なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第一部最終話・その後のそれぞれ

 

 

第一部最終話・その後のそれぞれ

 

 

 

Side~クロノ=ハラオウン

 

 

 

高町なのはと高町速人の両名は、怪我か完治し自分達の住む家へと帰っていった。

何故かユーノ=スクライアも彼らの元に残ると言い出したが、なのはと速人も承諾しているようだったのでそのまま同行させた。

 

フェイト=テスタロッサは母、プレシア=テスタロッサの最期を聞くと崩れ落ちて泣きはらしてしまったが、今では裁判のための準備をしている。

 

なのはは彼女の処遇についてとても心配していた。使用目的さえ聞かされていないジュエルシードを母親の為という一念だけで集められるような優しい娘だ、出来る限り罪状を軽くするためにも全力で裁判に挑まなければならない。

 

フレア=ライトは、職務を済ませるとアースラから度々姿を消していた。遊び人でもない筈なのだが。

 

 

そして僕は…

 

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

 

訓練をしていた。

 

さすがに休息時間を削ってとまでは言わないが、仕事のいくつかは母さんかエイミィに肩代わりしてもらって訓練時間に当てている。

 

 

今回リライヴと衝突する事になって力不足は実感していたため、訓練の強化はするつもりだったのだが…

 

 

仕事を引き受けてもらってまでやっているのには別の訳があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プレシアが息を引き取った後、どれだけそうしていたのか速人がゆっくりと立ち上がった。

 

こういう事はよくある、悲しい事だが受け入れて進まなければならない。

 

「速人、今回のような事件で犠牲者が一人で済むなんていう事はむしろ稀なんだ。酷なのは分かっているがあまり気に」

 

 

僕は最後まで言うことができなかった。

 

 

 

出会った時に見た、凍りついた瞳がそこにあったから。

 

 

「クロノ、よく覚えておけ。死んだら終わりなんだ。」

 

そんな事は分かっている。そう言おうと思ったのだが、何一つ言い返す事が出来ない。

 

「在った筈の先、未来が丸ごと消えてなくなるんだ。何の力もなく、何を生み出す事もなく、何を感じる事も何を思う事も何を知る事もない。」

 

そこまで来て、彼との相違点に気づいた。

普通は死者を目の当たりに悲しむ。それでは仕事にならないから落ち込み過ぎないように妥協する。その必要がある。

だが彼はさっきから、自分の気持ちを…死者を見て悲しいと言う自身の内から出るものについて何も語っていない。

 

「それがどういう事なのか、絶対に足りない頭で考えておけ。」

「な、何…」

「足りる筈がないんだ、自分の未来だって分からない人間が、人の先の価値など分かる筈がないんだ、ましてや勝手に決めていい筈も無い。」

 

僕は真っ直ぐに見据えてくる彼に何を返す事も出来なかった。

 

「仕方ないとか気にするなとかは、重さすら分からない人の未来を奪ったのが、守れなかった守るものの責任だって十分噛み締めてから吐くんだな。」

 

速人はそれだけ言って、大きく息を吐く。

顔を上げたとき、彼の瞳は元に戻っていた。

 

「さて…と、折角フェイトに向けての伝言なんてすばらしい物が聞けたんだ。リンディさんに許可とってフェイトに伝えないとな。」

 

あっけなく、本当に何もかも終わったかのように、さっきまでの激情が演技であったかのように、速人はそう言って部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に、事件があって何事もなく済む事はそうそうない。

だから、悲しみを引きずらずに切り替えられる能力が必要になってくる。

 

速人はそれが出来ないから、ああも取り乱しているのだと思っていた。

でも事実は違った。

 

 

 

彼はその気になれば…顔色一つ変えずに数を数えるように死体を積んでいく事ができる。

 

 

だから、考えるのだろう。

僕達が考えずに耐えている事を、誰より深く誰より大事に。

 

「スティンガー!!」

 

管理局員として、執務官として、きっと事件が起きて力が足りないと判断すれば、切り捨てなければならないものが必ず出てくる。それはもはや必然だった。

 

 

ならば…力が足りていればいい。

 

 

全てを救える程に足りる事などありえない。だが、だからこそ少しでも、救える自分になろう。

 

そう決めて、僕は構えたデバイスに魔力を込めた。

 

 

 

Side~ユーノ=スクライア

 

 

なのは達の家に戻る事を許された僕は、速人の部屋に回収された。

 

僕は男なわけだしそれは無理もない話で、決して残念ではない。うん。

 

「さーてっと、それじゃ訓練行ってくるわ。部屋のもんは壊さなきゃ自由に使ってもいいが、人型で見つかるなよ?」

「ちょ、ちょっと待って速人。戻ったばっかりでもう訓練!?」

 

僕が止めようとするのにも拘らず、速人は頷く。

 

「魔導師とかアルフとか皆近接戦下手だったからなぁ…兄さんとか姉さんと試合しておかないとそのうち技が適当にになりそうで怖い。」

「だ、だからって今日位」

 

言いかけた所で、部屋の扉がノックされる。

速人が扉を開くと、そこにはなのはの姿があった。

何をしにきたのかと様子を伺っていると…

 

「お兄ちゃん、練習したいからユーノ君に手伝ってもらっていい?」

 

と、何か速人と同じ事言い出しました。

 

「お、いーぞ。ただユーノは付き合いいいからあんまり無茶させるなよ?馬鹿魔力。」

「も、もうそのフレーズ忘れて欲しいの!」

「発案者はクロノだぜ?俺無罪ー。」

 

速人はそう言って楽しそうに部屋を出た。残ったなのはが僕を肩に乗せる。

 

「絶対お兄ちゃんにシューターで一撃入れる!ユーノ君、付き合ってね!!」

「ぼ、僕はともかく二人とも怪我」

「もう大丈夫!行くよ、レイジングハート!」

『問題ありません、行きましょうマイマスター。』

 

何と言うか、誰も彼もが熱血だった。

僕はなのはの砲撃魔法を思い出す。

 

…は、はは…訓練なんて付き合ってたら死ぬんじゃないかな?僕…

 

 

 

Side~フェイト=テスタロッサ

 

 

 

裁判に向けての準備を進める中、地球を離れる事になって…

 

その前に、地球の人達の話す時間を用意してもらえる事になった。

 

「えっと…コレで大丈夫かな?」

「バッチリだよフェイト。」

 

アルフに確認すると、笑みを浮かべて褒めてくれた。

けど、あんまりダメって言われないからちょっと不安…

服を用意してもらって着替えたのはいいけど、見た目が気になって仕方がない。

 

 

初めて友達になろうと言ってくれた白い少女。

 

敵だった筈の母さんとアリシアの為に命まで賭けてくれて、奇跡まで残してくれた男の子。

 

 

そんな二人との再会になるんだ、気にならない筈がない。

 

「しばらく会えなくなっちゃうからね、ちゃんと伝える事は伝えないとね。」

「そうだね、返事も…まだしてなかったから。」

 

もう答えは決まっている。もし叶うのなら…

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

友達になりたいと返してくれたフェイトちゃんと名前を呼び合って抱き合う。

やっぱり、こんなにすぐお別れになっちゃうのは寂しいから…

 

本当に色々悲しい事があって、大変な事があって。

 

それでもフェイトちゃんと友達になる事ができた。きっとソレは凄く幸せな事なんだろう。

 

交換したリボンを握り締めて、レイジングハートを見る。

 

 

きっかけは、ユーノ君との出会いから。

 

 

ジュエルシードを集めて、フェイトちゃんと戦って…

 

いろいろな人と出会って、今日からまだ元の…ちょっとだけ変わった一日が続く。

 

 

話せないまま逃げちゃったリライヴちゃんの事は結局わからないままだし、何より私は魔法が好きになった。

 

今度があった時に、悲しい事から少しでも皆を守れるように。

 

 

「よしっ!行こうユーノ君!!」

「へ?行くってまさか訓練!?いい加減休んだら」

「大丈夫大丈夫!フェイトちゃんと友達になれたし、こんな気分いいのに休んでられないの!!」

 

私はレイジングハートと一緒に強くなろうと決めた。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

夜の闇の中、俺は兄さんと真剣で斬り合っていた。

 

今まで御神の実践訓練に半端に関わるのは拙いとここは遠慮していた。

 

けどそんな事は言っていられない、今回救えなかった以上今までと同じではいられないんだ。

 

だから、御神の剣士になると決めた訳でもないのに訓練についてきている。

 

「お前は護る為に生涯剣を振るうのだろう?ならば気にするな、腕を磨くだけなら他流試合と変わらん。」

 

そう言って兄さんは承諾してくれた。

 

 

斬り合いを繰り返し、首にまですっ飛んでくる貫を冷や汗を流しながらかわす。

 

徹を互いに打ち合わせて、派手な衝撃音を残して一度距離を離した。

 

「貫が甘くなっている。」

「腕のいい相手がいなかったんだよ!!」

 

 

言いつつ俺は刀を納める。

 

真剣で…鞘つきの剣で斬り合った事が無かったが故に見せていない奥義。

 

それを放つと決め…

 

兄さんも刀を鞘に納めていた。

 

 

「行くぜ!我流奥義、聖十字『クリスクロス』!!」

 

 

 

 

刹那、互いに全力の剣閃が交錯した。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、俺は自分が倒れている事に気が付いた。

 

「逆手での二連抜刀とはな、だがまだ甘い。」

「でしょうね、抜刀術込みの四連攻撃かましてくれるとは思いませんでしたよ。」

 

 

まだまだ弱い。

 

今の兄さんですらなれないヒーローに俺がいつ届くのかなんて分からなかったが…

 

 

 

諦めてたまるか。

 

 

 

誓って見上げた空は闇に包まれていた。

 

 


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