なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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注)IFはオリ主との恋愛話になっております。下記を確認した上で読んで下さい。
・IFのため本編とは違う事が大小発生します。
・作者に恋愛経験はありません(苦笑)

今回はなのはと速人です。


~風纏う英雄IF・恋の小箱~

 

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

ブラスターを用いた二度のスターライトブレイカー。

更に限界を超えた身体で空から落ち行くリライヴちゃんを救出するために魔法を行使しようとする。

 

 

 

 

 

フミコエルナ

 

 

 

 

体に走る嫌な感触。

まるで伸びきった紐がミチミチと立てる音のような、そんなイメージと激痛が襲いかかる。

意識を保てない。このままじゃ…

 

 

 

『…ない。』

 

 

 

刹那、フラッシュバックの様によぎる映像。

ボロボロの身体でたださらわれただけのヴィヴィオの事で謝るお兄ちゃん。

本当に失わせたらその程度で済む筈が

 

 

 

「っ…ああぁぁぁっ!!!」

 

 

 

考えたのはそこまで。

気づけばありったけの力で魔法を放っていた。

 

 

そこまでしてやったのは、何の事ない浮遊魔法。

落下するリライヴちゃんをゆっくりとおろした私は…

 

「か…はっ…」

 

体の中からの激しい痛みと、口の中に広がる血の味を最後に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はこれ以来、二度と魔法が使えなくなった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

~風纏う英雄IF・恋の小箱~

 

 

 

 

JS事件から少しの時が経ち、俺は無限書庫へ顔を出した。

理由は…

 

「そろそろなのはにプロポーズしないか?」

「ぶっ!!」

 

ユーノの後押しをするため。

 

どうせ断られる心配とかして言い出せてないんだろうが、なのはにとって特別な男の知り合いとしては唯一に近いし、なのはもユーノの事を嫌っているはずがない。

お見合いで面識もない人探しても良いけど、ああ言うのは恋人探しと違い、生活や未来も考慮する選択だ。

その辺しっかりしていて人としても問題ないユーノ。しかも親しい仲だ。

少なくとも、共に生活する相手として不満はないだろう。

 

「見当違いなら悪いけど…お前はなのはの事好きなんだろ?」

「それは…まぁ…」

 

恥ずかしいからか少し目をそらして呟くユーノ。

本当は身内でも人の恋路に口出しするもんじゃないとは思うが、状況が状況だ。

 

魔法を失ったなのはを支えもなく放っておく気は俺にはない。

 

「だったら大丈夫だ。あいつにお前以外の深い仲の男はいないし、恋とかの自覚が」

「いるよ。」

 

自覚がないだけで上手く行くはずだ。

そう続けようとした俺の言葉を切ったユーノの台詞は、完全に俺の予想外の物だった。

 

馬鹿な…身辺情報も色々知ってるし、フェイトとの仲があまりに様になりすぎてて結婚するか不安な位なのに、俺が知らないうちにユーノが不安になるような男がいるはずがない。

 

「ちょっと待て、初耳だ。あいつの恋人候補がお前以外に?」

「聞いてないのも無理はないね…」

「何だよ、勿体ぶるなって。」

 

溜息混じりのユーノに迫る。

なのはの本心が大事なのは確かだが、俺としては降って湧いた奴よりユーノの方が信頼できる。

ユーノの勘違いかも知れないし聞かせてもらって少し調べて

 

 

 

「君だ。」

 

 

 

呟かれたユーノの言葉に思考が止まる。

 

「は?」

「速人…なのはは君が好きなんだ。」

 

呆けた俺に分かりやすくゆっくりと告げるユーノ。

なのははが好きな人が…俺?

 

「いやいやいやいや!それはないだろう!!」

「そういう反応するとは思ったけどさ…」

 

速攻で否定した俺に対して何故か呆れたような反応をするユーノ。

俺が励ましに来たのに何でユーノの方が余裕あるんだよ!

 

「お前馬鹿だろ!兄妹だぞ!?」

「兄妹だと好きにならない保証でもあるの?」

「有り得ないっての!常識的に考えろ!」

「君には常識語られたくないよ!」

「なのはの好みの話なんだから常識でいいんだよ!」

「本気で言ってる?」

「当たり前…あれ?普通の女の子?」

「疑問なんだ…なのはに告げ口しよう。」

「き、汚いぞ!だったら俺もお前の大胆予想バラす!学校時代からこの手のネタでいじられると怒ってたしな!」

「い、言えるなら言って見なよ!あんな人数の女の子と10年近く暮らしておきながら何も出来ないお子様ヒーローのくせに!」

「くっ…すずかのアレに耐えるのがどれだけ根性のいる事かも知らずに…お前だってなのはに10年告白できてないじゃないか!」

「だから!なのはが好きなのは君だって言ってるだろ!!」

「いいやお前だ!!」

 

 

実りのない口喧嘩がしばらく続き…

 

 

「な、なぁ…当のなのはがいないのに男同士で褒めあいって虚しくないか?」

「は、速人が始めたんじゃないか…」

 

軽く息を切らせながら、虚しい会話をやめた。

少しの静かな間を置いて、ユーノはゆっくりと口を開く。

 

「…君は…なのはに助けられてない唯一の人間だ。」

「え?」

 

意味が分からなかった。

なのはに助けられてないって…結構面倒かけてる気もするんだが…

 

「ミッドになのはに憧れた人は大勢いる。僕やフェイトでさえなのはに助けて貰って知り合った。」

 

そりゃ憧れる人はいるだろう。あれでもエースオブエース何て呼ばれる位だ。

 

「でも君は違う。迷惑を嫌がってたなのはを泣かせたり、皆がなのはを強いとか大丈夫とか思って何も気づけなかった昔の事件でも、君はずっとなのはの世界に踏み込んだ。そんな君がいたから、君の側なら…なのはが教官でも救い手でも、『いい子』ですらなくても、なのはのままでいられるんだ。」

「それは…」

 

ユーノが話した事は、俺が目指した事だ。

馬鹿やってる…それでも楽しそうな同年代の中、一つ下のはずのなのはが、まるで達観したかのように大人のフリをやっていた。

魔法を失いかけた時ですら笑顔を『貼り付ける』あいつが、我が儘を言えるように…本心を出していられるように望んで…

 

それが好きな人?兄ではだめなのか?

 

「本当の正解はなのはにしか分からないし、君が兄妹を望むならこんな話どうでもいい。だけど…」

 

俺の考えを読んだかのようなユーノの言葉にドキリとする。

 

「唯一遠慮もなくいられる存在の君が、『兄妹であることに遠慮』して本心を捨てるなら…なのはだって遠慮せざるを得なくなる。彼女は『いい子』であろうとするはずだ。」

「…そうだな。」

 

ユーノの言葉に静かにうなずく。俺が遠慮してなくても我慢するなのは相手に、俺が常識を考えて気持ちを否定すれば、なのはは本心を語れない。それが誰かの迷惑ならなおさら。

 

「君が本心を語らずにそうなったときは…僕は君を絶対に許さない。」

「…わかった。」

 

許さない…何て、滅多に言わないユーノの言葉に本気を感じた俺は、真剣に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で真剣に考えよう。とは言っても…

 

 

 

 

恋心。

 

 

 

 

こんな表題で思考が働くほど大人じゃなかった。

何しろ俺の心と願いの源泉はヒーローで、その前が心無き生きた殺戮兵器。

 

恋愛?何それ。

 

コレではどうするか答えを出す…所ではない。

 

「そこで近隣では最速の人生の成功者たるクロノ大先生にこうして御足労いただいた次第でございますどうかお力添え」

「君がそこまで腰低いとかえって怖くなるんだが…」

 

管理局施設の休憩室の一室。

頭を下げ全力で頼む俺に、逆に怪しいものを見るように引くクロノ。

 

「大体、いきなり呼ばれて『恋や結婚について教えて欲しい』と言われてもな…まずどういう経緯でそんな事を聞きたくなったのか教えてくれないか?」

「ああ。その…誰にも言うなよ?」

 

事情説明を催促された俺がした念押しに、クロノは額を抑えて息を吐いた。

 

「だから…らしくなさすぎて怖いんだが…」

「わ、悪かったな!慣れてない話なんだよ!」

 

クロノの指摘通り正直いつも通りではない自覚があるまま、俺はユーノとの話を説明した。

 

 

一言も割りこまずに全ての話を聞いたクロノは…

 

 

 

「馬鹿だな。」

 

 

 

予想通りと言うべきか、冷めた返答をしてくれた。

 

「言われるとは思ってたけど…理由まで聞いていいか?」

 

真っ直ぐに問いかけた俺に、クロノは小さく頷く。

 

「まず兄妹で結婚云々の話になる事。万一フェイトに告白されたなら僕は病院を勧める。次に恋関連の話が分からないままユーノに告白を勧めた事。生活関連の考えはそう外れても無いだろうけど、政略結婚じゃないんだから根拠が薄すぎる。」

 

すらすら話すクロノ。

結構ずばずば言ってくれるが…病院を勧めるって酷いな…家の姉さんどうするんだよ。

 

 

「と、余計な所もいくつか上げられるが…」

「は?」

 

 

唐突に笑顔で言葉を切ったクロノが告げた台詞に、思わず疑問を吐いてしまう。

余計な所って…今のは無視していいって事か?

少し間を空けたクロノは、睨む位に鋭い視線を俺に向ける。

 

 

 

「一番馬鹿なのは、君が相談を持ちかけている事だ。」

 

 

 

クロノが妙に重く告げた一言が、おかしく無い事に首を傾げる。

 

「君は選ばない、選択を迫れば両方を拾える方法を探す。もし君が兄妹でいるか結婚するかを悩むなら、躊躇いなく兄妹で結婚できる国を作る筈だ。違うか?」

「それは…」

 

クロノの指摘に口を噤む。

さすがに国を作るかどうかまではわからないが、拾いたい物については悩む事無く両方拾える手を考えるようにしてきた。そういう意味ではクロノの指摘に間違いは無い。

 

「だから、こんな相談した時点で君の選択としては何の関係も無い。」

 

否定できる理由はなかった。黙りこむ俺を前に、クロノは続ける。

 

「でも何故か相談を持ちかける位には悩んでいる。それは…なのはの為だから。そして、いつもの『捨てない取捨選択』と違って、恋人か兄妹か…なのはの望みを『外した』場合、なのはを傷つける事になる。だから君は悩んで、相談なんて似合わない真似をした。」

 

クロノの言葉を否定できない。

そして、ここまできて否定できないと言う事は…

 

「君の本音はなのはの望みを叶えたい、ただそれだけ。もっと言えば『どちらでもいい』んだ。その程度の意思で結婚がどうだと相談してきた事が、一番ふざけた馬鹿な事だよ。」

「っ…」

 

逃げられない事実を突きつけられた俺は硬く手を握り歯を食いしばる。

クロノは、言うだけ言ったからかそれまでの鋭い瞳を閉じた。

 

「魔法を失った彼女の支えになりたいのも分かるし、彼女が自分から縋る事が無い以上君一人であれこれと考えるのも分かる。彼女の望み次第で彼女との立ち位置が変わる事にも怯えが無い以上、それなりに覚悟はあるんだろうが…根本的な所で不足だよ速人。」

「はは…耳が痛いな。」

 

力ない返事しか出来ない俺に、クロノが小さく微笑む。

 

「まぁ、君が普段通り僕達に選択を迫る時のようになのはに直接行かなかった事だけは褒められた事かな。」

 

普段通り…手を全て明かして相手の返事を待つ。

つまりこの場合、なのはに『兄妹と恋人どっちがいい?』と直接聞きに行く事。

 

…出来る訳が無い。

 

「改めて指摘されると毎回結構惨い事してたもんだな。」

「確かにそうだが…普段の君には命を拾うって言う覚悟があった。逆に言えばこの話が命の絡まない相談と言う事でもある。散々罵ったが、僕としてはこういう話が増えてくれたほうが嬉しいんだけどね。君が悩む姿と言うのも珍しいし。」

 

肩の力を抜いて、カップを傾けるクロノ。

相談に来た身で言うのもなんだが、こうも言われっぱなしと言うのもしゃくだな…

 

「こういう話ねぇ…フェイトとフレアがいい感じとかはどうだ?」

「っ!ごほっ!ごほっ…」

 

飲み物を噴出すのを堪えたクロノが、カップを置いて俯いて咳き込む。気管に入ったらしいな。

フレアが出向終わってからも六課に訓練で顔出したりして、そのフレアからフェイトやエリオの話が結構出るだけなんだが、効果は抜群だったようだ。

 

「増えたほうがいいんだろ。フェイトが行き遅れになるよりいいんじゃないか?」

「彼は強いし、守る事に真摯ではあるんだが…出来るなら妹を任せたくはないな。」

「シスコン。」

「君が言うな。大体君だって理由位分かるだろう?」

 

折角来たと言う事で時間の許す限りこんな雑談を交わして、俺は岐路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に返ってからも、クロノの指摘を思い返す。

 

『それなりに覚悟はあるんだろうが…根本的な所で不足だよ速人。』

 

魔法が使えなくなった。

なのはにとって丸々生活基盤が変わるほどの事態だが、支えになりたい…では色々と足りなさ過ぎるのか…

 

風呂を済ませ、部屋にこもる。

 

考えても答えが出ないなら、所詮その程度の事。

大人しく兄妹として生活しておけば特に何も無く自然に…

 

「っ…楽してどうする。」

 

湧いた考えを否定するつもりで首を振る。

どちらでも良いから流しておく…じゃ、だめだ。俺がどうありたいかはちゃんと決めておくべきだ。

兄妹でいるつもりなら万一なのはが俺の事好いてても、見合いなりなんなり勧めてしまうべきだし、恋人を選ぶなら…尚更俺から動くべきだ。

 

どちらでもいい。クロノの指摘は正しいが、どうでもいい訳じゃない。

 

 

大切だから…ほっといたら我慢や意地ばっかりのあいつに幸せになって欲しいから、称号なんかより優先したいものがあるだけだ。

 

 

だが…選ぶと言うのなら、どっちを選んでも外したら問題だ。

恋人になりたいのに兄妹の体で接するのは勿論ダメージだし、兄妹に告白されたらその後普通に接する事も出来まい。

 

 

俺は…どうする?

 

 

考え込んでいる俺の部屋に、ノックの音が響く。

 

「シュテルか。どうした?何か用事か?」

 

扉を開いた先に、いつもの無表情で俺を見つめるシュテルの姿があった。

シュテルは少しの間俺の瞳を見ていたかと思うと、唐突に踵を返す。

 

「…ついてきて下さい。」

 

それだけ言われて訳が分からなかったが、家族に呼ばれてついていかない理由は無い。

俺はさっさと歩いていくシュテルの後を追った。

 

外へ出て、人気の無い場所まで来る。

いつも魔法戦の練習とかをする為に使う市街地で、基本結界を張れば怒られない場所。

 

だだっ広いその場所に、レヴィが腕を組んで大物っぽく立っていた。

 

シュテルに無言で促されて、レヴィの下へ向かって歩く。

近づいていくと、レヴィは掌を翳して魔法を使った。

 

リングバインド。

 

俺を中心に縮まってくるそれを、バク宙で抜ける。

 

「うわ、凄い!」

 

思わず褒めたらしいレヴィ。いきなり模擬戦か?

まあいい、それならそれでキッチリ…

 

「あれ?」

 

ナギハを起動させようとして、首に下げたものがナギハではなく、同じ形のただのアクセサリーである事に気付く。

ついで、三つのリングバインドが球体のように俺の身体を取り巻いて、拘束した。

 

これは…シュテルのバインドだな。

基本魔力量や魔法技術は大した事無い俺は、拘束されてしまうと動けない。

 

俺が拘束されると、結界を展開するシュテル。

 

「おーい…なんで俺捕まったんだ?」

「家族二名の願い事です。マスターに怒りたいので手伝って欲しいと。」

「はい?…っ!!」

 

質問に返ってきた答えも結局意味が分からず首をかしげた直後、空に出来た強大な魔力反応に気付く。

 

リライヴが、杖形態のイノセントを振り上げていた。

 

透明なので分かりづらい…分かり辛いはずなのにはっきり分かってしまうほど集められた魔力の塊が見える。

 

スターライトブレイカーと同系統の集束砲撃?アイツ本当何でも出来るんだなぁ…じゃなくて!!

 

「あ、あのー…リライヴ…さん?」

「何?」

「何でそんなもの作ってるんでしょうか?それブラックアウト間違いないくらいやばい代物なんですけど…」

 

いくら魔力ダメージって言っても意識が飛ぶ一撃なんて受けたくは無い。

だが、綺麗なリライヴの笑みに悟る。

 

交渉…無理だなコレは。

 

「一回休みだね。」

「せ、せめて理由を先に」

「クリスタル…ブレイカー!!!」

 

笑顔のまま放たれた集束砲撃は、クリスタルの名にふさわしく無色透明のまま視界を歪め、巨大な綺麗な宝石が落ちて来るようだった。

 

意識が消えるまでは綺麗だと思えたよ、うん。

 

 

 

 

 

「あ…ったたたぁ…」

 

超高魔力ダメージによる衝撃とブラックアウトから立ち直った俺は、結界を解除したからか特に変わり無い地面に手をついて起き上がる。

 

冗談でここまでするとはさすがに思ってないから、俺が何かしたんだろうけど…一体なんだったんだ?

 

「目が覚めた?」

「え?あ、あぁ…」

 

俯いたまま頭を抑えながら起き上がると、目の前からアリシアの声が聞こえて来た。

下向いたまま話すのもアレなので顔を起こして…

 

 

 

 

強く、乾いた音が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

平手打ちを受けたのは分かったが、つくづく何でかわからない。

さすがにいい加減理由が知りたいと横に逸れた顔を戻して…

 

 

 

 

 

泣いているアリシアを目にして硬直した。

 

 

 

「ど、どうした?何かあったのか?」

 

 

心配する俺に向かって、握り拳を突き出すアリシア。

掌を上に拳を開くと、そこにはナギハがあった。

 

「全部…聞いた。」

「え?」

「ユーノとの話から、クロノとの話まで全部。」

 

俺の問題だし特に力を借りる事も無いから、わざわざ話す事も無いかと思ってたから話さなかったんだが…

 

「…私ね、速人の事好きなんだよ?ちゃんと分かってるよね?」

「あ、そうだな…」

 

六課に出てる間戻ってなかったからあまり覚えてなかったが、そういや色々と迫られてたっけ…

なのはに告白するとなると確かに止めに入り…あれ?

でも別にまだ確定したとか言う訳でも無いのに何で襲われたんだ?

 

「確かにね、ちゃんとした告白って形で言わなかった私も悪いよ?それに、なのはが好きだからって別に怒ったりしないよ?私こんな体型だし…そもそも好きな人に選ばれなかったってだけなら自分が悪いんだから。」

「ちょっと待った、俺まだ特に選ぶとか」

 

言い聞かせるように泣きながら独白を続けるアリシアの姿が痛々しくなって止めようとして…

 

胸倉を掴まれ全力で引き寄せられた。

 

「…それだよ。」

「え?」

「私がやってた事は全部あしらってた癖に…なのはの事には本人が関わった訳でも無いのにクロノ呼び出して相談に行って、お風呂にいる間にデバイスをすりかえられても気付けないくらい悩んでた癖に…」

「あ…」

 

話しながら大粒の涙をボロボロと零すアリシア。

 

 

 

 

「ここまで大切にされてる…特別扱いされてるなのはですら『どっちでもいい』程度なら!考える事も無いまま流されてた私は!!私は…一体何なのよぉ……」

 

 

 

叫ぶ事すら出来なくなったのか、途中で俯いたアリシアは呟くような言葉を最後に俺の服に顔を埋めた。

 

…傷つく訳だ。怒られて当然だな。

 

「…ごめん。」

「うぁ…ああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

謝って、縋りつくアリシアの頭をそっと抱きかかえる。

 

「そういう事考えなしでするからぶっ飛ばされたって…分かって無いみたいだね。」

 

声に視線を移すと、若干不機嫌そうなリライヴが短剣に姿を変えたデバイスを手に立っていた。

多分、まともに答えすらしなかったのに今抱きかかえた事を怒ってるんだろう。

 

「何となく分かるけど…俺がこういう馬鹿だからなのはの事で悩んでただけで、アリシアがどうでもいいから答えなかった訳じゃないって伝えたくて。きっと治らないし…利口になる訳にも行かないからな。この際怒られる度にぶっ飛ばされるさ。」

「開き直りもそこまで行くと清々しいね。」

 

直す気が無いと言ったも同然なので本気で怒られるかとも思ったが、溜息の後に苦笑された。

 

「ちなみに私が砲撃撃ったのも、速人の誘いを告白って勘違いして受け入れた時にスルーされて、その挙句こんな事になったからだって言うのは」

「え?」

 

苦笑交じりのままリライヴに告げられた宣告に硬直する。

 

ソーダヨネー…シュテル、カゾク『ニメイ』ノネガイッテイッテタモンネー…

 

冷や汗が流れるのを感じながら遠くの空を見る。

 

「…わかって無かったんだね。」

「いや、ホントすみません…」

 

これ以上ない程呆れた声のリライヴ。口答えなど出来る訳が無かった。

 

「謝らなくてもいいけど…答えは出たんだね?」

「あぁ。」

 

真剣に問いかけてくるリライヴに真っ直ぐ答える。

それで満足してくれたのか、リライヴは寂しげに笑った後背を向けた。

 

「ならいいよ。さすがに成功は祈れないけどそれは許してね。」

「随分とさっぱりしてるんだな。もう二、三発は覚悟してたんだが…」

 

アリシアと違いすぎて勘ぐったのだが、帰ろうとしていたリライヴがピタリと足を止めたのを見て思う。

あ…もしかして俺またやらかしたのか?

そのまま動かないリライヴに不安を抱いていると…

 

リライヴは、振り返って笑顔を見せた。

 

「上手くいかなかった時にアプローチする事考えるなら、重たいと思われるより流しておいた方がいいかな…って。」

「っ!!」

 

リライヴの一言に、それまで縋り付いていたアリシアが全力で腕を突き出して間を空ける。

 

アリシアは俯いたまま、服の袖で目が心配になるほどの勢いで涙を拭い、勢いよく顔を起こした。

 

「無理しなくてもそんな事思って無いって。」

「いいの!ただでさえ体型コレなのに大人の余裕までリライヴに持ってかれちゃったら本当に子供扱いぬけないもの。」

「そっか。」

 

アリシアと笑顔を交わしながら思う。

 

 

選択の中から正解が引けるかどうかなんて保障はいつだって無い。物凄く細かい事まで言うのなら、住んでる場所、一歩踏み出した先すら安全確実なんて保証は無い。

そんな中で皆、それぞれの基準を以って色々と決めている。

 

 

大半は常識に沿って。

ある者は信念や欲望に沿って。

ある者は計算と判断を繰り返し。

 

 

 

だから俺は…

 

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

「それじゃあ行って来るね、なのは。」

「うん、気をつけてねフェイトちゃん。」

 

フェイトちゃんを見送った私は、誰もいなくなった家で息を吐いた。

ヴィヴィオは色々と検査がある為家を離れているので、残るのは私一人だ。

 

私は幸い、魔力はともかく身体は無事で済んでいるため、退院自体は許されていた。

最も…魔力と身体が無関係ではないのは闇の書事件で既に分かっている事実。

リンカーコアにはダメージがあるらしく、今私が魔法を使おうとすればそれだけで体に激痛が走る。

試してはいないけどその先に踏み込めば、リライヴちゃん救出時の吐血と同様に、体が内側から壊れていくとの見立てだ。

 

 

 

これからどうするか…

 

 

魔法が使えなくなった今の私には、その現実がのしかかる。

教導官として魔法を教える事は当然出来ないし、指揮官と言う訳でも無いからそもそも局員を続けられるかすら…

 

強制では無いだろうけど、元々管理外世界の住人だ、恐らく海鳴に帰る事になるだろう。

そうなると、分岐点まで戻って考えるなら…

 

 

 

P・T事件のあの時まで遡る事になる。

 

 

 

将来なんて漠然としたビジョンしかなく、まだ何がどうなのかさっぱり決まっていなかった頃まで…

 

「はは…これはこれでくるなぁ…」

 

前に一度落ちた時は、いわば未来を断たれたようなものだった。

魔法の練習こそしてたもののまだ駆け出しで、仮にあの時魔法が使えなくなっても残念で済んだかもしれない。

でも今は…色々と出来るだけの力を磨いた今は…

 

 

翼をもがれた鳥のように、生きる為に必要な力をごっそり奪われたような気分だ。

 

 

…でも、大丈夫。覚悟はあった。

無理ではないかと、ちゃんと自分に何回も問いかけた。泣けるなら、フェイトちゃんはともかく事件が終わって暇なお兄ちゃんにでも愚痴りながら泣けばいい。それなら迷惑でもないと聞いているんだから。

 

喪失感はあるけど、ヴィヴィオもリライヴちゃんも今無事で、ちゃんと助かってる。

 

戦ってればこんな事もあるって覚悟はしてたし、何より、魔法が使える程度に手加減して二人のどちらか…あるいは両方を失っていたら…それこそ私は自分が許せなくなっていただろう。後は…

 

 

 

これからどうするか。

 

 

 

「本当に…どうしよっかなぁ…」

 

 

 

今更実家に帰ってもすぐに出来る事がある訳でも無いし、魔法を失ったからってあまりもの引くみたいに実家を継ぐなんて軽口で言える訳も無い。

 

…専業主婦?なんて…

 

「はぁ…」

 

思わず浮かんだあまりに馬鹿げた考えを頭を振って否定する。

恋人一人いた事が無い私が、出来る事無いから助けて…なんて馬鹿な理由で誰の妻をやろうと言うのだ。ヴィヴィオだって引き取ると言うのに…

 

 

そもそも管理局辞めてヴィヴィオと一緒に居られるんだろうか?

 

 

「っ…何とかする、してみせる。」

 

頑張るって約束して、私が母親でいいかと聞いて助けたんだ。それを裏切る選択肢は無い。

覚悟は出来てる、後は道を選ぶだけだ。

 

 

と、唐突に、甲高いチャイムの音が響く。

 

「あ、はーい。」

 

丁度よかった。一人で考えてばかりだと気が滅入る。

けど、こんな時間に用がある人なんてそうそういないはず…一体誰だろう?

小走りで玄関に向かい、ドアを開く。

 

「あ、速人お兄ちゃん。」

「ちょっと入れてもらうぞ。」

「ん、いいよ。」

 

大方私が自分から甘えないだろうと思って来てくれたんだろう。

お節介と言おうが何をしようが本気で拒絶でもしない限りは踏み込んでくる人だ。

 

そんなお兄ちゃんにどれだけ助けられたかは、数えられたものじゃない。

無理して魔法を行使して気を失った私を助けてくれたのも結局お兄ちゃんだし。

 

「あ、待った。ここでいい。」

「え?」

 

上がってもらおうとした所で止められる。

話をしていくつもりが無いんだろうか?

少し寂しさを感じながら、お兄ちゃんの話を待つ。

 

「なのは、止めたいと思う所も何度も出てくると思うけど、とりあえず最後まで話を聞いてくれ。いいか?」

「あ…うん…」

 

珍しく真剣な表情で告げられたお兄ちゃんからの言葉に頷く。

 

 

 

直後、簡単に頷いてしまった事に後悔した。

 

 

 

初めに、ユーノ君から私の好きな人がお兄ちゃんだと聞いたと言う話。この時点で既に普段なら止めに入ってた。

勘違いとか、聞きたくないからかいの類の話をわざわざするなんて何のつもりだとか、色々な理由で。

次に、クロノ君に恋について教えて貰いに行って、覚悟が足りないと怒られた話。

 

そして、その日の最後…

 

アリシアちゃんとリライヴちゃんに、私の事だけ真剣に考えてると怒られた事。

 

 

そこまで聞いて思う。いや、思考回路は理解する。

 

 

けど…気持ちが『ソレ』を否定した。

 

 

だってありえない、根本的に馬鹿で子供の…子供っぽい所を目指してる上に、家族を大切に思ってるお兄ちゃんなのだ。そんな事するはず…

 

「本当は…こんな時に他の人の事とか、背後の理由とかって話すもんじゃないんだろうけど…後から知れてお前が気に入らなかったら自分を許せないからな。それで…その…」

 

頬を赤く染めて顔を逸らすお兄ちゃん。

何で口ごもってるの?何を言おうとしてるの?

 

 

やがて、自分の頬を音が出るくらいに強く張ったお兄ちゃんは、大きく息を吸い込む。

 

 

 

 

 

「好きだなのは。お前の事が大切で、誰より守りたい。だから…俺とずっと傍にいて欲しい。」

 

 

 

 

理解していた通りの言葉が飛んできて、私は息をのんだ。

 

「…これで、全部だ。質問なり回答なりいくらでもしてくれ。」

 

…否定してしまえ。

 

からかうなと怒れば…ああ違う、全然からかってない。普段なら割と真剣な時でさえ笑顔なのにビックリするほど真面目な表情をしてる。

だったら…好きなのも大切に思ってくれるのも分かってるし嬉しいけど、兄妹だし、今まで通りでいいと答えればいい。

 

 

 

いい…筈なのに…口が全然思うように動かなくて…

 

 

 

「す、好きって…」

「ライクとラブの違いを説明できるほどの経験が無いけど…お前だけ特別って意味でだ。」

「っ!?」

 

思わず質問が出てしまって、返ってきた馬鹿正直な答えと特別と言う言葉に体が硬直する。

 

「傍にって…シュテルちゃん達とか」

「家族ではあるけど…夫婦とその他位に違う。戸籍弄ったりしなきゃいけない事を考えて明言しなかったけど、結婚と同じ意味で考えてくれ。」

「ぁ…ぅ…」

 

どうしようもない位に告白だった。こうも色々明言されては否定できる要素が欠片も無い。

固まっている私を暫く見つめていたお兄ちゃんは、一回息を吐いていつもの笑みを見せる。

 

「即答…出来ない程度には考えてくれてるみたいだな。」

「っ!」

「それなら俺は一度帰る。お前だって経験豊富なお姉さまって訳じゃないんだし、俺も相談とか色々やったんだ。いきなり言われても困る話なのもわかってるしな。ただ…」

 

一歩近づいたお兄ちゃんは私の首に手を回して…

 

 

 

 

動けないまま固まっている私の頬に口

 

 

「っ!な、なっ…」

 

咄嗟に引き離そうとお兄ちゃんの体を押すと、押した感触が分からない位に自然に距離を取られた。

 

「すぐさま否定されないなら、これくらいはいいよな?どういうつもりで言ったのかも…説明するより余程分かりやすいし。」

「そ、そんな軽い理由で」

「気持ちは軽いつもりは無い。」

 

真っ直ぐに言われ、それ以上の反論が出てこなかった。

 

「それじゃまたな。」

 

最後になって、あまりにもいつも通りに帰っていく速人お兄ちゃん。

ゆっくりと閉まって行く扉を眺めて、よろよろとベッドへ向かい、頭まですっぽりと布団を被る。

 

 

 

誰もいないのに顔を出しておきたくなかった。

 

 

 

 

ど…どうしよう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「速人お兄ちゃんに…告白された…」

「え…えええぇぇぇぇっ!?」

 

 

帰って来たフェイトちゃんへの相談は、フェイトちゃんの絶叫から始まった。

 

「フ、フェイトちゃん…夜だから…」

「あ、ご、ごめん…」

 

一応時間も経った事もあって、普通の事を気遣える程度には頭も働いている。

フェイトちゃんを窘めつつそんな事まで再確認しないといけない位に動揺している時点で冷静なんて言い難いけど…ベッドに篭って身悶えてるしか出来なかった朝より大分マシではある。

 

「告白って…その…アレだよね?」

「戸籍とかあるから具体的にどうするかはともかく、結婚と同じって考えていいって…キスまでされた…」

「う、わぁ…」

 

思い出しながら話していくと、フェイトちゃんが何かを呑む様に喉を動かして頬を赤く染めていく。

そんなフェイトちゃんが何故か自分の口元を隠すように手を当てて…

 

「あ!ほ、頬!頬だからね!?」

 

そんなフェイトちゃんの仕草に、説明不足を悟った。

慌てて念を押すと、フェイトちゃんは唇を隠した手をどけてコクコクと頷く。

 

落ち着く為に、一呼吸する。

 

「それで…お兄ちゃんもそうだけど、私もこういう経験全く無いし、色々と相談とかして考えたほうがいいって…昼の内にユーノ君には相談したんだけど…」

「え?」

 

ユーノ君の名前が出た途端に、物凄く苦い声を出すフェイトちゃん。

 

「そ、相談?ユーノに?この空気で?…ユーノは何て?」

「速人お兄ちゃんの好みとか気持ちとかなら、同じ男で友人だから考えてあげる事も出来るけど、私の気持ちに整理つけるなら同じ女の子と話したほうがいいって…忙しかったみたいであんまり長く話せなかったけど、何か手伝う事があるならいつでも言ってって。」

「そっか…漢だなぁ…」

 

何か呟いたフェイトちゃんだったけど、最後の方は聞き取れなかった。

話が逸れた…訳でもないのか。ユーノ君のアドバイスを聞いて相談する人考えたんだし。

 

「それで…こんな事相談できる女の人考えたんだけど…速人お兄ちゃんが迷惑かけてるリンディさんとかにはとても聞けないし、はやてちゃん達は色々違うし、こんな事相談できそうな人フェイトちゃんぐらいしかいなくて…」

「速人の事知ってる人なら少なくとも生活の上では皆却下するだろうし、兄妹でもあるから尚更…だね。」

 

フェイトちゃんの説明に頷く。

どうしたらもなにも自分の気持ちに素直に動くべきなんだけど…

好きは好きで、でも今まで兄妹。しかも答えによってはいろんな意味で一線を越える事になるし…

 

「…デートしてみる…とかどうかな?」

「デート…」

 

フェイトちゃんからの提案をたどたどしく繰り返す。

思えば、こんな一般的な言葉すら使った事が無い位に、浮いた話の欠片もなかったんだなぁ…

 

「気持ちの整理がつかないとか気持ちを判断する材料が足りないとかなら、そういう事してみれば分かるんじゃないかな。」

 

段階踏んでみて、違うと思ったら断る。

硬く決意して言い出してくれたお兄ちゃんに少し悪い気もするけど、ちゃんと考えるならそこまで悪い方法じゃない。

 

「でも…休暇取るの?さすがにそれは…」

「なのはは、その…戦える訳でも無いし、緊急で動く必要は無いから提出する書類とかが片付いてれば大丈夫だと思うよ。」

「…そうだね。」

 

躊躇いつつ告げるフェイトちゃんの言葉に少し寂しさを感じながらも頷く。

戦闘を見て、アドバイスをする位は出来るけど…今の私は直接戦う事が出来ない一人の無力な人間。

オペレートとか指揮とか、そんな能力がある訳でも無いし、緊急で必要になる事は無い。

 

「人生を左右する事だしこんな言い方もどうかとは思うけど…なのはにとってはきっと簡単な事だと思うよ。」

 

フェイトちゃんの言葉に、私は小さく頷いた。

正直な話、生活がどうとかは頑張るだけであまり考えるつもりは無い。

つまり考えるのは…私にとって『速人』がどういう人か、ただそれだけ。

 

と、唐突に通信が開く。

 

『よっす。今日すぐでいきなり悪いな。』

「ぁ…だ、大丈夫だけど…」

 

通信は速人お兄ちゃんからだった。

大丈夫…うん。いつまでも動揺してばっかりでもいられない。

 

『あ、フェイトいるけど話しても大丈夫か?』

「話は聞いてるけど、私が居ない方がいいなら席を外そうか?」

『いや、聞いてるなら大丈夫。デートに誘おうと思っただけだから。』

「っ!?」

 

タイミングがよすぎる話にビックリする。

けど、落ち着く間も無くお兄ちゃんは話を進める。

 

『フェイト、なのはの急務とかあったりするのか?休暇でも取れないと予定立てる意味も無いからさ。』

「はやてに確認は取らなきゃいけないけど大丈夫だと思うよ。」

『おし。で、なのは…デート位は別に大丈夫だろ?気乗りしないか?』

 

予定の確認を先にされてしまい、ごまかす事も出来ない。

…ごまかしてもどうにもなら無いか。

 

「ふ、二人で出かけるって事…だよね?うん、大丈夫…」

『後ははやてか…確認取れたら連絡してくれ。』

「分かった。」

『それじゃな。』

 

笑顔で手を振り通信を切る速人お兄ちゃん。

…あんまり長話は出来ないか。恭也お兄ちゃんとかも一緒に住んでる訳だし、万一聞かれたら大騒ぎになるもんね。

 

「頑張ってねなのは。」

「その…うん、ありがとうフェイトちゃん…」

 

怪我でリタイアした挙句こんな話の相談をしてるのに真剣に話を聞いてくれるフェイトちゃんといいユーノ君といい、本当頭が上がらない。

答えを出す為にも、私なりに頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして取れた休暇で来たデート先は、遊園地だった。

選ぶとしては少し子供っぽいとも思うけど、お兄ちゃんらしい選択…

 

 

何て思ってた私は、お兄ちゃんを甘く見てたらしかった。

 

 

キャラクター系統が地球程発展してない上に魔法技術があるミッドでは、普通に自然や現象…ゲームの実を楽しむ傾向が強い。

で、私がのんびり遊べたのは地球時代。つまり…

 

 

魔法戦とか特殊な事を散々やっておきながら、レジャーのレベルを甘く見ていたんだ。

 

 

ホラーハウスでは歩く度にする生々しい感触や、転がってくる生首をみる度に驚かされた。

綺麗な景色のコースを回る乗り物はサイズ可変の為、他のお客さんもなく二人きりで肩を並べて座る事が出来てしまった。

食事は程良く人の声がする明るいテラスで堪能した。

小休止とばかりに寄ったゲームコーナーでは私が頼んだぬいぐるみを数回で取って…

 

特別いつもより見栄を張ったりしてる訳ではないんだけど、コースとか考えると色々と考えて準備した事はよくわかった。

 

それに…ずっと距離が近い。

 

離れる必要が無い間は結構頻繁に手を繋ぐし、距離が近いアトラクションでは結構抱き寄せられたりする。

 

何かある時にドキドキさせられっぱなしで、ゆっくり考える事ができない。

これでいいのかな?

お兄ちゃんの様子を窺いながら、デートの目的がちゃんと果たせてるのか考え…

 

「にゃ!」

「っと…」

 

小さな段差に気付けず足を引っ掛けて転びかけた所をお兄ちゃんに抱きとめられた。

一緒の方向に歩いていたのにどう振り返ったのか分からないが、脇に引っ掛けるように伸ばされた腕にしっかりと抱えられている。

 

「大丈夫か?」

「っ…う、うん…」

 

耳元で、それこそ息すら聞き取れる位の距離でかけられた声に胸が弾む。

 

「気をつけろよ。」

 

それだけ言ったお兄ちゃんは、そっと私の手を取った。

ま、まぁ…デートの最中に考え事なんてする必要は無い…かな。

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れに照らされる観覧車の中で向かい合わせに座った私とお兄ちゃんは、静かに夕日を眺める。

 

「…突然告白してきたりしたのは、やっぱり魔法が使えなくなった私の為…なんだよね?」

「それは考えるきっかけだよ。だけど、本心だ。」

「そ、そう…だよね…」

 

確認してみたものの、きっかけがどうであれ真正面から告白されて、キスまでされたら嘘とは思わない。

普通に考えたら告白の前に話さないような暴露話までしてるんだ、私の為に上手くやる…ってだけならこんな事しない。

 

「なのはは…どうなんだ?すぐに断らないだけの理由とか…さ。」

「整理がつかなくて…私だって、これでも速人お兄ちゃんの事好きだし、大切だから。」

 

言い終わると少しの間を置いて、嬉しそうに微笑むお兄ちゃん。

 

「そりゃよかった。これでも覚悟入ったんだぜ?普段の批評があまりに酷いから張り倒されて終わりかも知れないと思って。」

「そ、それは速人お兄ちゃんのせいだよ!馬鹿な事や無茶な事ばっかり…」

 

言いかけて、口を噤む。

 

…私が、言える事じゃない。

 

さっき自分で聞いたばかりだ、無茶の結果魔法が使えなくなったから色々考えさせたって。

 

「ごめん…」

 

顔を見れなくなって俯いて呟く。

 

と、小さく揺れを感じて…

 

「あ…」

 

向かいの席から私の隣に座り直したお兄ちゃんが、私の肩を抱き寄せた。

勢いに身を委ねてお兄ちゃんにしなだれかかる。

 

「命を計算するなら、こんな所でお前が戦えなくなったのは痛いかも知れない。けど、少なくとも…俺は嬉しかったよ。救おうと頑張ってくれて。」

「…ありがとう。」

 

半周が終わり下降を始めた観覧車が地上につくまで、髪を梳くようにゆっくりと頭を撫でるお兄ちゃんの手の温かさに身を委ねていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ…っ!」

 

観覧車を降りた所で欠伸をした速人お兄ちゃんは、いけないとばかりに首をブンブンと振る。

 

「眠いの?」

「はは…こんなこと初めてだからいろいろな…」

 

ごまかすように笑うお兄ちゃん。

 

…きっと相当予習したんだろう。

 

観覧車は他の乗り物みたいに衝撃とかもあんまりないし、動いてたわけでもないから眠気が来たんだな。

休める所を探そうと周囲を見渡して、ベンチを見つけた。

 

今日は色々させてばっかりだったし、私からも少しくらい…

 

「休んで行く?」

「せっかくのデートでそれは勿体無いって。」

 

気合いを入れ直すお兄ちゃんを無視してベンチに座り…自分の腿を軽く叩く。

 

 

 

 

膝枕の誘い。

 

 

 

 

ちょっと恥ずかしかったけど、これくらいはいいだろう。

お兄ちゃんの方も気づいたみたいで少し顔が赤い。

 

「そ、それは断れないな…いいのか?」

「目を見開いて聞かないでよ…物凄く恥ずかしい事してるみたいじゃない…」

「そ、そうだな。それじゃ遠慮なく…」

 

少し緊張したまま横になるお兄ちゃん。

足にかかる重さと、手元にある顔に否応なく恥ずかしくなる。

少しはお兄ちゃんの方も緊張があったけど、目を閉じるとそのうちゆっくりと眠りに落ちていった。

眠りについたお兄ちゃんの顔を眺め…

 

モゾモゾと動いたお兄ちゃんは、片膝を立ててベンチに掌を付けた。

 

「ぁ…」

 

動作の意味を察した私は少し悲しくなる。

 

 

 

 

 

跳ね起きる為。

意識があって私に体を預けた時はなかった警戒態勢。

 

 

 

 

執務官のフェイトちゃんや教導官の私でも、眠ってる時は無防備だ。

魔力反応や目覚ましにすぐに意識を覚醒させるくらいは出来るけど、無防備でいようとしてもいられない何て悲しい身体はしていない。

普段笑顔でデタラメばかりする速人お兄ちゃんの深層に在るものが、改めて重いものだって思い知らされる。

 

大切で守りたい。お兄ちゃんはそう言ってくれた。

 

でも、私はそれでいいのかな…

 

 

 

 

 

唐突に、フラッシュが光った。

 

「にゃ!リライヴちゃん!?」

「やぁなのは、楽しんでるみたいだね。」

 

何事かと視線を移すと、カメラを手に楽しげに笑っているリライヴちゃんの姿があった。

写真に撮られたらしい。

 

「い、いつから?」

「ずっと。って言いたかったんだけど…何度か速人に気付かれて撒かれたから、最後見つけたのは観覧車からかな。」

 

全く気がつかなかった。知らない所でそんな攻防もあったんだ…

 

「それで、なのは的には速人はどう?合格?」

「そんな…合格とかそんな事…」

 

お兄ちゃんが本気なのは十分分かってる、問題は兄妹だと笑い飛ばすことも恋人になると言い切る事も出来ない私の方だ。

 

「ふーん…何も決まらずデートを堪能してるんだ、羨ましい。」

 

少し厳しい視線のリライヴちゃんに告げられた言葉に胸が痛む。

 

「女性同士の醜い争いなんて趣味じゃないから、なのはも乗り気ならこのまま祝儀の一つでも渡して離れようと思ったけど…さすがにムッとくるね。」

「え…っ!?」

 

言う通り機嫌のよくない表情でリライヴちゃんが腕を翳すと、体が動かなくなった。

 

リライヴちゃんのバインドだ。

 

元々魔力光が透明な上、極限まで細くしてあるからか誰も異変に気付かない。

そして魔力を使えば身体を壊す私は、そんな細いバインドすら切る事が出来なかった。

 

何でこんな事を…

 

近づいてきたリライヴちゃんは、仰向けに眠る速人お兄ちゃんの頬に両手を添えて顔を近づけていく。

 

「な、何を」

「別にいいでしょ?まだ何も決まって無いんだから妹の身で口出ししないでよ。」

「っ!!」

 

止めようとした私の顔を見て告げられた一言に硬直する。

無理矢理止めようにも身じろぎ一つ出来ない。見えないくらい細いバインドなのに…

 

空気の振動を止めたのか声を上げる事すら許されなくなった私の前で、ゆっくりとリライヴちゃんの顔が速人お兄ちゃんに近づいていって…

 

 

 

 

私の足にかかる重さが増した事で、口付けを交わした事を思い知らされた。

 

 

 

 

「ぅ…く…」

 

何も出来ずに見ている事しか出来ないまま奪われた事が悔しくて、自分が泣いている事に気付く。

 

馬鹿だ私は…奪われて泣くほど独占したいものを、離したくない人を、奪われてから気付く何て…

ヴィヴィオの時だってそうだったのに…私はいつもこんな…

 

やがてゆっくりとリライヴちゃんの顔が上がり…

 

 

 

その口の前に、左手の中指と人差し指が添えられていた。

 

 

「え?」

「ドッキリ成功…なんてね。さすがに寝てるとこ襲うに近い真似なんてしないよ。」

 

楽しそうに笑いながら告げたリライヴちゃんは、私にかかっていたバインドを解く。

 

「固定概念に振り回されるのもいいけどさ、キス一つが泣くほど嫌な妹さんって言うのもどの道変だよ?」

「っ!」

 

呆けて色々と忘れていた私は、慌てて涙を拭う。

 

「ま、こんな引っ掛け一つで覚悟を決めろとまでは言わないけど…奪われたり失くしたりしたくないなら、あげられるものは無事なうちにあげた方がいいよ。選択の余地なく色々奪われた堕ちた天使からの忠告だから、忘れないようにね。」

「リライヴちゃん…」

 

おどけて言って見せたリライヴちゃんは、私に背を向けるとそのまま片手を振って去っていった。

 

もし…でも…と考え過ぎて大切なものを失って気付くのはもうごめんだ。

リライヴちゃんはああ言ってたけど、この涙が答えで十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

月明かりに照らされた夜道を歩く。

 

人通りは…無い。

 

「あの…お兄ちゃん、今日はありがとう。」

「楽しんで貰えたんだったらそれだけで十分だ。」

 

前を歩くお兄ちゃんに背後から声をかけ、足を止める。

止まった事に気付いたお兄ちゃんも足を止めて振り返った。

 

言うなら今なんだけど…やっぱり即興じゃ言葉がまとまらなくて恥ずかしい。

 

『説明するより余程分かりやすいし。』

『あげられるものは無事なうちにあげた方がいいよ。』

 

そんな時、当の速人お兄ちゃんとついさっきリライヴちゃんに言われたばかりの言葉を思い出す。

勇気はこれでもあるつもりだ、覚悟も決めた。

 

だから…

 

 

 

止まっているお兄ちゃんに近づいていって、その肩を掴んで顔を近づけ…

 

 

 

 

 

そっと…口付けを交わした。

 

 

 

 

触れるだけ、でもしっかりと。

どれだけの時間息を止めてそうしていたかも分からず、少し苦しくなった所で口を離す。

 

「えっと…告白の返事…何だけど…」

 

動かない口を必死で使って、どうにかそれだけ搾り出す。

暫く私を見ながら何も言わずにいたお兄ちゃんは、唐突にしっかりと私の体を抱きしめた。

 

「あ、あの…」

「今のもいいけど…はっきり聞かせてくれないか?」

 

痛く無い程度に、でもしっかりと抱きしめられる。

ちゃんと言わないと…多分離してくれないんだろう。

 

「守る力とかはなくなっちゃったけど、お兄ちゃんが高町家に来て感じてくれた幸せをあげる事は、今の私にもきっと出来ると思うから…」

 

無茶苦茶でずっと明るいお兄ちゃん。

でも私は、その裏にある傷ついた心を知っている。

 

もし出来るなら…その傷が本当に癒える程の支えになりたい。

 

 

「私もお兄ちゃんの…速人の事が好き。だから…ずっと一緒にいて下さい。」

 

 

まとまらないままだったけど、素直な気持ちを言い切った。

お兄ちゃんは私の肩に手を添えて向き合い…

 

 

 

 

 

お兄ちゃんの方から、私に口付けしてきた。

 

 

 

 

時間も分からなくなる位そうした後、口を離したお兄ちゃんは腕を絡ませてくる。

 

「な、何か…恥ずかしいね。」

「イチャついてるみたいでか?大丈夫だろ、万年こんな感じでも上手くやってる夫婦も見てたしな。」

 

急に物凄くベタベタしている気がして恥ずかしくなったけど、当のお兄ちゃんは頬こそほんのり赤く染めているものの、思いっきり楽しむつもりらしかった。

出された例は家のお父さんとお母さんだから否定も出来ない。

 

「それに…そんな二人がいる家以上に幸せにしてくれるんだろ?」

「うん…あ、変な意味でじゃないんだからね!」

「分かってるって。」

 

私達は腕を組んで帰り道を歩き始める。

考えなきゃならないこととか問題とか色々あるけど、今は絡めた腕から伝わるぬくもりだけで幸せを感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、地球に帰った私達は、忍さんの家に一緒に住む事になった。

私とお兄ちゃん、それにヴィヴィオだけ位ならどうにかなったかもしれないけど、私と同じように家族として宵の騎士の皆を引き取ったお兄ちゃんが、あっさり皆を放置する事何て出来る筈もなく、かと言ってこの人数が住める家や生活費をすぐに用意できる訳もなくて…

 

『だったら家に来れば?部屋数もあるし、私だって宵の騎士の皆と一緒に住んでたから。』

 

との忍さんの懇意で、地球に帰れるようになった恭也お兄ちゃん達と一緒に忍さんの家に住む事になった。

 

ちなみに、リライヴちゃんとアリシアちゃんは元いた家に残ってフリーの魔導師とデバイスマスター(兼ゲームクリエイター)として生活している。

…と言っても、機会がある度地球に来ては翠屋と家に顔を出して行くのだけど。特に自力で来れるリライヴちゃんは頻繁に。

 

お兄ちゃん達は大概修行するかノンビリ過ごしてるけど、恭也お兄ちゃんは荒事の依頼を受けたりしてるし、速人お兄ちゃんも手伝いに呼ばれたりしてる。

最も、速人お兄ちゃんの場合ヒーローを止めた訳でも無いので、その辺で起こった問題とか警察の捜査にも関わって睨まれてるんだけど。

 

ちなみに私は基本、フレイアさんが開いた翠屋二号店の店員として働いていた。

家の人数考えると専業主婦でもやってた方がよかったと思うんだけど、ノエルさんのプライドと言うか、プロ意識があって…

 

 

メイドとして働かないとさりげなく咎められるのだ。

 

 

那美さんやシュテルちゃんは普通にメイド服に袖を通していたけど、私は抵抗があってそれは止めた。きっと従者とかが向かないんだろう。

 

 

 

アリサちゃんから『ドロドロのドラマでも見ない位複雑な家になってるわね』とコメントされる程の状態だけど…

 

 

 

 

「「乾杯。」」

 

夜景の綺麗なホテルまで出てきて、イヴを堪能する位には幸せにしていた。

今日ばかりはヴィヴィオには我慢してもらおう。

 

「しかしよかったな、思いのほか早く仕事片付いて。」

「ありがとね、自分と雫ちゃんの修行やってるのにお店の手伝いまで。」

「こういう日を一緒に堪能出来るんなら全然問題なし。」

 

何の抵抗もなく返してくれるお兄ちゃんに笑みを返した後、私は肩を竦める。

…ちなみに呼び方は、慣れちゃってるし戸籍も弄ったりしなかったから、特別な時以外はお兄ちゃんで済ませてる。

 

「でも手伝いを超えて分かったけど、未だにフレイアさんが届いてなくて店員の仕事まで出てるお母さんって実はかなりとんでもないんだよね…」

「はは、似たようなもんだ。俺も未だに連敗記録更新中だしな。」

 

実感するお母さんの凄さを話すと、お兄ちゃんの方も苦笑いする。

二つ名すら持ってる私とお兄ちゃんだったけど、身近な所で未だに色々と駆け出しみたいだ。

 

「ま、焦らなくてもいいさ。俺がいる間は何があっても守って見せるし、それで俺がやばくなったらなのはが癒してくれるんだろ?」

 

事も無げに言うお兄ちゃんだけど、聞き流せなかった私は少し目を細める。

 

「怪我を治せる訳じゃないんだから無茶はして欲しく無いんだけど…」

「分かってるって。でもさ、なんか『愛の永久機関』みたいでよくない?」

 

重い話だと思ってた私は、ここへ来て笑顔で告げられたお兄ちゃんの言葉に照れる。

 

「え、永遠なんて無いんだからね?」

「なのは、こう言うのはロマンだよロマン。それとも真面目に返したのは照れ隠しか?」

「意地悪…」

 

分かってて突っ込むお兄ちゃんに少し拗ねてみるが、実際は私もお兄ちゃんの意図がわかってまだ真面目に返したのでおあいこだ。

 

 

少しして、互いに笑いあう。

 

 

永遠では無いだろうけど、私はこんな時間が少しでも長く続けばいいと素直に思えた。

いや、続かせていこう。今までだって私はそうしてきた。

沢山の人に…お兄ちゃんに支えられながら、全力全開で進んできた。

 

 

だから…

 

 

 

「これからもよろしくね、お兄ちゃん。」

 

 

 

今も変わらず…前よりも傍にいてくれる大切な人に微笑みかけた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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