第二十六話・最後の一手、たとえそれが欠片ほどの可能性だとしても…
「いやぁー見事に全員ボロボロだな!はっはっは!!」
「誰のせいだとっ!!」
医務室には、突入した全員がボロ雑巾のように横たわっていた。
フェイトだけが唯一、ほぼ無傷だったため、拘留されていた部屋に戻っていた。
俺は両腕が筋やら筋肉やらが切れていて、なのはは砲撃を支えきれなかった腕を骨折。
クロノは瓦礫に埋まった際に体の節々を擦っていて、フレアは鋼線を絡めていた右手が砕けていた。
「まったく君は!今回の無茶でどれだけの」
「プレシアさんが助かって、アリシアちゃんを回収できた。」
怒鳴りかかってくるクロノに対して俺はまっすぐに答えた。
気負いは何もない、怒り返すこともない。
クロノが言いたい事が正しいことを俺は十分知っている。
勝手な行動や無茶は被害を拡大する。
だから普通はこんな十回やったら九回失敗しそうな無茶はやらない。
だけど俺は何一つ恥じる事はない。
この時の為に身に着けた力で、何も失う事もなく一つの事件を終わらせる事が出来たのだから。
「クロノ執務官、その馬鹿には何を言っても無駄です、諦めてください。」
「フレ…ア?」
そんなクロノをたしなめたのは、溜息を吐いたフレアだった。
絶対に言わなさそうな暴言を吐くフレアに、クロノは驚いているようだった。
俺もビックリだ。真面目な局員のイメージしかなかったコイツがあの時俺を真っ先に助けた事も今明らかに悪い口調をさらけ出している事も。
「私はナギハを渡す代わりに個人的に彼の話を聞きましたから。クロノ執務官がそのあたりについて知りたければ自分で聞いてください。私から話す事はありません。」
「フレア!君はそれでいいと」
「悪かろうと変えられない物は仕方がありません。」
どうやらフレアから話すつもりは無い様だった。別に俺としては技法などを探られなければ知れても構わないが、お仕事で聞かれてホイホイ答えるような内容でもないのは確かだ。技の特性上何をしてたかなんてバレバレだろうがそれでも話すことじゃない。
「クロノだってまさかプレシアさん死んでた方が良かったなんて言わないだろ?」
「ソレはっ…」
口ごもるクロノ。うんうん、職務はどうあれ優しい奴なんだよな。融通が利かないって言ったってフレアよりよっぽどマシだし。リンディさん、あんたの息子はいい子に育ったんだなぁ…
とか、年下の癖に若干偉ぶってみる。
「安心しなってクロノ。俺だって敷地内じゃなかったらこんな無茶やらないから。それともまさか俺の力が借りたかったりする訳?」
「そんな事はない。」
「だろ?だったら別に俺が何だろうとこの話はコレで終わり。」
クロノ自身、コレ以上俺に言う事も無いのかそこで話は終わった。
俺は今回の事件を振り返る。
味方側に犠牲者はなく、フェイトとアルフはもちろん、敵だったプレシアさんも救った。リライヴに助けられたのが格好付かなかったが、まだ犠牲者はいない事だし及第点だな。
後やる事は一つ…
「お、おい何処へ」
「ちょっとリンディさんに急ぎの話があるから。それじゃ。」
ソレを片付けるために俺は医務室を出た。
包帯でグルグル巻きの両腕を抱えて歩き回る。
しばらくしてあっけなく見つかった俺は、散々どやされた後にリンディさんの前にいた。
「頼みがあるんだ、リンディさん。」
「そうみたいね、全く…大問題を起こした自覚を」
「あるって!初めからあってやってるんだから!!」
何一つ迷い無く言った俺に疲れた様に肩を落とすリンディさん。
詳しい事情までは言ってないが、ヒーローになろうとしている事はバレている為それ以上何か言って来ることはなかった。
諦めたとも言う。
まあ、事件も済んだことだし何より俺が管理局の人間じゃないからだろう。
「それで、頼みと言うのは?」
リンディさんは、俺が言葉をのんだ事でそれなりに真剣な用件だと察してくれたのか居住まいを正し…
続いた俺の言葉にとてつもなく驚いた。
Side~高町なのは
クロノ君の話だと、フェイトちゃんの事は無罪に近い判決を取れるが、プレシアさんはどうにもならないと言う事だった。
一応お兄ちゃんがフェイトちゃんに、裁判が嫌なら俺が守ってやるって…両腕に包帯を巻いた状態で言ったけど、フェイトちゃんはちゃんと裁判を受けて戻ってきたいと言った。
お兄ちゃんは自分の事みたいに喜んで、ほらみろ逃げなかったじゃないか!ってクロノ君達に自慢げに話していて…それはよかったんだけど…
フェイトちゃんがちゃんと管理局の人の言う事を聞くって決めたから、逮捕扱いになったせいで話せなくなっちゃって…
「はぁ…」
「悩みごと?なのは。」
「にゃ!?」
ユーノ君が様子を見に来てくれたみたいで、溜息を聞かれて心配された。
「いろいろあったからね、皆大怪我だったし。なのはは大丈夫?」
「え、あ、うん。綺麗に折れてたからかえって良かったんだって。」
後遺症…みたいな心配も今の所無いって聞いた。
だからそう答えたんだけど…ユーノ君はガックリと肩を落とした。
「速人から聞いてはいたけど…本当にこんな状況でも大丈夫って言うんだね。」
「え、えっと…」
お兄ちゃんは人の事をどう言ってるのか一度知りたかった。
でもユーノ君の私を心配してくれている様子を見てるとそんな事も言えなくて…
「そう言えば速人はまた歩き回ってるのか…全く、無茶が過ぎるよ。」
速人お兄ちゃんは無茶ばかりする。
わがままで、きっとリンディさん達に一番迷惑をかけたと思う。
でも…そうしないとプレシアさんはここにいない。
良くない事は良くない事、わがままはわがまま、命は命…
「何が…良かったのかな?」
「考え事?」
聞いてくれたユーノ君に頷く。
「お兄ちゃんは命令違反とか危険な事とか一杯してて、プレシアさんと変わらなくて。でもそれでフェイトちゃんと話せて、プレシアさん助かって…」
「何が良かったのか?」
確認するように聞いて来たユーノ君に頷き返す。
とても難しい事でとても簡単な事。
つまり、わがまま言うのも死んじゃうのを放って置くのもどっちも悪いんだ。
だからこそ、両方なんて出来なくて…
「なのはどうなの?良かった悪かったじゃなくて。」
「えっ?」
ユーノ君に聞かれた事に、私は答えられなかった。
「えっと…プレシアさんとかフェイトちゃんが無事なのが嬉しくて…沢山迷惑かけた上に無茶ばっかりするお兄ちゃんが心配で…」
アレ?と思い返しながら気づく。
何だ、ようは私は…私だけ皆無事でまだ不満なんだ。
私はなんだか急に恥ずかしくなって俯いてしまった。
Side~リンディ=ハラオウン
今回の事件では本当に色々と驚かされた。
いきなり執務官とAA+の空戦魔導師がたった一人の魔法行使をしない人間に倒された。
めったに見ないフレアの強い激昂を受ける羽目になった。
オーバーSで無色などという魔力を振り回す魔導師が現れた。
虚数空間に落ちた人間を拾って帰ってくる人間がいた。
大半にあの速人という少年が関わっているのだから末恐ろしい。
止めがさっきの台詞である。
「アリシアポッドごと海鳴に降ろしてくれない?治せるかもしれないからさ。」
私は本気で信じられなかった。
死んだと判断された人間が蘇る…いや、治せるという事も。
自分自身ですら『かもしれない』という程度の可能性のために命を懸けた彼の選択も。
SIDE OUT