第十六話・今この時この場所に居る理由
アースラに来てから、なのははクロノやフレアに指導の元、魔法技術の修練に精を出していた。
どうにも修行と言うには不足な感じの為、なのはは若干不満げだったが、魔法に関して先輩のクロノ執務官の指導だ。聞かない訳にも行かない。
ま、なのはが見てきた兄さん達の訓練は、何人か壊れるかもしれない領域ギリギリを突っ走って抜けた奴だけが辿り着く場所だからな。普通の人間なら故障を危惧してあそこまでやらない。
そう考えるとクロノに任せておいた方がいいだろう。
と、思ったのだが…
「…そろそろ聞きたいんだが、何でお前俺に張り付いてるわけ?」
俺はストーカー気味に俺の様子を伺っているフレアに向かって呆れ混じりに呟いた。
ちなみに、俺は今魔法に関しての基礎知識の本を読んでいるだけだ。何も面白い事をしている訳じゃない。
「興味があるだけだ。」
そう言って俺を見続ける男…フレア。
何だコイツは?…俺危険!?
「お、お前アレですか?女の人より男のほうが好きだったりする人?」
「何の話だ?」
俺の言葉に首を傾げるフレア。何の冗談でもなく本気で言っているらしい。
…こ、コイツ俺より年上なんだよな、本気で言ってるのかソレ?
「え、えっと…恋人とかいらっしゃいますか?」
思わず敬語になってしまう。
って言うか、本読んでるだけの男を遠目から見続けてくる他人の男ですよ?不気味に思って無理ないだろう。
「色事に興味は無い。私は力を手に入れなければならないからな。」
一蹴だった。何の躊躇いも無い。何と言うか事務的な反応ばっかだな…
だが、何となくつけてきた理由がわかった。
ようは俺様の天才的戦闘能力に惹かれたって所か。
「模擬戦でもやればいいのか?」
「非殺傷の利かないお前と直接的な模擬戦をやる訳にも行くまい。ましてお前とてバリアジャケットすら生成できない身だろう?」
どうやら戦闘能力目当てなのは間違いないようだ。とは言え模擬戦が望みでもないならなんで俺に張り付いているんだ?
「じゃあ何で張り付いてるんだよ。試合する気もないんだろ?」
「お前の能力は魔導師の理解の及ばない部分にある。ならば戦闘とは関係ない部分にそのヒントがあってもおかしくはない。ソレを探すためだ。」
言いたい事はわかった。だが、だからと言って四六時中張り付かれているのも困る。
「…判った。事件が片付いた後なら模擬戦でもなんでも付き合ってやる。なんだったらどんな修行やってるとかだって説明する。だから頼むからストーカーは止めてくれ。」
「む…」
犯罪者呼ばわりされて顔を顰めるフレア。
ようやく離れてくれる気になったのか、部屋の外へ向かい…出入り口で振り返る。
「無理強いはしない。アレだけの技術だ、秘匿されるべき物なのだろう?」
「修行法知ったからってできるかよ。」
ニヤリと笑って言ってやると、フレアは笑みを返してきた。
Side~フェイト=テスタロッサ
時空管理局が来てから、仕方ないのかもしれないけど町のジュエルシードは殆ど手がつけられなかった。あの白い娘や速人も管理局と行動しているし、リライヴのお陰で消耗した状態での捜索はしなくてすんだけど、それでも難しいことに変わりは無い。
「海上への魔力流の打ち込みによる強制発動ね。その後に時空管理局まで相手にする気?」
「難しいのは分かってる…それでも、やらないと。母さんが待ってる。」
私はバルディッシュを握り締めて言う。
「アンタも手伝えないのかい?」
「ダメだよアルフ。リライヴはサポートで、依頼を受けてきてくれてるだけなんだから管理局の人に見つけさせる訳には行かない。」
リライヴの魔法の腕は、回復魔法で既に十二分に理解していた。正直手伝ってもらえればいいのだけど…
リライヴは申し訳なさそうに目を伏せて首を横に振った。
「ごめん、管理局に見つかる訳にもいかないから。プレシアからはフェイトのサポート以外に頼まれている事もあるし。」
「大丈夫、ありがとう。」
食事を取る間も惜しんでいた私に手早く食べられるものを用意したりとかなり細かくサポートしてくれているリライヴ。彼女には本当に頭が上がらない。
「まぁ…管理局の方に友達がいるなら何とかなるかもしれないね。」
「…そんなのじゃ…ないよ。」
あの娘も速人もジュエルシードを集めるに当たっては敵対組織。だから友達なんかにはきっとなれない。
SIDE OUT
魔力の変換について感覚を掴んで、何とか風翔斬『ウィンドスラッシャー』を物にした。
溜め無しで放ってもそれなりに距離の大木を切断する位の力はある。
何より…速い。
抜刀で使う事が前提のためか、滅茶苦茶速い。振りぬいたら着弾してるって位に。
なのはも新技の開発に勤しんでいるようだし、今ここの戦力ぶっ飛んでるなぁ…
とか考えていると、ジュエルシード発動の連絡が入った。
リンディさん達の下へ向かうと、モニターに六つの竜巻と戦うフェイトの姿があった。
「うわまずいな、あの数はいくらフェイトでも無理だ。急いで」
「出る必要は無い。」
俺が転送ポートへ走ろうとした瞬間、クロノがそう切り替えした。
「彼女は自滅する。そのタイミングで残っているジュエルシードを回収すればいい。」
「そんな!!」
「こんな危険な状況に踏み込ませる訳には行きません。話をする時間は用意するから」
「ふざけんな。」
俺はクロノの言葉を切り捨てた。
…ジュエルシードの威力については十二分に承知している。そのせいで死に掛けたんだから。
だけど、それでも…今ここで戦ってるあの娘を見捨てるのは違うだろ。
俺達がここにいるのは、フェイトと話すためなんだから。
俺は叩きのめしてでも転送させようと思って…
『二人は僕が送る、魔法陣に入って。』
ユーノから、念話が届いた。
『ユーノ君!?』
『なのはと速人は僕を助けてくれた。今度は僕がそれに答える番だ、僕だって大切な友達の力になりたいんだ!』
ユーノの声と共に、転送魔法陣が展開される。
クロノとリンディが驚いたらしく目を見開いた。
さっすがユーノ!サポートの天才!
俺はなのはの手を引き魔法陣に飛び込む。
「なっ…待」
「邪魔はさせない!!」
ユーノがクロノと俺達の間に入る。くーっ、いいとこ持ってきやがって!
「あ、あのっ!ごめんなさ」
「いいの!フェイトについては俺達で対処するって約束なんだから!サンキューユーノ!」
俺はユーノに対して礼を言って、光に飲み込まれた。
Side~ユーノ=スクライア
…元々あっちの住人の二人はともかく、僕はコレ確実に重罪なんだろうな。
そう分かっていながらも、何処かすっきりした気持ちが浮かんできているのがわかった。
きっと、コレが『矜持』って言う物なんだろう。
確かに傍迷惑極まりない。明らかに正しい判断を気持ち一つで切り捨ててるんだから。
でも、折れなかった。
怒りと悲しみに染まった速人の声も
たった一人でロストロギアと戦う彼女も
ソレを悲痛な目で眺めるなのはも
正しいの一言で切り捨てるのを、どうしても許せなかった。
だからこの後罪人の判定を受けてもきっと後悔はしない。
そう覚悟を決めて対峙して…
「失礼ながら進言すると、私も出撃するべきだと思います。」
予想外の所から、助けが入った。
「フレア!?君までそんな甘い事を」
「犯罪者がどうなろうが知った事ではありません。」
クロノの言葉をいつも通り静かな口調で切り捨てるフレア。
彼からは出会ってからずっと、まったく感情を感じたことが無く、はっきり言ってクロノよりも怖かった。
だから、とてもまっすぐな瞳のままデバイスを握りしめた彼をとても意外に感じた。
「我々は、ロストロギアを保守管理し次元犯罪者を拘束、罪なき世界を守る為の機関です。魔法を知らない者の住まう管理外世界で起動しているロストロギアを、犯罪者を捕らえるのが楽だから放置する?我々は此所に何をしに来たのですか!!」
本気になった彼が意外だったのだろう。他のメンバーも唖然としていた。
「非情な手段は必要でしょう。ですが、それで切り捨てられるべきは我等戦うと決めた者の命です。これでは犯罪者を捕らえるためにロストロギアを使用しているのと何も変わらない!!」
少しだけ間があって、リンディさんがその口を開いた。
「ユーノさん、フレアと共に現地に向かってもらえるかしら?」
言いながらリンディさんはモニターを指す。
「飛べない事も忘れて自信満々で飛び込んだ彼の救出をお願いします。」
モニターには、ジュエルシードが巻き起こした竜巻から逃げようと海を泳いでいる速人の姿があった。
…なんか台無しだよ速人、いろいろと。
SIDE OUT