なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第四話・守護騎士と白い少女

 

 

第四話・守護騎士と白い少女

 

 

 

Side~ヴィータ

 

 

 

「ヴィータの馬鹿、ヴィータの馬鹿、シグナムのバトルマニア。」

 

 

蒐集から戻って来て、あたしはリライヴに怒られていた。

 

 

「まぁまぁリライヴちゃん、あの娘の魔力も蒐集出来た訳だし」

「それが問題なの!!」

 

 

リライヴが宥めようとするシャマルを怒る。けど、あたしは聞き逃せない一言があった。

 

 

「魔力を集めねーとはやてが危ないのに、蒐集したらまずいってどういう事だ!!」

 

 

リライヴはアイツらと知り合いみたいだった。もし敵に回すのが嫌とか言う理由なら今ここで…

シグナムもあたしと同じ考えらしく、レヴァンティンを握る手に力が籠る。

 

リライヴはそんなあたし達を見た後、溜息を吐いた。

 

「蒐集は一人から一回しか出来ない。つまりこれからなのはからは魔力を奪えない。けど…あの娘にそれは関係ない。何回倒しても向かって来るし、死なせる訳にもいかないでしょ?」

「そりゃ…」

 

あたしは答えを返せなかった。

はやての為に何も悪くねぇ娘を殺したって知れば、はやてはきっと一番苦しむ。

 

「だから、蒐集が終盤になってから奪った方がよかったの。仮に途中で気付かれてもその時に蒐集すればよかった訳だし。」

 

 

言い返す事が出来なかった。これからあの魔導師が追って来る。勝てない訳じゃねえけど、アレに追われながら蒐集するとなると面倒なのは確かだった。

 

「シグナムも!速人と接近戦やるなってアレだけ言ったのに!!」

「…済まない。」

 

勝てたのならともかく、一人だけ惨敗だったシグナムは素直に謝った。

 

「速人との接近戦はただ速く強く鋭いだけじゃ駄目、次は私が速人とやるから。」

 

言いながら腕を抱えるリライヴ。…コイツが悩むほどてこずる相手なのか?

 

 

リライヴとの出会いは、蒐集の最中の事だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無人世界で、やたらと高い魔力を感知したアタシは、すぐその場所へ向かった。

 

透明な剣を振り回している子供の姿があった。

 

…魔導の才能に歳は関係ねぇ。時間がねぇ以上、のんびりとやってる暇はなかった。

 

「魔導師?…いや、ベルカ式って事は騎士ってやつか。何の用事?」

「テメーの魔力を貰いに来た、それだけだ!!」

 

突撃するアタシに対してその子供は剣を振るった。

魔力で整形している実体もない武器で、アタシと打ち合おうって…

 

「舐めんじゃ…ねぇっ!!」

 

打ち合わせた武器から閃光がほとばしる。

 

拮抗した!?剣でアタシのアイゼンと!?

打ち合いの重さで拮抗するなんて、シグナムでも無理な芸当だ。鋭さはともかく、重さで負けるわけがない。

 

それだけでも驚きだったんだが…

 

「ふーん…ヒビで済んじゃったか。」

「なっ…アイゼン!?」

 

打ち合った箇所がひび割れていた。

 

こんな…嘘だ…拮抗所か打ち負けるなんて…

 

ベルカの騎士が、魔導師に接近戦で負けるなんて…っ!

 

 

「あってたまるかあぁぁっ!!」

 

 

再びアイゼンを振り上げて、カートリッジを…

 

「ソニックセイバー!!」

 

透明の閃光が、アタシの体を通り抜けた。

 

「あ…」

 

 

アタシはその子供相手に何も出来ずに崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

しばらくして、アタシは目を覚ました。倒れた場所と同じ所で、捕まっているわけでもなく、体調に異変もない。

しかもご丁寧に布までかけられていた。どうやら気絶だけさせて放置したらしい。

 

 

少しの罪悪感とかなりの悔しさがあった。

 

 

アタシから襲い掛かったのに、昏倒させるだけでこんな気遣いまでされた事が、悔しくて申し訳なかった。

 

 

 

 

それから数日後…

 

「ただいまー。あれ?この靴…」

「あ、ヴィータ。お客さんきとるよ。」

 

見覚えない靴にはやての客という言葉に、なんとなく嫌な予感を感じて家に入る。

 

「あ、お邪魔してるね。」

「なっ…」

 

そこには、呑気に窓を磨いているこの間の白い少女の姿があった。

 

 

 

 

 

アタシとシグナムは、少女につれられて近所の公園に来ていた。

 

「さてと…なんで主に仕えるべき守護騎士の貴女達がはやての目を盗んで人様を襲っているのか…聞いていいかな?」

「な…」

 

アタシは呆然として硬直していた。いつの間にどうやって調べたんだこいつ…

 

「…答える気はない、逃がすわけにも行かなくなった。」

 

シグナムは待機状態のレヴァンティンを手に取り握り締める。

アタシもアイゼンを握り…

 

少女は面倒そうに肩を落とした。

 

「あのさ、密告とか考えてたらいちいち連れ出さないと思わない?それに、仮に二人がかりで私を倒せても、私がしばらく何もしなかったら管理局に連絡が行くような仕掛けが会ったらどうするの。自動メール送信的なものとか、市販品ですらあるくらいなのに。」

「む…」

「て、てめぇ…」

 

アイゼンを握り締めて震えるアタシの横で、シグナムは静かにレヴァンティンから手を離した。

 

「そういう事、とりあえず話を聞いてね。」

「…何が望みだ。」

 

シグナムの問いは、闇の書が狙いの輩なのかどうか。アタシ達に自分から関わってくる以上ほぼ間違いねぇけど、闇の書の力は主しか使えない事を知らない可能性もある。

 

だったら、願いが叶えられない以上諦めてもらえる可能性だってある。

 

もしアタシ達を脅迫するなら最悪はやてに害が行かなきゃ多少手を貸すしかない。

 

歯噛みしながらそいつの言葉を待つ。

 

「私の望みは、貴方達の目的と知識の確認。それから相談。拒否したら敵に回っちゃうかもね。」

 

だが、そいつの口から飛び出したのは自分の願いなんてまったく関係ない台詞だった。

 

「…あいにくだが、それは出来ん相談だ。」

「そう?それじゃあ…」

 

と、いきなり転移魔法を使って逃げる少女。アタシとシグナムはすぐに転移先を特定して後を追った。

 

 

ついたのは広い無人世界。

 

 

 

「私はリライヴ、流れの魔導師。名乗りたくないなら別にいいからかかって来ればいいよ。」

 

 

少女は、アタシ達二人がつくのを待っていて、ただ静かにそう言った。

 

アタシ一人に一回勝ったからって舐めやがって…

 

騎士として誇りを傷つけられたアタシとシグナムは、躊躇う事もなく全力でかかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、アタシとシグナムはデバイスを破壊されて地面に転がっていた。

 

「馬鹿な…」

「ちっきしょう…」

 

少女…リライヴは肩で息をしていたものの、無傷で平然と空から降りてくる。

 

「参ったな、カートリッジシステムって便利だね。存在は知ってたけど、バーストモードまで使う羽目になるなんて思わなかった。」

 

言いながら透明の刀身を展開していた短剣の形のデバイスを待機状態に戻すリライヴ。

アタシ達の前に降りて来たリライヴは、何を思ったのかアイゼンとレヴァンティンを奪い取った。

 

取り返そうとするが魔力ダメージを受けすぎて体に力が入らない。

 

「な、何やって…」

「まぁ待ってて、修理するから。」

 

そう言ってリライヴはアタシ達ごと別の場所へ転移した。

 

 

返されたアイゼンは、展開しても支障がなく、むしろ調子がよかった。

レヴァンティンも同じなようで、シグナムが複雑な表情で自分の武器を見つめている。

 

「さてと…これで私が管理局側について敵に回った結果が判明した訳だし、そろそろ話してくれてもいいんじゃないかな?」

「く…っ…」

 

住所が割れていて、たった一人でアタシとシグナム二人を相手に余裕があるようなコイツが敵に回ったら何も出来ない。

 

 

アタシとシグナムは一瞬考えて、話す事にした。

 

 

はやてが闇の書の主である事、そのせいで負荷がかかって足が動かない事、症状が進行している事…このままでは、はやてが死んでしまうこと。

そして、闇の書の主として覚醒してもらって症状の回復か進行停止を目的としている事。

 

リライヴはそれを聞いて殆ど驚かずに頷いていた。

 

「なるほどね。一つ確認なんだけど、今現在闇の書が願いを主ごと破滅に導く事で叶えている事は知ってる?」

「何!?」

「どーいう事だよ!?」

 

いきなりリライヴが言ったことに驚きが隠せなかった。

そんなアタシ達を見たリライヴはやっぱりといった感じで息を吐いていた。

 

「闇の書が完成して権限を手に入れた後に、はやてが何かを願ったらそれが主と周囲の破滅と共に叶えられる。つまり、はやては下手に何も考えられないような状態で生きていかなきゃならなくなる。」

「そ、そんな…嘘だろ?」

 

それじゃあ仮にはやてを救っても何にもならない。リライヴは腕を組んでアタシ達を見据える。

 

「はやてが権限を得て、病状が回復したら闇の書含めて管理局に行って貰う。あそこなら少なくとも発動していない闇の書をはやてが死なずに封印する方法位はあるだろうし。」

「主が救えれば、犯した罪は償うつもりだ、それは構わないだろう…」

 

シグナムは俯いてそう言った。それはつまり、アタシ達とはやてが離れ離れになる事…

けど仕方がない。はやてが死んじまったら何にもならない。

 

「ま、そんなにめげないで。向こうは安全管理が目的な訳だし、上手く対処する方法があれば古代ベルカの騎士四人が管理局に加わってくれるともなれば上手い事問題点だけ解決してくれると思うし。」

 

リライヴは言いながらアタシ達の前まで来た。

何を言い出すのかと思ったら…

 

 

「さて、とりあえず魔力蒐集からかな?急ぎでしょ?」

 

 

そう言って、自分の身体を指差した。

 

「な…に?」

「別に一時的なものだし、治るんだったら献血と一緒だからね。さっさと魔力集めてさっさとはやてを治してあげよう。」

 

そう言って、アレだけの実力があるくせに魔力蒐集に何の抵抗も見せないで、リライヴはその身を差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、アタシ達とコイツの出会いだった。

 

以降、魔力枯渇から回復したリライヴはアタシ達に蒐集した魔力を届けに来たり、そのままはやてと遊んだりしている。

 

そんな訳で、リライヴの実力は身をもって知っている。だから速人って奴がそこまで警戒する相手だって言うのが分からなかった。

確かにシグナム負けたみてーだし強いのは強いんだろうけど…

 

「何だヴィータ、何か言いたそうだな?」

「べっつにー…」

 

顔を逸らしてシグナムの問いかけを流す。

 

「…とりあえず皆は速人の事を覚えておくといいよ、きっと今頃何もかも上手くいく方法を探してくれてる筈だから。」

 

 

 

それがどういう意味なのか、今のアタシにはまだ分からなかった。

 

ただ…

わざわざ管理局と分けて名指しで呼んだ奴だという事は覚えておこうと思った。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「っくしゅん!!」

「風邪かい速人?君が戦えないと戦力が激減するんだから気をつけてくれよ。」

「大方リライヴ達が俺の天才的技巧をどう攻略するか話し合ってるんだろ。はっはっは!」

 

大威張りで胸を張った俺に対して、ユーノは苦笑を漏らした。

だが、すぐにその笑みも消える。

 

「それにしても折角の再会がまた事件だ何て…」

 

悲しそうに呟くユーノ。

おそらく医務室に向かったフェイトとなのはの事だろう。

 

「ま、いいんじゃないのか?刺激的なほうが忘れないだろうし。」

 

俺はそんなユーノに対して、あえて明るく言い切った。

 

「は、速人…ちょっと不謹慎じゃないの?どんな事になるのか」

「ハッピーエンドさ。決まってるだろ?この俺がここにいるんだぜ?」

 

 

 

『それ以外はない』。その意思をはっきりと込めて告げる。

 

 

 

少し呆然としていたユーノだったが、肩の力を抜いて小さく笑みを零した。

 

「他の誰かが言ったらただの励ましにしか聞こえないけど、君が言うと本当に叶うって気がしてくるよ。」

「当然だな、俺は嘘にする気が無いんだから。」

 

 

俺の宣誓に、ユーノは笑みを返してくれた。

 

 

 


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