第二十三話・これが俺の全力だ!!
俺は文字通りリライヴに向かって駆け出した…空中にいるリライヴにむかって。
「な…」
驚くリライヴ。そりゃそうだろう。何しろ人間が空を階段でもあるみたいに突っ走ってるんだから。
その正体は、踏み込むたびに足の裏に小さく展開されてる魔法陣。
制御の全てをナギハに任せてタイミングだけ指示しながら最小魔力での最小範囲魔法陣構成。
範囲を絞ったお陰で、魔力消費が少ない、相手に破壊されないなど利点が多い。
俺が自力でこんな細かい間隔で魔法行使など出来る訳もなく、これは高性能なインテリジェントデバイスであるナギハのお陰だ。
「接近戦に付き合う理由はない。」
飛行することで俺から距離をとったリライヴは、魔力弾を放ってきた。
うわ、見づらい。
しかもかなり速く鋭く動く。なのはと違って多段じゃなく一発の威力を上げる事に専念したんだろう。
斬れるか?
威力も上がってるだろうから斬れるか判らない。だが、避け続ける訳には行かない以上斬るしかない。
一閃。
それで、魔力弾はアッサリと切断できた。
「あ、斬れた。」
『いくら彼女が強力な魔導師でも、魔力弾一つで壊れるほどデバイスはやわではありません。多少のダメージは魔力を頂ければ修復できるのであの程度ならいくらでもどうぞ。』
「そりゃ頼もしい限りだ。」
俺は一気にリライヴに近づく。が、リライヴは同じだけ距離を離す。
「剣閃が速い…殆ど見えないなんて…」
「おーい…そんな逃げ回られると切なくなるんだが…」
俺が必死に追いかけているというのに一定の距離を常に離し続けるリライヴ。
「そんな事言ってもわざわざ近づく理由がない。」
「魔力節約しないともうもたないんじゃない?」
「む…」
顔を顰めるリライヴ。ま、予想も何もコレまでの連戦を考えれば持たないのも当然だろう。実際、砲撃撃ってこないし。
「それに…結界ももう壊れるしな。」
「え…っ!?」
少し驚いた後、黒い光が見えた。
光に視線を移せば、デバイスを結界に向けて突き出したフレアの姿があった。
デバイスの先端と結界が触れ合った瞬間、結界は派手な音を立てて砕け散った。
一個だけジュエルシードが落ちている。…アレ制御できるのかコイツ?凄いな…
と、驚きつつリライヴの様子を見ていると、結界が破壊されたのが意外だったのか本気で驚いていた。
「あの突きだけで結界を…っ!そうか、私の剣と同じ…」
「おーおー驚いてる。フレアの奴も凄いな、槍の長さで貫ける相手なら強度は関係ないとか言うだけある。」
フレアに視線を移していたリライヴだったが、俺の声を聞いて視線を戻す。
「なんで今攻撃してこなかったの?」
「闇討ちなんか誰がするか、俺はヒーローだぜ?」
ナギハを鞘に納めた俺は、堂々とふん反り返る。
リライヴは思いっきり肩を落とした。
「呆れた…」
「ムカッ!敵を目の前に余所見くれやがった奴に言われたくないわ!!」
「何をしている。」
瞬間、リライヴのいた場所を黒い光が薙払った。
「お前までこっち来てどーすんだよ!!」
「当然彼女を討つ。」
フレアは言うなりデバイスをリライヴに向ける。
「二人いてもコンビネーションなんか組めないだろうが!!」
「挟撃して近接戦闘に持ち込むだけだ。お前はもちろん、私もオーバーSが相手だろうが…」
そこまで言ってフレアの姿が消えた。
高速移動魔法を使用したらしい。
その姿は、リライヴの背後に移っていた。
「近接戦闘で負ける事はない。」
フレアの振るう槍の先端とリライヴの持つ透明な剣がぶつかりあう。
どちらも壊れる事無く魔力光が舞った。
「私の一閃で切断出来んか。なるほど、大した密度だ。」
「驚いたのはこっちだよ。大した魔力値じゃないと思ってたら槍の先端に集中させて私の剣と打ち合うなんて。」
喋りながら、一撃一撃が必殺になりそうな大振りをぶつけ合う二人。
「ナギハ、アレお前が受けたら?」
『すみませんマスター、一瞬も拮抗する事なく破壊されると思うので受けるのは…』
…どんな威力の攻撃振り回してんだアイツら。
形勢不利と見たのか距離を取るリライヴ。
もっとも、俺の前にいる訳ですが。
「よ。」
「っ、はっ!!」
後ろから声を掛けると、迷う事もなく背後の俺に向かって一閃。首辺りに向かって来た一閃を右の柄で打ち上げる。
魔力刃だっていう心配はあったが、側面なら鋭さが無いのは剣と同じらしい。
剣を空振りしたリライヴは、俺の目の前で両腕を開いた無防備な体勢になる。
「な…」
「せっ!!」
驚くリライヴを無視して左で突きを放つ。
狙いは右肩!!
綺麗に吸い込まれた突きは…
リライヴを吹き飛ばした。
なんだ今の感触?途中壁に阻まれたような…
『フィールド系防御魔法です。バリアジャケットと違いますが、身を覆う防御魔法ですね。』
「はぁ…何でもありかよオイ。」
魔導師ってのは予想以上に厄介な代物らしい。…じゃあ何か?ただでさえ斬撃の効果が薄いバリアジャケットの上に更に正体不明の壁着込めるのか?
理不尽だ…
「くっ…まさかダメージを受けるなんて…」
と、聞こえた声に目をやれば、リライヴのジャケットが少し切れてほんの少しだが赤く染まっていた。
なるほど、身に纏う分盾より防御能力が低いのか。
「驚いた、君名前は?」
どうやら俺に興味を持ったらしいリライヴ。聞かれたからには答えようじゃないか!!
「高町速人!彼女はいないぜ!」
折角笑顔で答えたのに、リライヴは何故か暗い表情を見せる
「それお誘い?なら遠慮するね。男の人あんまり好きじゃないから。」
リライヴは何かそんなカミングアウトをしてくれました。
なんだなんだお前ら!!フレアと言いリライヴと言い、どうしてこう変わった奴ばっか!!
『奴に決められそうな技はあるか?』
唐突にフレアから念話が届く。
『ある。けど…』
下手したら死にかねない。
『管理局の必修科目で応急処置ぐらいなら出来る。加えてお前の剣ならば綺麗に切断される為治療は容易だ。即死しなければどうにでもなる。』
俺の心配を察したフレアから問題ないと念話が入る。
にしても…こいつが人に投げるなんて、余程デタラメな相手なんだなリライヴって。
『うし、任せろ。』
俺は両の刀を納めた。
「どういうつもり?」
「俺の必殺技。とは言え近付いてくれなきゃしょうもないからフレアよろしく。」
「念話で話したものをバラすな馬鹿者が!!」
フレアが全力で接近を試みる。
ほっといたらリライヴはあの厄介極まりない誘導弾を撃つだろう。
「投弾丸『スローバレット』!!」
「石!?速っ…」
風の力を使って加速させた高速弾。付加させているのが風だからかスピードが空気に下げられる事があまり無いらしくかなりの速さで中距離を捕らえる事が出来る。
簡単に避けられたが、その間で十二分。
リライヴと接近戦を始めたフレア。
一撃ごとにシャレにならない衝撃音が響く。
砲撃クラスの魔力を槍の先端のみに集中させたフレアとソレと打ち合えるだけの魔力剣を形成して振るうリライヴ。見てるだけならお粗末もいい武器の振り合いなんだが、それが一発でも武器で受けたりなんかしたら紙くずみたいに武器ごと切り捨てられるなんて馬鹿げた威力ともなると見た目に壮観だ。
大振りばっかなだけで型自体は綺麗だしな。
と、溜めの姿勢に入ったフレアから、魔法発動の気配を感じる。
自分で近接戦のみって言ってたくせに集束刃を振るう以外にいったい何を…
「はあああっ!!」
突きの姿勢に入ったフレアは…
「乾坤一擲!アブソリュートランサー!!」
自分の腕ごと砲撃魔法で放った。
「っ!!」
大慌てで斜線を外れて離れるリライヴ。
直後、空気が破裂する音がした。
…どんな突きだオイ。砲撃魔法を突きのための推進力にして先端に向かって放つなんて。
ともあれ今がチャンスだ、避けたリライヴは俺と距離が近くなっている。
「行くぜリライヴ!受けて見やがれ!!」
「何を!武器をしまったままでっ!!」
リライヴは俺に接近しながら剣を振りかぶる。普通に考えたら誰が見てもこの状況で俺が勝つ術はないだろう。
故に其れは業と呼ばれる。
振り下ろしの一撃を、左逆手で放った一閃を以ってずらす。
振りぬいた体勢は…右の一閃を放つ為の力と成る。
我流・逆手二連抜刀術
聖十字『クリスクロス』
腰から『縦』に放たれた剣閃は、先の『横』の一閃と相まって十字となる。
一方で初手の一撃を逸らされたリライヴは…『縦』の剣閃を防ぐ術を持たない。
刹那、見えない光を身に纏ったリライヴは縦の剣閃によって吹き飛んだ。