なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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幕間・なのは、近接戦について考える

 

 

幕間・なのは、近接戦について考える

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

「うーん…」

『どうしましたマスター?』

 

魔法の鍛錬を終えて家に戻る途中、私は考え込んでいた。

 

「接近戦も覚えた方がいいのかなぁ…って。」

『人には向き不向きがあります、マスターは誘導弾制御と砲撃、戦術を強化するべきかと。』

 

私の考えはレイジングハートからもバッサリと切られた。

う、うぅ…運動音痴なのは分かってるの。

 

「そうなんだけど…この間、リライヴちゃんに詰め寄られた時だって真っ先に高速移動選んだけど何も出来ないうちに終わっちゃったし。」

 

お兄ちゃんのアイデアで覚えたディバインバスター・インパルスも結局手を構えられなきゃ意味がない。速人お兄ちゃんはもちろん、フレアさんもリライヴちゃんも私が手を向けたり魔法発動しようとか思ってる間に2,3回は斬れると思う。

で、そんなによけられる訳がないし、フレアさんの槍はプロテクションでも防げなかった。

おんなじだけの魔力を使って手のひら位まで小さく強力な防御に変えたら壊れなかったけど、あんな速さで振るわれる剣とか槍とか手のひらサイズの防御で受け止められる気がしない。

 

「だから、そのまま戦うって訳じゃなくても離れ方とかあると思うし、基本的な事は出来た方がいいのかなぁ…って。」

『そこまで言うのであれば速人に相談してはどうですか?』

 

接近戦ならお兄ちゃん。

魔法の事も知ってるし、これほど都合のいい相談相手もいないのは確かなんだけど…

 

「戻ってきてから速人お兄ちゃん忙しそうだからあんまり迷惑かけたくないの。」

『そうですか。』

 

レイジングハートはそれだけで黙ってしまった。

見た目にまったく普段と変わらないようなお兄ちゃんの違和感は、プレシアさんの事があってからだ。

 

お兄ちゃんはずっとヒーローって言うのを目指してて、恭也お兄ちゃんとかと違って、下手したらアリサちゃんやすずかちゃんより子供っぽいんじゃないかとか思ったりする事もあったんだけど…

 

それが思い違いだって、お兄ちゃんが本当の本当に本気でテレビに映ってるようなヒーローを目指してるんだって、今回の事件で分かってしまった。

 

だから、プレシアさんがあんな形で死んじゃったのが誰より許せないんだと思う。

 

きっと今まで以上に厳しい訓練をしている筈の速人お兄ちゃん。

私はそんなお兄ちゃんの時間をあまり奪いたくなかった。

 

「だから、自分で考えてみようかなって。」

 

言った瞬間、後ろから両肩をつかまれた。

 

「にゃ!!?」

『マスター!応せ…速人?』

「思うのは結構だけど、アッサリ背後取られる半人前のド素人魔導師が一人で近接戦修行なんて無理じゃないか?」

 

本当にいきなりだったから誘拐か何かと思ってパニックになってしまったけど、振り向いてみれば速人お兄ちゃんの姿があった。

 

「は、速人お兄ちゃ」

「そんなに考えるっていうんなら、今度の日曜俺に付き合うがいい。晶さんとレンさんが二人揃って鍛錬付き合ってくれる事になってるから。」

 

笑いながらお兄ちゃんは私を追い越して去っていった。

 

「…レイジングハートも分からなかったの?」

『申し訳ありませんマスター、人がいるような違和感は感知できませんでした。』

 

レイジングハートが謝ってきたけど、私はむしろお兄ちゃんの人間離れした偉業に呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

日曜、晶ちゃんとレンちゃんが家に来た。

自由に使える道場がある所はそうないから、家はそういう意味では重宝してるみたいなの。

 

「いやぁお師匠すみません、道場お借りしますね。」

「師匠たちだって鍛錬あるのにごめんなさい。」

 

レンちゃんと晶ちゃんが師匠こと、恭也お兄ちゃんに頭を下げる。

 

「ああ、こっちこそ速人が済まないな。貴重な休みを。」

「む、俺だってちゃんと二人の足手まといにならない自信があるから訓練頼んでんだからな、大体そりゃ俺が言う事で兄さんが言う事じゃないだろ。」

「ほう、お前にそれだけの礼儀があるのか?」

 

恭也お兄ちゃんに見下ろされた速人お兄ちゃんが引きつった笑みを浮かべる。

 

「やー、速人君はないなぁ…この間もウチの料理バカバカがっついとったし。」

「俺は遠慮してくれない方が好きなんですけどね。片付けとかだと雑だけど買出しは俺と同じ位の荷物持ちしてくれてますし。」

「だそうだが?」

 

速人お兄ちゃんは苦笑しながら後ずさる。

クロノくんとかユーノ君だったら物凄く上手く捌くのに恭也お兄ちゃんには形無しだなぁ。

 

ここでちょっと紹介。

間延びした喋り方をしているのがレンちゃん。

お家の中国拳法を使う天才。

というのも、努力してないとかそういう訳じゃなくて、つい最近まで病気で調子が悪くて長い時間の運動は禁止されてたの。なのに、恭也お兄ちゃんでもビックリする位に上手なの。

 

もう一人の、女の子なのに俺って言ってる娘が晶ちゃん。

空手をやっててスポーツが男の子顔負けな位に得意。

自分でも何で男の子に生まれなかったんだろうとか不思議がる位で男の子と間違われても何にも思わないみたい。

でも、コレはレンちゃんもだけど料理がとっても上手なの。

 

仲のいい友達もいて明るくて、二人ともとってもいい人なんだけど…

 

「まぁこのおサルとちごて元気なだけで粗暴やない分楽しませてもらってます。」

「誰がサルだてめぇ…毎回毎回飽きない奴だな!」

 

…この二人、喧嘩ばっかりしてるの。

 

「二人とも、続きは道場でやってくれ。後、愚弟はともかくなのはは忘れないで連れて行ってやってくれ。」

「ちょ!俺の訓練兼ねてるのにそれ酷くない!?」

 

頭が上がらないまま、速人お兄ちゃんは睨み合う二人の後に続いて道場に入っていく。私は慌てて皆の後を追った。

 

 

 

 

 

で、訓練に入ったんだけど…

 

「はっ!せいっ!!」

「ち…っくそ!」

 

ビックリした。何しろ武器を持ってないとはいってもあの速人お兄ちゃんがおされているのだから。

今晶ちゃんと速人お兄ちゃんが試合しているんだけど、お兄ちゃんは晶ちゃんの攻撃を避けているだけで攻撃できていないみたいだった。

 

…なんで『みたい』なのか?

 

 

ついていけないから。

 

 

さすがに、最近フェイトちゃんとかとも戦ったし、一つ一つが見えないなんて事はないんだけど…

 

 

二人が何をしてるのかまったく追い切れない。

 

ただ晶ちゃんの方から手足が振るわれて、お兄ちゃんは直撃にならないようにさばいているのだけは分かった。

 

お兄ちゃんが振るった蹴りをちょっと下がってかわした晶ちゃんは…得意技の構えを取っていた。

 

 

「吼破・改!」

「っ!!」

 

物凄い足音が響いて…お兄ちゃんは壁にぶつかっていた。

自分から飛んでダメージを減らしたみたい。さすがだなぁ…と感心していたんだけど…

 

「冗談でしょ?この威力…」

「俺だっていつまでも同じままじゃないからな。」

 

お兄ちゃんは顔を歪めていて、よく見たら防御したみたいな腕に拳の痕がついていた。

お兄ちゃんが自分から後ろに飛んだのは間違いなく分かった。それでもあんなダメージ…

 

「おーいおサル、速人君まだ子供なんやから壊すなよー!」

「馬鹿言うな!手なんて抜いたらこっちがやられんだよ!!」

 

晶ちゃんが体勢の整っていないお兄ちゃんに向かって攻めかかって…

 

クルンと、お兄ちゃんの手が円を描いたと思ったら晶ちゃんの体勢が崩れていた。

 

「回し受け!?」

「俺の勝ちですよね?晶さん!」

 

体勢の崩れた晶ちゃんの目の前に、お兄ちゃんの拳が止められていた。

 

「あはははは!なんやとうとう空手だけでも負けるようになったんか!」

「う、うるせぇっ!!ちくしょー…」

 

本気で悔しそうな晶ちゃん。でも空手だけでってどういう事なんだろう?

気になって隣で笑っているレンちゃんに聞いてみる。

 

「ん?ああ。速人君は始めっから木刀二本つこたらおサルにもウチにも勝てたんや。ちょう驚いたけどな。まさかこんなちっこいのにウチ等負かすなんて思わへんから。」

 

速人お兄ちゃんは一体どれだけ強いのかとちょっと疑問に思う。

 

「おーし、ならウチとやるか。腕は大丈夫か?」

「ちゃんと下がったし兄さんの木刀直撃するよりは大丈夫ですよ!」

「あー…お師匠美由希ちゃんはともかく速人君にまで加減無しか…」

 

笑顔で言い切ったお兄ちゃんだったけど、レンちゃんも晶ちゃんも苦笑いしていた。

 

晶ちゃんが私の横に座って、お兄ちゃんとレンちゃんの試合が始まった。

 

「美由希ちゃんから聞いたよ。なのちゃん、最近頑張ってるんだってな。」

「え、あ…うん。」

 

晶ちゃんに声をかけられて答えを返す。

 

「一生懸命なのはいいけど、心配してたぞ?体壊さないように…って俺が言っても説得力無いか?」

「う、ううん。そんな事ない。」

 

言われてる事ももっともだった。事件が終わってからは、たまに恭也お兄ちゃん達より早い時間に魔法の訓練してる事もあったから。

 

晶ちゃんとお話している間に、お兄ちゃんとレンちゃんは派手に手足を交わしていた。

 

「せりゃぁっ!」

「甘い甘い!」

 

お兄ちゃんが掌を突き出した腕をレンちゃんにつかまれていた。

そして、どうやったのか分からないけどレンちゃんがちょっと手を動かして…

 

「だあぁぁっ!!」

 

お兄ちゃんは一回転して床に倒れた。腕を掴んだままのレンちゃんは、そのまま腕を固めていく。

 

「はっはっは!ウチの技は柔の技や!形だけ覚えて力技ってのはちょう甘いな!」

「いぎぎぎ!!」

 

腕を抱えられたお兄ちゃんは、物凄く痛そうに床を叩いていた。

レ、レンちゃん強い…

 

「くそー…俺とやった後だからあんな簡単に行くだけだっての…速人の奴簡単に負けやがって…」

「にゃはは…」

 

自分が負けた晶ちゃんは、レンちゃんがお兄ちゃんをいい様にしているのが嫌みたい。

 

この後も、気迫十分なお兄ちゃんと晶ちゃん。のほほんとしたレンちゃんのよく分からないレベルの練習が続いた。

 

 

 

 

夕方になって道場を後にする三人を見送った私は、少し考える。

 

 

 

 

…今日見たのが私に身に付くのか?

 

 

 

答えは限りなくNOだった。お兄ちゃんの言う通り、かけらも身に付く気がしなかった。

 

 

「や、やっぱり魔法で何とかする方向で考えよう…」

 

私は項垂れて、ちょっと思いつきで真似事に走ろうとしていた自分を恥ずかしく思いながら食卓に向かった。

 

 

 

SIDE OUT

 




無事…かはともかく、再開されたようなので今のうちに。
とはいえ、今日のところはとりあえずここまでになるかと思います。

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