なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十九話・絶体絶命の大ピンチなの!?

 

 

 

第十九話・絶体絶命の大ピンチなの!?

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

折角フェイトちゃんを止められたと思ったのも束の間、私とフェイトちゃんを落雷から庇ったお兄ちゃんは、そのまま海に落ちていった。

気を取られたのは一瞬。ユーノ君が助けに向かったのを見た私は、お兄ちゃんが作った足場が消えるのを感じてフェイトちゃんを抱える。

 

 

 

 

 

その瞬間、何か強い魔力を感じて視線を移す。

 

「スパイラルバスター!!!」

「ぐあぁぁぁっ!!」

 

爆音と共に、吹き飛んで行くフレアさんの姿が見えた。

 

 

気がつけば、フェイトちゃんのジュエルシードがなかった。

 

 

 

 

「執務官が出て来ててくれればよかったんだけど、贅沢言っても仕方無いか。」

「アンタはっ!!」

 

アルフさんが、聞き覚えのない声の主に向かって怒鳴る。

 

 

 

 

アルフさんが怒鳴った方向に、見慣れない女の子の姿があった。

彼女は…何て言うか、白かった。靴もロングスカートもシャツも手袋も短い杖の形をしたデバイスも。

 

 

ただデバイスの核部分と、首にかかった首輪だけが淡い桜色をしていた。

 

 

 

「リライヴ、流れの魔導師。プレシア=テスタロッサの命によりジュエルシードを貰いに来た。」

 

 

 

彼女がそう言うと同時、結界が展開される。

 

 

何の躊躇いも無い声。フェイトちゃんとも違う、完全に迷いの無い澄んだ声。

 

 

「ふざけんじゃないよ!騙してたんだね!!」

 

アルフさんが拳を握って突撃する。彼女はそれを…滑るように避けた。

 

 

クロノくんともフレアさんともフェイトちゃんとも違う、魔導師の動きじゃない。

魔法近接戦闘じゃなくて、格闘技術。お兄ちゃんと違って動きは硬い気がするけど、それでも形は出来ていた。

 

 

 

「ぐ…ぁっ…」

「フェイトが消耗してる以上魔力ダメージ何て与えたら消えかねないから、悪いけど普通に刺させて貰った。」

 

 

アルフさんのお腹から血が流れていた。

 

彼女を見れば杖になっていた筈のデバイスは、短い剣の形になって血に濡れていた。

 

 

アルフさんは、ユーノ君の方に蹴り飛ばされる。

そして…

 

 

彼女は、私の前に来た。

 

 

 

私はレイジングハートを構える。こんな、やっとフェイトちゃんに認めてもらえたって言うのに、その証でもあるジュエルシードをいきなり来た娘にとられるなんて納得できない。

 

 

彼女はそんな私を見て首を横に振る。

 

 

「…別に死なせるつもりは無い。君も消耗したまま倒せる程私が弱くない事は分かった筈。それでもやるって言うなら、海に落ちた人達の救助は諦めた方がいい。」

「ぁ…っ!!」

 

もう1分はたった筈だった。結界に囲まれてる以上アースラの人は来れない。

ユーノ君は、お兄ちゃんとアルフさんを回復の魔法陣に入れて海にいた。

 

 

まだフレアさんが上がって無い。

 

 

「ジュエルシードをくれれば今すぐ結界を解いてここを去る。くれないなら貴女とフェイトも海に叩き落とした上で貴女のデバイスごと貰って行く。私はどっちでもいい。どうする?」

 

脅されて、大事なジュエルシードを渡す訳にはいかない。けど、私が無理言ったらフレアさんとフェイトちゃんが…

 

『プットアウト』

「レイジングハート!!」

 

いつかのように、けど今回は全てのジュエルシードを出すレイジングハート。

彼女はすぐにその全てを回収した。

 

「賢明だね、無理しても被害が増えるだけ。いい子と一緒で良かったね君。」

 

私に向かって涼しげな笑みを見せた彼女は、結界を解いて私から離れた。

 

 

悔しかったけど、傍には疲れきったフェイトちゃんもいるし、アッサリ負けてユーノ君の負担を増やす訳にも行かない。

 

 

「逃がす訳にはいかない。」

 

いきなり聞こえた声に空を見れば、クロノ君がそこにいた。

 

クロノ君は私より全然強いけど、何とか出来るかな…

 

「逃がさないって言えないのは、勝ち目が無いの分かってるからでしょ。私の推定ランクどれくらいだった?」

「どれだけ強くても、逃がす訳にはいかない。」

 

クロノ君は静かにS2Uを構える。彼女はそんなクロノ君を見ながら微笑んだ。

 

可愛くて優しい娘だと、アルフさんが刺されたのに何故かそう思った。

 

けど、だから余計に納得できない。こんな事するなんて…

 

「そういうのは嫌いじゃない。でも…そんなに暇でもないしこれで失礼させて貰うね。」

 

彼女は何かを投げた。そして…

 

 

 

 

目の前が光でいっぱいになった。

 

 

離れた位置にいる私も目がチカチカする。

 

光が治まったら、もうそこに彼女の姿は無かった。

 

 

 

 

クロノ君は爆弾だと思って展開した防御魔法越しに眼を眩ませられただけだったから、特に眼に異常も無かったみたいだった。雷の直撃を受けたお兄ちゃんと、刺されて大怪我を負ったアルフさん、海に落とされたときに頭をぶつけて怪我をしたフレアさんが医務室で手当てを受けて眠っていた。ユーノ君はサポートが上手だから回復を手伝っている。

 

私は、フェイトちゃんの手を引いてクロノ君とブリッジに向かっていた。

 

「くっ…まさかああも簡単に…」

 

クロノ君が悔しそうにしていた。

 

執務官って凄い職業で、クロノ君はそれになるだけの凄い実力を積んでいる。だから、お兄ちゃんや犯罪者の彼女に好きにやられっ放しで悔しいんだろう。

 

私も…悔しかった。

 

折角フェイトちゃんと全力で戦って、私の勝ちだって認めて貰えたのに、その為にかけてたジュエルシードを脅されて取られて逃げられたんだ。悔しくない訳がなかった。

 

ブリッジに着くと、エイミィさんとリンディさんが難しい顔をしてさっきの映像を見ていた。

 

「転移先は割り出せてるけど…」

「これだけ強いんですもの、余裕なんでしょう。」

 

私に付いて来る沈んだ表情のままのフェイトちゃん。

無理もない。さっきの戦闘で私もクタクタだし、お兄ちゃんの言う通りやり過ぎの魔力ダメージを受けた上、アルフさんが怪我してジュエルシードを奪われちゃったんだ。

私はフェイトちゃんと繋いだ手に力を込めて、リンディさんを見た。

 

「あの…リライヴちゃんどれくらい強いんですか?」

 

私は気になって聞いてみる。リンディさんはうかない表情のまま答えてくれた。

 

「今分かってる情報だけで空戦S+。クロノの二回りは強い計算ね。」

 

ランクの方はよく分からなかったけど、クロノ君より全然強いって説明で、リライヴちゃんが物凄く強い事だけは分かった。

 

「プレシアは研究者だけどアルフさんに重傷を負わせる程の実力で次元跳躍攻撃まで使いこなす魔導師。二人がいる本拠地への突入じゃ正直クロノ一人じゃ荷が重いわね…」

「あ、あのっ!私も行きますっ!!」

 

私は気付けばそう言っていた。

 

「駄目よ。なのはさんはあんな戦いしたばかりじゃない。それに相手は今度は殺人もためらわないのよ?勝手に行かせちゃったら私達が速人さんに怒られちゃうし。」

「魔力は少し休めば大丈夫です!このまま何かあっていろんな人が傷つく事になったら嫌なんです!お手伝いさせて下さい!!」

 

私は言い切ってからお辞儀した。もちろん無理はあると思う、けどもし何もしないで家族や友達がいる私の町まで無くなっちゃったら、耐えられない。

 

「…だ、そうだからクロノ、一人で出撃するのはやめておきなさい。」

 

リンディさんは今にも飛び出しそうなクロノ君に声を掛けた。

クロノ君は、私の前まで歩いて来る。

 

「すまないなのは、力を貸して貰えるか?」

 

少しだけ辛そうに私に手を差し出してくれるクロノ君。私はその手をとって頷く。

 

「うん!任せて!頑張るから!!」

 

私は出来るだけ元気を見せるようにそう言って…

 

「母さん…」

「にゃ!?あ、あの…その…」

 

プレシアさんの為にジュエルシードを集めていたフェイトちゃんが側にいる事を思い出した。

私がフェイトちゃんとクロノ君を交互に見て慌てているとリンディさんは息を吐く。

 

「フェイトさんにこの会話を聞かせておくのも忍びないわね、鍵と監視は必要になるけれど客室へ案内」

『…無事で何よりね、フェイト。』

 

 

リンディさんが言い終わる前に、いきなり、モニターに情報で見せてもらっていた女の人の顔が映った。

 

 

「か、母さん…」

『ふふふ…あははははははは!!貴女はよくやったわ!!何に使うかも知らないジュエルシードをせっせと集めてくれて。オマケに餌とも知らずにそこの魔導師を消耗させてくれたお陰でアッサリ必要相当数のジュエルシードが手に入ったわ!!』

 

 

フェイトちゃんのお母さんである筈のその人は、フェイトちゃんを餌って言った。

しかも、こんなに震えているフェイトちゃんを見ながらとっても楽しそうに笑っている。

 

 

『お礼にいい事を教えてあげるわフェイト、私がジュエルシードを望んだ目的よ。貴女も知りたいでしょう?』

 

プレシアさん話す中、画面が切り替わってポッドに浮かんだ…

 

 

フェイトちゃんと瓜二つの女の子の姿が映った。

 

 

『この娘はね、私の娘アリシアなの。』

「え…」

『本当はアリシアを蘇らせようと思ったのだけど、記憶まであげたのに貴女は出来損ないの人形だった。どうやったってアリシアにはなれない。だから私はアリシアを取り戻すためにアルハザードへ向かう。そのためにジュエルシードが必要だったのよ。』

 

フェイトちゃんの震えが強くなる。

 

「アルハザードって…貴女本気で言ってるの!?」

『そうよ。それだけのクローンまで作れるこの私が、何のアテも無く適当な事を言う訳無いでしょう?あぁ、まだ言ってなかったわね…』

「やめて…」

 

もう判っている。

でもあまりにも酷い現実で、一番聞きたくない筈のフェイトちゃんがここにいる。なのに…

 

『フェイト、貴女がアリシアのクローン、出来損ないの人形よ。この私が全力をつぎ込んだにも拘らず失敗作に成り下がった貴女が大嫌いで仕方なかったのだけど、今回だけは本当に感謝するわ。これでアリシアが蘇る。良いように踊ってくれてありがとうフェイト。』

「ぁ…」

 

突然、フェイトちゃんから伝わって来ていた震えが消えて…

 

 

 

フェイトちゃんは瞳の光を失って倒れこんだ。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

言うだけ言ったと確認したところで私は管理局に向かって飛ばしていた映像を切った。

 

「…コレでよかったのかしら?」

「充分、ありがとうプレシア。」

 

私の目の前には、さっきまでのわざとらしい笑みを抑えた氷のような瞳を見せる魔導師がいた。

 

わざわざ管理局に向かって通信を飛ばしてまでやりたかったこと、それは…

 

 

 

 

フェイトが使われていただけだという記録を明確に管理局に残すこと。

 

 

 

ジュエルシードを受け渡す前にプレシアに頼んだ演技。

 

ストレス発散でもなんでも良いから、限りなく悪役を演じてフェイトの無罪の材料にする事。

 

 

「別に良いわ、貴女の言う事も当たってはいるのだし。」

 

 

私がプレシアに伝えたことは二つだけ。

 

 

 

一つは、プレシアは、フェイトを嫌っているのではなく、アリシアが蘇らなかった事実そのものを見せ付けられるのが嫌だったという事。

 

そしてもう一つは、アリシアとアルハザードに行くのであれば、他の人間は別に関係ないのだから、だったらフェイトだって幸せなほうが良いだろうという事。

 

 

 

後者は納得してくれたかどうかはわからないが、やる事が殆どストレス発散に近い暴言を吐き散らすことなのと、ジュエルシードを確実に私から受け取ることが一番重要という事で、今回この演技を引き受けてくれた。

 

「さてと…じゃあジュエルシードを渡すけど、その前に…」

「ぐっ!?こ、コレは…」

 

私はプレシアにスタン効果のある魔法を放つ。私が裏切ったと思ったのか、プレシアの表情が歪む。

 

私は首を横に振ってその考えを否定した。

 

「ちゃんと渡すから安心して。ただ、今渡したらその身体で発動しようとするでしょ?だからその前に…」

 

ぐらついて地面に横たわったプレシアを取り囲むように五つのジュエルシードを配置する。

 

「我は願う、際限なき癒しの力を。」

 

五つのジュエルシードが綺麗に発動し、プレシアを囲う癒しの魔法陣が形成された。

 

「こ、コレは…」

「私がまだ未熟だから、回復の願いは制御できても病魔を取り除くって制御は出来ないの。間違って病気に犯されている部位そのものとかが取り除かれちゃったら即死だし。」

 

光に包まれながらプレシアはゆっくりと意識を失った。

瞬間的な治療は、むしろ悪影響を及ぼす。睡眠時間の確保もかねて30分ほどこうしていて貰おうと思って、完全回復まで多少の猶予を作った。

 

 

プレシア、体調悪いくせに私まで疑ってたからまったく眠らなかったし…

 

 

後は、回復したプレシアがジュエルシードを制御してアルハザードへ行く事ができれば…

 

 

「それまでは、誰もここまで通さない。」

 

 

私は眠るプレシアの前に残りのジュエルシードを置いて入り口に向かった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 


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