第六話・難局を乗り切る為の全ての手札
「え、ええっ!カートリッジシステムを付ける!?」
メンテナンスルームから悲鳴じみた声が聞こえ、顔を出す。
エイミィさんが、機材に入った二機のデバイスと話していたらしい。
ちょっと興味があったので入ってみた。
「カートリッジシステムってアレか?騎士達の使ってた。」
確か薬莢が飛び出して魔力が上がる奴だ。
俺には関係ないが魔導師…特に馬鹿魔力のなのはは強力な魔法を使えるようになれば頼もしいだろう。
あ、関係ないで思い出した。
「ナギハ、まさかお前はそんな事言い出してないよな?」
『愚問ですマスター、子供の玩具と剣士の武器たる私を一緒にしないで下さい。』
カートリッジシステムなんてあった所でほぼ間違いなく使わない。だから望み通りの回答だったんだ。
…二機の神経を逆撫でするような事を言わなければ。
『訂正しなさい。マスターは優秀な魔導師ですし私はそんなマスターのパートナーです。』
『同意する。』
レイジングハートとバルディッシュは割とマジで怒っていた。
口調が変わらないから分かり辛いが間違いないだろう。溶液?が揺れている。
『大体貴方のマスターは魔導師としては未熟以下で、剣士としては恭也に劣る程度では無いですか。』
「ちょっ…レイジングハート!ストップ!!」
対抗心に火がついたのか、レイジングハートが反撃に出た。
どこで知った情報か知らないが、このままじゃ局のテリトリーでいらん事まで喋りそうで慌ててしまう。
『マスター!恥じる事はありません!むしろ年齢を鑑みれば貴方が恭也様と魔法無しで渡り合えるのは素晴らしい事です!!』
「いや恥じてないけどさ!お願いだからここで喋るなっての!!」
『『あ…』』
人間味を感じる呟きを綺麗に揃って返してくれるナギハとレイジングハート。
『未熟なのはナギハとレイジングハートのようですね。』
バルディッシュの呟きには心底同意だった。ナギハはともかく、レイジングハートも熱くなりやすいたちではあるようだし、はぁ…
「お兄さんって速人君より強いんだ、へぇー…でも魔法使ったら勝てるんだし、リライヴちゃん含めて負け無しだから速人君は未熟じゃないと思うけど。」
…魔法使ったら勝てる…か?
ちょっと思い浮かべて見る。兄さんに勝って刀を掲げている自分…
ダメだ、何故か魔法使っても勝てる気がしない。
笑みを向けてくれるエイミィさんに俺は苦笑を返す。
「リライヴとは対でやって無いけど…サンキューエイミィさん。ちなみに…」
「詳しく調べたりはしないから大丈夫だと思うよ。それに、調べるなら速人君の事を調べるだろうし。」
焦る俺に対して、エイミィさんは笑いながらそう返してくれた。
全く…隠してる相手に気を使われるなんて情けないにも程がある。
とはいえ、ここは素直に感謝しておこう。
俺だって話せるものなら一から十まで話したいが、普通に考えて『裏』の話は一応『表』に位置する警察組織な上、他の世界の住民の彼らに話さないほうがいい。
それにしても、強化かぁ…
「レイジングハートとバルディッシュだけ強化されるって事は、魔法系はまた差が開くなぁ…」
「あ、でもナギハからも強化の提案はあるんだよ。」
しみじみと呟いた俺に対して、エイミィさんから驚きの新事実が発覚する。
むぅ…ナギハよ、魔法を強化したり変形したりって言うのは正直いらないんだからな。
たしかになのはやフェイトだけ強くなるのは尺だが半端な強化なんて…
『魔法発動の為の処理を出来る限り私が行える様にAIと処理速度の強化を提案しました。…貴方は貴方の強さを高めて下さい、私はそれを全力で手伝います。』
「ナギハッ!!」
理解良過ぎる相棒に、俺は思わず感動してしまった。
こりゃ俺ももっと鍛えないとな。とりあえずは…
兄さんの影を越えよう、うん。
Side~フレア=ライト
魔導師連続襲撃事件…闇の書事件。
クロノ執務官から入った協力要請を見ながら、私は深く息を吐いた。
半年か…
久しく合う事のなかった海鳴の剣士。今回の事件にも彼らが協力しているらしい。
少女の方も魔導師としてかなりの腕に成長しているようだ。
そして…おそらく速人も。
業を納める中で嫌でも実感する事があった。
地面が欲しい。
腕で振るっているはずの武器なのにも拘らず、足捌きで威力、精度を調整できる。
そんな技術は速人と会うまで知らなかった。おまけに空中ではふわふわとし姿勢制御になるため足場を使って出来る事が上手くいかない。
速人はそれを知っていて、飛行魔法ではなく地面の生成を選んだのだろう。
そして、剣はともかく魔法は素人のはずの速人は、『慣れないまま』リライヴを倒すだけの剣技を振るっていたのだろう。
デバイス任せにするにしても、あったばかりの新品じゃ経験値が少なすぎる。
それが…更に洗練されているはず。
合間を縫って訓練でも申し込んでみるのもいいかもしれない。今の私ならそうそう遅れは取らないだろう。
「…は!!」
突き出した木の棒が、甲高い音を立てて鉄板を突き破る。
ベルカの騎士が相手のようだが…彼らは魔導師のクロスレンジと体技が異なるものである事を理解しているだろうか?
「いい機会かも…知れないな。」
私が納めたものがどこまで通用するのか、少し興味がわく。
まったく、仕事だというのにこの調子ではいかんな。
私は身支度を整え、寮を出る。
ロストロギアと魔導師の犯罪者。
早めに解決しよう。でなくては無辜の民が巻き込まれるだけでなく…
無茶をする馬鹿がいるからな。
SIDE OUT
「はぁー…これ全部あいつらが事件起こしていった世界か。」
クロノに呼び出された俺は嘆息しながらモニターを見ていた。
モニターには、最近の事件で魔力が奪われた何かしらがある世界が羅列されている。
「リライヴの奴が協力してるんじゃ、もう完成しててもおかしくないぞ?」
「そうだ、彼女達が行動している間に早急に捕らえる必要がある。」
事が事だけに武装隊に協力要請したらしく、何かどう見ても弱いのが鍛錬に勤しんでる。
とはいえ、基本的な事からやってる分、なのはより精度が若干よさそうにも見えなくはない。
…って言うか、専門家が半年前から始めた小学生に負けていいのか?
「…君はどう見る?」
「何が?」
「本局武装隊さ。彼らも管理局の訓練を受けてる専門家なんだが…」
「クロノは優秀だってのはよく分かったよ。」
俺の答えに苦笑するクロノ。喜んでいいやら悲しんでいいやらって所だろう。
「まぁいいんじゃねーの?どうせリライヴとやり合えるのは『本物』だけなんだし、何よりなのははともかく俺は魔法からっきしだからな。その関係の心配がないだけで十分だ。ただ…」
「ただ?」
「フレアは?」
アイツはかなりの戦力だ。他の所で嫌われてるならぜひ呼んで欲しい所だ。
今の所直接的にリライヴに勝ってる部分があるのは、俺とフレアの接近戦だけだからな。
「それが、闇の書とリライヴの事が分かった時点で協力要請を出して、次の日には通ったんだが…未だに姿を見せないんだ。」
「アイツが?嘘だろ?」
俺が受けた印象は、管理局の職務に忠実な市民の盾だ。間違っても指名された仕事に顔を出さないような奴じゃないと思うんだが…
「クロノくん、メールが来てるよ、そのフレアから。」
「読んでくれ。」
「はいはい。えーっと…クロノ執務官、お疲れ様です。依頼があった任務の経過報告ですが、現在事件の関係者と思われる人物を捕捉しました。」
「なっ!?」
「…映像データは気づかれる恐れがあるので送れませんが、赤い服の少女です。現在交戦中の生物との戦闘が終了し次第捕獲に入ります。だって…」
「馬鹿かアイツは!!!」
クロノはアースラ内という事も忘れて叫んでいた。
いや、予測の斜め上を軽く行ってくれたな。
「まぁ大丈夫だって。今のアイツなら今回の事件の連中で負けるのはリライヴくらいだ。」
「君はベルカの騎士を甘く見すぎだ!いくらフレアが接近戦が得意といってもAA+がせいぜいだぞ!?対一戦闘でオーバーSの判定がついているベルカの騎士相手に幾らなんでも」
「増援がこなきゃ大丈夫だ、手伝いにいける準備だけしておこうぜ。」
焦るクロノと違い俺には確信があった。
あの少女の戦い方は…強固な防御を誇る魔導師は討てても、武芸者に当てる事は出来ない。
そして…
あのくそ真面目で融通も何もない馬鹿局員が、俺が教えた業の存在を放置しているとは、到底思えない。
…ひょっとしたらクロノに勝てるようになってたりして。
そうだったら面白そうだと思いつつ、俺は来るべき戦闘に向けての準備を始めた。
先日は込んでいたようなので避けました。