第三話・天才魔法少女 対 元天才暗殺者
「…よ。」
夜の訓練に出た俺の元に、久遠が現れた。一瞬の間をおいて、久遠は子供の姿に変化した。
さすが妖弧。瞬間変身能力は相変わらずか。
つたない言葉遣いで会話する久遠。いつも可愛いんだが、今回ちょっとまじめな雰囲気を見せる。
「あのイタチ…動物じゃない。」
予想通り、感づいていたらしい。とは言えその場で神咲さんにばらさなかったあたりは空気読んでくれたんだろう。
「そうだな、魔法生物って奴みたいで俺たちと話す事も出来るんだ。」
久遠に正体を知ってる事を告げると、ちょっと安心したように微笑んだ。
「と言う訳で、あんまり心配するな。ちょっと事件に関わってるけど戦ってるのはもっぱら俺だし。」
俺がついてるんだから安心してくれるだろう。と、思ってたんだ…うん。
「速人…大丈夫?」
思いっきり心配された。
あ、あれ?俺ひょっとして頼りない?なのはにも心配されるし…ま、まぁ未だにヒーロー大好きな小学生男子なんて信用無いのも判らんでもないけど、それにしたって強いのに…
「あ、あのな?俺も修行積んでるんですけど?」
「でも恭也より弱い。」
「ぐっ…」
それを言われるとちょっとどうにも返答できない。確かに魔法強化使えるけど、ネタが割れた状態で真正面から戦り合ったら強化使っても勝てる自信が…
と、ちょっと凹んでいると、久遠が俺の眼前に近づいてきていた。
「久遠も手伝う。」
「あー…」
久遠から笑顔で手伝いを持ちかけられた。申し出自体は嬉しかった。だが、ジュエルシードは願いに反応して取り付く性質を持ってる。
もし、この町最強と言っても過言じゃない久遠がそんなもんに取り込まれたら…
子犬→犬獣
久遠→……
ウン無理、勝てない。絶対無理。改造コード並。
ここはジュエルシードに絶対に近づかないようにして貰うべきだろう。
「ちょっと…まずい。」
「そう…なの?」
悲しそうな久遠。なのはの友達だし、手伝えないのが心苦しいのだろう。だけど勘弁してもらうしかない。
…そうだな、一応少しだけ頼んでおこう。何にも知らずにジュエルシードに近づかれても困るし、思念体とかに巻き込まれてなのはに万が一の事があっても嫌だし。
「青い石に近づかない、なのはが本当に危険な時に助けてくれる。その二つだけ頼んでもいいか?」
「青い石?…判った。」
笑顔で返事をしてくれた久遠。大変物分りのいい久遠に俺はその時は安心していた。
…後からどんな事になるかも知らずに。
で、翌日放課後。
「…ディバインシューター!!」
二つの光弾が迫ってくる。俺はそれを一振りで切り裂いた。
「どしたー?終わりかー?」
「っ…レイジングハート!!」
『ディバインバスター』
光の砲撃が迫ってくる。…やっばいな、こりゃ。魔法でもないと対処できない訳だ。
昨日の約束通り、俺となのはは森の中に来て、ユーノに張ってもらった結界の中で試合をやっていた。とはいえ空中からの射撃系攻撃の連打は正直きつい。…飛行に射撃って、いつの間に習得してやがったこんな技。
魔力弾は問題ないにしてもこんな広範囲を網羅する砲撃を地上を走るだけでよけられる筈も無い。
普通なら。
魔力強化を施した状態の身体能力で、遠めの位置にある木に鋼線を巻きつけ、引っ張ると同時に跳ぶ。一気にその場を離れた俺は、自分のもといた場所が光に包まれるのを見ていた。あぶねー…確かに当たったらまずいわありゃ。
集中力には自信のある(ってか無かったら家のメンツと修行は無理)俺でさえ、未だに魔力の扱い微妙なのに、補助つきとは言えあんな魔法ポンポンぶっ放すってどんだけ魔法の才能あるんだアイツ?
とは言えそこは戦闘経験の差。砲撃終わりで油断しきってるなのはに向かって全力で跳躍。なのはに近づいた俺は、そのまま鋼線で足を絡めとった。
「え?なっ!?」
鋼線を引き寄せる事で一気に距離を詰める。そのまま斬りかかろうとしたが…
「プロテクション!」
光の壁が出現した。防御も自在か、恐れ入るな。だけど…
『徹』に盾の意味はない。
「せ…りゃぁっ!!」
魔力強化、その他諸々全力で『徹』を放つ。プロテクション越しに突き抜けた衝撃は、プロテクションを発生させているレイジングハート本体に伝わり…
「ぁつ!!」
大した握力も無いなのははレイジングハートを取り落とした。
…アレ?
Q:デバイスとは?
A:魔法を使う際の補助として用いる道具である。
「お前、レイジングハート無しで飛べる?」
「え?あ…」
まっさかさまに落ちていくレイジングハート。当然のようになのはの浮遊魔法も切れて…
「にゃぁぁぁぁぁっっ!!」
「あっはっはー!!やべぇぇぇぇっ!!」
互いに落ちていく俺達。いやコレは考えてなかったわ!
高さ的には全力跳躍+約鋼線の長さ。重量は+なのは分。ちょっと…結構まずい。
取り合えずなのはの身体を抱え、まだ振るっていない右の鋼線を…
空一面の雲。…何処にかけろと?
「上に何も無いのにどうしろってんだぁぁぁっ!!」
ギリギリで木に絡ませてぶら下がるしかない。右腕は間違いなくいかれるだろうが、なのはがただじゃすまない以上やるしか…
「っとぉ?」
下を見れば、何か緑色の魔方陣があって…やわらかく受け止められた。魔方陣の発生元を見れば、ユーノの姿があった。
「ビックリしたよ二人とも…」
我等が救世主、魔法の大先生ユーノ様。こんな魔法もあるんだな、助かってよかった。
「いや、助かった。」
「はーっ…はーっ…」
余裕で答える俺の腕の中でなのはは息を切らして青ざめていた。…まぁ、あんな高さからノーロープバンジーやらされて平気なわけねーよな。
「大丈夫か?」
「う、うん…」
なのはを立たせて傍にあるレイジングハートを拾って渡す。
「これでわかったろ?俺のが強い!」
「むー…でもギリギリだったじゃない。」
何気に負けず嫌いのなのはは納得いかないと言った表情で俺を見る。…むぅ、地上戦なら砲撃だろうがなんだろうが余裕なんだが、空から打たれ放題って言うのはちょっときついな。
「ま、空とか遠いところがきついのは実感した。と言う訳でなのははそっちを頼む。地上の前衛は俺がやる。」
「あ、うん!」
担当を割り振られたのが嬉しかったのか、満面の笑みを見せるなのは。さすがに空中にいて負けた事で俺の実力も信用してくれたのか、特に心配しているそぶりも無い。
「前衛、後衛攻撃、後衛サポート、案外いいメンバーかもな。」
言いながらユーノに視線をやると。忘れてなかったんだ…と呟きながら若干感動していた。そういやユーノの手伝いでジュエルシード集めてるのに、小動物だからって空気扱いし過ぎたか?悪いユーノ、知らん技術におっかなびっくりで俺等も結構いっぱいいっぱいなんだ。