにないなと内心で思い直した。

 

「それにしたって何でまたそんな急に!?」

『月村すずかだったか?彼女の友人の見舞いに行ったら』

「はやての見舞い!?アイツら知り合いだったのかよ!!」

 

確かにすずか経由で伝わる可能性もあったとは言え、たまたま知り合いって…

こうなるといつまでもここでノンビリしている訳にはいかない。ユーノに頼んですぐにでも現地に飛んで貰おう。

とりあえず持つものだけ持って出ようとしたところで、クロノが一言も喋らないまま通信をつないでいる事に気づく。

 

『…ところで君は、何故名前も出していない友人の事を知っているんだ?』

「へっ?」

 

そんなクロノに突然質問を持ち掛けられ思い返す。

 

…あー…確かにまだ名前は言ってないなぁ。

 

『おい…君はまさか…』

「あははははー…じゃっ!!!」

 

クロノの表情が険しくなってきたので俺は通信をぶった切って部屋を出て…

 

 

 

 

グレアムさんに会った。

 

 

 

 

 

 

 

「何故だ?何故闇の書の主に気付いていながら報告しなかった?」

 

今の会話を聞いていたらしいグレアムさんがそう問いかけてくる。

さすがにとちったな。ま、もう黙ってる意味もなくなっちまったが。

 

クロノが感づいて、グレアムさんが言うとおり、俺は早い段階ではやての事を発見していた。

この世界にいるならば海鳴近辺にいるだろうと言う事で捜索を始めたんだが…

 

本当アッサリ見つかった。

 

というのも、あんな目立ついでたちの四人が、隠れているわけでもなく普通に私生活を送っていたのだ。

家も尾行する必要もなく終了、アッサリ発見できた。

 

目的も肝心のはやてが『原因不明の病気』にかかっているなんて情報のお陰でアッサリ予測できたし、肝心の守護騎士も公園で集合して成果をおおっぴらに語り合うなんて面白い真似してたから状況が知りやすかった。

 

気配遮断って便利だな、うん。

 

「こっちの準備がまだだったから…な。」

 

訝しげに俺を見るグレアムさんは、少し間をおいて肩を落とす。

 

「闇の書の情報を明かしていなかった君が今回の事件に関わるのは許可出来ない。残念だがもう少しおとなしく」

「芝居はもういいよ、はやての足長おじさん。」

 

グレアムさんはピタリと硬直する。

 

あの変な家族構成で生活が普通に成り立っている事が不思議だったから調べてみたが、特に名前を隠す事もなく資金を送るなんてこれまたわかりやすいことをしていたお陰で探りやすかった。

 

…実は守護騎士がいないときに不法侵入もしてたりする。

 

誓って言うが泥棒や盗撮、盗聴の類は一切してない。資金源調べのためにちょこっと郵便、通帳関係の情報探しただけだ。

 

当然そんな事は言うわけもなく、俺は笑みを向けて続けた。

 

「魔法世界に来たせいで忘れたのか?地球の特殊部隊は優秀なんだぜ、俺みたいにさ。」

「…ならば尚更何故私を止めなかった?」

 

苦い表情を向けるグレアムさん。

ま、そりゃそうか。いってみれば泳がされてた訳だしな。

 

「言ったろ?準備があっただけだ。すぐ止めたら下手したら物扱いでヴィータ達が消されてたかもしれないからな。だから少し情報集まるまで待って準備してたのさ。」

「…君は…本気で言っているのか?」

「何を?」

 

やってた事そのまま説明しただけなのに物凄く驚かれる。

 

「彼女達は闇の書のプログラムだぞ?彼女を救うだけならまだしも」

「はやてごと闇の書葬ろうとしてたグレアムさんには理解不能か。」

 

その眼を更に陰らせるグレアムさん。勘だったがやっぱ当たりか。

 

そうでないならさっさと闇の書の事をはやてに話して受け取る事だって出来たはずだ。

はやてだって守護騎士と会わなきゃ『世界的規模の危険物です』って言えば渡しただろう。

 

「今のは別に知ってた訳じゃないさ。勘だよ勘。」

「…何故君はそんなにも落ち着いている。」

「怒られると思ってた?」

 

ま、単純にはやての生死で考えたら間違いなくキレる場面なんだろうが…

 

「闇の書の完全な暴走まで放置して『しょうがない』って感じで海鳴ごと消滅させられるくらいなら、アンタの方がよっぽどまともだからな。管理局ならやるだろ?」

 

俺はグレアムさんの脇を通り外へ向かう。

 

「ただ…一つだけ足りなかったとすれば…」

 

少し離れた所で振り返る。グレアムさんは気になるのか俺に視線を向けていた。

 

俺は自分の胸に向けて親指を立てて自信満々に言い切る。

 

「俺みたいなヒーローがいるとハッピーエンド確定って法則を知らなかった事かな。」

「は…?」

 

呆然とするグレアムさんをおいて、俺は無限書庫へ向かう。

長話してる場合じゃない、急いでいかなきゃな。

 

「はやてに詫びないとまずいだろ!?クロノには黙っといてやるから自由に動けるうちにクリスマスプレゼントでも買っときな!!」

 

言う事は全部言った俺は廊下だって事も無視して駆け出した。

ユーノは俺の準備が整うまでは闇の書、夜天の書の調査の名目で残ってくれているはず、あいつに頼まないと俺転移できないし。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

異常な攻撃範囲に飲み込まれた町並みは一瞬にして消し飛んだ。

結界内からこんな化け物を出す訳にはいかない、何人死ぬか分かった物じゃない。

 

「我は闇の書…我が力は…主の願いをそのままに。」

「はやてちゃんがこんな事願う筈無い!!」

 

なのはが悲鳴に近い声で叫ぶ。

…彼女やフェイトは悪性プログラムと化した守護騎士の心配をするような少女だ、アレも止められると思っているのだろう。

守護騎士達が夜天の書という真名を使っていなかった時点で既にプログラムは壊れていると分かり切っているのに。

見ているだけならば微笑ましい光景だが、子供の話し相手にするには壊れたロストロギアなど危険過ぎる。

 

「我が主は」

「相手にするな、アレは悪性プログラムに冒された危険物だ。無限転生する以上最良の手は確保、封印だがお前達の友人の無事を優先するなら書を完全破壊してでも」

「ダメッ!!!」

 

それこそ力一杯と言った様子で叫ぶなのは。

ダメも何もない、アレが地上で暴走などすれば今度こそこの星は終わりだ。

私は幾分か目を細て彼女を見る。

 

「寝ぼけるな民間人、アレは一般人が処遇に口出ししていい物ではない。」

「はやてちゃんと一緒にいられるようにするって約束したんです!」

 

時によってはあの速人以上に意志を曲げない彼女に説得は時間の無駄。

これ以上何か言うようならば彼女の身の安全を優先するため気絶させてでも帰すべきか、そう考えたところで…

 

「それに、ヴィータちゃん達が病気でおかしくさせられてただけならヴィータちゃん達だってフレアさんの言ってる『むこのたみ』さんじゃないですか!!」

「な…」

 

絶句した。

確かに改変の際に組み込まれたプログラムをウイルスと考えるのであれば、病気というのは適切だ。

後はあの守護騎士を人と判断するか否か…

情報を引き出す為に騙したものの、元々は彼女達を捕らえて裁こうとしていたのだ。

法にかけるという時点で既に人扱いしているのに今更…

 

「この馬鹿兄妹が揃いも揃って同じような事を…」

 

私は歯がみして八神はやてを取り込んだ闇の書の意志に目を向ける。

病に冒されただけの無辜の民…か

 

「暴走までは待たん!手があるならそれまでに何とかしろ!!」

「あ…はいっ!!!」

 

私は笑顔で頷いたなのはを確認して、再び闇の書に向かって飛翔した。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

フレアさんが闇の書さんに向かう中、私とフェイトちゃんはお互いの状態を確認していた。

 

「フェイトちゃん、腕の怪我は大丈夫?」

「何もしなければ大丈夫だけど…動かすと血が出るかな。」

 

フェイトちゃんの腕の怪我は動かせるみたいだけど結構痛そうな深い傷だった。

 

「なのはは?胸…」

「私は大丈夫、血も出てないし。」

 

笑顔で言うとフェイトちゃんが少し暗い顔をする。

 

「なのは。」

「……えーっと…砲撃を撃つと多分負荷が来るかな…でもまだしばらくは大丈夫。」

 

元気を見せてもかえって心配されるだけみたいなので、正直に全部言った。

フェイトちゃんは少しだけ微笑んで頷いてくれる。

 

「フレアさんは…」

 

様子を伺ってみると、フレアさんは身体や書への直撃を避けて槍を振るっていた。

でも、単純に振るっただけの一撃だとあのフレアさんの槍でも闇の所さんは防ぎきってしまう。

 

「時間稼ぎ…してくれてるみたいだけど、どうする?なのは。」

「とりあえず、魔力ダメージで止める…かな?」

 

互いに頷きあったところで、見慣れた姿が近づいてくるのが見えた。

 

「アルフ!」

「またせたねフェイト!あれが闇の書の意思って奴かい?」

 

私が頷くと、アルフさんは戦闘を見て苦い顔をした。

 

「アイツの槍でも破れない防御かい?さすがになのはと速人の魔力を吸って完成しないだけの事はあるよ。」

「それと多分…リライヴちゃんも。」

 

考えただけで怖くなってくる。

けど、ここで逃げてる場合じゃない。

 

「フェイト…怪我は大丈夫なのかい?」

「ユーノが来たら治して貰う。それまでは…もたせて見せる。」

 

フェイトちゃんの宣言に少しだけ心配そうに頷いたアルフさん。

これ以上ただ話しているわけにも行かない、私達は戦っているフレアさんの下に飛んだ。

 

「アルフ!」

「了解!縛れ!!」

 

アルフさんのバインドが、闇の書さんを縛る。

けど、単なる一重のバインドがいつまでも効いてくれるとは思えない。

 

私とフェイトちゃんはすぐさま砲撃準備に入る。

 

「どうする気だ?」

「とりあえず…魔力ダメージで行動不能にします!!」

「優しいのか乱暴なのか分からんな、お前は。」

 

フレアさんのコメントが胸に刺さったけど、とりあえず気にしている場合じゃないから砲撃魔法を放つ。

 

フェイトちゃんと挟み込む形での砲撃。けど…

 

「絶て。」

 

アッサリ防がれた。

リライヴちゃんでも出来た事だからこれ位は予想してたけど…

 

「っ…」

 

胸の痛みに顔を顰める。

長い間続いたらまずいかも…そう思ったところで闇の書さんの周囲に小さな刃物が展開される。

 

まずい…そう思ったところで

 

「スタッブバスター!!」

 

闇の書さんが黒い光に飲み込まれた。

爆発を起こして私達の砲撃も通る。

 

「フレアさん、砲撃できたんですね。」

「申し訳程度だ、本命のお前達の攻撃がかわされては意味がない。」

 

フレアさんの言葉に慌てて闇の書さんを探す。と、いつの間にか更に上空に飛んでいた。

 

その周りに、幾つもの魔力弾が…

 

「っ!皆!私の後ろに隠れて!!」

 

フェイトちゃんとアルフさんが急いで私の背後に回る。私はすぐに防御魔法を展開して…

 

フレアさんが私の前にいた。

 

「降り注げ…シューティングスター。」

 

それはリライヴちゃんが使う、準備時間も殆どない流星のように魔力弾を降り注がせる魔法だった。

 

わざと前に出たフレアさんなら何か考えがあるはず。そう思って私は防御魔法を展開する。

 

と、フレアさんは何もしないで槍の真ん中を持って…

 

「はあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

雨のように降り注ぐ魔力弾を槍で打ち消し始めた。

 

かなりの数が消されて、私の障壁には殆ど当たらなかったのだけど…

 

「っう…」

 

やっぱり胸が痛んだ。

これはちょっとまずいのかもしれない。

きっとフレアさんはそれに気づいていて前に出てくれたのだろう。

 

やがて、魔力弾の雨が収まると、さすがに肩で息をしているフレアさんがいた。

 

左肩と右足に直撃していたみたいで、バリアジャケットが壊れていた。

 

「ち…さすがにあの数は無理があったか。」

「す、すみません…」

「気にするな民間人。」

 

…どうやら、私がまだ協力者だから無理を押して護ってくれたみたい。

少し複雑な気分だけど、自力じゃきっと防ぎきれなかった以上文句は言えない。

 

と…闇の書さんが翳した手に、魔力の光が集まっていく。

 

これって…スターライトブレイカー!?

 

「アルフ!フレアさんをつれて逃げて!私はなのはを!!」

「了解!!」

「え?えっ?」

 

フェイトちゃんが焦ったように私の身体を抱えて飛ぶ。

 

さすがに速いフェイトちゃんだけあって、あっというまに離れていく。

 

「ちょ…フェイトちゃん…こんなに離れなくても…」

「至近で喰らったら、防御の上からでも墜とされる!それになのはは今ダメージが…っ…」

 

と、唐突に少しぐらついたフェイトちゃん。それと同時に速度が少しだけ落ちる。

フェイトちゃんだって血が止められてないんだ…そろそろ危ないのかもしれない。

 

『一般市民がいます。』

「な…」

 

こんな状況で、バルディッシュからとんでもない事が伝えられた。

防げる私達ですら危ないのなら、普通の人が受けたら塵一つ残らず消し飛んじゃう…

 

「フェイトちゃん、大丈夫!?」

「大丈夫、この辺りで防ぐしかないけどなのはは…」

「何とかする!!」

 

防ぐのは私の分野だから本当に何とかするしかない。

私達は反応のあった辺りに来て…

 

 

「アリサちゃん!すずかちゃん!?」

 

二人の姿を見つけた。

 

私はフェイトちゃんと一緒に二人の前に降りる。

民間人って…どうして二人がこんなところに…

 

って考えてる場合じゃない!!

 

迫りつつある光に向かって防御魔法を展開しようとして振り返り…

 

 

胸に激痛が走った。

 

 

「っ…ぁ」

「ちょっと!どうしたのよ二人とも!!」

 

アリサちゃんの言った二人に疑問を覚えてフェイトちゃんを見ると、フェイトちゃんも座り込んでいた。

 

長い間血が止められなかったから限界だったんだ!!

 

防御魔法を展開する間も無く光が迫ってきて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと!間一髪!!」

 

目の前に強固な緑色の防御壁を展開する、ユーノ君が現れた。

 

「ごめんなのは遅くなった!けど最強の助っ人を連れてきたから!」

「最強の助っ人って…」

 

やがて光が収まったところで一つの小さな人影が空から闇の書の意思に向かっていく。

 

『待たせたな皆!高町速人、ここに見参!!』

 

念話から、聞きなれた声が聞こえてきて…私は息を吐いて肩を落とした。

…本当にもう、遅いよお兄ちゃん。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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