後日談・マイスターズ
Side~シャリオ=フィニーノ
「うーん…」
私はデータを漁って確認していく。
実体武装を展開するナギハと、その武装の精製方法。
近接特化の短剣と魔法発動補助特化の杖形態という両極端な変化をするイノセント。
どちらも破格の性能であり、再現できる保障も無い代物。
「実例があるのに再現できないって言うのも悔しいなぁ…」
局のメカニックとして何処の誰かもしれない人が作ってる物、しかも実物を見た上で戦闘データまで残ってるのに…
リライヴが使ってたAMFCもデバイス搭載だと思うけど、調べたらデータ消すとか言われてフレーム修理程度しか出来なかったし、管理局が魔法しか使わないとなると対魔法装備を整える相手はこれからも出てくる。
どうにか作れないだろうか…
「シャーリー。」
「あ、フェイトさん。」
作業をしていると、フェイトさんが心配そうに顔を見せてくれた。
「大丈夫?最近ずっと詰めてるって聞いてるけど…」
「いやぁ、どうにか再現したいんですけどねぇ…こういう武装。」
モニターに映るのは、速人さんの武装データとリライヴのAMFC。
フェイトさんは真剣にモニターに目を向ける。
「速人の方は質量兵器…と言うには些細な部類の装備だけど、局で使うには問題あるし、何より使いこなすのが難しい。速人や恭也さんから見ると私とかなのはでもインスタントらしいし…」
「インスタント…ですか。」
よくは知らないけど、速人さんの戦闘とか見てるとそれも納得できる気がする。
決して出力が高いと言う訳でもなく、魔法だけならむしろ下手な位なのにとてつもない戦闘能力だし。
「リライヴの方が見せてくれるかは分からないけど、ナギハの整備してる技師だったら頼めばあってくれるかも。」
「本当ですか!?」
思わず立ち上がってしまい、フェイトさんが一歩引く。
っと、いけないいけない。つい興奮してしまった。
座り直した私を見ながらフェイトさんは笑みを浮かべる。
「相変わらず好きなんだね、頼もしいよ。」
「あはは…ありがとうございます。」
「とりあえず頼んでみるね、楽しみにしてて。」
「はい!お願いします!」
どんな人なんだろうと興奮気味に思っていた私は、『楽しみに』と言っていたフェイトさんの意味ありげな笑みに気付かなかった。
「そんな訳で呼ばれて来ました。美少女デバイスマスター、アリシア=テスタロッサだよ。」
「え!?フェイトさんのお姉さん!?」
六課に招かれたのは、アリシアさんだった。
以前フェイトさんのお姉さんと言う紹介を受けたものの、シュテルさんたちとの話が集中したのと、仕事の合間の休憩みたいな時間程度しか話さなかったという事もあってよく知らなかった。
でも自己紹介の時に技師だって名乗っててもいいと思うんだけど…
「自己紹介の時に技術者だって教えてくれなかったのはどうしてなんですか?」
「あんまり管理局に協力する気なかったからね。」
笑顔でアッサリ告げられた内容には少し驚いた。
都合上色々と強行が必要な事もあって嫌っている人には嫌われているものだけど、そういう人は大概こっちの内情とか知らない人が多い。
フェイトさんのお姉さんなら知らない筈も無いんだけど…
「速人が危険人物扱いされてるから。言ったでしょ?速人に助けられて一緒にいるって。」
「そ、それが理由ですか。」
何があったのかと思ってたら、随分と単純な理由だった。
思わず言葉に詰まった私に、笑顔のまま続けるアリシアさん。
「いい加減私も子供じゃないし、速人本人が文句無いみたいだからあんまり偏見持ちたくないんだけど…だからって恩人馬鹿にされながら笑ってあげるって言うのもおかしいでしょ?」
「それは…そうですね。」
速人さん滅茶苦茶やってたからなぁ…睨まれるのもしょうがないとは思うけど。
ただ、助けられた人としてはそれも嫌なのは分かる。
「でもそれなら何で今回は?」
「フェイトのお姉ちゃんだから。フェイトが世話になってるみたいだし、そんな人から呼ばれたら断らないよ。」
世話になってるなんて言われると大げさもいい所だと思ったけど、謙遜する間もなく手を差し出してくるアリシアさん。
「それじゃ改めてよろしく、シャリオさん。」
「はい!あ、シャーリーって呼んでください。」
握手と共に挨拶を交わし、技術交換が始まった。
見た目が昔のフェイトさんのようで少し懐かしいようなイメージも持っていたけど、デバイスの話に入ると一瞬でイメージが崩された。
局で働いて多彩なデバイスの開発、運用に携わってきた私とは違うけど、ナギハの性能…AI同調とデバイスの魔法発動における魔力運用効率、処理の高速化の観点では異常なほど進んでいるんだ。
空中歩行用魔法陣の展開はほぼデバイス任せで戦っているらしい速人さんに合わせて調整を繰り返した結果らしいけど…よくここまで詰められたと思う。
「速人の為のデバイスマスターになるって決めたからね。」
「でもこれオーバースペックですよね?処理速度のみに特化してると言うか…」
もう少し補助機能とか持たせてもいいんじゃないかと思って疑問を口にする。
アリシアさんは含み笑いを浮かべながらモニターに映像を映し出す。
速人さんがいつもの空中歩行を行っている映像。
足裏に小さく歩行用魔法陣が展開されている。
その姿が一瞬ぶれて…
落ちた。
「これは…」
「速人の高速移動、局でもデータ残ってるでしょ?空中で使おうとして、デバイスの魔法陣展開が間に合わなかったの。」
「それで能力の大半を処理に裂いたんですね。」
さすがにここまで特化してると持て余すかとも思ったけど、ようやく足りた位の状況みたいだ。
それにしても…そこまでやってみせる速人さんもそうだけど、機能を特化させたとは言え軽く二、三世代分くらい先になりそうな処理の速さを再現するアリシアさんも凄い。
速人さんの為だけのデバイスマスター…か。
「っと、ナギハの話だとどうも身内自慢になっちゃうね。でも私が特別やってるのはコレ位になっちゃうし、イノセントも見せては貰ってるんだけど…」
「リライヴさんに怒られました?」
管理局を嫌ったまま…多分速人さんが無茶して開放したリライヴさんは、正直素直に力を貸してくれると思えない。
「『管理局にタダで譲る義理は無い』って。私が聞きたい事あったら取引材料に使っていいって言われた。」
「あはは…なんだかんだで優しいんですねあの人。」
世界すら敵に回してた割に、文字通り死ぬほど嫌な管理局に協力する形になる情報提供を『家族の為なら構わない』と言っている様な発言に思わず笑ってしまう。
「じゃあこっちの技術で気になるものとかありますか?直接設計図とか公開するのでもなければただの情報交換ですから大抵大丈夫ですよ。」
「うーん…あると言えばあるんだけどね…」
局内のデバイスとなるとかなり多用にあるし、速人さんの為と言っても宵の騎士の皆のデバイスも見てる筈だから気になるものもあるかと思ったんだけど、アリシアさんは何故か苦い表情を見せる。
全く無いならともかく、あるのに何か問題なんだろうか?
少し考えた後、意を決したように真剣な表情を見せた。
「融合機。」
「それは…」
たった一言。ただ、重い理由が十分に分かる一言だった。
通常のデバイスの域を超え、リイン曹長のように『生きる者』としていられる程のそれは、誰も彼もが作っていいものでも無い。
扱い辛いというのも勿論ではあるけど…簡単に教えるには渋る話だった。
「さすがにそうなるよね。」
私の表情が曇ったのを見たアリシアさんは肩を竦めて息を吐いた。
ある程度予想は出来ていたみたいだけど…
「理由とか聞いてもいいですか?」
「頼まれた機能を作るのに参考にしようと思って。はやてほど重い理由じゃないよ。」
初代リインフォースを継ぐ者を…と、使い手もいなくて普及している訳でもないユニゾンデバイスの開発を行った八神部隊長達程の理由も無いままで教えるには、少しばかり重過ぎる。
「やっぱり駄目だよね。難航するだろうけど自力で作るしかないかぁ…」
「自力って…危険ですよ?」
「融合事故とかでしょ。分かってるけどやるよ。」
簡単に言ってのけるアリシアさん。
分かってはいたけど、凄い人だな。
「道具とか技術って便利にしろなんにしろ、願いを叶えるためのものでしょ?家族からの頼み位叶えられないとね。」
「うーん…」
管理局としてもAMFが流出してるだろう現在、AMFCの技術は惜しいし、このままろくな情報が無いままアリシアさんが融合機関連の技術に挑戦して事故でもあったら…
「ちょっと待っててください。」
「へ?」
戸惑うアリシアさんを余所に、通信を繋げる。
『シャーリー、どうしたん?』
「実は…」
八神部隊長に通信を繋いで、現状を話す。
アリシアさんが融合機関連の技術に手を出そうとしてる事、情報を欲しがってる事、教えなくても挑むつもりだと言う事、そして、交換であればイノセントの技術を教えてくれる事。
一人でホイホイ話すには少し重いので、融合機の話となると現状一番関係の深い八神部隊長に相談する。
『んー…少なくとも悪用はせんと思うけど…』
「不用意に融合機そのものを作ったりはしないよ、それは約束する。」
モニターを覗き込んで告げるアリシアさんの言葉を聞いて、少し考えるように腕を組む八神部隊長。
『仕方ないな。事故起こされても困るし、教えてええよ。』
「本当!?やったね!ありがとうはやて!」
『そう素直に喜んでくれるとかいがあるな。AMFCの件頼んだよ。』
「了解。」
通信越しに八神部隊長に許可を貰えて、喜ぶアリシアさん。
何の参考情報も無しに融合機の再現なんて結構な技師でも難しい。何しろオリジナルは古代ベルカの技術だし、今となっては使う人などほぼいないデバイスだ。
やるとは言ってたけど、やっぱりアリシアさんとしても不安はあったんだな。
Side~アリシア=テスタロッサ
AMFCは、反発フィールドを展開する事でフィールド内でAMFの効果を避けるもの。
近接戦闘でもないと魔力消費が激しすぎるけど、それを除けば魔法の威力が下がる事も分解される事もそうそう無いため便利ではある。
「うーん…AMFが高ランクとは言え魔法に分類される物なんですから、思いついても不思議じゃないですよね。」
シャーリーがAMFCのデータを見て複雑そうな表情を浮かべる。
管理局にとってスカリエッティは10年以上の悩みの種だった訳だし、その間まともな対策を編み出せずAMF下で戦ってきたとなると、いい顔で見れないのもわかる。
スカリエッティのアジトとかにも入っていたとは言っても、これをレリック収集とかの合間に作ったって言うんだから大した人だよリライヴは。
聞いた話じゃ彼女の出身世界は魔法抜きで次元転移すら可能なほど発展したらしく、相応に頭脳も働くみたいだ。
「それにしても、AMFC以外も破格の性能ですねイノセントって。八神部隊長の出力に耐える為のシュベルトクロイツを開発するのに試作品が幾つも壊れているんですけど、そんな様子がちっとも見えませんし。」
データ上で表せるスペックを眺めながら、シャーリーは目を輝かせている。
変換資質とか複雑な事への対応は無いけど、魔力処理や魔法制御、耐久値や安定値等の基本性能がかなり高い。
「ロストロギア組み込んで制御する機構なんて危ないもの追加して普通に機能していたのもね。最もあれはこっちで外させてもらったけど。と言うか何で局で修復した時に外さなかったの?」
「イノセントに弄るなって言われたもので構造レベルに手を出せなかったんですよね。機構自体は特に問題ないですし、ジュエルシードは回収しましたから大丈夫だったって言うのもあるんですけど。」
「ふーん…」
ロストロギアはジュエルシード本体だし、他は普通のデバイスだから外す必要なかったのか。一応融通利かせてくれるんだな、管理局も。
…ま、六課だからかもね。エリオとかキャロはフェイトに会うまでろくな事なかったみたいだし。
イノセントを回収してくれたのが六課でよかったかも、ちょっと感謝しとこう。
「それにしても、融合機のデータなんてなんに使うんですか?」
「ノーコメントで。」
「ノーコメントって…」
苦笑するシャーリーだったけど、やる事素直に言ったら怒られるか止められるかのどっちかになりそうだし、何よりロマンでロケットパンチ搭載しているノエルさんがいるような家の方針なんて仕事の人が分かるとは思えない。
「外には漏れないように気をつけてくださいね。元々宵の騎士とフレイアさんがいるから秘匿にする意味が薄いって言うのもあるんですから。」
「それは分かってるよ、注意する。」
さすがに余所でもホイホイ作られて使われたりしたらいただけない。
アギトもリライヴ達の救出前は酷い目に合わされたらしいし、そんな事に幾度も起こられたら困る。
けど参考情報あるかないかはやっぱり違うなぁ…このデータあれば割と早く完成させられそう。
「それじゃあまた。何かあるなら…無くても家にも顔出してよ。これあげるからさ。」
言いつつ私はお決まりになっている、『洋菓子店エメラルドスイーツ・割引券』を取り出す。
ケーキ自体はおいしいんだけど、位置が悪いから名が売れない上少し高めだから個人的に知り合った人やお礼代わりに渡すように全員持ち歩いてる。
その少し高いケーキを定価で十数人分買う事になった事があるシャーリーさんは、券を見て少し引きつった笑みを浮かべる。
「分かりました。時間が空いたら寄らせて貰います。」
「うん。」
情報交換も出来た事だし、いくらなんでも雑談で局内に長居する訳にも行かない。
「それじゃまたね、シャーリー。」
「はい!アリシアさん!」
挨拶を最後に、私は帰路についた。
「それで、イノセントのデータは役に立った?」
「うんバッチリ。正直、教えて貰えないかもと思ってたけど、宵の巻物を既に知ってる事が大きかったみたい。」
帰るなり声をかけてくれたリライヴに親指を立てて見せる。
「ありがとうリライヴ、これで上手くいきそうだよ。」
「管理局の戦力が整うなら一応平和にはなりやすくなるし、見返りがあるならそんなに気にしないよ。」
「あはは…リライヴらしいね。」
笑顔で優しく言ってはいるものの、平和の前に『一応』がついてるあたりにトゲを感じる。
理解はしてるけど、だからって好きになれる相手じゃないんだろう。
私も宵の騎士の皆も似たようなものだし、なんか管理局に対してのスタンスが微妙な人ばっかり集まってるなぁ。
「頑張ってね、ほどほどに。」
「分かってるよ。リライヴこそ何かあったらちゃんと言ってね。」
挨拶もそこそこにしておいて切り上げる。
さてと…早速取り掛かろうか。家族のお願いを叶えるためだしね。
Side~シャリオ=フィニーノ
AMFCを含めて、かなり参考になる話やデータを見せてもらう事ができた。
今のままだと大魔力で近接戦主体の人でもないと扱い辛いから、どうにか汎用性持たせられるように調整したい所だ。
「シャーリー、また詰めてるんだね。」
「あ!フェイトさん!いやぁもう色々と見れて楽しかったです!ありがとうございました!」
キーを叩いている私に、またフェイトさんが声をかけてくれる。
「大丈夫?何かに取り憑かれたみたいにキーを叩いてたけど…」
「本当ですか?」
また苦笑しているフェイトさん。どうやら思わず熱中していたらしい。
これじゃメカオタって言われても否定できないなぁ…実際大好きだからいいんだけど。
「ちょっとつい盛り上がっちゃいまして…体調崩さない程度には気をつけるんで大目に見てもらえませんか?」
「それだけ気をつけてくれるならむしろ頼もしい位だよ。」
手を合わせて懇願する私を前に、フェイトさんはそう言って笑みを返してくれた。
魔法主体の管理局相手に魔法封じで来るのはこの先鉄板になる筈、必ず使えるものにして見せる。
治安維持の為にいる私達が、誰かに負けるわけには行かないんだから。
SIDE OUT