なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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幕間・フレアの修行、業を得る為に

 

 

幕間・フレアの修行、業を得る為に

 

 

 

Side~クロノ=ハラオウン

 

 

 

地球にいる間、度々アースラを離れていたフレアだったが、訓練室でも様子がおかしかった。

 

いつもならば、目を見張るほどに魔力を集束させた槍状のデバイスを振るっている筈のフレアだったが、今振るっているのは強度を感じさせない木の棒だった。

 

 

しかも木の棒に対しての強化もないまま。

 

 

自分はしっかり強化されているためかなりの力がある。あんな状態で木の棒なんて振るえば振っただけで折れるだろう。

 

 

そんな棒を二、三度振り回し…

 

 

床に当たった棒はアッサリと砕けた。

 

 

何をやっているんだ…何も知らなかった僕は、その時そう思っていた。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

折れた棒を手にして歯噛みする。

 

「くっ…なんて無様な…コレが今の私の技量だと言う事なのか?」

 

地球にいた頃の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人目を避けた森の中、空間にそぐわない音が響いていた。

しばらくして、音が消える。

 

 

「はい俺の勝ちー。」

 

 

そう言って私の眼前の少年、高町速人は笑みを漏らした。

 

 

 

事件が終わり、私は数度目になる速人との試合を終えていた。

ルールは飛行なしの地上戦なのだが、未だ全敗だった。

 

 

それだけならばよかった。

 

 

私自身何か理解できない事があるのだとは思っていた以上、それが分からないままならば負けるのは必然だった。

 

 

だが…武器がデバイスから鉄の刀に変わり、それでも折る事ができずに敗北し…

 

 

 

 

 

たった今、木の刀相手にデバイスと魔力強化を使用して打ち負けた事についてはまったく納得がいかなかった。

 

 

 

「何がどうなっている?」

「んー、まぁ本読んで型の練習とかすればそれなりにはなると思うんだが…」

「お前はそうしていないのだろう?ならばお前自身から聞かせて貰いたい。」

 

確かに武器の形状は変わっていない。だがこんな玩具で打ち合えるほどデバイスも私の一閃もやわではない。

私がその事について疑問を持っていると、速人は持参していた袋から長い木の棒を二本取り出した。

 

そのうちの一本を私に向けて差し出す。

 

「んじゃコイツで打ち合ってみようぜ。」

「何?」

 

どう見ても、強化状態の一振りで折れそうだった。下手をすれば魔力強化をした状態で握っただけでヒビが入るかもしれない。

 

そこまで考え、理解した。

つまり強化に頼らない何かを掴むための訓練なのだと。

 

何しろ速人自身も最近魔法を知った初心者だ、この戦闘能力は魔法以外が大本になっている。

 

私はそれを受け取り、慎重に構え…

 

 

「あれ?強化しないのか?」

 

 

出鼻を挫かれた。

 

「こんな物身体強化した状態で振るえる訳が」

「そう思う?そりゃ!」

 

 

刹那、見えないほどの速度で棒が振り下ろされた。

 

私は飛びのいてそれをかわす。明らかに強化状態で振るわれた一撃だった。

 

奴にできるというのなら、人間が出来ない事ではない筈だ。

同じように振り上げ…

 

「はぁっ!」

 

振り下ろした瞬間…私の握る棒が握り手を残して四つに折れた。

 

 

「そりゃそれじゃ折れるよな…ほいっと!」

 

折れた棒を握り締めている間に構えを変えた速人が、突きを放ってくる。

 

私は今バリアジャケットを展開している。

 

金属製ですらまともに入った所で並の人間ではダメージにならない。木の棒など効く筈が無い。

 

 

その突きを受けるまではそう思っていた。

 

 

 

「が…っ!?」

 

 

ジャケットを抜けてダメージがまともに入った。

意味が分からない、強度的にそんな現象が起こる筈が無い。

 

「あー…やっぱ折れたか、ちょっと曲がってたもんな…」

 

折れた棒を手にそんな事を呟く速人。

幸いダメージといってもそこまで酷いものではなかったので痛みをこらえて速人に近づく。

 

「何故だ?その棒、どう考えてもバリアジャケットを抜くだけのダメージを与える強度があるとは思えない。」

 

疑問で頭を抱えていた私への回答は、酷くアッサリとしたものだった。

 

「綺麗に真っ直ぐ回転をつけてやれば割と行くぞ。まぁそれが難しいんだが。」

 

そんな簡単な事な筈が無い。と思っていた私は、何本持ってきていたのか更に棒を渡される。

 

「これ突いてみな。」

 

 

そう言って速人は、木にぶら下げられたこの世界の通貨を指す。

 

私と通貨と速人が一直線に並んでいる、このまま突けば真っ直ぐ飛んだ通貨が速人に当たるだろう。私は何の躊躇いも無く突きを放ち…

 

 

 

通貨は、速人を外れて飛んでいった。

 

 

「そういう事だ。見た目に真っ直ぐ突けてるように見えるし的には当たってるから分からないんだろ?それに腕だけで突いてもしょうがない。全身を連動させて全ての力を上手く使わないとな。」

「全身?腕で振るっている槍の威力を足で上げろというのか?」

 

意味がさっぱり理解できないが、言っている以上速人は出来ているのだろう。

 

 

「ちなみに、ちゃんと出来てるならこういう事も出来るようになる。」

 

 

言いながら速人は青竹を取り出し、細い糸を使って青竹を木にぶら下げた。

そして、私のデバイス、グレイブを手に取る。

 

 

「ふっ!!」

 

 

短い呼気と共に一閃。ぶら下がった青竹は二つに切れて地面に落ちた。

 

…私には無理だ。

 

同じことをやったとしても間違いなく糸の方が切れて青竹には傷がつくだけだろう。

 

 

「止まってるもの相手なんだしこれ位は」

「出来て当たり前だ。」

 

と…背後から声がした。

 

「あ、あれ!?兄さん!?姉さんまで!何でここに?」

「鍛錬だよ。妙な物音がしたから来てみたんだ。友達…って言うには大きいよね?」

 

振り向いた先にいたのは男性と女性だった。

少し拙かった。

速人の家族は一般人だと聞いているが、私はまだバリアジャケットを展開している。

質素なものとは言え普通の服装には見えないだろう。

 

「あ、コイツはフレアって言うんだ。異国から最近の日本文化に触れてきてるんだけど、そろそろ帰るっていうから土産話にちょっと色々見せてやろうかと思って。ホラあっただろ?チャレンジ番組とか。」

 

こちらの世界の事は常識しか知らないが、どうやらそれで納得してくれたらしい。二人は名乗ってくれたので、私も名乗り返した。…下手な事は言わない方がいいので様子を眺める。

 

「それじゃちょっと私もやってみていいかな?」

「…静止物相手にしくじる様なら罰も考えなければな。」

「う…プレッシャーかけないでよ恭ちゃん…」

 

少し困ったように顔を歪めた女性…高町美由希さんは、手にした刀をぶら下げた青竹に向けて振るう。

 

速人と同じく、竹は二つに切れて落ちた。

 

彼女は一般人だ、つまり魔法強化無しでも出来る事になる。私はその事実に戦慄を覚え、同時に速人がまだ子供でこれだけの技量を誇っていた事を思い知った。

 

速人が振るったのは私のデバイスだ。刀ならば強化無しでも出来たのかもしれないが…

 

とにかく、そうなるとこの場にいる全員の攻撃が、少なくともバリアジャケットを通る事になる。…強化無しで。

 

それだけでも十分に驚きだったのだが…

 

「兄さん…出来るよねぇ?」

「恭ちゃんもやるよね?罰とか言っておいてやらないとか無いよね?」

 

速人と美由希さんに催促された男性、高町恭也さんは腰に納めたままの刀に手をかけ…

 

 

一閃した。

 

 

剣閃は見えなかった。

それだけならば速人の全力と同程度なのだが…

 

 

 

ぶら下げられた竹は、揺れる事さえ無く切断された部分から下だけがゆっくりと落ちた。

 

 

 

速人と美由希さんは恨めしげに恭也さんを見ている。当の恭也さんは刀を納めると視線を意にも介さず…

 

「まだまだだな、精進しろ。」

「はぁ…分かってるけど先は長いなぁ…」

 

 

速人に遅くならないよう言い残した二人は、話しながら去っていった。

残された速人は面白くなさそうに斬れた竹を見つめている。

 

 

「ふ…」

「お前には笑われる理由がねぇよこのド下手クソが!!」

「いや、お前とて弱いわけではない、それは私とクロノ執務官が保障しよう。」

 

そう…速人とて私とクロノ執務官を単騎で破った天才なのだ。にも拘らず、魔法を使わない人間の成した現象に苦汁を舐めている。

 

世界は広い…

 

 

「速人、この世界の武芸の書籍を読ませてくれ。」

「ん?実戦はいいのか?」

「精進する事にする、今の私にお前達の技を理解するのは早い。」

 

私の答えに、速人は楽しそうな笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無断で管理外世界の物を持ち出す訳にも行かないので、残りの日数はそれらの書籍の情報を頭に叩き込んだ。

 

そして今も頼んで用意してもらった木の棒…棍を振るう。

 

じきにアースラを離れ部隊に戻らなければならない、そうなれば任務と魔導師の訓練に付き合わされて試せるものも試せなくなる。それまでに…何かしらの形にしなければ…

 

 

 

 

 

Side~クロノ=ハラオウン

 

 

 

今日はフレアが自分の隊に戻る時だったのだが、未だに訓練室にいるようだった。

 

呼びにに行こうと訓練室に向かう。と、汗をかいたフレアが姿を現した。

 

「すみませんクロノ執務官。訓練室の片付けが出来ていないので後始末をお願いしたいのですが…」

「僕を小間使いか、いい度胸をしている。」

 

アースラを去るフレア。僕としても鍛錬を始めるつもりだったから丁度いい。

訓練室に向かい、いつもフレアがいた場所に向かう。

 

 

 

「な…」

 

 

僕はその光景に言葉を失った。

 

 

 

僕の目の前には、フレアが最近振るっていた木の棒が鉄板に突き刺さっている光景があった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 


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