第二十一話・最終決戦、自分自身を始めるために
Side~フェイト=テスタロッサ
目の前が真っ暗になった。何の力も入らなくなった。
私自身の持っている何もかもが偽者で、私がいるだけで母さんは憎かったんだ。
大切なのはアリシアで私じゃない。私はただの失敗作。
ああ…でも、もういいのかもしれない。
リライヴは物凄く強かった、きっと母さんを守り通すだろう。
後は母さんは自分の願いをかなえて幸せになれる。
だったら…もういいのかな…
私は考えることも止めようとして…
『フェイト…聞いてたよアタシも。』
アルフから念話が届いた。
『アタシさ、ずっと引っかかってるんだ、速人の奴に言われた言葉がさ。フェイトの為に意に沿わないことが出来るなら…そもそも犯罪者になる前に止めやがれ!!って奴。こんな事になる前に止めてれば、もっとフェイトが悲しまなくて済んだかもしれないってね。』
『そんな事…』
ないと言い返すだけの力もなかった。今の私が何か言った所で説得力なんて何もない。
『アタシはフェイトに幸せになって欲しい。フェイトはどうしたい?』
私が…どうしたいか…
『あの鬼婆と一緒にいたいのか、なのはに返事を返したいのか、それとも別の何かなのか判らないけど…それでフェイトが幸せになれるなら、アタシは全力でフェイトの願いを叶えてみせる。』
…母さんの願いを叶えたかった。でも、願いを叶えたことで母さんはいなくなってしまう。それがどうしようもなく辛くて悲しい。
私は母さんにとって必要のない人形。
だから私にとって母さんは…
「必要ない…わけないよ…っ!!」
だから頑張れたんだ、母さんが喜ぶ顔がみたくて。なのに今、母さんがいなくなろうとしていて…
ジュエルシードが使われれば、中に行ったあの娘も無事じゃすまないだろう。
まだ、止めたいとか、邪魔したいとかそんな事はかけらも考えられない私が母さんに会って何がどうなるかも判らないけれど、このままここにいて母さんもあの娘もいなくなって…
それを、心から、よかったなんて言える訳がない。
『アルフ、私行くよ。』
『アタシも…って言いたいけど、今行っても邪魔になりそうだね…』
アルフから悔しげな念話が届くけど、私はソレを否定する。
『どうでもいいって思ってたけど…そうじゃない。まだ、無くしたくない物があるから。だから、私が自分で行かなきゃいけないんだ。』
私は起き上がって傍にあったバルディッシュを手に取る。
「もう少し…一緒に頑張ってくれる?」
『イエス、サー』
迷いなく答えてくれたバルディッシュと共に、眠っていた部屋を出て時の庭園へと向かった。
展開されている結界に入ると、クロノ執務官が吹き飛ばされるのが見えた。
残った白い娘に向かうリライヴに射撃魔法を放つ。
そして…今に至る。
白い娘の声を聞いて、リライヴは肩を落とした。
「折角スーパーエースが片付いたと思ったら、エース級が二人か。」
「…私負けないよ、強いから。」
バルディッシュを構えて真っ直ぐ向き合う。…あの娘は完全に後衛型。相当な実力者のリライヴと接近戦なんて出来る訳がない。
『私が前に出る。タイミングは念話で合わせて砲撃を。』
『うん!』
念話で軽く打ち合わせて、私は飛び出した。
「アークセイバーッ!!」
鎌の一閃にて雷刃を飛ばす。
「ソニックセイバー!!」
私の放った刃は、リライヴの放った見えない魔力刃に一瞬で切り裂かれた。ギリギリ回避するが、リライヴは私に接近して来た。
スピードは互角、パワーは大差。どう考えても勝ち目はない。
…一人なら。
「ディバインバスター!!」
「っち!」
私とリライヴの間に放たれた砲撃は、リライヴの追撃を止める。上空に向かった私はすぐさま魔法陣を展開。
「サンダーレイジ!!」
雷が降り注ぐ。直撃なら少しくらいは効いた筈。
雷撃が治まった先には無傷のリライヴの姿があった。
「防ぐのは回避が下手みたいであんまり好きじゃないんだけど、本当強いね、二人とも。」
私の考えは甘かったらしい。
それにしても執務官を倒した後に二人がかりの攻撃を受けてまだ無傷なんて…
「っ!バインド!?」
余裕を見せていたリライヴが、桜色のバインドに拘束されていた。
何と言うか、あの娘は全く容赦がない。
「当たらないなら…無理やりにでも当てる!!」
『ディバイン…』
「冗談…キツいって!!」
かなりの早さでバインドを解いたリライヴだったけど…
「『バスター!!』」
彼女の砲撃魔法の方が早く、リライヴは桜色の砲撃を受け止めた。
こんな絶好のチャンス…もう無い!!
「サンダー…スマッシャー!!」
「いっ!?」
丁度反対の位置まで来て放った砲撃魔法は、挟み込むような形でリライヴに突き刺さった。
両手のシールドで、二本の砲撃を受け止めるリライヴ。
何て出鱈目…でもここで仕留め切る!!
「はああぁぁぁっ!!」
「届いて!!」
私達は更に出力を引き上げる。
これで終わらせる!!!
「スパイラル…バスター!!!」
「な!?」
「そんな!!」
砲撃魔法を当たるか当たらないかと言った超至近距離で防いでいたにもかかわらず、防御魔法を解除したリライヴは…
私達に向かって同時に砲撃魔法を放ち、私達が放っていた砲撃魔法を貫いたのだ。
私は何とか回避に成功するが、あの娘の方は飲み込まれてしまう。
「たたた…何とかなったね。」
と…ここ最近聞き慣れた声と共に、シールドに包まれた彼女の姿が見えた。
あの一瞬であんな威力の砲撃を防ぐなんて…
改めて彼女の力に驚かされて…
『にゃはは…あんなの一瞬で避けるなんて凄いねフェイトちゃん。』
彼女からの念話が、私が思ってた事と同じ様な驚き方で、少し恥ずかしくなった。
「ふーっ…まさか今のでも二人共墜ちないなんて。」
言いながら、無傷のリライヴが息を吐いた。
表情から一切の疲れが読み取れず、規則正しい呼吸をしている。
魔力の消耗は分からないが、消耗していれば意識が重くなる筈。
…本当に…人間か?
何を意識するでも無くそう思ってしまった。
私達の息はとうに上がっている。全力を注ぎ込んだ砲撃のせいだろう。
「シューティングスターッ!!!」
と…リライヴから雨のように魔力弾が放たれた。
いくら速くても避け切れない。
「バルディッシュ!!」
『ディフェンサー』
私は防御魔法を展開して雨のような弾丸を防ぐ。
魔力弾は、障壁に命中するなり涼風のように消えた。
こんな威力の無い攻撃で何を…
「フェイトは兎も角彼女はもう限界みたいだね!!」
私が防いでいる間に身を翻して彼女に向かって飛ぶリライヴ。
っ…時間稼ぎ!?
「ぁ…っ!フ、フラッシュムー」
「遅い!!」
白い娘は逃げられずに魔力剣によって腕を斬られる。反応が悪かったけど…私が来る前から戦っていたんだから無理も無い。
魔力ダメージだが、斬られる痛みと魔力が抜けて行く苦しさを味わう事になる。
その身体を傾けた白い娘は胸のリボンを掴まれて、私に向かって投げられた。
「アクセル!!」
「ああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
魔法によって急加速させられる。
…受け止められるか!?
「く…うっ!!」
受け止めたが、そのまま壁に叩き付けられる。
だけど何とか止め
「はい残念。」
目の前に、剣を振りかぶったリライヴの姿があった。
白い娘を抱えたまま壁にめり込んだ身体が上手く動かない。
こんな…こんな所で…母さんにも会えて無いのに…っ!!!
振り降ろされた剣は…
私の横に逸れた。
「な…っ!!」
リライヴは私から視線を外す。
その視線の先に―
「ヒーローは美味しい所でやって来る!!ってな!」
真紅のマントをたなびかせた速人が剣を抜き放って立っていた。
SIDE OUT
本日…というか、昨夜予定分はここまでで。
…なんだかこの時間動作が本当に軽いです(笑)