第二十話・最終決戦、悲しい願いを終わらせるためになの
私とクロノ君は、二人でプレシアさんがいる時の庭園に乗り込んだ。
転移先から少し先に結界が張ってあった。
「リライヴだろうな。迂回路もないようだ、行くしかないか。」
周囲を見渡したクロノ君が私を見る。
私はレイジングハートを握る手に力を込めて頷いた。
止めないといけない。フェイトちゃんを傷つけて、いろんな人を巻き込もうとしてるプレシアさんも、プレシアさんを手伝って誰かを傷つけることを躊躇わないリライヴちゃんも。
私とクロノ君は意を決して結界に入った。
広間の中央に、リライヴちゃんは静かに立っていた。
私達に気づいたリライヴちゃんは、驚くこともなく私達を見る。
「執務官に…白い娘か。」
「なのは!高町なのは!!って言うよりリライヴちゃんのほうが真っ白だと思うの!」
白いのとか言うリライヴちゃん。私は名前を名乗ったけど、完全に目に入ってない。
お話しようと思ったんだけど、クロノ君が私の前に出てデバイスを構えた。
「遺失物無断使用、犯罪幇助等の容疑で拘束させて貰う。」
「そう、大変だね執務官も。」
「そう思うならこんな事始めからやらないでくれ。」
リライヴちゃんはクロノ君の言葉をまるで気にしていない。
話すだけじゃダメかもしれないけど、だからって話もしないうちから攻撃なんて出来ない。
「通してリライヴちゃん!このままだといろんな人に迷惑かかっちゃう!!」
「迷惑どころかいくつか世界が消える。」
私達の言葉を聞いたリライヴちゃんは、本当に綺麗に笑った。
なんでここで笑えるのか、そう思って…
「世界が消えてもいいくらいに大事なんだね、アリシアって。」
根っこから、大事にしているものが違うことに気が付いた。
見ていて寂しくなるような、優しい笑顔でそう呟くリライヴちゃん。クロノ君は、手を固く握り締めて叫んだ。
「過去を無かった事になど出来はしない!一個人の身勝手で世界を危機に陥れて良いものか!!」
クロノ君の力強い声に、リライヴちゃんは笑顔を無くして目を細める。
「管理局の決定なら良いみたいだけどね。危険だと判断すれば人一人殺すのに星の無関係な人達ごと消すでしょ?」
「それはっ!!」
クロノ君は、否定の言葉を告げようとしたけど何も言わなくなる。私は一歩前に出た。
「そう言うことが悪いって思うなら…人がやってるからって理由で危険な事したらダメだよ!!」
「そう言うのって、貴方が決めるの?それに私は別にダメな事するのに抵抗ないんだけど。」
リライヴちゃんは、まったく取り合ってくれない。
ダメな事に抵抗がないって…
「別に良い子になってもしょうがないし、そういう役は貴方達がやってくれるでしょ?」
「そういう問題じゃ」
「それとも君も悪い子?私と話してたら執務官が困るよ?」
言われて私はクロノ君を見る。
捕まえに来たはずなのに、時間もないのにこんな事してたら確かに困る筈…
私が言葉に詰まっていると、クロノ君は首を左右に振ってリライヴちゃんの言葉を否定した。
「少なくともなのはは犯罪者に悪い子呼ばわりされるような事はしてないさ。」
「そう?なら何より。初めて出来たフェイトの友達が悪い子じゃちょっと心配だし。」
今も多くの人を危険に巻き込む事件を手伝ってるのにフェイトちゃんを気遣うような事を言うリライヴちゃん。
「こんな事しておいて心配も何もないよ!!何でいろんな人に迷惑かかるような事をするの!?」
「話す意味はないよ。」
「だから!そういう事を決め付けないために言葉があるんだよ!何にも理解しあうことも無いままこんなことするなんて!!」
目が、絶対に悪い人のソレじゃない。まったく曇ってないし物凄く強い力を感じる。
だから、何も話してくれないのが悲しかった。
リライヴちゃんは首を振る。
「そもそも、理解して欲しいと思ってないの。貴方達に理解されてもむしろ困る。だから貴方達からの評価が犯罪者でも悪者でも別にいい。もし話し合うとしたら一つだけ。」
静かに、何でもない事のように続けるリライヴちゃん。
「私はプレシアの護衛。貴方達の目的がプレシアの妨害、拘束以外なら…話し合いの余地はある。けど、執務官は捕らえに来た、君はその手伝い。違う?」
違わない。けど何で寂しそうに言うのか。
「我儘ばっかり言って理解も求めないで人を傷つけるなんてダメだよ!!」
「君のそういう所は嫌いじゃないよ。でもそれは、私がダメで我儘なだけ。ここを退く理由にはならない。」
何も聞いてくれない。クロノ君がデバイスに魔力を集中する。
「…なのは、力を貸してくれ。僕一人じゃ正直辛い。」
『ブレイズキャノン。』
クロノ君が砲撃を放った。リライヴちゃんはそれを躱す。いつ次元震が発生するかも分からないから今は…
「捕まえるよ、リライヴちゃん。」
「出来るのなら、いいよ。」
戦う事にした。リライヴちゃんはきっと、フェイトちゃんと違って何があっても止まらない気がしたから。
「アクセルシューター!!」
数発のシューターを放つ。それぞれが弧を描いて飛んでいき…
何の前触れも無く掻き消えた。
『プロテクション』
「え?きゃあっ!!」
レイジングハートがプロテクションを張って、その理由も分からないままプロテクションを破壊されて吹き飛んだ。
「っやはり無色の魔力光!?もはや稀少技能だぞそれは!!」
「そう?まぁ見にくいのは便利だと思うけど。」
クロノ君は捕捉出来ているらしく、揺らめくように映る何かを避けている。
確かに何か時々ゆらゆらと揺れているようには見えるけど、とてもじゃないけど避けられそうにはなかった。
「レイジングハート…私見えないから、防御は任せていい?」
『分かりました、ご武運を。』
レイジングハートと返事に感謝しつつ、私はシューターを精製する。
「クロノ君!今援護する!!」
「無駄!!」
私が放ったシューターは、何故か途中でかき消される。
『彼女は先程から一つの魔力弾を操作しています。ただしその一つが、固く強く速い。魔力消費も一発を操作し続けている為ほとんどありません。』
びっくりする他なかった。だってシューター一つで私とクロノ君止めてるなんて言うんだから。クロノ君も攻め手に回ろうとはしているものの、上手く近付けない。…砲撃魔法を当てるしかない。
「ディバイン…」
「クイックバスター!!」
私の声に反応して砲撃魔法を撃って来るリライヴちゃん。けど、私はチャージに入っていない。目の前が渦みたいに大きく歪んで見えたからよくわかった。本当に無色の魔力なんだ…
『フラッシュムーヴ。』
迫って来る砲撃を高速移動で躱し、移動先でチャージに入る。
「フェイント!?」
「ブレイクインパルス!!」
私を狙って砲撃を放った事で出来た隙に接近したクロノ君が、零距離で攻撃を放つ。体勢を崩しながらも凌いだリライヴちゃんに照準を合わせ…
「ディバイン…バスターッ!」
「くっ!!」
全力の砲撃を放つ。シールドを展開したリライヴちゃんは…吹き飛ばされた。
後は拘束すればと、そう思ったんだけど…
「やはり強い…スティンガー!!」
吹き飛んだリライヴちゃんに追撃を放つクロノ君。
「何で!?」
追撃なんてと思ったんだけど、リライヴちゃんは体勢を立て直していた。
…無傷!?
「自分から吹き飛ばされたんだ!シールドは抜けてないからダメージは無い!!魔導師なら普通考えないぞこんな事…」
「受けとめたらバインドで詰み…でしょ?執務官。」
クロノ君の攻撃を、透明の…見える程度に形成された剣を振るって掻き消すリライヴちゃん。リライヴちゃんの技に、クロノ君は悔しそうに顔を歪めた。
「雑多な犯罪者が身に付けられる技量じゃない、一体どれだけ習練を積んだんだ。」
「え?依頼以外の空き時間全部だよ。いちいち覚えてない。」
それがどうかしたのかと言った風なリライヴちゃん。なんか、どこかで見た事あると思ったら…
恭也お兄ちゃんに似てるんだ。
怪我したお父さんに代わって剣を継ぐって決めたお兄ちゃんは、忍さんに会うまで剣しか見てないように鍛え続けてた。
それと似てるんだ、目的がハッキリしていて、多分人の評価は関係無くて…
―御神の剣は人に見せる物じゃない
あれだけ剣士として頑張っているのにそんな事を言う恭也お兄ちゃん達。
きっとリライヴちゃんにもあるんだろう、人に見せるための物じゃない、それでも大事な物が。
「呆れたな…馬鹿だろう君は。」
「悪かったね!」
肩を落としたクロノ君にちょっと怒ったように返すリライヴちゃん。
「さて…と、引く気は無いみたいだから決めさせて貰うね。」
『バーストモード』
リライヴちゃんのデバイスが、宣言した瞬間…その身体が澄んだ光に包まれた。
光が煌いて、リライヴちゃんはフェイトちゃんですら普通に動いていたら全く追いつけないような速さでクロノ君に接近する。
クロノ君はそんなリライヴちゃんの軌道と、垂直になるように横移動する。
あんな速くちゃ方向転換は急には出来ない。
狙いをつけてるクロノ君に習うようにシューターを精製しようとして…
「が、っ!?」
クロノ君が、デバイスごと斬られた。
速過ぎて私には何が起こったかもよく分からなかった。
だって、まったく速度も落ちないまま横に飛ぶなんて思っても見なかったから。
「こ、こんな…馬鹿な…」
「スパイラルバスター!!」
答える事なく放たれた砲撃は、クロノ君を飲み込んで壁に大きな穴を作る。
リライヴちゃんは、私一人じゃどうにもならないくらいに強い。
諦めたら…いろんな世界が危ない。
だから私はレイジングハートを構える。
私の様子に気付いたリライヴちゃんは微笑んで…
金色の魔力弾を回避した。
「…母さんに会いに来た、伝えたい事があるから。」
「フェイトはプレシアのストレスになりそうだから通す訳には行かない。」
リライヴちゃんは会いに来ただけのフェイトちゃんすら拒む。
落ち込むかと思ったフェイトちゃんは、少しだけ俯いて…私を見る。
「…手伝ってくれるかな?」
ちょっと、おっかなびっくりにも感じるけど、それは確かにフェイトちゃんから私に向けられた言葉。
「うんっ!!!」
何か色々胸がいっぱいになっちゃった私は、目が熱くなるのを感じながら全力で頷いた。
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