なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第七話・黒き断罪の槍

 

 

第七話・黒き断罪の槍

 

 

 

Side~ヴィータ

 

 

 

必要なページ数ももうそれほどねぇ。

あと少しではやては助かるんだ、管理局の手が出る前に…

 

「やはり辺境にいたか。管理局の目を避けて辺境の無人世界を狙うとは思っていたが、予測通りだったな。」

「ち…っ!!」

 

聞こえて来た声に振り返る。そこには一人の局員が立っていた。

 

AA…得意なものがあってもAA+ってとこか、どうにでもなる。

 

「おらぁぁぁぁっ!!」

 

アイゼンを振りかぶって突撃。目の前の男は全く動かない。

 

距離に入っても全く動かないそいつに向かってアイゼンを振り抜いて…

 

 

 

デバイス同士の衝突音が響き渡った。

 

 

 

そいつは手にした長めのデバイスを縦にして、アイゼンのハンマー部分より内側に入ってアタシの一撃を受け止めていた。

 

と…喉元に棒状のデバイスの先端が突き付けられる。

 

「が…っ!!!」

 

そのまま喉を突かれた。

吹っ飛ばされたアタシは咳き込むのを堪えて距離を取った。

 

「ゲホッ…ゴホッ…」

「騒ぐ事はない、喋れる程度には加減しておいた。」

 

アタシは咳を堪えて目の前の男を睨み付けた。

 

「そこまで嫌ならおとなしくするといい、どうせ君達に罪はない。」

「な…どういう事だよ!!」

 

男の台詞が理解できなかった。

自慢出来る事じゃねぇが、アタシ達は相当暴れた。正直許されるとは思ってない。

 

どういう事なのか聞こうとしたその時…

 

 

 

男が静かに笑みを見せた。

 

 

 

 

 

「プログラムは物だ、使い方を誤った使用者に全責任が行くだけで君達には何もない。」

 

 

 

 

 

 

アタシは一瞬でキレた。

 

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

 

「ふざけんなあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

喉を攻撃した直後とは思えない怒号が響き渡った。

なるほど…クロノの見解通り今回の主は余程好かれている様だな。

薬莢が飛び出し魔力が上がり、ハンマーがドリル状に変形する。

 

クロスレンジが得意なベルカの騎士だ、苦戦は免れないだろう…

 

 

 

 

 

速人と出会っていなければ。

 

 

 

 

 

振るわれる力の直撃を避ける。それは防御魔法を発動する訳でも、距離を取る訳でもない。

 

 

例えば…身体の向きを変える。

例えば…武器を屋根変わりに軌道を逸らす。

例えば…振るわれた瞬間距離を詰め、武器そのものを振らせない。

 

 

どれもこれも魔導師には必要が無く、学習で身に着く計算式と違い経験値が必要だ。

それも、一撃でも受けたら致命傷になりそうな領域で。

 

囓った程度の今の私ではそこまで綺麗には成せない。だが…

 

「っきしょぉぉっ!当たりやがれぇっ!!」

 

児戯相手ならば私とて成す事が出来る。

 

…魔法に触れる者に取って、前衛とは強固な防御魔法とそれを崩す強固な攻撃のぶつけ合いだ。

だから彼女が振るう児戯は、魔導師の中でならむしろ優秀な域だろう。

 

 

速人に接近戦で勝てない訳だ、児戯対業では結果は見えている。

 

「今の主に餌付けでもして貰ったのか?所詮闇の書の力を使う魔導師の一人だ、そこまで張り切る必要」

「何にもしてねぇよっ!アタシ達が勝手にやってんだ!それがどうしてアタシ達の罪じゃねぇんだ!」

 

なるほど、闇の書の力目当ての行動ではないのか。

 

「理由は先に述べた通りだ、大体これだけ派手に暴れ回っているのに止める気も無い魔導師など罪人以外の」

「魔導師じゃねぇんだよ!!何にも知らねぇのに止めようねーだろうが!!!」

 

全力で攻撃を仕掛けて来る赤い少女。

だが、威力が上がった所で余計に雑になっては意味が無い。

増幅されていた魔力が落ちて来た所で、再び薬莢が飛び出す。

 

「…ああ、一つ忠告しておこう。」

 

私はグレイブの先端に黒い魔力を送り込む。

 

「最大攻撃力も十分…私の得意分野だ。」

 

織り連ねた魔力は、やがて先端の一点のみに無双の力が宿る。

 

 

 

「うぉらぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

全力で振るわれる一撃。私は今日初めて突きの体勢を取る。

 

払い捌くには槍としてではなく棒として振るった方が無駄無く綺麗で手数が多い。

 

 

 

故にこの突きは…捌く業ではなく必殺の一撃。

 

 

「ラケーテン…ハンマーッ!!!」

「乾坤一擲…アブソリュートランサー!!」

 

ドリル状のハンマーヘッドと、槍の先端が激突する。

 

 

 

 

 

 

 

衝撃で互いに弾かれた。

 

 

「重さでは敵わんか。」

「そんなっ…嘘だろ…」

 

 

体勢を立て直した私の前で、同じく体勢を立て直した少女が、ひび割れた自身のデバイスを見て驚愕の声を上げる。

 

砲撃魔法は推進力を得るためのもので芯となる破壊力は先端のみに集束されている圧縮魔力。

 

ただその一点のみならば負ける事はない。

 

 

 

しかし…上手く行くものだな。

 

私の事を無愛想で感情が見えないと誰もが評するから、ならば嘘にも気付かれないのではないかと考えて見た。

 

結果は予想通り。見事に挑発にかかってくれた。

 

さすがに主の名前までは漏らさなかったがお陰でかなりの事が分かった。

 

この状況で虚偽を言える程冷静なら、大した詐欺師だが…あいにくこの少女は詐欺師には見えない。

 

…多少非道な手といえばそうかもしれないが、何より重要なのは無辜の民の安全。犯罪者に虚偽を伝える事など何の躊躇いもない。

主にしても、本当に何も知らないのであればロストロギアに巻き込まれた無辜の民に過ぎない、必ず護らねば。

 

「く…っきしょぉぉっ!!」

 

彼女は尚もデバイスを握り私に向かって来る。

 

闘志は十二分、流石はベルカの騎士と言った所か。

私も全力の一撃だったが故にどうにか打ち合いに勝ったが、カートリッジを使われればただの一閃では話にならないだろう。

 

業に触れていなければ敗れていたのは私だろうな、馬鹿な奴だがあの域の業を振るう速人には少しばかり称賛を送らせて貰おう。

 

迫り来る少女に対してグレイブを構え…

 

 

 

 

 

「ぐっ!」

「全く…逃げられそうにないからって玉砕覚悟なんてやめてよヴィータ。」

 

透明の剣を展開したリライヴが、少女をバインドで拘束していた。

 

「フレア…だっけ?久しぶり。」

「犯罪者相手に話す事はない。」

「ま、そうだね。私も管理局員と話す事は無いよ。」

 

軽口を叩きあったが、実際問題としてかなり厳しい状況だ。

彼女が本気で遠距離から攻撃を続けて来たら、私では対処しきれないだろう。

何しろクロノ相手ですら遠距離に徹されたら勝つ事が難しいのだ、全てにおいてクロノより二回りは強い彼女相手に一人で勝てる見込みは薄いだろう。

さらに、手負いとは言え先の少女も残っている。

 

 

「帰っていいよヴィータ、彼一人なら私でも十分カタがつく。」

「一人じゃなかったらどーすんだよ。こいつだって潜んでたんだしまだいないとも」

 

少女がいい終わる前に、転移魔法陣が展開された。

 

ミッド式の魔法陣。恐らくこちら側の増援だろう。

 

単独で待ち伏せしていたのに増援を頼るのは少々情けない話だが、リライヴ相手ではそれも仕方ない。

 

魔法陣から人影が現れ…

 

 

「スーパーヒーロー高町速人!満を持しての登場だぁっ!!」

「は、恥ずかしいからやめてってば!!」

 

 

やたらとテンションの高い声と、少し緩い少女の声がした。

やれやれ…相変わらずだな、いい事なのか悪い事なのか…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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