後日談・『リライヴ』の意味
Side~八神はやて
「リライヴと面会したい?」
既に開放されてるリライヴちゃんだけど、さすがに頼まれてホイホイ開放しました。何てベラベラ言う訳にも行かないので、捕らえた段階までで報道規制がかけられている。
捕らえた犯罪者の全状況が全員公開されている訳でも無いので、その前に目立ちすぎていた所を除いては特におかしな話ではない。
…うん、おかしくないおかしくない。と言うかそう思わないとやってられない。
で、局員でも全員が全員彼女の状況を知っている訳ではなく、支所から六課に連絡が入ったと言う訳だ。
私より上で事情把握してる人となると戦艦で飛び回ってるクロノ君達とかになってしまうので、私が一番都合がいい位置となっている。
そして、件の女性と面会する事となった。
二人きりの部屋の中、女性は俯いたまま黙って私を見ている。
「リライヴとの面会を希望しているとのことですが…ご関係は?」
「その…子供の頃の知り合いで…」
言葉を選んでいるからか、物凄く言い辛そうに告げる女性。
出身を考えれば、知らん人に話して回る訳にも行かんか。まして、彼女がもし同じ境遇だったなら…話せる訳が無い。
「彼女の…リライヴの過去については知っています。」
「え?」
「個人的にも知り合いなので、それで貴女の対応を急遽私がする事になったんです。」
普段なら一般の方相手に緊張感をありありと見せるような形で話す事はせんのやけど、彼女の昔話が絡んでくるとなると笑顔で対応する事の方が躊躇われた。
女性は伏せがちだった顔を上げて、私を見る。
「そういう訳ですので…貴女の素性を詳しく教えていただいてよろしいでしょうか?」
「…分かりました。」
何故会いたいのか、その辺の理由含めてはっきりしていないと、あんな状況が微妙なリライヴちゃんに会わせる訳にもいかない。
その辺の事まで察してくれたからかは分からないけど、女性は少し躊躇いがちに首を縦に振った。
Side~リライヴ
夜や早朝にバカバカ射砲撃撃ちまくる訳にも行かない為、そういう時間帯には直接戦闘の訓練をしているのだけど…
恭也さん、本当に強い。
地上だと下手をすると魔法で強化してても勝てないかもしれない位に。
一撃目から返しの斬撃を間髪いれずに繋げる燕返しで切り崩…
「な!?」
一撃目を左手の刀に逸らされ、首に右手の刀が突きつけられていた。
「二撃目に止めずに繋げる為に一撃目が僅かに軽い。」
刀を納めながら静かに告げる恭也さん。
そう回数も見せて無いのに私ですら気付いてなかった欠点をアッサリ見つけるなんて。
これでも一つの的を斬って切り口を確かめたりはしてたんだけどな…
「今日はここまでにしよう、向こうも終わったようだしな。」
恭也さんが見ている方向に視線を移すと、雫が速人に頭を下げている所だった。
普段雫は速人相手にそんな礼を見せる事は無いんだけど、訓練の時は別みたいだ。
速人と恭也さんは訓練で礼がどうこうとはあまり言わない。二人とも殺人術使いだから、武道とか自己を高めるとかは特に無いんだろう。
訓練を終えて帰路に着くと、店を少し離れた所から眺める女性の姿があった。
「どうしました?」
「あ…」
速人がさっさと話しかけてしまった。女性は小さく驚いて身を竦める。
それにしても…あの人見覚えが…
どうやら私の記憶は正しいのか、速人に声をかけられて振り返った女性は、私と目が合った所で視線を動かすのを止めた。
「リライヴに用事?それなら上がっていってよ。外したほうがよければ俺達は外すからさ。」
「え、あ、あの…」
「速人、とりあえず空気読めてるんだか読めて無いんだか分からないそのノリは止めようよ。」
女性の目的が私らしい事をアッサリ察した割に、戸惑っている女性の状態はまるでスルーして話していく速人の妙な反応に呆れつつ、私は女性に近づいていく。
まるで男性に怯えているような女性の様子に昔を思い出…
気付いて、足が止まった。
「貴女は…」
彼女が幼い頃の知り合いに重なる。
「お久しぶりです…リライヴさん。」
困惑する私を前に、彼女はそう言って頭を下げた。
話を聞かれない為に、自室に招いて軽く結界を張る。
様子が変わった部屋の中を見回した彼女は、少し驚いたようだった。
「噂になっていましたから知ってましたけど…本当にあの白い堕天使なんですね。」
「まぁ騒がれるほどの実力…だったとは思うよ。」
納得するように言う彼女に、私は他人事のように答えた。
並のロストロギアより桁外れに危ない…と言うか、はやてですら『歩くロストロギア』と言われてるらしい事を考えると、魔力値で同等かそれ以上、戦闘技能ではるか上の私が犯罪者の時は騒がれるのは当たり前だ。
最も、制限かけられている今となってはそんな力は無いけれど。
「本当に…同じ玩具だったとは思えないです…あっ…」
悲しげに呟きを漏らした彼女は、慌てて自分の口を手で塞ぐ。言ってしまった言葉に気まずさを感じているんだろう。
同じ玩具。
彼女は涙混じりに告げた通り、私と同じく奴隷として過ごしていた人。
私の暴走の結果滅びる事になった故郷から逃げる際に連れて来た何人かの内の一人だ。
「気にしなくてもいいよ、私は大丈夫だから。それに、簡単に癒える傷でも無いだろうし。」
人によっては平然としていられるのかもわからないが、それこそ『人によっては』だ。
小さな声で謝る彼女に無理強いをせず、私は次の言葉を待った。
「…ニュースで出た頃から…知ってはいたんです、会いたいとも思っていました。でも…」
「犯罪者として飛び回ってたんじゃ会える訳も無いよね。」
彼女は小さく頷く。
「今でもその…あまり話せるほうじゃないんですけど…助けられた時はずっと怯えてばっかりだったから…そのままよく分からないままいなくなっちゃって独りぼっちになって…」
「…ごめん、怖かったよね。」
謝った私に対して、彼女は首を横に振る。
「当時は怖がるばかりで何も分からなかったですけど…教会の傍においてくれたりとか、ちゃんと考えてくれたんですよね。」
助けた皆とは殆ど置き去りに近い形で別れたけど、その場所はさすがに考えた。
何処の誰とも知らない人に捕まってまた似たような事になったら元も子もないから。
少しの間を置いて、彼女は続ける。
「落ち着いてから…出来るならお礼を言いたかったんです…それで、捕まったって聞いて…そこから刑の状態も分からなくて…」
「あー…それは、ごめん。私とここの人がいろいろ無茶したから。」
思い出してまた瞳が潤んできた彼女にバツが悪くなる。
治安維持組織が馬鹿正直に『怖い人に頼まれて開放しちゃった。』とか言える訳が無い。
まぁ…管理局だって別に私を殺したかった訳でも無いだろうけど。
それに、速人が負債を引き受けてるから助かったから、綱渡りなんだよなぁ…
「それでその…」
「ん?」
「あ、ありがとうございました。助けてくれて…」
彼女はお礼と共に深く頭を下げた。
少し…胸が痛い。
あの時はただの暴走だったから。
戦って、壊して、気が付けば危険を感じ、数人しか連れられず慣れない転移魔法で逃げて…
「あの…」
「っと、ごめん。気にしないで、勢いあまって暴れた結果だからさ。」
つい考え込んでしまった私の様子を控えめにうかがう彼女の視線に気付き、慌てて思考を止める。
さすがにお礼だけの為って訳でも無い筈だ。
すらすらと喋れないだろう彼女がゆっくり話せるように言葉を待つ。
「故郷…どうなったか教えてくれませんか?」
暫くの間の後に彼女から放たれた問いかけに、今度は私が言葉に詰まる事となった。
彼女が去った翌日、私は速人と向かい合って椅子に腰かけていた。
『それじゃ、特に問題とかなかったわけやな。』
「リライヴと部屋で話した後、泊まってくように薦めたけど、遠慮して帰っちゃったからな。」
速人が通信越しにはやてと話す。
いきなり通信入ったからって当人を正面にそういう報告するのはどうかと思うんだけど…
「しかし神経質だなぁ…あんな普通の娘に警戒しすぎだろ。」
『そりゃするわ。…二重の意味でな、リライヴちゃんは大丈夫なんか?』
「あぁ…そっちもそっちで気にしてくれてたんだな。かわろっか?」
『や、それは…って待たんかい!まさか聞いとるんか!?』
アッサリ暴露した速人の言葉を聞いてすぐ、通信越しにはやての怒声が響く。
…ばれたならこのまま黙ってるのも悪戯みたいで悪いか。
「今回はありがとね、はやて。彼女にちゃんとここの場所教えてくれて。」
言いつつ席を立って速人の背後に移動する。
私の姿を見たはやては、引きつった笑みで額を抑えた。
『まぁリライヴちゃんが良かったならええけど…ったく、少し位普通に予想できる事してくれんか?』
「先見は上の仕事だろ?予想出来ないとか言ってていいのか部隊長さん。」
『こ、こいつは…』
サラッと切り替えした速人の言葉を聞いたはやてが、苦虫を噛み潰したように表情を歪める。
速人って結構予想の斜め上突っ走ってくれるから、読むのは中々難しいんだよね。
『ま、ええわ。こっちは忙しいからこれで失礼するよ。』
「あぁ、暇でも出来たら顔出してくれ。まさかこっちから部隊内に乗り込む訳にも行かないからな。」
『ははっ、了解や。』
速人が通信を切った所で、隣の席に腰掛ける。
「それで、話って何だ?」
はやてから通信が入る前に、私は速人を呼び出していた。
それは、話していなかった残り一つの事を話す為。
昨日、故郷の事を全て語った彼女は、隠さなかった事にお礼を言ってくれた。
ただ…
『名前は…偽り続けるんですか?』
ついで放たれた問いかけに、私はまともに答える事が出来なかった。
本気で捨てたもの。過去の記憶ですら出てこなかったもの。
イノセントも起動できないだろう名前。でも…
私の…本当の名前。
リライヴと言うのは、生まれ変わりの意味を込めて、イノセントを振るう時に心に決めた名前。
「あのね、速人…私…」
明かしてない本当の名前は、いつしかまるで『品物』のように呼ばれる事になったもの。
出来るなら思い出したくも無いけど、全てを語ったつもりでいて、まだ尚伏せている事があるのは気分のいいものじゃない。
「私の本当の名前は…」
「リライヴだろ。」
けど、意を決するように言いかけた私の言葉を、速人が一言で止めた。
性すら語らないこの名が本物じゃない事位、速人が分かってないはずがないのに、いつも通りの笑顔で。
「お前にとって偽名…何かを偽る為の名前じゃないはずだ。だから、本当の名前はリライヴでいいんだよ。最初についただけで本名だと俺NO15って事になるんだぞ。」
「速人…」
…速人の言う通り、身分や出身を隠す為じゃない。
普通じゃないとしたら、つけられた名前じゃないことくらい。
「ま、古い知り合いが来たこの機に、自分の昔も全部知って欲しいって言うなら聞くけど。」
気楽に話せばいいというつもりでか、軽く言う速人。
…よくよく考えれば大概速人の過去の方が酷だし、何より今のことじゃない。
そこまで気にする必要も無いかと思って昔の名前を告げようとして…
『私の全部を知って欲しいって、告白みたいですね。』
イノセントが告げた一言に、口が凍り付いて動かなくなった。
「そういやそうだな。お前こう言うの好きだし、丁度良かったな。」
加えて、速人が呑気にイノセントの言葉に同意して笑う。
「んじゃまぁ折角だし聞かせ」
「こ、この流れて言える訳ないでしょ馬鹿っ!!」
笑顔でサラッと言ってのける速人の頭を平手ではたいた私は、それ以上の追求が出る前にさっさと部屋へ戻る。
『素直な方が得ですよ?』
絶対にデバイスの発言じゃないその言葉に額を抑えつつ、私は溜息を吐いた。
別に捻てるつもりは無いんだけど…
SIDE OUT
分かりやすいかと思い先に後日談のほうを投稿させていただきました。
今はここまでです。