なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第二十五話・全てを救う為に

 

 

第二十五話・全てを救う為に

 

 

 

「く…そったれがぁっ!!」

 

俺は落ちて行くプレシアの体とアリシアのポッドに左の鋼線を、崩れなさそうな突起に右の鋼線を巻き付ける。

 

この鋼線、強度は一本でも人をぶら下げられるくらいにあるから問題ないが…

 

 

 

魔力の働かない空間の生身の俺にはポッドと大人一人ぶら下げて耐えられる身体じゃない。

 

「ぎ…っきしょうっ!!」

「お兄ちゃん!!」

「速人!?」

 

なのはとフェイトの声が聞こえる。そうだ、この二人に見せられるか…

 

 

目の前で誰かを失う様なんて!!!

 

 

「あ…貴方何を…」

「死なせるかよっ…こんなとこで終わらせるかよっ…」

 

両腕に全力を込める。絶対投げるものか!

 

「死んだら終わりなんだよ!天国だなんだとか言ったって死んだら終わりなんだ何もないんだ!!何も知らないくせに!一つ二つ泣いて知ったフリが精々なくせに!!無理でも無茶でもやってやる!!」

 

 

悲鳴をあげる身体は無視。ただひたすらに意識の全てを集中させて耐える。

 

 

「俺は…ヒーローだぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

叫んだ次の瞬間…

 

 

 

 

鋼線を絡めた突起が崩れた。

 

 

 

 

当然俺の体も落ちて…

 

 

 

「この愚か者が!!!」

 

 

滅多に叫ばない奴の叫びを聞いた。

 

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

強いと思ったのだ。

 

現実を知りながら、夢破れる事があっても尚『全てを救う』事を諦めない。そういう意味だと思ったから。

 

 

だから、間違っても自殺行為を嬉々としてやるという意味ではないと思っていた。

 

だから迷わず虚数空間に飛び込んだのを見て、少し落胆した。

 

 

 

 

間違いなく死ぬ。

 

 

 

 

 

私はそれを確信して、せめて後を追う者が出ないようにと、穴の側にいたフェイト=テスタロッサを確保しようと近付いて…

 

 

 

糸が瓦礫に絡み付くのが見えた。

 

 

あろう事か、奴はプレシア=テスタロッサどころかアリシア=テスタロッサの遺体が入ったポッドまでもぶら下げて虚数空間に浮かんでいた。

そんな状況で、奴はまだその言葉を口にした。

 

 

 

ヒーローと。

 

 

目が生きていた。

声が生きていた。

絶対絶命の状況で震えも怯えもなかった。

 

 

 

 

『なんだお前?この程度で諦めるのか情けない奴だなぁ…』

 

 

 

 

そんな幻聴が聞こえ…

 

気付けば落ちていく鋼線を手に絡めていた。

 

 

擦れた皮膚が裂けて尚鋼線が食い込んで来る。痛みを無視した私はグレイブを床に突き立てて堪える。

 

 

「この愚か者が!!!」

 

私は柄でもなく叫んでいた。

…調子が狂う、この馬鹿が来てから妙な毒でも吸ったかのように頭がおかしい。

 

ぶら下がっている馬鹿は私を不思議そうに見る。

 

「お前…馬鹿か?仮にも局員さんがする事じゃないだろ。」

 

幻聴と真逆の事を常識でも説くかの様に言い切った。

 

 

精神的なナニカがもう限界だった。

 

 

「貴様が言うな!そのデバイスとて幾らしたと思っている!!」

「この状況で金の話か!?世知辛い世の中だなオイ!!」

「誰がそんな話をするものか!勝手に死ぬなと言ってるんだ!!!」

 

言い合いつつ力を込めるが、徐々に身体に力が入らなくなって来る。

ダメか…いや、この馬鹿より先に折れる訳にはいかん!!!

 

渾身の力を込め、手の骨が軋むのを感じながら身体を引き

 

 

 

背中から、何かに抱え込まれた。

 

 

 

Side~フェイト=テスタロッサ

 

 

 

速人が母さんを助ける為に命をかけてくれた。そんな速人を助ける為に槍を持った人はその力をふり絞っている。

 

 

…見てる場合じゃない、私は槍を持つ人を背中から抱え込んで後ろに向かって飛行魔法を行使する。虚数空間の外にいる私は完全に魔法が使える、だから役に立てる。

 

けど、重くて全然飛べない。

 

魔力がもうあまり残っていない事もあってかこれだけやっても引っ張られていく気がする。

 

そんな状態の私の腰に、左右から違う腕が触れた。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

私は威力を上げ過ぎたスターライトブレイカーの反動か、腕が変な方向に曲がっていた。足も歩くだけで痛い。けど…もう少しなのにお兄ちゃんが帰れなくなっちゃうなんて嫌だったから私は頑張って近付いて…

 

向かい側にクロノ君がいた。

 

「僕としては賭けみたいな真似は好きじゃないんだが…そうも言ってられないからね。」

「ありがとうクロノ君。」

 

フェイトちゃんの腰に手を回した私達は、全力で背中を倒した。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

目の前で、馬鹿みたいな光景が広がっていた。

 

犯罪者を助ける為に民間人が命をかけて、それを罵倒しながら局員と犯罪者のフェイトが力を合わせていた。

 

怒ったり必死になったりはしていた。けど…

 

躊躇っている人は一人だっていなかった。

 

 

 

 

 

全ての人が救いに全力をかける、暖かい光景だった。

 

 

 

 

 

 

呆けているわけには行かない、敵である速人がこの光景を命がけで作り出したと言うのに。

 

 

私は長杖の形に変化させたデバイス、『イノセント』を構える。

 

 

「そこの管理局員!!」

 

私はさっきまで槍を振るっていた、先頭にいる管理局員に呼びかける。

向こうは砲撃準備に入っている私に気づいた。

 

「吹き飛ばす!救う気があるなら何があってもその糸放すな!!」

「く…ちっ!さっさとやれ!!」

 

向こうから承諾が返ってきた。何か執務官辺りが騒がしいけど無視。アレだけの人数で持ち上がらない以上私もフルパワーで行くしかない。

 

 

「ストレート…バスター!!」

 

 

私が放った砲撃は、管理局員に直撃する。

 

 

そして、その身体を飲み込まずに押していった。

魔法の設定を変えての砲撃だが、物理的な影響を及ぼす以上非殺傷には出来ない。

 

 

調整に失敗していれば固まっている皆を死なせてしまう。

 

 

 

けれど、私に不安はなかった。

 

 

 

それが出来るだけの修練は積んでいる!!

 

 

局員は吹き飛んで、やがて速人が姿を現し…

 

プレシアとアリシアのポッドが戻ってきた所で砲撃魔法は終わった。

 

 

 

 

…自分でやっておいてなんだが、吹き飛ばされた皆は死屍累々と言った感じだった。崩壊も続いているこの場にこれ以上おいては置けない。

 

 

 

私は転移魔法を展開する。

 

 

 

彼らの全てを庭園の入り口へ…

 

 

「リライヴ…」

 

 

と、光に包まれた速人から声がかけられた。何を言うのかと思っていたが…

 

 

「サンキュー。」

 

お礼を言って彼は光の中に消えていった。

 

 

「…とことん変な奴。」

 

 

転送が終わり、私は庭園が崩壊していくのを眺めていた。

互いに無事なら、またあってもいいかもしれない。こんな事を思う人は初めてだった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 


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