なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第九話・出会いがくれた強さ

 

 

第九話・出会いがくれた強さ

 

 

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

「やられたな…この結界、容易には破壊出来んぞ。」

「うむ…」

 

私とザフィーラは管理局によって展開された結界に囚われていた。

かなりの人数で展開されているそれは、破る事も抜ける事も容易ではなさそうだった。

 

 

それに…

 

 

「貴方達を拘束します。」

「そう言う訳でね、おとなしくしてて貰うよ。」

 

 

目の前に浮かぶ魔導師とその使い魔は、間違いなく強敵だ。

 

負ける訳にはいかない戦い故に一切の加減は出来ない。最悪…

 

 

「クロノ、あの人達と一対一で戦わせてくれないかな。」

「フェイト?」

 

 

物騒な思考をせざるを得なかった私の前で魔導師は確かに言った。

 

一対一と。

 

 

「わかった、僕はリライヴを警戒しておく。無茶はしないでくれよ。」

「ありがとうクロノ。」

 

黒衣の魔導師が結界を離れ、後に残ったのは金色の髪をなびかせた少女と彼女の使い魔のみ。

 

魔導師としての実力に年齢や容姿など関係はない。とは言え、近年の弛んだ騎士の中には男ですら実力者に怯えるような軟弱者がいると言うのに…

 

 

 

 

彼女は強い、それが良く理解出来た。

 

 

しかしだからと言って負けてやる訳にもいかない。

 

「ザフィーラ、使い魔を頼めるか?」

「ああ。」

 

向かい合う私と少女。

 

全く、主にはつくづく感謝せねばならんな。我ら守護騎士に幸福を授けてくれただけでなく…

 

幾多の強者と巡り合う機会をくれたのだから。

 

 

次の瞬間、私は少女と激突した。

 

 

 

 

Side~フェイト=テスタロッサ

 

 

 

斬り結んで分かった事がある。

 

 

一つ―カートリッジシステム云々を除いても彼女の方が強い事。

一つ―彼女が魔導師とは違う戦いをする騎士である事

 

 

 

 

一つ―それでも晶さんや速人のような技術を持っていない事

 

 

 

 

「はあぁぁっ!!」

「はあっ!!」

 

バルディッシュを一閃。

打ち合わさった衝撃に耐え切れず私の体が押し返される。

 

「フォトンランサー…ファイア!!」

「はっ!!」

 

逆らわずに下がっての射撃魔法は、一閃の刃に消された。

 

やっぱり、線と化す事で威力を高めた刃には、普通の射撃じゃ通じない。

 

 

「なら…速さしかない。」

 

元々それでいくしかない。だから…やる!!

 

『ソニックムーヴ。』

 

バルディッシュを振れないような体勢になりつつ彼女の『前』に移動する。

 

「血迷ったか!!」

 

彼女が剣を振れば当たる距離。だから…振らない筈が無い。

 

それが狙い!!

 

「ふっ!!」

「っ!」

 

短く息を吐いて間合いを詰めながら左手を突き出す。

顔に当たって視界を防げた。

振り上げた彼女の腕の間に腕を伸ばす形になっているため、彼女は振り上げた剣を振り下ろす事が出来ない。

 

 

ここだ!!!

 

 

「はぁっ!!」

 

私はバルディッシュから伸びる魔力刃を振り抜いた。

 

素早い攻撃から必殺の一撃へ。

 

まだ晶さんのように綺麗にはいかないけど、知ってるだけでも全然違う。

 

「おおぉっ!!」

「あぐっ…」

 

けれど、彼女が咄嗟に放った蹴りで吹き飛ばされてしまった。

 

やはり、そう簡単にはいかないか。

 

けど掠めたみたいでバリアジャケットが裂けていた。

 

…手応えはあった、ちゃんと練習しよう。

 

「私は烈火の将、シグナム。お前の名は?」

「時空管理局嘱託魔導師、フェイト=テスタロッサ。」

 

名を聞かれて答えを返す。

なのはと交した友達の始まりとは違う、嬉しいような重いような気持ちを感じる。

 

 

多分…名前を聞くだけの価値がある敵だと認めてくれたと言う事。

 

 

ここから先に加減はない筈、もっと集中しないと。

 

少しの間を置いて、私と彼女…シグナムは再び斬り結んだ。

 

 

 

Side~アルフ

 

 

 

アタシは目の前の守護獣を名乗る馬鹿と殴り合いを繰り返していた。

 

「あんたさぁっ!こんな事してて本気でいいと思ってんのかい!?」

「善行でない事など百も承知している!それでも主の為に成さねばならぬ事があるのだ!!」

 

信じられないほど固い防御。あの鬼婆ですらこんなに強くなかった。

けど…

 

「はっ…主のためにねぇ…各地で暴れまわるようなやばい事望む奴って事かい?」

「主は蒐集活動の事を知らんのだ!コレはわれらの独断だ!」

 

話を聞けば聞くほど…アタシがこいつに負ける気はしなくなってきた。

 

「お前とて主を持つ身ならば分かるだろう!主のために、何を置いてでも成さねばならぬ事が」

「っざけんじゃないよ!!!!!」

 

喋っているそいつの横っ面に拳を叩き込む。

意外そうに目を開く男。

 

やっぱりこいつに負ける気はしない。

 

「アンタさぁ…自分で言ったよね?主は蒐集活動の事を知らないってさ。それって要するに、『知ったら止める』って事だろ?どこが主の望みなんだい?」

「主命に背いてでも主のために成さねばならぬ事が」

「それが犯罪かい!!このなまくら犬が!!!」

 

拳を二、三撃ち合わせた所で蹴りが飛んでくる。

頬を直撃したそれはアタシを思いっきり吹っ飛ばした。

 

とてつもなく重い一撃。意識が根っこから吹き飛ばされそうになって…

 

 

 

 

Side~フェイト=テスタロッサ

 

 

 

 

「ハァ…ッ!!」

「おおぉっ!!」

 

 

横薙ぎに振るった大剣と打ち下ろされた彼女の剣が大きな音を立てて衝突する。

 

手に走る痺れを無視して距離を取り直す。

 

私がヒットアンドアウェイ、シグナムがそれに対応する。さっきからこの繰り返しだった。

 

埒が明かない。

 

けど、私には彼女を無理やり破るような力はないし、牽制の射撃は全くと言っていいほど通じない。

 

 

このまま続けていたらきっと戦闘経験の豊富な彼女の方が有利になる。

 

 

「レヴァンティン!」

『シュランゲフォルム。』

 

 

考えている私の前で、シグナムはレヴァンティンの形状を変化させた。

 

あれは…あの速人でさえ接近するのに手間取った蛇剣!?

 

「死にたくなければ、上手く避けてみろ!」

 

複雑怪奇な軌道を描いて迫ってくる剣。

思いっきり距離を取る事に集中すれば逃げられない事はないけれど、私が彼女を捕らえに来ているのに背を向けて逃げるなんて何の意味もない。

離れたところでアルフが一人残されるだけになってしまう。

 

 

…破れなきゃ彼女には勝てない。だったら…逃げずに立ち向かうしかない。

 

 

間違いなく完全に避けるのは無理だろう。だけど…

 

 

 

 

Side~フェイト&アルフ

 

 

私に幸せをくれた二人を思い出す。

フェイトに未来をくれた馬鹿兄妹を思い出す。

 

 

 

幸せに過ごして来た素人だったはずなのに曇る事もない瞳で私に向かい続けてきてくれた最初の友達、なのは。

どう考えても明らかに魔法技術で上回ってるフェイトに対して怯える事もなく立ち向かってきた妹、なのは。

 

 

 

誰もが諦める程絶望的な状況から母さんとアリシアまで救い出すために命を賭けた私の家族の恩人、速人。

どう考えたってやるはずのない虚数空間への飛び込みなんて馬鹿な真似を当たり前のようにして見せた兄、速人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの二人が…いつ諦めた?

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああぁぁぁぁぁっ!!!」

「っりゃぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

直撃以外は全て無視して全速力でシグナムへ向かう。

揺れる頭を無視して全力で拳を握り馬鹿犬へ向かう。

 

 

 

「こんな所で死ねない!自分のことに溺れて何も見えなかった私を救ってくれた友達のためにも!救われない事を誰より悲しむ優しい人のためにも!!」

「正攻法がまかり通らないって初めから諦めてるだけの癖に!何が主のためにだ!犯罪者に成り下がったアンタらを見て喜べって主に言うつもりかい!!」

 

 

 

体の節々が切り裂かれて血が流れるのが分かる。けど…速人はこの程度の事なら訓練ですら止まらなかった!

振るった拳が尋常じゃない強度のシールドに遮られる。だからって…飛べないくせにアタシを捌ききった奴だっているのにこんな程度で止まれるかい!!

 

 

「貴女達を止めてみせる!!」

「寝ぼけんなこの馬鹿犬が!!」

 

 

私の剣が…

あたしの拳が…

 

 

 

 

 

眼前の守護者を吹き飛ばした。

 

 

 

SIDE OUT

 


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