第二十二話・最終決戦、悲劇を幸福に作り変えるために!
医務室で、俺はゆっくり身体を起こす。
神経系へのダメージは、傷が治った魔力が回復したじゃ済まないようで、そこら中が痛むが、動けない程じゃない。
「そんな身体で一体何をする気だ?」
「お前に言われたくねー。」
結構な重傷だったはずのフレアは、デバイスを手に起き上がっていた。
「アレだけのジュエルシードを魔導師の犯罪者に奪われた上に、私達に奇襲をかけた彼女は現段階の推定で既に魔導師ランクでオーバーSが確定している。こんな状況で出ない訳にはいかないだろう。」
「よく言うよ、こんな状況じゃなくたって出たくせに。」
当たりだったのか普段は動かない表情を歪めるフレア。
俺の方も雷撃を受けた刀は使い物にならなくなっている。素手と鋼線のみか…空中にいる相手には心許無いが仕方無い。
「お前は何故戦っている?」
「へ?な、なんだよ?話なんてしてる暇」
「答えろ。」
いつもマジなフレアだが、今は少し様子が違う気がした。
「俺の技が…お前らを倒した時の俺が、人殺しの為の技を振るっていたのは分かってるな?」
「ああ。」
「俺はあの技で…あの技を身に着ける為人を殺した。殺さなきゃ殺されると施設の人間の指導の元で。そう言う意味じゃフェイトのやってた事なんて悪事どころか尊くすら感じるよ。家族の為に戦ってたんだから。」
フェイトは強いと思う。無情な真実にボロボロになってもちゃんと立ち上がっていった。未だに現実を否定して夢物語にしがみついてる俺とは大違いだ。
「罪滅ぼしか?」
フレアの問い掛けに少し考えて、俺は首を横に振った。
「いや、よく分かんないけど違う気がする。」
「何?」
「だって、もしそうなら、フェイト一人の為にこの世界を危機に晒しかねない喧嘩を売るのはおかし過ぎるだろ。」
俺は独断で、世界を守る組織に喧嘩を売ったんだ。それで誰かのことを考えてるとは言えないだろう。
結局結論は一つで…
「ヒーローって言って伝わるか?」
「…英雄だな。讃えられるべき存在だ。」
予想通りと言うべきか、随分大人な返答だった。違うと分かっているのか、なりたいのかとか聞いて来る事もない。
「もっと俗っぽいのだよ、俺みたいな子供が喜びそうな。世界の平和と皆の笑顔を守って見せる、かっこいい主人公の事さ。」
「確かに言い方から考えまで低俗だな。そうそう上手くいくならば世界など平和ばかりだ。」
だろうな、この野郎人の夢だと思って好き放題言いやがって…
「俺はソレになりたいんだ。」
「正気か?」
真顔で聞き返された。
「あーそーですよおかしいですよ!分かってんだよ無理だから散々他の子を殺しながら生きて来たんだから!!だけど仕方無いって言いながらそうやって折り合いつけてやるのは俺はもうゴメンなんだ!!だからヒーローになる!ヒーローでなきゃ駄目なんだ!!!」
必要も無いのにベラベラ喋った挙句癇癪まで起こしてしまった。
分かってる、無理がある事くらい。
そこから目を背けて意地はってるだけだって分かってる。
そして…滅多に感情をのせないこいつが言うと、その事実を突き付けられてるようで耐えられなかったって事も分かってる。
何やってんだ俺…と、軽く頭を押さえていると…
「強い訳だ。」
予想外の返答が帰ってきた。
「へっ?」
フレアはポケットから小さな箱を取り出す。
そして箱を開けると中にあったネックレスを取り出した。
おもむろにそれを突き出して来る。
「あのー…だから俺そう言う趣味は…」
ストーカーの次はプレゼント?と、目の前の堅物の神経を疑い…
「デバイスだ。」
続けられた言葉に、思考が停止した。
「刀だったか?その形状のインテリジェントデバイスなど誰も使えん、お前が持っておけ。」
「おいおい!こんなもん勝手に渡していいのかよ!!」
インテリジェントデバイスと言った。デバイスにしたって量産品もあるにはあるが、インテリジェントデバイスは特注なら目が飛び出る程の額がする筈だ。そんなもん勝手に渡していい訳が
「私が買ったものだ、別に問題はないだろう。」
「は…ぁっ!?」
さっぱり訳が分からない。こいつがここまでする理由が特に。
「秘匿されるべきお前の持つ力の訳を見せてもらえるのだろう?その代金だとでも思えばいい。」
コイツの真意はわからない。けど…
少なくとも、向けられているものが悪意じゃなく、期待だと言う事はわかった。
だから、俺はそのデバイスを受け取る。
「名称を登録してバリアジャケットを生成しろ、それが済み次第出るぞ。」
剣を逸らした俺に視線を移す真っ白な服装の少女。
あの娘がリライヴか…
「驚いた…あのプレシアの雷撃を受けて生きてるなんて。」
「生まれつきしぶといんでな、こうして見事完全復活!」
俺は自信満々に胸を張る。
にしても…仕事人だな。驚いたとか言いながら焦りも殆どないし、俺のほう見ながらフェイトとなのはまで警戒してる。
魔導師の中の『本物』って所か、そりゃクロノ達が勝てない訳だ。
一般人の趣味を最低ランクと考えて、次が競技選手や警察官、その上に特殊部隊。
位置的な強さで言うとこんな感じだろう。例外もあるにはあるが、大体こんな感じと考えれば、クロノみたいなのは特殊部隊辺りだ。
『本物』は更にその上…お仕事に力を使うような部隊やら何やらをたった一人で殲滅したりする事すら出来るようなある種の極めた者。
そりゃまぁ、いくら強いったってあの歳じゃ限度もあるだろうが、殆どの魔導師が管理局員として決められた仕事をこなしている中、書類提出やら任務やらの期間指示に従って動かなきゃならない局員と違っていくらでも修行する事が出来るリライヴは、本当にいくらでも修行してここまで鍛えたんだろう。
「フェイト、なのは、ここは俺に任せてフレアと一緒に先に行ってジュエルシード拾って来い。こいつの相手は俺がする。」
「な…む、無茶だよ速人!彼女は」
「いーから任せろって。俺を誰だと思ってるんだ?天下無敵のスーパーヒーロー高町速人様だぜ!!」
立てた親指で自分をさしてこの上なく偉そうに言って見る。と、リライヴは目を細めた。
「言うね、私だって無敵なんて台詞は言わないよ?」
「言うのは自由だからな。」
や、まぁたしかに細かいとこまで言うと兄さん達には勝てないだろうし。
そう言うと、リライヴは目を大きく開けて笑い出した。
「ははっ…君、面白いね。」
「おいおい、コレでも俺戦闘に来たんだけど?」
楽しそうに笑うリライヴに苦笑する俺。何かバトる雰囲気じゃないなコレ…
と、フェイトが高速移動魔法を使って俺の元まで来た。
抱えられているなのははちょっと疲れ気味のようだ。
「どーするなのは?休んどくか?」
「う、ううん。フェイトちゃんと一緒に行く。さすがにもうリライヴちゃんと戦えるとはいえないけど、ジュエルシードに何かあったらお手伝い位はできるから。」
なのはは疲れを見せたまま、それでも笑顔で答えを返す。
予想通りの返答ありがとうなのは、この頑固娘め。
「結界を破壊する、付いて来い。」
「あ、はい。」
フレアが先へ進む道を覆っている結界の壁に向かう。
リライヴはそれを止めなかった。
「あれ?いいのか?」
「オーバーSぐらいの破壊力がないと壊せないようには出来てる、手負い三人で全員AA~AAAがせいぜいのメンバーじゃ壊せないよ。」
どうやら通す気で放って置いた訳じゃないらしい。
となれば…やるしかないか。
「さて、初陣と行きますか。行くぜ『ナギハ』!!」
『了解しましたマスター、貴方の道は私が造ります。』
俺は空に浮かぶリライヴに向かって全力で駆け出した。