第十五話・判明した新事実と初めての魔力技
今後の方針として、アースラからジュエルシードの捜索を行って、必要しだいで転移魔法で現地に下りる。
基本的にリンディさんとクロノの指示を守って行動して欲しいと言う願いは、俺は特に問題なく頷いた。俺もなのはも部隊の指揮なんてやった事ないし効率のいい行動方針なんて決められる訳も無い。
その辺を取り決めた後俺となのはは…
魔法の才能検証と言うことでいろいろ検査をやってた。
指示された通りに魔法を扱っていくなのは。クロノはそんななのはを見ながら感嘆の声を漏らす。
「放出系が凄いな、空間認識もかなりのものだ。こんな短期間で複数の誘導弾を制御するなんて。」
「そうなのか?弾も遅いし砲撃なんてわかりやすくてろくに当たらないと思うんだが…」
クロノはなのはについてコメントしている間は普通だったのに、俺の言葉を聞いて眉を顰める。
「遅いって…確かに防げないものじゃないが決して遅くは」
「あー…クロノ、速人については人間の常識を当てないほうがいいよ。」
クロノの声を遮る様に、傍らで結界(アースラを破壊しないため)を維持するユーノが、溜息と共にそう漏らした。
「何だよ…真人間相手ならともかく魔法使いに人外扱いされたくないぞ。淫獣。」
「だから違うって!大体速人に言われたく」
「兄さんとアリサに告げ口してやる。」
抗議の声を漏らすユーノだったが、俺の死刑宣告に縋り付いて謝ってきた。そりゃそうだ。あの二人敵に回すだけで真っ当な死に方はさせてもらえないだろう。
「なのは、もう少し出来るか?」
「あ、うん。大丈夫。」
クロノからの頼みを笑顔で受けるなのは。砲撃を多めに使ったとは言え、まだまだ普段の訓練時間より遥かに少ない。
「速人、君の戦闘能力が見たい。君達がいつもやっている訓練をそのまま見せてくれ。」
「了解。んじゃ行きますか。」
指名があったので、俺はさっさと前に出る。地面に直径3メートル程の円を描いて、準備完了。
円内部で回避、迎撃を行う俺に対してシューターが当てられるか、俺が円の外にでればなのはの勝ち。なのはが根負けするか制限した時間が過ぎれば俺の勝ち。
ちなみに、足を止めた状態で敗北して以来この条件でやっているが、無敗だったりする。
「さてなのは。いつも通りだそうだ。くれぐれもあんまりにも当たらないからって砲撃魔法ぶっ放すのは止めるように。」
「そんな事しないよ!」
怒りながらシューターを生成するなのは。
そりゃそうか、年甲斐も無いお行儀星人だもんなコイツ。
円の中に入った俺に向かって、幾つかのシューターが生み出され、すっ飛んできた。
俺は二刀を抜いて、それを迎え撃った。
シューターを切断、回避する。
こんな程度の数じゃ当たらない。ま、一時期は足を固定した状態でやってた位だからそれに比べたら成長してるか。
「ちょ、ちょっと待て!今彼背後から飛んできた魔力弾を切断しなかったか!?」
「速人は動いてない物相手なら見て無くても攻撃を当てられるんだ。森位なら目隠ししたままで歩けるみたいだし。」
「そんな馬鹿な…」
こういう感覚的な部分は魔導師特有のマルチタスクとか言うのをやってたら一生身につかないだろう。修行したって身につくかどうかは稀みたいだし。特殊能力でなく技術だから、誰でも身に付ける事は出来るんだろうが…
山奥で何時間でも動かずに瞑想を続けるだけの集中力とかそんな類のものが居るし、誰でもって言うには苦行過ぎるんだろうな。
「もういい、よくわかった。十分だ。」
クロノから静止が入るが…
「ちょ、もうちょっと待って!絶対一撃当てるから!!」
「連敗記録更新するもんなぁ?頑張れ魔法少女。」
超が付くほど頑固ななのははそれを断って、俺に一撃を当てるために制御できる限界数5個のシューターを生成し…
俺に向かって同時に放った。
数が増えれば増えるだけ、一つに裂けるリソースは少なくなる。つまり…フェイントも何も無く俺に向かって突っ込んでくるだけの五個。
俺は位置関係を読んで二閃を以って全てを切り払った。
「何で飛んでくる魔力弾を一振りで複数斬り払えるんだ?」
「僕に聞かないでよ…僕だって常識人だから速人のデタラメさは理解不能なんだから。」
「さっきから聞いてればお前らなぁ…魔力弾だから魔力無しじゃ斬れないかも知れないけど、兄さんならこんなもん二桁きたって凌げるからな。俺だって常識的真人間だ!」
何か物凄く呆れられたので怒鳴り返したが…
「「それは無い。」」
取り合ってすらもらえなかった。クスン、いじけてやる。
と、クロノは何かを思い出したように呟く。
「そう言えば、君は気が付いていないのか?」
「何が?」
さっぱり判らない事を言われて首をかしげる。
「変換資質さ。」
クロノは言いながらフェイトの映像を映し出す。
レイジングハートが持ってたデータ(から、久遠等バラしたくない部分を引いたもの)だが、クロノはフェイトが生成した魔力弾を指す。
「彼女は雷の変換資質を持っている。こういえば判りやすいか?ようは魔力行使の際に特定の力に変換させる能力のことさ。魔法でも同じ事が出来なくは無いが、適正が高いほど特に意識する事無く変換後の力を行使する事が出来る。」
なるほど。やる事なす事雷撃だったのはフェイトの特性だったのか。ってあれ?
「俺こんなもん持ってたか?」
「殆どの魔力を強化にしか行使していない君は気づいてないようだが、剣を振るう最に放たれていた魔力が砂塵を巻き起こしていた。あまり聞かないが君は『風』の変換資質持ちのようだ。」
魔法関係ならば大した観察眼らしい。はー…たまに衝撃波ちっくな物が出るなとは思ってたけど、漫画でよくある力を放出した際の衝撃波だと思ってスルーしてた。
「それじゃ、俺は意識して魔力を操れば風を操作できるのか?」
「そうなるな。風を付加させて飛行や弾道制御を行う事も可能だろう。」
クロノの答えに俺は頬が緩むのを抑える事ができなかった。…いきなり何もかも上手い事行くほど簡単なものじゃないんだろうが…魔法として扱うには術式とか言うのを構成しなきゃならないようだが、単純な放出までなら…
魔力を刀に集中させる。そのままの形で放出させるようなイメージでいいだろう。
俺が抜き放った剣閃は…
離れた位置にあった木を切断した。
メキメキと嫌な音を立てて倒れていく木を眺めた後、俺は刀を握り締めて飛び上がった。
「ぅおっしゃーっ!!見ろ!『遠当て』だぞ『遠当て』!!凄ぇっ!!剣士の夢だよなぁ…くーっ…早速技名考えないと!!」
本物の達人なら遠くの蝋燭を消す位なら出来るようだが、ここまで露骨な剣閃による遠距離攻撃はファンタジー限定の産物だ。そして、俺的にはまさに夢にまで見たような必殺技だ。
「お、お兄ちゃん…そんなにはしゃが無いで…恥ずかしいの…」
「馬鹿野郎!コレがはしゃがずにいられるかぁっ!!」
苦笑するなのはに向けて笑みを隠さずに言い切る。
「…彼、僕が話すまで変換資質について知らなかったんだよな?」
「そーだよ…まぁ魔力運用については術式前の基礎中の基礎ばかり練習してたけどね…」
人が喜んでいると言うのに他の男二人は超テンションが低かった。
Side~フレア=ライト
高町速人が見せた能力は、驚く他無かった。
一つは先刻の遠距離斬撃の速度。あの速さは異常だった。
攻撃力はそこまで高いようではなかったが、誘導弾程度なら簡単に切断できる。
…アレは、それなりに発動が早くないと防御魔法の展開が間に合わないだろう。
しかも、デバイス無しで思いつきで使った技だ、修練を積んでデバイスを手に入れればかなり厄介な技となるだろう。
だがそちらはいい、Sランククラスとは言え速度のある攻撃ならば出来るものはいる。
もう一つは…理解できない奴の戦闘技術。
いくら私でも、いや、おそらく魔導師と言うカテゴリに属す者にはおおよそ理解不可能な現象だろう。
事実、クロノ執務官もレアスキルと称する以外に理解不可能なようだ。
背後からの魔力弾を切断し、二刀で五発の魔力弾を凪いだ。五回斬った訳でもなく。
一つの軌道に複数の的を収めただけ。理屈はわかる。だが、直線でもなんでもない誘導弾の軌道に一閃を合わせると言う概念が理解できなかった。
魔導師ならば普通はシールドで防ぐ。
強力な防御能力は前衛の必須能力で、間違っても前に出て回避する等と言う発想にはならない。
だが、理由にはすぐに思い至った。
魔法が無いのだ。
念じただけで出て来るような強固な盾も、重量に関係なく簡単な攻撃なら防ぎきる服も、瞬間移動も飛行手段もない。
そんな中、質量兵器は存在している世界の裏と関わりがある鉄の塊を持っただけの生身の人間。
故に、彼らが戦うのならば、当たらず戦うしかない。
反応は研ぎ澄まされ、剣閃は磨かれていったのだろう。
おそらくは…銃等の火器にすら対応できるほどに。
魔導師からすれば異常だ。質量兵器はものによっては魔導師すら危険なものも幾つもある。
それと生身で渡り合えるなどと話した所で誰も信じないだろう、この光景を見るまでは。
趣味すら考えた事もなかった私は、初めて知りたいと思った。
書籍や理論に残せない『何か』、理解不能な力の原理と…
そんなものを習得している年端も行かない少年の事を。
SIDE OUT