なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十七話・尊くも交わらない思い

 

 

第十七話・尊くも交わらない思い

 

 

 

俺は泳いで竜巻から逃げていた。

 

何しろ水中の生き物でもないのにやたら激しくなっている流れに振り回されているんだ、たまったもんじゃない。

 

どうにか落ちる前になのはに刀を受け取ってもらえたのは幸いだったな。海に落ちたら錆びて使えない。

 

 

「なーんて…言ってる場合じゃないよなコレ!!」

 

 

いくら身体能力を強化できたところで渦の中を泳ぐには人間は不向き過ぎる。大体強化したって、超人ってレベルがせいぜいだ。人外なステータスが得られる訳でもない以上こんな渦を強化だけで泳ぐのは無理がある。

 

 

竜巻が方向を変えて、俺を飲み込もうとする。

 

逃げ切れない…っ!?

 

 

 

 

黒い閃光が、荒れ狂う竜巻を切り裂いた。

 

 

渦が弱まったので何とか抜ける。ソレと同時、緑色の鎖が伸びてきた。

 

 

「まったく速人は無茶すぎだよ!あんなに迷わず飛び込んでおいて外でたらコレ!?」

 

俺は鎖に捕まって一気に引っ張る。海中から飛び出して、ユーノが展開してくれた魔法陣の上に着地する。

 

「っとサンキュー。後でこの魔法教えてくれよユーノ。」

「死にかけてたって言うのに随分余裕あるね。」

「一瞬や二瞬死にかけたからって怯えるような根性じゃあの家で修行出来ないんだよ!!」

 

自信満々に言い切ってやると、ユーノは頬を引きつらせた。…そりゃそうだ。フレアの奴も魔導師には理解不能って言ってたし、話を聞けば聞くだけ恐ろしいものなんだろうな。

 

「とにかく今回は下がってて。ただの竜巻相手じゃ少し斬ってもしょうがないし、フレアみたいに派手に破壊する事も出来ないだろ。」

「む…」

 

言われて目の前の現象を見る。…うん、無理だ。斬っても意味なさそうだし、アレに有効な程の魔法の扱いなんて覚えてない。

 

「しょうがないな、今回無事に済ませれば我が妹の裸を堂々と見ていた件についてはチャラにしてやろう。」

「うぐっ…でもソレって温泉の件は…」

「当然『別』だ!桃源郷に単独突撃した罪は海より深い!」

 

 

肩を落としたユーノは俺を置いて竜巻に向かっていった。

ま、いくらジュエルシードって言ったって、あのメンバーなら大丈夫だろう。アルフがフレアとやりあわないかだけは心配だが…

 

 

折角の協力第一歩だ、ここは妹に譲ってあげますか。

 

 

 

Side~フェイト=テスタロッサ

 

 

いきなり転送されてきた白い娘と速人。

アルフが警戒して二人を見るが、二人のほうはそれ所ではなかった。

 

 

速人が一直線に海に向かって落ちていったのだ。

助けに行こうとして、自分が高速移動魔法すら使えない状態なのに気づく。

 

 

と、速人が持っていた刀をバリアジャケットの後ろに差し込んだ白い娘が私の目の前に来ていた。

 

「分け合おう、ジュエルシード。きっちり二人で半分こ!」

『ディバイドエナジー。』

 

そう言った彼女は私に魔力を送ってきた。

 

一気に身体に力が戻ってくるのを感じながら、私は動揺を抑える事ができなかった。

 

 

 

『まぁ…管理局の方に友達がいるなら何とかなるかもしれないね。』

 

 

リライヴの言葉が一瞬蘇って、私は目を閉じる。

 

違う…そんな筈が無い。

速人だって彼女に全て任せるって、彼女のために私を見逃してくれてるだけで、私の手伝いをしてるわけじゃない。彼女とだってずっと戦ってるのにこんな事を…

 

 

「速人お兄ちゃん!!」

 

と、白い娘の声がして視線を移すと、今にも竜巻に追いつかれそうになっている速人の姿があった。

 

 

デバイスを構えた瞬間黒い光が竜巻を切り裂く。

 

光の先には、初めて管理局が現れた時に一撃でアルフを叩き落した槍使いが現れた。

 

「やっぱり管理局…」

 

彼はデバイスを手にしたまま白い娘に近づいていく。

私とアルフは警戒を強めたが、横目に見ただけで私達に手を出す気配が無い。

 

「私の砲撃系は殆ど使い物にならない。フェイト=テスタロッサと協力するというのであれば彼女と共に封印を。時間稼ぎは引き受けよう、いいな使い魔。」

 

それどころか、管理局員のはずの彼はアルフに共闘を持ちかけた。

アルフは歯軋りしながら彼を睨みつける。

 

「誰が管理局なんかと」

「私も犯罪者など信用していない、だから勝手に三つ抑えろ。私もそうする。」

 

そう言って彼は竜巻に向かって飛翔した。光る槍の先端を振るう事で一撃でジュエルシードの発生させている竜巻を叩き斬る。

だが、大本に影響が無い以上しばらくすると再び竜巻が出来る。

彼はソレをひたすらに繰り返していた。私達に目もくれず。

 

 

「フレアさんだっていつまでも続けられるかわからない、だから一緒に。ね?」

 

白い娘が私に微笑みかけてくれる。…どの道、今はジュエルシードの封印が先。

 

「…アルフ、お願い。」

「あー…しょうがないね!やってやろうじゃないか!!」

 

アルフは頭を掻いた後、竜巻を鎖で拘束した。

 

黒い光を放つ槍を振るっていたフレアという人は、私達の準備が出来たを確認してその場を離れる。

 

タイミングを合わせて放った封印の魔法は、全てのジュエルシードを封印した。

 

 

その数は六つ。

 

 

白い娘はそのうち三つを手繰り寄せた。

 

 

 

本当に…渡す気なの?

 

 

 

彼女といい速人といい、何でこんな事をするのか分からなかった。

危険である事は分かってるはずなのに、私にジュエルシードを渡す。

 

 

 

悩んでいた私への返答は、物凄く簡単なものだった。

 

 

「友達に…なりたいんだ。」

 

 

目の前の白い少女はそう言って手を差し延べた。

 

 

 

いきなり力を振るった相手に

 

犯罪者として認識されているはずの人に

 

今尚敵としてここにいる筈の私に

 

 

 

 

私はその手を取りかけて…

 

 

 

 

「あああぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

紫色の雷撃が、私の身体を打ち抜いた。

 

 

薄れゆく意識の中、私に向かって何かを叫ぶ白い少女の声がした。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「フェイト!!」

 

いきなり雷撃に撃たれるフェイト。

っ!!一体何処のどいつだこんなざけた事を!!

 

アルフがジュエルシードを取りに行くが、割って入ったクロノが半分回収していた。

アルフは残りのジュエルシードを持ってフェイトと共に何処かへ消えて行った。

 

クロノが半分回収したのはたまたまだろうが、約束守らせたのは感謝しないとな。

 

 

 

…さて、と。後はアースラで喧嘩タイムかな。

 

 

キレかけてたとはいえ俺が出たのは完全なアホだったしな、なにしろ飛べないんだから。交渉云々抜きにしても目茶苦茶怒られそうだ。

 

 

 

 

 

 

「済まなかった。」

 

 

 

そう思ってたんだが、アースラに戻るなりフレアにいきなり謝罪された。

 

「犯罪者を楽に捕らえる為にお前の世界で発動しているジュエルシードを放置した。これは許されるべき罪状ではない。」

 

あ、そういえばそうだな。穿った見方をすればそうなるだろう。

 

「あ、あの…そんな事ないです…勝手に動いちゃったのは私達の方ですし…」

なのはは自分が悪いと思っているのか、フレアを止めようとするがアッサリと首を横に振るフレア。

「仮にその部分を咎めるとして、この世界を舞台にして危険物を放置した事に変わりはない。本当に」

「局員である貴方がそう言う謝罪を勝手にしないで欲しいんだけど。」

 

言いながら現れたのは、怒った様子のリンディさんだった。

ま、そうだよな。戦力だって限りがあるんだし、いつ何が起こるか分からない以上最善策を取らなきゃならない。指揮官なら怒るのも当然だ。

 

 

分かるがそれは向こうの事情、俺は特に謝るつもりはない。

…だって次があっても同じ事する奴の謝罪なんて意味ないし。

 

「…冷静さを欠いてあんな危険な場所に行って何かあったらどうする気だったんですか。」

 

リンディさんの静かな声。なのはが申し訳なさそうに俯く。

 

「ごめんなさむっ!?」

「謝るなって。お前次フェイトがピンチだったら止められて放置できるか?出来ないんだったら謝罪のフリだけされても困るだろ。」

 

なのはの謝罪の言葉を後ろから抱きかかえるようにして止める。

 

「そうね、それに関しては元々貴方達に任せるという契約がある。でもね…」

 

リンディさんはなのはを除けて…

 

 

 

 

 

俺の頬を引っぱたいた。

 

 

あんまり痛くは無いから驚いただけだった。何でパー?

 

「…えーと、軍隊式ならグーなんじゃないんすか?」

 

呆けてそんな事を聞いてしまった。リンディさんはそれが首を横に振った後俺をまっすぐ見る。

 

 

「コレは別の話です!無茶をして貴方に何かあったら家族が悲しむでしょう!!」

 

 

ちょっと意外。戦艦の中で長やってる人にそんな事で怒られるとは思ってなかった。

だけど、無茶って言うなら既に色々しなきゃならないと決まっている。

 

何しろ夢がヒーローだ。夢物語にしか存在しないようなものに成ろうと思ったら常識に従って動いてすむ訳が無い

 

「心配してくれてありがとうリンディさん。空飛べないの忘れてた事は反省します。」

「貴方は…」

 

俺に続けて何か言おうとしたリンディさん。俺はそれを聞かずに訓練室に向かった。

ユーノに床の作り方を教えて貰わないと拙いし…

 

 

これ以上聞いていると一から十まで話さなきゃいけなくなりそうだったから。

 

 

 

Side~プレシア=テスタロッサ

 

 

 

襲い掛かってきたアルフが逃げ出したと伝え、あの人形にジュエルシードを催促してアリシアの元に戻ると、そこには雇った傭兵の姿があった。

 

 

「また貴女…ここには軽々しく立ち寄って欲しくないのだけど。」

「そう言わない。貴女と話すのならここが一番いいだけ。ここでは下手に戦えないでしょ?」

 

彼女…リライヴは静かにそう言った。

忌々しい…だが実際アリシアに下手にダメージを与える訳にも行かない以上、ここでは戦えない。

 

「大体貴女あの人形の補助ばかりでちっとも出ないじゃない。」

「管理局が来るのは当然。となればかなりのジュエルシードを奪われるのも仕方ない。けどそれじゃ困るでしょ?」

 

それは確かにそうだ。アレがいくらかなりの腕とは言え、管理局を敵に回して必要数のジュエルシードを回収できる訳が無い。

 

だけど、ジュエルシードが無ければアリシアが…

 

 

「だから、私が奇襲をかける。存在が知られてないほうがやりやすいし、ましてや実力なんてもっと知られる訳には行かない。」

 

 

 

目の前の小娘が言った言葉を理解し損ねた。

 

 

非戦闘員の私はもちろん、AAAクラスのあの人形ですら太刀打ちできない戦力に向かって単独で奇襲をかけると言ったのだ。理解出来る筈が無い。

 

敵の戦力は管理局員の内エース級が二人、民間協力者のほうもAA以上。

 

 

これだけの戦力があれば、一国と戦争すら出来る。

 

 

 

 

それを、十前後のこの小娘が一人で相手にすると言ったのだ。

 

 

 

 

「正気?」

「それはプレシアには言われたくない。でも、アリシア助けるんでしょ?」

「ええ、そうよ。」

 

それは変わらない答え。アルハザードへ行き、アリシアを救う。

でも、この小娘にはまったく関係ない。管理局に手配されるだけで何の意味もない。

 

「どういうつもり?」

「依頼者から請けた仕事を完遂するつもりだよ。ジュエルシードを持ってくる、必ず。だから、貴女は無駄に体力使ってないで休んでて。アルフ逃がしちゃったから面倒になったんだし大人しくしてて。」

 

 

涼しげに私を手伝うというこの小娘のせいで、嫌でも理解させられてしまう。

自分が異常な事をしていると。

 

この小娘を雇ったのは単純に戦力の増強のためだ。使えなければ葬ればいいと思っていたし、敵に回る奴らの数を考えれば人形一人では心もとない。

 

だから雇った。

 

犯罪者の手伝いも引き受けるような人間は何かしら一癖も二癖もあるような連中ばかりでこの庭園に近づける気さえ起きなかったのだが、小娘で戦力になるのなら丁度いい。そう思っていたのだが…

 

この小娘は、隠していたはずのアリシアを私に気づかせずに見つけて、私の話を鵜呑みにしたうえで手伝っている。

 

「どの道貴女の体でジュエルシードを奪うのは無理。だから任せて。」

 

 

澄んだ瞳でそう言ってのける彼女に、私は言いようの無い苦しさを感じていた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




本日はここまでにしたいと思います。
…特に決めてるわけではないんですが、何か4話ずつですね(笑)

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