第二話・戦闘開始!
しばらくして、戦力全てが出そろっていた。
こっちはクロノとユーノとアルフが増えて、向こうには犬耳筋骨隆々男が増えていた。
こう言うと変態にしか聞こえないが顔は整っている。多分アルフなんかと一緒なんだろうな。
数的にはこっちが上だが…
「ここは引き分けにして逃がして貰えない?」
と…リライヴがそんな事を言い出した。
「貴様何を」
「勝つだけなら出来るけど…こっちが一人二人捕まるか、向こうに死人が出る。どっちも嫌と言えば嫌でしょ?」
ポニーテールのお姉さんが目を細めたが、リライヴの意見には同意らしい。
「クロノ達は仕事だからともかく俺はまだどっちの事情も聞いて無いし引き分けなら別にいいけど?」
「君は何を勝手な」
「おいおい、俺の協力が前提になってるのは勝手じゃないのか?仕事してるお前まで止まれとは言わないって。」
クロノは表情を歪めた。
無理もない、仮に俺抜きで突っ込んでもリライヴ一人にすら勝てる保証がない。
何の害もなかったし、俺としてはそれでよかったんだが…
「魔導師襲撃事件の犯人一行様でも見逃すのかい?ヒーローさんはさぁ。」
「む…」
アルフが聞き捨てならない事を言った。
確かにこんな事件をあちこちで起こしているって言うなら放置する訳にもいかない。
「…しょうがない!話聞かなきゃ止めるも手伝うも無いしな。」
俺は臨戦態勢を取る。
他の面子は全員既に警戒状態だった。ったく喧嘩っ早い奴ばっかだな。
こうして、合戦に近い戦いが始まった。
Side~シグナム
私は戦端が開かれると共に、一人を目指して飛び出した。
狙いはリライヴとやたらと話していた少年。
リライヴの戦闘能力は私とヴィータが同時でかかってどうにか出来る程だ。そんな彼女が警戒心を抱いている少年。しかも、リライヴから念話で『絶対に接近戦に応じるな』とまで送られてきた。
魔力値は並の魔導師よりは高いもののこのメンバーの中では限りなく低い。
一対一での戦いをもっとも得意とする古代ベルカの騎士にして、烈火の将たる私がそんな相手に接近戦で引けるものか!
「はあぁっ!!」
振り下ろしの一撃。少年はそれを下がってかわす。
私はかまわずその軌道を追うように突きを繰り出した。
少年はそれも回避する。反応はかなりいいようだ。
「はぁー…空中だって言うのに随分一つ一つの動作が綺麗だな。」
「世辞はいらん、だが…加減の必要は無いようだな。」
私はカートリッジをロードする。炎がレヴァンティンを包み込んだ。
「変換資質炎って訳か。物静かだと思ってたら随分と闘争心強い人みたいで。」
少年は言いながら…武器を納めた。
何を…と言い掛けて、飲み込んだ。
自身も忘れるほどに積み込んだ戦闘経験が告げている、アレは危険だと。
…元より襲撃者は我々、引く理由などかけらもない!!
「紫電一閃!!」
避けられぬタイミングで防げぬ一撃を放つ。それで全ては終わる。
だから…
『馬鹿!防御!!』
リライヴから飛んできた念話の意味を理解するのが一瞬遅れた。
振り下ろした剣に衝撃を感じる。デバイスで受けたとしても断ち切れる筈だったが、その衝撃は妙だった。
結論から言えば、私の必殺の一撃は空を切った。
その意味を理解する間も無くフィールド防御魔法、パンツァーガイストを展開する。
「ぐっ…」
私は吹き飛ばされて距離を取っていた。騎士甲冑が斜めに裂けていた。
『このバトル馬鹿!接近するなって言ったのに!!』
念話が入ってリライヴの様子を伺う。
彼女の方は黒衣の魔導師と金髪の魔導師、白い魔導師の三人を相手に互角の戦いを演じていた。
そんな状況で私の様子まで確認して念話を送ってきたのか…
軽く畏怖を覚えたが、今はそれ所ではない。
先の一撃を放った少年は生半可な相手ではない、と改めて向き合おうとして…
「なぁナギハ、俺奥義使ってるんだぜ?絶対理不尽だよな全身防御魔法って…」
『問題ありません、マスターの腕前であれば誰が相手でも引けは取りません。』
少年は、デバイスを手に落ち込んでいた。
…紫電一閃を無傷で捌いておきながら落ち込まれては、私の立つ瀬がない。
「お前…名は?」
「へ?…高町速人。」
疑問符と共に名前を返してくる。
「ヴォルケンリッター、烈火の将シグナム。速人、お前の名は忘れまい。だが…」
私はレヴァンティンを構えなおす。
…殺さずに等と言う容赦は出来ん、彼はこの小さな魔力でそれだけの戦士だ。
「お前を殺さずにとは保障できん。」
「あーなるほど…このタイミングで名前聞く訳がいまいち分かんなかったんだがそう言う事か。」
構えなおした私の前で居心地悪そうにする速人。
「何か問題があるのか?」
「いや、剣士として名乗ったんなら悪いことしたかなって。俺の剣って…」
刹那、小さく動く速人の右腕。
咄嗟に下がると、目の前を糸が通っていった。
「こういう訳で、名乗り上げる騎士さんにはちょっと悪かった。」
なるほど、邪道という訳か。だが…
「気にするな、似たようなものだ。」
シュランゲフォルムを展開する。途端にその形状を鞭のような連結刃に変えるレヴァンティン。
速人は少し驚きを見せ…
「そう言う事ね!!」
臆す事もなく向かって来た。
Side~高町なのは
アルフさんが犬耳を生やした青い人と戦って、ユーノ君がヴィータって娘を引き離してくれた。
お兄ちゃんは、剣士さんに戦いを挑まれていた。
だから…
「スナイプショット!」
「アークセイバー!」
私とフェイトちゃんとクロノ君の三人で、リライヴちゃんと戦っていた。
「ディバイン…バスターッ!!」
「ちっ…」
私の放った砲撃はリライヴちゃんを捉えきれず空をきる。
やっぱり強い。それも前よりも数段。
三人で攻撃してるのにリライヴちゃんはまだ防御もしてない。
魔力が高いだけじゃなくて飛行制御…ううん、戦闘そのものが上手いんだ。
「…ねぇ、何でフェイトとなのはのコンビネーションがクロノとフェイトのコンビネーションより上手いの?」
「それは僕も聞きたい。さっきから下手をすればフェイトに当たっているぞ。」
クロノ君が言う通り、私はフェイトちゃんの身体に隠す様に誘導弾を撃ったり砲撃を放ったりしている。
言われてみればちょっと危ないのかもしれないが、今の今まで全然考えになかった。
「なのはならここに撃つかなって思ったらそこから攻撃が来るよ?」
「私もフェイトちゃんがこう動くかなって思ったら避けてくれるよ?」
フェイトちゃんも私と同じだったみたい。クロノ君は呆れているけど、私は仲良くなれたみたいでちょっと嬉しかった。
それに…
「リライヴちゃん、やっとなのはの名前呼んでくれたね。」
フェイトちゃんとの始まりでもある友達になる第一歩。
名前を呼ぶ事。
思わずかも知れないけど、一歩前進した気がして気分がいい。
当のリライヴちゃんは恥ずかしそうにした後、片手杖の形になっていたデバイスを、短剣の形にして、透明な剣を作る。
気分がよかったから、リライヴちゃんが何か言っても気にせずいられると思って…
「行くよ!フェイト!クロノ!速人のオマケ!!」
一瞬で怒った。
Side~フェイト=テスタロッサ
あの言い方は許せないと思う。私もアリシアのお人形って言われた時物凄く悲しかったから。
だから、ショックを受けたなのはが傷つかない様にとリライヴとなのはの間に入る。
リライヴを睨み付けるが、彼女の方は涼しい顔をしている。
絶対一回叩く。
心の中でそう決めて…
「フェイトちゃんちょっとどいて。」
背後から聞こえてきた声に、背中が震えた。
恐る恐る振り返る。
なのはは目を閉じていた。ただ、こめかみの辺りがピクピクと震えていた。
「な、なのは?冷静に…」
「なのはは…」
なのはは静かに言葉を紡ぐ。
「なのははブラコンじゃないの!!!」
意味が分からない叫びと共に、なのはの周囲に誘導弾が生成されていく。
「お、落ち着いてなのは!誰もそんな事言ってないよ!?」
「だって!リライヴちゃんなのはと速人お兄ちゃん一纏めにした!!」
リライヴの方も呆然としていた。
私もさすがになのはがここまで怒る理由が分からない。
「確かになのはと速人お兄ちゃんは結構ずっと一緒にいるけど!魔法知っててお話できるのお兄ちゃんとユーノ君しかいなかったからだし!何でそれでお兄ちゃんと恋人扱いになるの!皆して!!」
なんとなく分かってきた。
要は周りにいる人にずっと速人といる事をからかわれていたのだろう。溜まってたところに同じ様な事をよりにもよって魔法戦の最中にまで言われて限界だったんだ。
「えーと…何と言うか…ゴメン。ノリだったからそこまで深い意味はなかったんだけど…」
リライヴはちょっと引いて謝った。
なのはは答えない。そのまま誘導弾の数が増えて…
ってちょっと待って!?いつの間にか10個超えてるよ!?
「絶対当てる絶対当てる絶対当てる絶対当てる…」
「う、うわ…さすがに驚いたな、こんな数使えるようになってたなんて。」
警戒するリライヴ。なのははそれらの誘導弾を放って…
四方八方に飛んでいってしまった。
それらは速度も軌道もばらばらに飛んでいった。見送ったリライヴは息を吐く。
「なんだ、制御できるわけじゃないのか、ビックリし…」
リライヴの言葉が止まる。
速度も軌道もばらばらに四方八方に飛んでいった十数個の魔力弾が停止していた。
リライヴは前後左右上下関係無しに魔力弾に囲まれていた。
私はなんとなく次の展開が予測できた。
「あ、酷」
「いっけえぇぇぇっ!!!」
リライヴの言葉を飲み込むなのはの合図と共に、全方位から魔力弾がリライヴ目掛けて飛来した。
しかも着弾時に炸裂効果が付加されていた。魔力ダメージとは言え直撃ならかなり痛いだろう。
そう言えば、アルフがなのはと速人を相手に模擬戦やりたいとか言ってたっけ。
「や、やめて置くように薦めよう…かな…」
瞬く間に魔力の残滓に包まれたリライヴを見ながら、私はそんな事を考えていた。
SIDE OUT