なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十四話・暖かい声を背に事件の終わりへ

 

 

第十四話・暖かい声を背に事件の終わりへ

 

 

 

「と言う訳で事情も説明出来ないんだけどしばらく家を空けたいんだ。学校も休む事になるけどいいかな!?」

「いいぞ。」

 

 

いくらなんでも無理がないかと思われた俺の話は父、士郎にアッサリと承諾された。

 

「は、早っ!何で!?」

「…速人、温泉であの場に俺が現れた時点でとうに気付かれてる事ぐらい分かっているだろ。」

 

あ、そりゃそうか。

 

母さんは兎も角として、兄さんが察してる事に父さんが気付かない訳がない。兄さんは静かに続ける。

 

「重ねて聞くが…手伝える事はないんだな?で、重要な事なんだろう?」

「ああ。」

 

迷いも憂いもなく頷く。

 

 

「ならば俺から言う事は一つだけだ、なのはを守れ。」

「シスコン。」

 

 

兄さんの隣りに座っていた姉さんが、余計な事を口にしたせいで頭を鷲掴みにされていた。

…兄さん握力80あるからな…ありゃ地獄だろう。

 

「私としては心配だけど、士郎さんの妻だものね。こういう時は無事に帰って来るのを待ってるわ。」

「サンキュー、母さん。あ、後…」

 

と、父さんに視線を移す。これだけはちゃんと言っとかなきゃならない。

 

「日曜朝の特撮とアニメの録画お願い。」

 

俺は最大限真剣に頼んだのに、爆笑された。あんまりだ…

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

「って訳でしばらく学校おやすみしなくちゃいけないの。ノートとかお願いしてもいいかな?」

「当たり前でしょ。」

 

何の迷いもなく即答してくれるアリサちゃん。

 

「それよりも事情が聞きたいんだけどね私は。」

「それは…」

 

魔法の事を下手に話せない以上出来ない相談だった。

 

「分かってるわよ!企業機密って奴なんでしょ?」

 

私が口ごもったのを察してくれたからか、すぐにそう言って許してくれた。

お家の人のお仕事もあってか、こういう事に私よりずっと理解があるアリサちゃん。

元気に答えてくれるアリサちゃんの声に救われた気分だった。

 

「ちゃんと帰ってくればそれでいいわ。」

「うんっ!」

 

アリサちゃんとのお話が終わって、すぐにすずかちゃんに電話をかける。

 

 

「あ、すずかちゃん。あのね、実は…」

 

 

 

 

事情のお話し中…

 

 

 

 

「で、しばらく学校いけなくなっちゃうからお電話したの。」

「そっか…さみしくなっちゃうね。」

 

すずかちゃんから少し暗い声が届く。私は目一杯元気だと伝えるように明るくなるよう意識する。

 

「大丈夫!頑張って全部終わらせて来るから!」

「うん…気をつけてね。」

 

すずかちゃんともお話が終わって一息吐く。

 

 

 

「…でもそっか、あんまり長い間一緒にいられないのも嫌だよね。」

 

帰って来るように言ってたアリサちゃんと、さみしくなると言ってくれたすずかちゃん。

 

本当に頑張って早く戻ろう。友達がいなくなっちゃうのは…きっと凄く嫌だ。

 

「あ、くーちゃんにも連絡しないと!えっと那美さんは…」

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

常駐する羽目になるならと、砥石と予備の鋼線をタンマリ渡された。

凄ぇ嬉しかったけど…

 

「あの…行って来ます。」

 

なのはがそう言った時の兄さんの目が語っていた。

 

 

 

 

 

『下手うったらぶっ殺す』と。

 

 

 

感づいてはいたんだろうけど、なのはが関係者だと知ってからの対応が尋常じゃなく恐ろしい。

 

ったく、姉さんには怒ってたけど完全にシスコンじゃねーか。

 

「んじゃ行ってきまーす!!」

「二人共気をつけてね!」

 

 

 

ピクニックにでも行くような軽いノリで俺は家を出た。戻る気満々だしこういう方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

そう…思ってたのにねぇ…

 

 

 

 

 

「久遠も手伝う!!」

「にゃ!くーちゃん!?」

 

公園に行く途中、子供フォームの久遠に止められた。

 

「あ、あのねくーちゃん、今回はお手伝いは…」

「なのはは友達、迷惑かけるのは嫌だ。」

 

言いかけたなのはの言葉を封じる久遠。珍しくマジだな…と不思議に思っていたが…

 

「でも!やたみたいにいなくなっちゃうのはもっと嫌だ!なのはに怒られてもダメ!絶対手伝う!!」

「ぁ…」

 

すぐに分かった、当たり前だ。

 

久遠の能力に夢移しという他人の夢や過去を見せる能力があるのだが、それで俺は久遠の過去を見ていた。

 

 

 

笑顔で久遠の元を去った青年が…

 

村人に殺されている姿を。

 

 

 

だからって同行させるわけには行かない。何とか安心させてやろうと俺はいつも通り笑う。

 

「久遠、俺がついてるから大丈」

「速人なのはにかついでもらってた!!!」

 

 

一蹴されました(笑)

 

 

暴走止めた時か…見てたんっすね久遠さん。

こりゃ無理だ。何より訳が訳だけにあまり止めたくない。

連れてくしかないかな…

 

 

俺はあきらめて、久遠を連れて行こうと―

 

 

 

 

「いい加減にしなさい!みっともない!!」

 

 

言おうとした所で、知った声にそれを止めた。

 

 

「あ、アリサちゃん!?すずかちゃんまで!」

 

声の方に目をやれば、アリサがずかずかと久遠に向かって歩いて行く。すずかはアリサの後から続いて来ていた。

なのはの友人勢揃いだった。

 

アリサは何をするのかと思えば…

 

 

久遠の頭をひっぱたいた。

 

「アンタね!行きたいのが自分だけだと思ってるの!?」

「だって危ない!!」

「分かってるわよ!けどなのはが帰って来るって言ったんだから信じなさいよ!こういう時背中押して笑顔で見送るのも友達のつとめでしょ!!」

 

捲し立てるアリサ。…目の前で誰かに死なれた事がないとこういうのは分からんからなぁ。とは言え気持ちのいい姉御肌だ。

 

「…ま、そーゆー訳だから。ノートはちゃんと取っといたげるから安心して行ってきなさい。」

 

アリサがなのはに笑顔を向けて

 

「久遠ちゃん、大丈夫だよ。なのはちゃんは約束守ってくれるから。」

 

すずかが久遠をなだめ

 

「うん。ちゃんと戻って来るから待ってて。」

 

なのはが三人に誓う。

 

幸せそうで何よりだ。

 

と、なのは達を見ながら満足していたのだが…

 

 

「で、後ろで偉そうに頷いてる自称ヒーローは見送りに来る友達もいない訳?」

 

 

アリサが何か可哀想な人を見る目で俺を見ていた。

こ、こいつ…痛い所を…

 

「せめて見習いと言え!大体お前らだって見送りに来たんじゃなくて久遠の大声聞いて駆け付けた口だろうが。遅刻するぞ?」

 

俺の台詞に今更心配になったのか、なのはが二人を心配そうに見る。

 

「そうなの?」

「あ、うん。もうそろそろ行かないと。」

「わかってるわよ!休む奴には言われたくないわ!!」

 

そりゃそうだ。

アリサのもっともな言葉に俺達は口ごもるほか無い。二人は学校へ向かって駆け出し、一度振り返ると手を振ってそのまま学校へ向かっていった。

 

ったく、登校中に人がいい奴ら。

 

「久遠、お前の事とかあんまり知られないほうがいいんだ。ひょっとしたら面倒な事になるしな。興味本位で来た奴にいろいろ調べられるような事になったら面倒だ。」

「…わかった、ちゃんと帰ってきてね?」

「うん、約束する。」

 

小指を絡ませるなのはと久遠。ほのぼのとした光景なんだが…

 

 

久遠がブチギレたら被害は都市単位…早めに止められなかったらもっと大きくなる可能性すらある。

 

 

 

なのは、約束守れよ?世界が滅ぶか否かはお前の生死にかかっている。

 

 

 

 

 

公園まで来ると、しばらくして念話が届く。

 

『今から転送するけど、周囲に人は居ないわね?』

『問題ないっすよ。目視できる範囲にはおそらく誰もいません。』

 

変な気配は感じないし、こっちを見てる人も居ない。おおよそ直線500メートル位の範囲には感づいてる奴は居ないだろう。

 

「…ねぇ速人、そういう台詞って当たり前に言っていいものじゃないと思うんだけど?」

「何でだ?狙撃主の腕によっては直線一キロ把握できたって普通に打ち抜かれる可能性あるからな。関係ない人間はともかく、敵とかこっちを意図的に見てる奴だったらわかんなかったらガードなんてつけないだろ。」

 

不思議がるユーノだが、それ位できないと…っつか出来ても相手によっては十二分にやばい。

 

「魔法行使してないし…君本当に人間?」

 

ひっでぇなユーノ。自分はフェレットのクセに。

 

 

転送されながら、俺はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず君達の紹介と今後の説明をしようと思うんだが…君はいい加減に元に戻ってもいいんじゃないか?」

 

迎えてくれたクロノが、ユーノを見ながらそう言って…

 

「そうだね、もう魔力も十分だし…なのはの家ではフェレットで居ないといけなかったからすっかり忘れてたよ。」

 

 

苦笑するようにそう言ったユーノは光に包まれ…人間の姿になった。

 

 

「この姿を見せるのも久しぶり…っ!!」

 

俺はユーノの胸倉を掴んでいた。

 

「な、君は何をしてるんだ!」

「お、お兄ちゃん!?驚いたのは判るけど」

「え?お、驚いたって…僕始めて会ったときはこの姿じゃなかった?」

 

三人の声が聞こえるが、俺はそれらについて考える余裕は無かった。

 

「は、速人…何を…」

 

知らず力がこもってきているらしく、ユーノから苦しそうな声がする。

 

「お前っ…お前は…っ!!」

 

 

だが駄目だ。自制が利かない。

 

 

 

俺は思いのままありったけの力を込めて叫ぶ。

 

 

「フェレットなのをいい事になのはと風呂に入ったりしてやがったのかぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

空気が凍った後、なのはが真っ赤になってユーノを見る。

 

ユーノは、現状を理解して慌てて弁解に走る。

 

「え…あ…ちっ…違う!そ、そりゃ何言ったって言い訳にしかならないけどでも狙ってやった訳じゃ」

「ふざけるなぁっ!!俺が!温泉で覗きに走ろうとした『だけ』で覗けなかったのにお前は忍さんや姉さんの胸に抱えられてやがったのか!?晶さんやレンさんの裸までしっかり眺めて記憶してやがったのか!?俺は何にもいい事なかったのに正座で説教喰らったんだぞ貴様ぁっ!!」

「ちょ、ちょっと!本気で怒ってるのはわかったけど言ってる事は人として駄目すぎるよ速人!!」

「貴様が言うかぁっ!桃源郷を単独で占拠しやがってぇっ!!」

 

俺はがくがくとユーノを揺さぶりながら抗議する。

だってコレでお咎めなしとかずるいだろマジで!!

 

だが…この状況で抗議する内容としてはあまりに不味いものだったらしい。

 

 

 

「お兄ちゃん。」

 

 

冷めた声に目を向ければ、ものすっごく怒ってらっしゃる妹が居た。

 

な、なんだいなんだい!漢のロマンなんてどうせ女にゃわからないんだいっ!!

 

 

 

ふと、もう一人の男クロノを見れば、額を押さえて頭痛でも堪えるように俯いていた。

あ、そういや艦の中だっけ?悪い事したな。

 

「…そこの淫獣の刑罰は後で考えておくから、艦内で不穏な叫びはやめてくれ。」

「あ、はい。サーセンっした。」

「ちょ!刑罰!?」

「ユーノ君は私が無理やり連れ込んでたんだし…お兄ちゃんと違って悪くないの。」

 

そんな会話をしながら俺達はリンディさんの下へ向かった。

クロノすまん、だが漢として許せないものがあったんだ。

 

なのはのお陰でかなり落ち着いたが。クロノが促したから歩いてるものの、殺気に近い怒りを纏うのはどうかと思いますよ?

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

「時空管理局を敵に回してまでジュエルシードを集める…か。凄い娘だな。」

 

サポート役として怪我を治した後食べやすい食事を食べさせると、殆ど休まずに二人とも飛び出してしまった。

魔力を受け渡したりもしたけど、疲れてない訳が無いのに…

 

「お母さんの願い…か。」

 

過去を思い出して首を振る。今は自分の事はいい。

 

「…貴女ここで何をしてるの!?」

「依頼主の真意を知りたかっただけです、別に何もしませんよ。」

 

私は部屋に来たプレシアと向かい合う。私の背中には、ポッドに入れられた状態で浮かんでいる少女の姿があった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 


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