なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十三話・今後について

 

 

第十三話・今後について

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

一瞬だった。何も出来なかったと言っていい。

近接戦特化の空戦AA+、それが私を示す称号だ。接近戦のみという条件下ならばオーバーSとすら渡り合えるだけの自信があった。

 

 

だが…何も分からないまま倒された。

 

 

衝撃を感じた瞬間身体が傾き、自由が利かなくなった。

そのままもう一撃何かを受けて、私は意識を失った。

 

 

気がついた私は、降りて来ていたリンディ艦長に事情を聞き、耳を疑った。

まず、私が倒れてすぐにクロノ執務官も倒され重傷を負ったという。

その後、私達を倒した者がこの世界の法律機関に縁のある者で、私達が逮捕されるのを避けるため、また、クロノ執務官の治療もあって、数名でアースラを降りて来たという。

 

管理外世界とのいざこざはよくある話だ、ロストロギアが関わる上、向こうの世界で法律違反ともなれば慎重にならざるを得ない。

 

 

そこまでは…良かったのだ。

 

 

 

 

問題なのは、私達を倒した者が魔力を一切行使していなかった事と…

 

 

 

 

その少年が…クロノ執務官についでで倒された未熟極まりない素人魔導師に、砂地に足を折り畳んで説教されている事だった。

 

 

 

管理局にも一握りしかいない実力を持つクロノ執務官と私が、あんな子供に魔力行使もないまま片付けられた等という馬鹿げた現実は、今の私には到底受け入れられそうになかった。

 

 

SIDE OUT

 

 

とりあえず我が妹君の怒りが収まってくれたので、管理局の人達との交渉に入る。

 

この要求、向こうさんにはルール違反には違いないし結構な無茶なはずだが、ここが管理外世界なのとさっきクロノ達がやったこっちでの犯罪について使って上手いこと進めるしかない。

 

「えー…まず事前に言っておくと、俺自身別に皆さんがジュエルシードを回収してってくれるのには何の文句もありません、はい。」

 

アレだけボロクソに暴れておいて今更と言えば今更な発言ではある。

 

「君はふざけているのか!人に重傷を負わせておいて!!大体この世界の法の事を言うのであれば君だって銃刀法違反だろう!!」

 

そりゃそうだ。と、怒鳴りかかって来たクロノに対して思う。

一応こっちの世界の法律についても把握してたのか。まぁ相手が子供だったからこんな事態になるとは思わなかったんだろう。ふ…相手が悪かったなクロノ。

 

それにしてもさすが俺。クロノの肩の傷は急所はキレイに外せたようで、ほとんど治療に問題は無かったようだ。

無事で何より。と思って笑いかけたのだが…

 

めっちゃ睨まれました。

 

うぅ…怒ってるよなぁやっぱ…石当てた指は骨が砕けてたらしいから魔法でもアッサリ治るって訳にはいかないらしい。

 

 

「詫びるべきはこちらでしょう。呼び鈴も鳴らさず家に入って来られてはどんな番犬でも怒ります。」

 

 

と、フレアって奴がフォローして…くれたのかと思ったが、俺を視界に入れる事もなくリンディさんとやらに視線を移している所を見ると、完全に事務的な意見なのだろう。

 

「まぁその話は彼の話が終わってからにしましょう?フレア空尉。」

「了解しました。」

 

リンディさんは微笑んでいる。組織のトップなりに油断は無いみたいだが、それを除けば優しい人みたいだ。普通の堅物ならこの状況で笑えねぇ。

 

「で、えっとですね?話を続けますと…俺としては許せなかったのはフェイトとアルフに行った攻撃です。アレ物理的なダメージありましたよね?」

 

何しろジャケットが吹っ飛んだだけで無く傷が出来ていた。なのはは拘束しておいてアレはないだろう。非殺傷設定ならば与えるダメージが魔力になるし、魔力が減るなら魔法行使もし辛くなるのは当然。捕らえ方としてはそちらが妥当だと思う。

 

「手加減はした!それにジュエルシードの強奪を計ったんだぞ!?当然」

「クロノ執務官、今は彼の話を聞きましょう。」

 

リンディさんは大人だからか、油断無い視線を俺に向けたままあくまで静かに続きを促す。

 

「恐らく貴方達のとこの法だと大罪何でしょうけど、こっちでは単に青いキレイな石を拾い集めてるだけで怒られる事はありません。それどころか未成年にそう言う罪状はまともに適応されません。保護者が責任を負って、子供の方は必要なら常識を学習したりする程度です。間違っても外傷を受けるような類いの攻撃をされる罪状じゃありません。」

 

そこで一旦言葉を区切る。三人を見回すが、特に言う事も無いようだ。

 

「加えてフェイトは俺とこの世界の命の恩人です。アレを処理すべき貴方達の対応遅れで大惨事になる所だったと言うのに、それを抑えてくれた協力者を逮捕するなんて言うなら、素直にジュエルシードを渡す訳にはいきません。」

「何だと!!」

 

クロノが怒りをあらわにする。俺は両手を前に出して落ち着くように言う。

俺は別に恨み云々でこんなこと言ってる訳じゃない。

 

「こんな物管理してるなら分かると思うけど、信用出来ない人に預ける訳には行きません。で、現状命の恩人で友達のフェイトの方が、友達を撃って妹を拘束した貴方達より信用出来る。それだけの話だから別に悪用の心配はしなくていいですよ。」

 

言っては見るが、向こうの立場を考えると無理があるだろう。そう考えていたが…

 

 

「まぁそうね、今あるジュエルシードについては預かっておいて貰いましょう。」

「艦長!?」

 

 

組織のトップが、アッサリとそう言った。

俺は自分でジュエルシードを渡せないとか言っておきながらずっこけた。

 

「あ、あのぉ…自分で言っといてなんですけど、それでいいんっすか?」

「よくは無いわよ?だから信用してもらって早く預けてもらわないとね。」

 

微笑むリンディさん。んな馬鹿な…むしろ疑わしいわ!

 

「フェイトさんの方は難しいわね。私達の方で住民登録されていれば私達の方で裁判をしなければならないわ。こちらの出身なのはほぼ間違いないでしょうし。」

「あの娘がそんなものから逃げる訳ありませんよ。だから散々逮捕するなとは言ったものの、捕まる事自体はしょうがないと思ってます。」

 

アレだけ庇っておいてそりゃないだろうと言うように掌を返した俺の対応に、リンディさんも驚いていた。だけど、俺が頼みたいのはそんな事じゃない。

 

「俺は別で知り合って仲良くなったけど、なのはがまだフェイトに認めて貰ってない上、聞くことも話す事も何も出来てない。その辺をこっちのやり方でやらせて欲しいんです。」

「また難しい注文ね…逮捕方法を制限するなんて。」

 

渋い顔をするリンディさん。それは当然予測していた。だから…

 

「難しいことは無いですよ。単に『現地の住民の協力の元仲良く事件を片付ける』か、『俺を敵に回して、管理外世界の住民と戦いながら事件を片付ける』かを決めて欲しいだけです。俺は一つも嘘付いてませんから、管理局としての冷静な判断でいいですよ。」

 

途中予想外の展開はあったが、ようは話をここに持っていくための説明でしかない。

 

 

俺の締めくくりに、クロノは言葉を失って呆然としていた。

 

正直、リンディさんを引きずり降ろしてまでやりたかったのは、脅迫でもなんでもない。

こっちの言葉を向こうがほいほい呑めない事位は判っている。

だから、俺の望み、行動指針を伝えて、協力するか敵対するかを決めたかっただけ。

 

まぁ、なのは流に言うなら、『何も判らないままぶつかり合うのは嫌だ』って所だ。

 

 

何しろ、フェイトとなのはに話す機会を作るのは俺の『決定事項』だ。向こうがどうしようがそこは変わらない。

それに捕まるのはしょうがないって言ったって、俺としては出来る限り上手いこといって欲しいのには違いない。部外者の横槍で怪我させるなんて以ての外だ。

 

 

単に管理すべき危険物のために来たなら別に一緒に行動しても問題ないはずだし、逆に犯罪者と問答無用にフェイトを捌くために来たなら、敵対してでも守り抜く。

 

後はリンディさんの決定次第なんだが…

 

「クロノ執務官とフレア三等空尉の罪状の取り消しと引き換えでいいかしら?」

「艦長!」

 

承諾すると思っていなかったのか、クロノがリンディさんに向かって叫ぶ。

 

「クロノ執務官、そもそも我々が彼に負けなければこんなややこしい事態にはならなかったのだ、現状や艦長の決定に文句があるのなら貴方だけ出頭しますか?」

「ぐ…」

 

フレアの静かな指摘に歯噛みしながら俯くクロノ。自分で仕向けといてなんだが哀れだなぁ…

 

「なのははフェイトと話したいんだろ?だったら現状維持だな。」

「あ、うん…」

 

今の話がよくわかっていないのか、フェイトと話すという点だけに反応して頷くなのは。ま、こんな会話についてわかる必要なんてまったく無いからいいんだが。

 

「で、ユーノはどうするんだ?」

 

ユーノについてだ。元々ジュエルシードが危険物だから回収しに来たユーノにとってフェイトの件はまったく関係ない。

 

「僕は二人と一緒に居るよ。ジュエルシードを管理局預かりにしない間は監督役もいるだろうし、何より僕でよければ二人の力になりたいからね。」

 

そう言ってユーノは微笑んだ。…ありがたい話だ。

 

「フェイトさんについて貴方達は自身の判断で動く、それでいいのよね?」

「あ、ハイ。十分です。」

 

正直ジュエルシードについては安全確実に持っていってもらえたらそれで十分だ。回収について手伝うのも元々この世界に落ちてきたものから町を守るってだけの話。

 

話が上手すぎて怖いくらいなのだが…

 

「ジュエルシードの回収を手伝っていただくにあたって私達と行動を共にして欲しいのだけど、明日からしばらく私達の艦に来れるかしら?」

「そう言う事なら家の人に許可とって来ます。」

 

正直望む展開になっている以上、文句は無かった。

 

 

Side~リンディ=ハラオウン

 

 

彼らが去ってアースラに戻った後、私はクロノに詰め寄られていた。

 

「アレでは脅迫に屈したようではありませんか!彼らが増徴したらどうするんです!」

 

クロノの言いたいことはわかる。彼らは子供だったし、何もかも上手いこと行った事によってこの先何か下手な事にならないかを危惧しているのだろう。

 

けど…

 

「それは無いわね。少なくともあの速人という子に限っては。」

 

勘に過ぎない。そう言われては否定する言葉は無かったものの、確信に近いものがあった。

 

「ワザと軽めに話してみたけど、彼むしろ不思議がっていたもの。それに…貴方とフレアはただの子供に倒される魔導師なのかしら?」

「それは…ありえません。」

 

断言するクロノ。頼もしい息子に育ってくれて何よりね、本当。

 

「魔法の無い…非殺傷設定の無い世界で刃物を扱って組織の厳しさについて知っている。クロノ、貴方もさっき言っていた通り、この世界で彼は銃刀法違反って言う法律違反に当たるわよね。あの年では働けないはずだし。『普通なら』。」

「それは…」

 

クロノは答えに行き着いたのか言葉を詰まらせる。

 

どうしようもなくなれば町事焼き払う引き金を引く私達でも、あれほど何の躊躇いも無く刃を振るう子供なんて見た事が無い。ましてや正気のまま冷静になど。

 

 

それが当たり前になるような環境に居なければ、たとえどれだけ強くてもあんな事は出来ない。

 

 

「私達だって慈善事業と言う訳ではないけれど…彼には戦って欲しくないものね、いろいろな意味で。」

 

彼を敵に回して事態を収めようと思った場合、この町ごとでも彼を消す必要すらでてくるだろう。

何しろ正面から当たった場合クロノとフレアですら相手にならない事が判明しているのだ。正直どうしようもない。

 

その上、ジュエルシードを捜索していたのが二人と言うだけで、彼があの時魔力を行使していなかった以上、もっと腕の立つ大人が居てもおかしくないのだ。

選択を誤れば彼以上の腕の集団がひしめく中でそれを敵に回しつつジュエルシードの捜索をしなければならなくなる。

 

それに比べたらちょっと融通利かせたほうがはるかにマシと言うものだ。私達は町を滅ぼしに来たのではないし、殺し合いに来たのでもないのだから。

 

 

それに何より…

 

 

個人的には、自身の額から血を流すほどの力で拳を叩きつけてまで止めた刃を、友人の為に状況次第では私達とすら戦うと宣言した彼にもう一度振るわせる気にはならなかった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 




本日はここまでという事で失礼します。

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