第一話・妹は魔法少女。どうする俺?
「うーん…」
俺こと高町速人は悩んでいた。それと言うのも我がお兄様、人外でいいんじゃね?の高町恭也からの提案が原因だった。
『御神流を修めて見る気は無いか?』
提案自体は嬉しかった。それに俺は自身の出生を鑑みて、力を身に着ける事を止めるつもりは無かった。
だけど…
門外不出の裏の実践剣術。
そんなものを習うとなれば、少なくとも途中で投げる事は出来ない。面倒とかそんなふざけた事を言う訳じゃないんだが、ここを離れられない。
今更、柄でもない遠慮をする気は無いが、どこか遠く離れる事になってしまえばもはやそれは裏切りに等しい。…まぁ、実践訓練とか言って筋トレや模擬戦に付き合ってる時点で片足突っ込んでる気がするが…
「まぁ、もう少し考えてみるか。」
全力でヘタレ思考してみた。いや、うん。逃げたとか言うな。
夜の鍛錬を終えて帰ろうとしていた所で…
『誰か…』
助けを呼ぶ声がした。…少し遠くから衝撃音が聞こえる。
超能力者か何か知らんが、助けてって言われたら助けない訳には行かないよな。
「衝撃音が大きいな…騒ぎになりそうだし早めに片付けないと…」
全速力で駆ける。
って言うか、この爆音…人のレベルじゃないな、少なくとも兵器の類を使用してないとこの威力にはならない。
そんな事を考えながら走っていると…
文章で形容してはいけなさそうな姿の小学生女子を見た。
夜中とは言え小学生のほうが変質者!?と驚いてみたはいいが、それも一瞬の事で次の瞬間には終わっていた。コスプレ?真っ白な服に赤いリボン。しかも何か見た事ある後姿で…
「とりあえず面白いから携帯携帯。」
「にゃ!?」
俺が携帯電話を取り出してコスプレ少女を写真に収めると、シャッター音に気づいた少女が振り返る。
「あ、危ないですよ!逃げてください!!」
「速人お兄ちゃん!?」
肩の小動物とコスプレ少女に同時に声をかけられる。うん、動物が喋ったとかコスプレ変質者少女の正体が妹だったとか、驚く事は山ほどあるんだが…
「とりあえずいろいろ置いとこう。…後ろの黒いのってお前らのお友達?」
「「違います!!」」
息が合った返答が帰ってくると同時、黒い獣が襲いかかってきた。俺は妹…なのはを抱えて跳躍する。ちょっとまずいかなーと、苦し紛れに思ってみたら…
「何で胸触るの!!」
なのはは手にしている杖で後頭部をぶっ叩いてきた。
「い、痛いぞなのは!俺も兄さんも姉さんもお前をそんな風に育てた覚えはないぞ!!」
「なのはも速人お兄ちゃんがこんなな事すると思ってませんでした!!」
「不可抗力だ妹よ!」
俺は鍛錬に使っていた小太刀を抜く。ええい、非人間クラスならいつも試合やってるけど、非人間を相手にするのは初めてだっての!!
「ちょーっときついかな…まぁ、お兄ちゃんに任せなさい!!」
待ちでいてもしょうがない、全力で止めに行く。突進してきた黒い獣に左手に仕込んだ鋼線を放つ。獣を絡めとった鋼線はその身体に食い込んでいくが…
「やっぱ…塀ぶっ壊すような体当たりかます奴捕まえられる筋力はないよなー。」
空中に吹っ飛んだ俺は、鋼線を手繰り寄せて背中から切りかかった。逆手に構えた小太刀を全力で振り下ろす。手ごたえが妙だったので、着地から連続で斬りつけて突きを放った。動きが止まっていた黒い塊は、そのまま霧散するように消えていった。
「しかも実体系じゃなかったのかよ、よかったぁ…刀効いて。」
本当に倒せてよかった。効かなかったら幽霊よろしく黒いもやに包まれて呪われたりしてたのだろうか?怖ぇー…真人間に何とかできるのは実体までですよ?旦那。
と、消えていった黒い塊の中央に青い宝石があった。俺はそれを手に取ろうとして…
「あ、待ってください!なのは、レイジングハートを。」
「え…あ、うん。」
小動物に制されて、なのはが杖の先端を向けると、青い宝石は杖に吸い込まれていった。…なるほど、なのはのほうも本物だったのか。コスプレなんて思って悪かったかな?
「とりあえず離れるぞ。さすがにコレ説明できないしな。」
「へ?あ…」
俺が指差したほうに目を向け呆然とするなのは。そりゃそうだ。だって何処もかしこもクレーターだらけなんだもん。そりゃ呆然とするわ。
「と、とりあえず…ごめんなさーい!!」
謝罪しながら超低速で走り去るなのは。礼儀正しくて何よりだウン。まぁ、町の人には悪いが、ここは俺も退散しよう。事情聴取は具合が悪いしな。
家に着いたら、事情聴取の方がマシなんじゃないかと思うような表情のお兄様の姿があった。
…助けてお姉様!!
念じて向けた視線は、交わる事すらなくあっさり逸らされた。姉さんの薄情者!!
なのはは何でも拾ったフェレットの様子が気になって飛び出したのだとか。頭に聞こえてきていた声の事を考えると、それを聞いて飛び出したらあらビックリ魔法少女になっちゃったって感じだろう。
ちなみに、俺はいつもの訓練から帰る際になのはと鉢合わせただけなのでお咎め無し。
やったね!
なのはに羨ましそうな視線を向けられたが、夜中の修行は武芸者の特権だ。諦めろ。
気持ちよくさわやかな笑顔で、反省させられているなのはをおいて、なのはの部屋に向かった。しばらくベットに顔から倒れこんで休む。…さすがに鍛錬後にあんな化物相手にするのは辛い。常識が音を立てて崩れていく。…気がしたけど、まぁうちのメンバーが常識なんて言うだけ無駄なんだろうな。
「…速人お兄ちゃん?どうしてなのはの部屋でベッドにうつ伏せているの?」
「あ、なのは。お説教終わったのか。さすがの兄さんもなのはには甘いなぁ。」
せっかく妹が戻ったと言うのにうつ伏せている訳にもいかないので身体を起こしてベッドを背に座る。
「ごまかさないで欲しいの。何で?」
「まぁまぁ…そう怒るな。生きるか生きるかの死闘を繰り広げて疲れてるんだって。」
さすがにベッドを勝手に使われて少々ご立腹らしいなのは。でも勘弁して欲しい。
正直左腕なんか急激に引っ張られたせいか痛くて痛くて…
「あ、あの…回復魔法使いましょうか?」
「え、マジ?頼んでいい?」
小動物…ユーノに回復魔法をかけて貰うと、疲れと痛みがゆっくりと引いていった。
あっさり全快した身体に感心しつつ、礼を言っておく。
「むー…」
「はい、分かりましたごめんなさいなのは様。お願いですからご機嫌を治して下さいませ。」
全力で平謝りすると、なのはもようやく許しをくれた。機嫌は若干悪かったが。
「で、なのはの部屋に来てた理由だけど…あんな恥ずかしい格好で何やってたの?」
「にゃ!?は、恥ずかしいってひどい!!」
即刻怒りをあおってしまったようで。い、いかん。弄りやすいからつい…
「いや、格好は良かったんだウン。ヒロインバンザーイ!」
「今更信用できないの!!」
「そうじゃなくて!いくら変身って言ってもいちいち路上で素っ裸になるのは教育上良くないと思うんです。はい!」
俺が必死に弁解する。と、なのははピタリと固まってしまった。
「な、あ、アレが見えたんですか!?」
「ま、一瞬だったけどしっかり。あと敬語じゃなくてもいいぞユーノ。」
なのはが固まってる間にユーノから聞いたが、どうやら来ている服から変身後…バリアジャケットとか言うのを来た姿になるまでに一瞬あるらしい。普通視認できないらようだが、どうやら普段から『当たったら死ぬよねコレ』って言う真剣で化物お兄様と訓練していたおかげで見られたようだ。
「…ちぇ、黙っておけばずっと見れたのに。」
「お!・に!・い!・ちゃ!・ん!!」
「おお!?立ち直ったのか!?」
と、なのはは俺の背後に回りこみ後ろから首に手をかける。
「なのはは!そーゆーのは!いけないと!思うんだけど!」
「わ、分かったから首…首を絞め…」
意識が遠のいて目を閉じそうになった所でようやく開放された。…将来とんでもない鬼になったりしないよね?お兄ちゃんは心配ですよー。
「…で、本題に戻る訳だけど、アレ何?キミ誰?俺誰?」
「とりあえず…貴方は速人さんですね。」
俺のボケは突っ込みを受ける事も無く淡々と返された。ああ、芸人気質な知り合いが惜しい!!兄さんは人をからかうのが趣味だから俺と相性はいいが…
方向性がそれた思考を整える。で、ジュエルシードについての説明を受けた。
曰く、スクライア一族と言う遺跡発掘集団が見つけたらしい。
曰く、航行中にトラブってこの世界に21個のジュエルシードを落としてしまったらしい。
曰く、ジュエルシードは願いに反応して強大な力を発揮するらしい。
曰く、その危険物を回収する為に単身乗り込んできて返り討ちにあったらしい。
…泣かせる話だなぁ。って言うかそんな男気発揮するのがこんな子供って…俺や兄さんじゃないんだからそんな寂しい話無いだろ。
「よしよしユーノ、後は俺に任せとけ。コレでも俺は勇者パーティーの盗賊ぐらいの戦闘力がある!!」
「速人お兄ちゃん、それは力弱くて打たれ弱いから正直どうかと思うの…」
グサリと胸に突き刺さる一言を返してくれた妹。酷い…頑張って黒いのやっつけたじゃん俺…
「ってアレ?ユーノ、さっきの黒い化物は思念体って言ってたよな?何で剣で斬れたんだ?」
除霊の技とかはあるらしいが使い方分からないし、魔法も使えない俺がどうにかできた事がおかしい。が、ユーノは軽く頷くと…
『貴方にも魔法を使う才能があるからだと思います。この声が聞こえるでしょう?』
「あ、この声…って事はお前の声だったのか。…そう言うのって見ただけで分かるのか?」
だとしたら…嫌だ。レーダー身体にくっつけて動いてるようなものだ。俺の技意味無いじゃん!!と、思っていたがユーノは首を振って否定した。
「速人さんは…」
「あ、そういや速人でいいぞ。敬語もいらね。」
いきなり言われたユーノは口ごもるが、脳内で練習したのかすぐに順応してくれた。
「速人は剣を振った時に魔力を放出してたんだ。それが利いたんだと思う。」
そっか…俺魔法使えるのか…魔法怪盗ハヤト三世、狙った獲物は逃がさない!!なぁんて言ってみたりして。
「お兄ちゃん、また関係ない事考えてるでしょ。」
「お前はエスパーか!?」
なのはに睨まれて萎縮する俺。…ってまて!兄の威厳が無いぞ!!慌ててふんぞり返って主導権をとりにかかる。
「とにかくだ、そうなると残りを探さなきゃならない訳だからどうやって探すかだよな。」
「見つける度におうちとか道路とか壊しちゃ皆の迷惑になっちゃうしね。」
考慮事項をわざわざ挙げてくれるなのは。優しい子で何よりだ。
「あ、あの…そこまでしていただく訳にはいきません。僕の責任ですから僕がブッ!!」
何か言いかけてたフェレット(と言う種類らしい)ユーノの顔面にでこピンをかましてやった。鼻の辺りを押さえて転げまわるユーノ。すばらしいリアクション!とか思ってたら後頭部に平手打ちをかまされた。
「ユーノ君いじめない!」
「じゃあなのははユーノ一人旅賛成派?」
「違うけど…言えばいいと思う。物凄い痛そうだよ。」
ようやっとの思いで動きを止めて痛みを堪えているらしいユーノ。…サイズ差補正つえー。
「ワリ、一応加減はしたんだが。」
「い…いや…大丈夫…」
俺はまだ悶えているユーノを摘み上げて、目線を合わせる。
「デコピン一発で身悶える宿無し文無し異世界野生小動物をたった一匹放置して、世界崩壊引き起こしかねない代物のある町でボケーっとしてられる訳ないだろ?事が片付くまで俺がキッチリ守ってやるよ。」
「あ…ありがとう…」
「私も手伝うよ!!」
と…ある意味予想通りな返答をしてくれる妹君。こーなると頑固だからねぇ…うちの妹は。
「エー…」
「何で嫌そうな呟きを漏らすの!?」
俺の声から滲み出る不満を感じ取ったなのはが講義してくる。とは言え実際不満な訳ですよ。俺は一応念押しの為にいい例題を探す。…身近にいたな、素晴らしく分かり易いのが。
「なのは、お前分かってるのか?運動音痴で小学生の一般人が、魔法が使えるからって戦闘に出る。それは、万能包丁を手に入れたからって理由で嬉々として『料理に走る姉さん』と同じ位危険だと言う事を。」
「うっ!」
たとえがバッチリ理解できたのか、なのはは思いっきり顔を顰めた。姉さんの作る料理は歯噛みしながら吐き気を堪えてようやく飲み込める代物だからな、死なないだけマシだが、危険には変わりない。
「で、でも…」
「ま、レイジングハートの持ち主はお前だし、俺の後ろについてきて石を拾う位はいい。後はまぁ…やりたかったら俺に一発当ててみな。それまで前は却下。」
「…うん。」
不満たらたらの顔で承諾するなのは。俺としては単純にやりたいと言ってくれれば手伝えるんだが…同じ家にいながら御神の鍛錬をしてない以上、戦闘が好みな訳じゃないだろう。だったら責任感とか義務感とか、そんなものが先立ってるだけだ。
それじゃ、なのは自身の幸せとは違う。
「つー訳だから、俺が前衛、対象の撃破。なのはが封印…って感じでいいな?後は町への被害を何とか止めたいんだが…」
「僕が結界を張るよ。その中での戦いは周囲に被害が出ない。」
「そか、んじゃ…」
そんな感じで明日からの行動指針を決めた後、俺は部屋へ戻った。
魔法少女…か。丁度俺の方も夢を叶えるチャンスかもな。
俺の夢、それはバッドエンドをぶち壊せるようなヒーローになる事。俺と同じ人目に晒すべきでない力を使いながら俺を救ってくれて、大切な誰かを守るために戦える御神の人達のように、あんな場所で身に着けた力でも誰かの為に使えるならそれほど素晴らしい事はない。
だから…やってやる。この騒動を何事もなく乗り切って、なのはやユーノが笑顔で騒動の終わりを迎えられるよう全力で。
それなりにハイペースでは進めたいと思いますが、一応本日はここまでです。
確認するだけでも大変で(汗)