第二十四話・一つの終わりがやってきて…
逆手抜刀術の直撃。いくら防御魔法があったからってさっきの突きが通る程度なら致命傷の筈…
吹き飛んだリライヴは、空中で回転して体勢を立て直した。
うっそぉ…ちょっと待とうよリライヴちゃん。これでも俺の奥義なんですけど。
直撃しておいてソレはないんじゃない?
「く…っ…今…何が…」
縦に裂けた胸元を握り締めて呻くリライヴ。よく見れば何か淡い光を帯びて傷が急速に治っていた。
この状況で回復魔法使用してるんですかリライヴさん?
魔法行使は結構集中力を使う。明らかに重傷の筈なのに飛行と併用して回復魔法を使う何て…
おそらくは、この手の状況に何度かなった事があるのだろう。
最悪、自分で傷を作って倒れる前に治療するような修行とかすらしてるかもしれない。
「何がって俺が聞きたいよ…なんで回復魔法使えるんだその状況で。」
「回復するなって言うの?随分酷いんだね。」
「や、そういう事じゃなくて…」
なんて、呑気な話をしていると…
「まったく…君は何をやっているんだ、相手は重罪人だぞ?」
瓦礫の中から、クロノが姿を現した。
「無事でしたかクロノ執務官。」
「なんとかな、非殺傷設定なのに壁にぶつかった衝撃だけでこの有様だ。」
クロノ自身が言う通り、その身体はズタボロだった。
頭から血が流れているし、左腕がだらりと下がっている所を見ると、骨折か腕を動かすだけで激痛が走るような状態になっているのだろう。
「あまり加減できなかったから…」
「そこを反省するのか君は…」
申し訳なさそうに俯くリライヴに呆れるクロノ。
まぁ執務官云々言った所で現状でリライヴを止めるだけの力がない事がわかっているのだろう。あまり片意地を張った状態じゃない。
「で、どうする?続けるのか?」
「私の仕事は時間稼ぎ、ジュエルシードが発動するまでのね。だから当然。放置したらこんな強力な犯罪者に逃げられる以上動けないでしょ?」
こいつ、自分で強力とか言い切った。
まぁ実際、クロノ、なのは、フェイトを倒した後に俺とフレアの二人相手に接近戦やらされてまだ戦闘可能なんだから強力としか言いようがないが。
「ったく…どうして俺の周りってこう女の子らしくない女の子ばっかりなのやら…」
「む…悪かったね。」
仕方なく俺は逆手に持っていたナギハを普通に持ち替えて構える。
戦闘を続けて鋼線で括って捕らえるしかないか…と、覚悟を決めたところで…
庭園が揺れた。
Side~高町なのは
私とフェイトちゃんがその場所に着いたとき、プレシアさんは魔法陣の中でゆっくりと起き上がった。
「まったく、使えない傭兵ね。アレだけ大見得を切ってよりによってこの人形を通すなんて。」
「リライヴは通してくれませんでした、無理やり押し通ったんです。」
「それで、今更来て何の用?」
ジュエルシードは全てプレシアさんの手にあった。どうして今まで何にも無かったのかは判らないけど、まったく疲れた様子のないプレシアさん相手に消耗しきった私達がジュエルシードを止められるのか…
それに、フェイトちゃんはどうするつもりなんだろうか…
「私は貴女の娘じゃないのかもしれません。でも…貴女は私の母さんなんです!だから、貴女には必要のない私かもしれないけど、私には貴女が必要です!だから!これ以上罪を重ねて欲しくない、何よりいなくなって欲しくない!傍にいて欲しい!!」
フェイトちゃんの素直な気持ちなんだろう。私だって家族には傍にいて欲しい。
いなかったら…物凄く寂しい。
だけど…
「あはははは!笑わせないで!ジュエルシードが必要数揃っているのに私が人形遊びに付き合う理由なんてないわ!そんな事もわからないの!?」
「フェイトちゃんは人形なんかじゃ」
耐え切れず叫びかけた私の前に手が伸ばされた。
フェイトちゃんからの無言の静止だった。
そうだ、まだフェイトちゃんがお話してる最中なんだ、だから私は我慢するしかない。
「母さん、ジュエルシードの力でアリシアを蘇らせて、その後の事を考えていますか?」
「…どういう事?」
「優れた科学や魔法を持っていたのにアルハザードは失われたんです。どんな秘術があるかはわからないけど、きっと人間が生きていける場所じゃない。仮に蘇ったアリシアと戻って来れたとしても、今度は魔法も使えないアリシアを連れて管理局と交戦する事になる。母さんはそれでいいんですか?」
いい筈がなかった。
プレシアさんはアリシアちゃんに幸せになって欲しい筈だから。
「それでも私は取り戻す。」
プレシアさんはポッドに近付いて、優しくその手を当てる。
「…何もしてあげられなかったのよ、側にいてあげる事すら出来なかった。全てが終わって漸く一緒にいてあげる事が出来る、静かに幸せに暮らす事が出来る。」
そこまで言ってプレシアさんは私達を睨み付けた。
「その最後の最後で!よりにもよって私自身の手で何一つ罪のないアリシアが死んだのよ!?これを私が取り戻さないなら一体誰がどうするって言うの!!」
プレシアさんの悲しい声といっしょに、ジュエルシードが輝いた。
庭園が揺れる。
させる訳にはいかないとデバイスを構え…
プレシアさんの顔が驚きに染まった。
SIDE OUT
ジュエルシードの発動を感知した時は焦ったが、俺達が来た入り口のほうから強力な魔力を感じた瞬間揺れが収まった。
『次元震は私達が抑えています!』
『これ以上やらせないよババア!!』
庭園全域に念話が届く。リンディさんとアルフの声だった。
ほぉ…遠隔地からでも出来るんだな。
『なのは!速人!!こっちは僕達に任せて皆を連れて脱出を!!』
『あ、ユーノ!畜生このいいトコ取り星人め!!リンディさん差し置いて締めやがって!!』
『そ、そんな事言ってる場合じゃないでしょ!!』
素晴らしいサポートだったので思わず念話を送ってしまった。
管理局が来てから美味しいとこばっかり持ってくようになりやがった。
いや、人型になってからか?
「く…まさかあれだけのジュエルシードを遠隔地から抑え込むなんて…」
と、リライヴは傷付いた身体を無視してプレシアの元へ飛ぶ。
あ、逃がすか!!
「追うぞ局員二名!!」
「民間人の君が仕切るな!!」
怪我を負っているにもかかわらず速いリライヴの後を追って、俺達は広間を飛び出した。
Side~フェイト=テスタロッサ
次元震は抑え込まれた。もう次元断層なんて出来る状態じゃない。
「母さん…もうやめて…管理局の事とかは私が何とかするから…お願い…」
「その子一人に勝てない貴女に何が出来るのよ。私は行くわ、アルハザードへ!!」
私の言葉を聞いてくれない母さん。そして…途端に揺れが増した。
『庭園から高出力反応!これは…魔導炉!?』
通信士さんの声がして、庭園の動力もロストロギアだった事を思い出す。
納まりつつあった筈の揺れが酷くなる。
このままじゃ次元断層が…
「母さん!!!」
「私はこの為だけに全てをかけた!必ずアリシアを取…り…」
言葉に詰まる母さん。
その目が見開かれていて…
桜色の光が目の端に映った。
私は恐る恐る振り向く。そこには…
冗談みたいに巨大化した桜色の魔力の塊があった。
「発動してたジュエルシードの魔力にあのリライヴちゃんの魔力。さすがに私とフェイトちゃんだけの魔力量より全然凄いね。大丈夫、レイジングハート?」
『行けます、私とマスターなら。例えそれがどんな障害であろうとも。』
「な…何を…」
母さんが震える。私も震えが止まらなかった。下手をすれば、この場で一番危険なのはコレなのではないかと、ただの一撃の魔法相手に、そんな事すら思うようなサイズだったから。
「私だってかかってるんだ…危機すら知らない家族が、友達が!!まだ聞けてない答えを聞く機会だってこのままじゃなくなっちゃうんだ!!!」
『発射準備完了。コールをお願いします、マスター。』
彼女が狙うのは壁。
その先にある魔導炉。
「全力全開…スターライトブレイカーッ!!!!」
私を打ち抜いた巨大で澱みのない光の柱が、壁を貫いて行った。
『魔導炉の反応…完全消滅しました。』
夢でも見てるような通信士さんの声が聞こえる。でも変には思わなかった。だって完全消滅なのだ。爆発とか破壊じゃない、消滅なのだ。
放った彼女は、衝撃に耐え切れなかったのかへたり込んでいた。彼女のデバイスは形こそとどめていたが、フレームは歪んで所々ひび割れていた。
「プレシアさんがアリシアちゃんを大切に思っているのは分かります。でも…自分のためだからってたくさんの人を傷つけられたら、誰よりもアリシアちゃんが悲しむと思います。」
「何よ…他人の貴女が私達の何を知っていると」
「知りません!アリシアちゃんが家族が人を傷つけて喜ぶかどうかなんてよく知ってるのはプレシアさんだけじゃないですか!!」
母さんがビクリと震えて止まった。
「折角…フェイトちゃんが…アリシアちゃんの持っていたものを残して産まれて来てくれたのに…アリシアちゃんは自分の妹を打ち捨てて喜んでくれるんですか?」
「い…もう…と?」
彼女の言葉に、私は涙が流れ落ちるのを止められなかった。
それは、私がアリシアになれなくても家族でいられる言葉だったから。
きっとそれが、私の…フェイト=テスタロッサの唯一望んだ居場所だったから。
よろめいた母さんがアリシアのいるポッドに背を預け…
「…だから、どうだって言うのよ。」
母さんは、ジュエルシードの力を使って床を砕く。
虚数空間が広がっていた。
中では魔法行使が一切出来ない、落ちたら奈落の底まで真っ逆さま。
その穴に…母さんとアリシアのポッドが落ちていった。
「母さん!!」
私は手を伸ばしたが届かない。母さんが落ちていって…
風が吹いた。
「死なせるかぁっ!!」
その人影は…何の迷いもなく虚数空間に飛び込んだ。
SIDE OUT