なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

33 / 142
第二部開始前・遠き日に誓った叶わぬ願い

 

 

第二部開始前・遠き日に誓った叶わぬ願い

 

 

 

全てが上手く行くなんて事はそうそうない。

 

そんな事は始めからよく知っていた。

 

 

だからこそ、俺はこの街に来た時も、殺す事を躊躇わなかった。

 

危険が少なかった故に、少ないながらに存在する危険に付いてははっきりと感じ取る事が出来た。

 

たとえば、月村忍、月村すずか。

 

兄さんの恋人候補となのはの友達。

 

彼女達が、『夜の一族』という特殊な種族である事を知った。

 

そして、それ故に狙われている事も。

 

 

 

 

だから…

 

 

 

 

俺は単独で敵を殲滅した。

 

 

彼らは銃やらなにやら持っていたが、俺の敵ではなかった。

片っ端から斬裂いて、証拠品を押収し、逃げ惑う連中を捕縛していった。

 

 

殺すための力を持つものは、それを陽に当たる世界に誇示する事無くその力を陽だまりに住む人を護る為に。

 

 

 

俺はそう思っていた。

 

 

 

俺が行った殺戮劇についてはアッサリ父さんの耳に入ったらしく、呼び出されて殴られた。

 

父さんは、俺が冗談でこの力を振るったと思ったみたいだった。

 

だから、考えを伝えた時、父さんは表情を歪めたものの、それ以上俺に何も言わなかった。

 

 

 

 

そんな、どうしようもない連中を片付けながら日常をゆっくり静かに過ごしていた。

 

 

 

 

なのはに襲い掛かった犬を殺した時も、何の躊躇いもなかった。

 

救えた。それだけで良かった筈だった。

 

 

 

だけど…

 

 

 

 

 

「…どうして?」

 

 

 

 

 

涙を流しながら、切り裂かれた犬の死骸を抱え俺を怒るでもなく見つめるなのはの瞳に…

 

 

 

コレは違うと、身体の奥底で何かが告げた。

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと考える、間違いはない筈だった考えと、今ここにいる自分自身。

 

すぐに答えは出た。

 

 

俺の言う正解が全てなら…

 

 

 

 

俺はあの時、『敵』として死んでいた。

 

 

 

 

けど俺はここにいて、日常を過ごす事ができている。

 

 

今更ながらに思い知った。

 

俺が奪っていたのは、ひょっとしたらこんな日常を送れた可能性のあった命で、可能性そのものなのだと。

 

名前や記録は残っているのかもしれない。でも…

 

今俺が感じている幸せな時間も死者は得られない。

今俺が止めたい少女の涙を止める事も出来ない。

 

このままでは駄目なのだ。きっと、このままでは変わらない。

 

仕方ないと殺し続けていた頃と何も変わらない。

 

 

 

 

いい方法など何もなかった。ソレは当然で、現実はそう甘くない。

仕方ない事はどうしてもついて回る以上、現実に生きる俺に殺して護ると言う正解以外は無かった。

 

 

何気なく目をやったモニターに映る物語。

 

ここまで上手く出来るならどれだけいいか…

 

 

 

 

 

 

 

出来ないって誰がどうやって確認した?

 

 

 

 

 

 

 

ふと、そう思ってしまった。

 

今分かっている正解は選べない。

ならばそもそも、正解を考え出す事が間違いなのではないのか?

 

 

 

全てを救う。

 

 

 

出来ない世迷いごとだからこそ切り捨ててきた言葉。

 

 

 

物語が終わり、次回予告が流れる。

 

 

 

ヒーロー…現実にはそれがいないから全てが上手く救われないというのなら…

 

 

 

 

 

俺がそれになればいい。

 

 

 

 

 

全てを救えるヒーローになる。それが俺のつたない願い事。

 

 

 

 

 

だから…

 

 

「今度こそ、全てを護り抜いてみせる。」

 

 

満天の星空の元、俺は誰に告げるでもなく拳を握り締めた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。