なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十二話・暗躍する者達

 

 

 

第十二話・暗躍する者達

 

 

 

グレアムさんに借りた一室で管理世界の雑誌などを読みながら本当にノンビリ過ごし、しばらくして…

 

「へぇ…それじゃアイツそんな状態でどっか逃げたのか。」

 

 

連絡と言う事で通信を繋いで来たアースラのメンバーに話を聞いていた。

海鳴大学病院で手術を受けたリライヴが転移魔法で逃走したらしい。

どんな無茶しやがるんだアイツは…

 

『全く…せめて僕らに知らせてくれていれば捕らえられたんだが…』

「野暮な事言うなよ。点滴打ってる人間に砲撃や拘束かけられるような奴のが人としてどうかと思うぞ?」

『速人君らしいね。』

『笑い事じゃないエイミィ。あのリライヴを捕らえられたならどれだけの問題が片付いたか』

「はいはい終わり終わり!それよりもっと重要な話があんだろ?」

 

 

あんな規格外に事ある事に敵対されてちゃ管理局としては文句の一つも言いたいのは分かるが、ヒーロー目指す俺に言う愚痴じゃないだろうに。

それよりもあのリライヴがわざわざなのは達に話して行った事の方が気になる。

クロノも状況を考えたのか咳払い一つで表情を落ち着かせる。

 

 

『僕と君を襲った仮面の男が変身魔法を行使している二人組らしい。』

「へぇ…それでお前の時と俺の時と戦闘方法違ったんだな。」

『感付いていたのか?…何でそこで笑う。』

 

クロノの質問が少しおかしくて笑ってしまう。

 

武芸…業を納めた者であれば、大概『見ただけで』相手の実力が分かる。

飛んでる上に俺が見たのは映像だったから断定は出来なかったが、違和感くらいならあった。

 

そんな当たり前が、魔導師のエースには常識外れなのがついおかしくなった訳だが…

 

 

『大した交戦記録も無い上に戦闘方法が全く別物だったんだぞ!?クロスレンジやロングレンジ同士なら違いも見られるが、君の様なレアスキルは持って無い僕に分かる筈ないだろう!』

 

色々あってストレス溜まってただろうクロノの導火線に火がついたらしい。

クロノ、馬鹿にしたわけじゃないから落ち着いてくれ。って言うか稀少技能扱いなのな、気配探知とかって。

 

「あー分かってる分かってるって。カルシウム足りてるのか?」

『速人君、それは身長にも関係して来ちゃうから触れないであげてくれるかな?』

『君まで速人に合わせないでくれ!』

 

 

エイミィさんまで言わなくてもいい事をさらりと言う。

 

 

うわぁ公務回線の無駄遣い。

 

 

クロノはフレアより融通が利くがいっぱいいっぱいだからなぁ…

まぁ無理ないか、両親公務員で幼少期から魔法の練習じゃ…

 

 

 

 

…幼少期から魔法の練習?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっ!まずい、なのはが!!

 

 

 

 

 

『なのはちゃん達に伝言とかある?』

「くれぐれもふざけて気を抜いてだらける様に言っておいてくれ!!全力で!!!」

『は?えぇ?』

 

無表情+非殺傷設定で『貴方を逮捕します』とか言ってるなのはの姿を垣間見た俺は体裁も何もかも捨ててモニターが切れるまで訴え続けた。

真面目とか努力とかの意味を一般人から大分かけ離れて…ある意味究極系で身に着けてるあのアホならやりかねん…

 

 

 

 

なのは、家みたいに小学生から修業してるのって稀な一家なんだぞ?

 

 

 

自分で言わなきゃしょうがないが祈らざるを得なかった。

 

 

 

 

Side~クロノ=ハラオウン

 

 

 

「エイミィ…」

「ごめんねクロノ君。出来ればそんな怨めしげに見ないでくれると嬉しいんだけど…」

 

苦笑して手を合わせて来るエイミィ相手に僕は俯いて溜息を吐く。

速人といいフレアといい…ロストロギアだけで精一杯なんだからこれ以上余計な心労を増やさないで欲しいが…無理だろうな。

 

「でも良かったの?あの事伝えなくて。」

「本局への通信で言う話じゃないだろう。」

「そうだけど…速人君その本局にいるんだよ?」

 

僕はあえて仮面の男の正体が管理局員である可能性があると言う話をしなかった。

 

エイミィの心配も分からなくはない。

彼は僕とフレアをまとめて倒すなんて真似をしたんだ。

僕は執務管だしフレアもクロスレンジ限定ならSランク相当の実力者。

そんな僕らを一人で破ったなんて知っている人間なら絶対に止めにかかる。

それに速人は魔法はほとんど使えない。

罠にでもかけられたら脱出する術はないだろう。

 

「問題ないさ。」

「問題ないって…どうして?」

「それが魔法でも質量兵器でも、扱うのも戦うのも人間だ。彼ならそう簡単に負けないだろう。」

 

そこまで言ってエイミィが僕を見て微笑んでいる事に気がつく。

 

「なんだかんだで信用してるね。」

「…腕だけだ。中身はなのはより子供だ。」

「それは言えてる。」

 

 

笑みを浮かべるエイミィに対して僕はプレシアが亡くなった時の速人の眼を思いだす。

 

 

喜怒哀楽全てが抜け落ちたような瞳。

 

 

組織に準拠する為に感情を殺して来た結果感情が薄くなった人間は何度か見た事があるが、彼等はまだ人間だった。

 

 

 

 

 

 

速人の眼からは、何も感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

デバイスの音声ですらインテリジェントデバイスなら少しは伝わる意思もあると言うのに、人の死を前に何一つ感情が無かった。

 

 

 

あの速人を倒せと言われたら、リライヴの相手より渋るかもしれない。

だから…恐らく心配は無いだろう。

 

認めるのが嫌で子供と評したが、さすがにそれは訂正しなければならないかもしれないな。

 

僕はそんな事を考えながら、無人世界を監視するモニターを眺めていた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「おっす、仕事中悪いなユーノ。」

「いや、大丈夫。」

 

魔法陣を複数展開したユーノが際限無く広がる本の山の中に浮いている。

はぁ~…こういう事は無理だからなぁ俺には。

いくら戦闘出来ても魔導師に化物呼ばわりされるのはやっぱりごめんかも…

 

「それで、どうしたの?わざわざ来るなんて。」

 

特別用がある事は見透かされていたらしい。

まぁ人の仕事中に遊びに来る訳もないか。

 

「いやさ、闇の書と夜天の書の情報を片っ端からデータで欲しいんだけど…」

「夜天の書?聞いてるとは思うけどあまり記録は残ってないよ?」

 

ユーノが言う通り、夜天の書の方は当の昔に闇の書と化していた為、あまり明確な情報が残っていない。

 

「分かってるって。ただ全部見てる暇がないからって理由ではしょった部分とかある筈だろ?後はまだ見つかってない情報。」

「それもやれって言うのか?全く…無茶ばっかり」

「温泉…」

「サーイエッサー!早急に調べあげます!!」

 

ゴネてるユーノに呟きを漏らすと、弾かれた様に背筋を伸ばして敬礼する。

ってかどこで覚えたんだそれ?

 

「冗談はともかく頼むユーノ。それが今回全部救う鍵になりそうなんだ。」

「どういう事?」

 

俺はまだ誰にも話していない自分の考えを告げ…ユーノの叫びが響き渡った。

 

 

「た、確かに可能かもしれないけど…凄い事思い付くよね速人。」

「で、どうだ?いけそうだろ。」

 

ユーノは少し考え込んで、手元の書物を指す。

 

「どれくらい闇に浸食されてるか分からないけど、それ次第ではこっちの方が無難だと思う。」

「えっと何々…管制人格?」

「読めるの!?」

「解読はこっちの必須技術だからな、学校での睡眠時間に魔法世界の言語について睡眠学習で教わった。」

 

本当はモールスやら組織別の暗号通信の理解なんだが、まぁ外国語だって似た様なもんだ。

 

「速人、君本当に何者?」

 

そういや、ちゃんと説明したのはフェイトとフレアだけだっけ?

誇れるような事でもないし進んで言いたい話でもないが。

 

「フェイトには話したし、機会があったら話すさ。で、これがどうしたって?」

「主がこっちに働きかける方が確実だと思う。…まぁこれは闇の書が覚醒してないといけないし、主がこっちの言う事を聞いてくれるって言う前提が必要だけど。」

 

ユーノのセリフにニヤリと笑う。

闇の書覚醒させようなんてまた大胆発言を。

 

「いーけないんだーいけないんだー、クーロノーにー言ってやろー。」

「君だって充分酷いくせに何言ってるんだよ!それに僕はやれなんて一言も言ってないぞ!!」

 

学校で他の奴が使ってた馬鹿歌捩って見たが割と真面目に怒鳴られた。

やれやれ、こういう部分は同年代の奴と同じだな。

 

「はは、そう怒るなって。ユーノが優等生っぽくない事考えたのが嬉しくてさ。」

「全く…クロノと一緒にしないでくれ。」

 

クロノが聞いたら怒りそうな会話だ。

アイツはいっぱいいっぱいだからストレス溜めない為にも黙っといてやろう。

 

「でもそうか…覚醒しちまってくれればその方が早いか。」

「ただ、何度も言うけど主が耳を貸してくれないと何の意味も無いんだけどね。」

「お前は今回の主が悪人だと思うのか?」

 

ユーノも守護騎士の独断行動である事は承知済みの筈。

やけに心配しているので聞いて見る。

と、ユーノは軽く笑って俺を見る。

 

「慎重になってるだけさ。全員無事に救えないと誰かさんが無茶するからね。」

 

迷いなく無限書庫に来た事といいやけに張り切ってると思ったら、どうやら俺が心配されていたらしい。

俺の事情を知らない筈なのにな…サンキュー、ユーノ。

 

「なに、無敵のスーパーヒーローとその他大勢のサポート役がいるんだ、うまく行かない訳ないさ。」

「またそう言う事を…だからなのはが無茶するんだよ。この前だって…」

 

ユーノの時間が許す少しの間雑談を交わした後、俺は再びグレアムさんに借りている部屋に戻り…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の書が覚醒したとの報を受けた。

 

…マジかよ。

 

 

 

 


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