第十八話・海上の決戦から終わりの始まり
一時帰宅ということで、なのはは家に戻った。…え?俺?
魔法の修行をするって事で一人でアースラ残ったぜ。
何しろ勉強する気も無ければ鋼線の予備もあるし、アリサに言われた通り、学校にまともな友人はいない。
休み時間と放課後に修行してる俺が、遊び盛りの小学生の中で友達何て出来るわきゃ無いのだ。
まぁ兄さんや格闘の師匠とはかなり仲いいし、それほど気にしてない。先日ポカやったばっかりの魔法の扱いに時間を裂くって言うのはそこまで悪い事じゃないと思うし。
そんなわけで、俺は魔法陣の上を歩いているのだが…
「むぅ…近接戦闘が極められない訳だ…」
魔法の制御自体は出来るのだが、そっちに意識を裂かざるをえないため、貫のような高度な集中力がいる技がまともに使えそうも無いのだ。
その上、俺が展開している魔法陣は1個。
数作る事は出来るが、作る事に意識を裂けば裂くだけ当然技なんて使えない。3つも作れば徹すら出来ないし、5こも作ればそもそも動き回れない。
平気で二桁近い魔法陣を展開してくれたユーノってやっぱ凄いんだな…
やっぱデバイス欲しいかも…って言うか魔力以外全部デバイス任せにしたい。
魔導師が聞いたらふざけるなと怒鳴られそうな事を思いつつ、何とか魔法を行使しながら出来る限り身体を動かしてみる。
と、そんな事をしていたら通信が入った。
なんでもアルフがアリサに飼われていたらしい。後で笑ってやろ。
なんて考えていられる余裕は無かった。
アルフは、フェイトに虐待を加えているプレシアに戦いを挑んで返り討ちにあって逃げ出したと言うのだ。オマケにフェイトのほうはそんなプレシアが笑えるようにとジュエルシードを集めるというお願いをかなえる為に単身で戦っていたという事らしい。
フェイトの芯の強さと優しさに感心しつつ、俺は違和感を感じていた。
母親云々抜きにしても、自分の都合のいいように動いてくれてる人間をわざわざ消耗させるなんてよっぽどの何かがないとしない筈。悪人だって、言い方は悪くなるが、体よく使うためにもっと餌っぽいものを撒くだろう。
それが、徹底的にフェイトをいたぶってる?
単なる馬鹿ならそんなんでも判るけどとんでもなく優秀な研究者だったらしいし、現状アルフに逃げられてこうしてばれている事を考えると、方針としては間抜けにしか見えない。やっぱり何かフェイトそのものに恨みがある?
…フェイトを産んだせいで夫に逃げられたとか?
何か昼ドラなノリになりそうだったから考えるのを止めた。
フェイトを救った上で事情を聞けばいい。まだプレシアの事を何も知らないんだ、犯罪者に成り下がってまで叶えたい願いが尊いものだったらこのまま御用はあまりにもったいないし、願いが叶ったらそれをダシにフェイトに謝らせるのもアリだ。
なんにしても、なるたけ上手い事終わらせないとな。ヒーローになる気なら。
「で、どうするんですか?俺的にはこのタイミングが妥当かと思うんですけど?」
かねてより決まっていた、なのはとフェイトの一騎討ち。他にジュエルシードも無い以上このタイミングで動いておかないと回収されたジュエルシードだけでも使われたらまずいことになるらしいし、俺達が渡すそぶりを見せなければ引きこもって使ってしまう可能性がある。
だから、こっちのジュエルシードで釣る。そういう作戦だった。
なのはとフェイトの決着がどうであれ、管理局的には転移時に本拠地を暴くことで仕事を済ませることが出来るし、俺達はフェイトについて任せてもらっただけだからフェイトと決着つけられればOK。互いに理想的な作戦だ。
「明日にでも作戦を決行しよう、速人、君の力も借りていいんだろ?」
「そりゃ当然、フェイトが無事なら問題なし。管理局の優秀な魔導師さん二名を生け捕りにしたヒーローの実力、存分に頼りにしてくれよ。」
俺は胸を張って自信満々に答えた。が、クロノは肩を落とす。
「だったら今日位ゆっくり休んでくれ。訓練とは言えやりすぎは良くない。」
俺は首を傾げた。今日はまだ始めて6時間位しか経ってないんだけどな…
そして、決戦の日…
被害が出ないようにと海で行う事になった決戦。なのはとフェイトを戦わせると決まってから、なんだかんだ言って管理局の人達もなのはを鍛えてくれたし、かなりいい勝負が出来るだろう。
ジュエルシードの反応でこっちの位置を教えていると、フェイトが姿を現した。
…戦績は二敗。そんな相手にラスト一戦になるともなれば緊張しているかとも思ったが、なのははまったく動揺を見せなかった。
さすが、と感心していたんだが…
「始めよう!最初で最後の本気の勝負!!」
我が妹は何か聞き捨てなら無い言葉を吐いてくれました。
「二回も派手に負けといてそりゃずるくない?」
レイジングハートを構える我が妹の暴言をたしなめる。
緊迫した空気が緩み、なのはは派手にずっこけた。
「そ、そうじゃないの!今回だけ勝つ気で戦うの!!今まではお話したいだけだったから!!」
「あーいるいる。負けといて『今のは試合用の全力だ。』とか言う奴。見苦しいぞー。」
「アンタやめなよ!話が進まないじゃないか!!」
必死に否定して来るなのはは楽しかったのだが、アルフに止められた。
ま、試合だしな。緊張感ったって程々でいい。
仕切り直しとばかりに構えたなのは。フェイトは表情を変えない。
「いくよ、フェイトちゃん!!」
宣言するなり、なのはは飛び立っていって…
桜色と金色の光が交錯した。
誘導弾をメインに攻めるなのはに対して、フェイトは直射弾を使用する。
フェイトの放つ弾は高速だが、それだけで対処できる程なのはは甘くない。なにしろ執務官様の指導に従って魔法戦を鍛えてたんだ。速いだけの弾でどうにかなる筈がない。
よって、フェイトは接近戦を仕掛ける。
御得意の超高速移動魔法で接近したフェイトは、鎌を振りかぶって…
なのははそのタイミングで近付いた。
「何度も同じ手に!!」
「あぐっ…」
が、フェイトは接近して来たなのはの腹に向かって膝を叩き込んだ。それなりに考えてたんだろうが、バリアジャケットがある上急所も関係なしに放った攻撃で止まる訳がない。
対してなのはには、この時の為に用意しておいた対策がある。
『いいかなのは、ハッキリ言ってお前には格闘戦の才能は塵の一かけらも無い。一般人を10とするならお前は0.01くらいか。』
『にゃ!?ひ、酷い…』
『だが近接戦闘が出来ない訳じゃない。その為の便利道具だ。』
『え?』
『いいか、よく聞け。近付いたらな、触るだけでいい。』
なのははフェイトの胸に手をおく。
…そう、踏み込みとか打ち込みの姿勢とか、そんな永い習練が必要な物などいきなりで使える訳がない。
だから素人なら…
「『ディバインバスター…』」
「っ!?」
『首尾よく触れたら…後はぶっ放せ!!』
撃つだけでいい砲撃の方が余程強い。
「『インパルス』!!」
姿勢も射程も関係ない。ただ当てたい相手に向けて撃てば、元が砲撃だけに回避も難しく、姿勢も何も撃ったものさえ当たればダメージが入る。
最初ただのディバインバスターで試して自分もダメージを受け失敗。その後、発動を早くし自分へのダメージを減らし距離を離せるように調整した、なのはの近接砲撃魔法。
練習にって近距離戦をやってくれたクロノが見事に一撃で伸びたのは記憶に新しい。
だが…フェイトは無事だった。
高速移動で離脱したのか…
完全には避けられなかったらしくバリアジャケットの所々が裂けている。自分で教えといてなんだが恐くなったな、なのはも。
「フェイト…大丈夫なんだろうね?」
「なのははデバイス本体での攻撃はしないからな。直撃しても死なない。気を失ったら溺れる前に拾えば大丈夫だろ。…痛いけど。」
距離が開いた以上かなりなのはが優勢だろう。なにしろ砲撃は出力、魔力弾は誘導性で負けてるんだから。
そう思ってたんだが、なのはが金色の輪に拘束された。
バインドか!フェイトもできたんだな。
「ま、まずいよ!!」
アルフが慌て出し、なのはを取り囲むように魔法陣が点滅する。
フェイトの最大奥義って所か。
「なのは!今」
「ストップだ。」
「速人!?」
飛び出そうとしたユーノを止める。
「敵との殺し合いなら止めにも入るが、これは違う。なのはかフェイトが投げないうちは邪魔すんな。」
「けどアレはホントにまずいんだよ!意地はってあの娘に何かあったらどうする気だい!!」
非殺傷設定だって完全に万能じゃない事は知っている。まして変換資質で発生しているものそのものは完全な現象だ。魔力攻撃そのものはともかく変換後の雷にそんな都合のいい設定は効かない。
『速人お兄ちゃん、ありがとう。』
『いーから集中しろ、相当やばいぞソレ。』
なのはからの礼に念話を返した瞬間…
「ファイア!!」
フェイトの声と共に、雨のような光弾が降り注いだ。
…うん、大見得切ってみたけどこりゃ酷い。
四方を100人位に囲まれてグレネードランチャーでも乱射されればこんな感じになるだろうか?魔力弾が次から次に着弾し、あっという間になのはの姿は魔力の残滓に隠れて見えなくなる。
普通なら、コレで終わりだろう。
だが、あいにくとあの高町家の子供が普通な訳が無い。
なのはは浮かんでいた。ズタボロのバリアジャケットに今にも閉じそうな瞳を意思だけで開いて。
ま、無事なら絶対意識は落ちないとは思ったけどな。何しろ休み丸一日使った無茶な訓練にもギリギリついてきた位だ。スポーツ的にはオーバーワークはよろしくないが、コレには別の意味がある。
限界ギリギリ、限界越えの状態でも投げない力を身に着ける。
「ディバイン…バスター!!」
お返しとばかりに放たれたなのはの砲撃魔法。
回避型のはずのフェイトだが、ソレを真正面から受け止めて耐え切る。
あ、凄ぇ。持ちこたえた。
母親の為…か、意地って凄いな。こりゃ判らなくなった…
とか思ってた俺は、どうやらなのはの馬鹿さ加減を舐めすぎていたようです。
上空に上がったなのはの前に、巨大な魔力の塊が出来ていた。
って言うか、現在進行形で巨大化していた。
ちょっと待てなのは、ソレを人間相手に撃つ気か?
何て言うかもうコレ、ただでさえ人間相手だったら凶悪な砲撃のディバインバスターを軽く数倍上回ってそうなんですけど…
フェイトは呆然として逃げようとして…バインドにかかっていた。
これはもう苛めだろう。いや、虐待?
非殺傷設定、確かに万能じゃないようだ。死なないから何やってもいいなんて勘違いもいい所だ、間違ってもコレは友達に撃つ技じゃない。
「これが私の全力全開!スターライト…ブレイカーッ!!!」
これは後で叱っておこう。そう思った瞬間、フェイトの姿が巨大な光の柱に飲み込まれた。
光が収まってフェイトを抱えるなのはに、覚えたての床形成を使用して近づく。
「あ、お兄ちゃにゃあっ!?」
俺はなのはの頭を鞘で殴った。さすがに痛いのか頭を抑える。フェイトは力をなくして俺が形成している魔法陣にへたり込んだ。
「馬鹿かお前は!アレが仮にも友達になりたい奴にやる技か!!」
「で、でも全力でやるって」
「お前、死ななきゃ何やってもいいなんて思ってんだったらレイジングハート取り上げるからな!物凄い嫌だとは思うけど、相手が死ななきゃ強い人間は何やってもいいんだろ!?」
「そ、それは…」
口ごもるなのは。…ま、フェイトも休ませなきゃならないしコレ位でいいだろう。
「死ななくたってまずい事がある事ぐらい、俺がクロノに重傷負わせた時に十分理解してるだろ?だからちゃんと考えてくれ。」
「っ!う、うん…ごめんなさい…」
魔力を持ってるからって言う理由で手伝いを始めた上、自分より強い相手ばっかだったから、加減なんて知らないんだろう。おまけに非殺傷設定の事もある。
反省してくれたならよしとする―
雷の前兆を感じた。
俺はなのはとフェイトを庇うように跳躍し、雷撃の直撃を受けた。
妙な時間になってすみません。
一応は理由がありまして…投稿を行おうとしたらDOS攻撃の話が上がっていて、相当に重かったため、『これ以上負荷を増やす真似は不味い』という事で一時引かせていただきました。
で、妙な時間ですがたまたま起きているので、動作も軽くなっているようなので今投稿することにしました。
それでなくても夜の時間帯は込み合っているようでもありますので、これからも状況しだいで投稿時間を変えるかも知れません。ご了承願います。