なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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後日談・プレゼントパニック

 

 

 

後日談・プレゼントパニック

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

私、フェイト=T=ハラオウンは悩んでいた。

 

 

色々と心配性が過ぎる傾向のある私だけど、今回は友人の心配と言う訳でも、エリオ達の心配と言う訳でも無い。

 

 

 

JS事件の最後私は、突入したスカリエッティのアジトで、これ以上ない程何度もフレア空尉に助けられた。

仕事が仕事だ、助けられる度にお礼なんてするものでも無いんだろうけど、今回は…

 

 

『あの二人を使っているか否かが不安ならば後で話を聞けばいい、奴の話も牢で聞ける。フェイト、お前は今ここへ何をしにきた?』

 

 

単に庇われたとかそれだけではすまない、本当に心身共に助けられた。

だからこそ、どうにかお礼をしたいとは思うのだけど…

 

 

 

 

 

 

フレア空尉への…お礼?

 

 

 

 

 

 

そこで私は止まった。

 

 

フレア空尉。クロノと同期で、かなりの実力者。

戦闘においては『近づけば負ける』とまで言われている程。実際私も、彼の間合いで戦って勝てる人は局内では知らない。

それだけの実力があれば無名と言う事もなく、彼の噂もそれなりに知れていた。まして…そのやり辛さから尚更彼は有名だった。

 

 

扱いに困る実力者。

人の気分などまるで考えない任務遂行人。

会話、雑談に関わる事はほぼなく、趣味すら不明。

 

 

 

 

お礼と言っても…どうしよう…

 

 

 

 

元々六課の人間でなかったフレア空尉は、リライヴが止められた事をきっかけにそうそうに元の隊へと戻ってしまっている。

 

このまま何もかもなかった事にして流す…

 

「訳には行かないよ…やっぱり。」

 

ふと浮かんだ考えを否定するように首を振る。

命と心を支えられ、出来る事が浮かばないから流すと言うのは…

 

 

 

『フレアの趣味?』

 

本人に直接聞くのもはばかられたので、同期のクロノに相談する事にした。

喜んで話を聞いてくれたクロノだったけど、内容を聞いた瞬間にその表情を歪めた。

 

「う、うん…事件の時物凄く助けられたからお礼がしたいと思ったんだけど、空尉は…その…」

『フェイトが世話になったと言うのなら僕としても感謝したいが…』

 

渋い顔をして考え込んでしまうクロノ。

同期でも何も分からないって…フレア空尉って一体…

 

『随分難しい顔しているね?』

『ヴェロッサか。実は…』

 

アコース査察官が見えたらしく、私の相談を伝えるクロノ。

査察官とも古い友人と聞いている。だったら何か知っていても不思議では無い。

 

クロノから話を聞いたアコース査察官は、ポンと手を打った。

 

『そういう事なら模擬戦にでも誘うといいよ。』

「模擬戦ですか?」

 

意外…と言う訳でも無いけど、自信満々に断言するほどそういう交流を好んでいるとは思えない。

 

『実力が実力だからね。武装隊の基本訓練にも出ているようだけど、模擬戦が殆ど戦闘訓練にならなくて困ってるようだよ。』

『なるほどね…彼は止めても訓練を休まない程だ、それなら十分満足できるだろう。』

 

模擬戦…それならシグナムも誘えばそれなりの事が出来る。

下手に物に拘るくらいならそういうほうがいいのかもしれない。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

いつも通りの武装隊の訓練を片付け、提出物を提出した後自主鍛錬に入る。

普段の訓練や模擬戦には大抵高レベルの魔力負荷をかけているのだが、それでも尚足りない。

いっその事訓練内容をいつかの島での訓練のように昼夜問わずの鍛錬にしてやろうかとさえ思うが、書類提出や集団訓練もあってそう勝手は出来ない。

模擬戦を行うにも六課程度の戦力があればよいのだが、複数の戦闘機人すら相手に出来る者がいる六課に対して、その戦機の一人に一部隊が壊滅させられる一般部隊。

 

訓練相手を望むのは無理があるか…

 

一通りの仕事も片付いた所で自主訓練に入ろうとした所で、通信が入った。

 

『あの…フレア空尉、今お時間よろしいでしょうか?』

「フェイト執務官。問題ない、何のようだ?」

 

唐突に入った通信に答える。

六課の任も片付き厄介払いも済んだ筈だと言うのに向こうから連絡をしてくるとは…珍しい事もあるものだ。

 

『教会の方でシグナムとシスターシャッハと私で模擬戦を行う予定なんですが、お時間があれば参加していただきたいと思いまして。』

「私に?」

 

わざわざ私を指名するとは随分と変わった者だ。

だが、シグナムは勿論、教会のシスターも近接戦主体と聞いている。

 

力無き人の身で辿り付く業、そんなものを扱える魔法使いは殆ど皆無だ。

 

バトルマニアのシグナムやフェイト、その知り合いと言うのなら私と仕合いたいというのも分かる。

 

「部隊長に確認を取る必要はあるが、問題なければ参加させてもらう。」

『そうですか、よかった。よろしければ連絡を下さい。』

「分かった。」

 

思いもよらなかった申し出を受け入れ、通信を閉じる。

 

「お、おいおい!今のフェイト=T=ハラオウン執務官じゃね!?何だよ!お前無趣味の訓練馬鹿のような生活してるくせにちゃっかりこの間の出向であんな美人捕まえたのか!?このこの!!」

 

偶々見かけたらしい同僚が騒ぐのを流して、私は早々に自主錬に入る事にした。

模擬戦か…

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

空尉も承諾してくれたので模擬戦をする事になったのだけど、シスターシャッハにも話が行ったらしく、シスターも混ざると言う事で模擬戦は教会で行う事になったのだけど…

 

「参りました…見事な腕前ですね。」

 

倒れて賞賛を送るシスターシャッハに対して、フレア空尉は一礼だけを返す。

 

 

 

く、空気が重い…

 

 

 

模擬戦を軽い気持ちでやるよりは余程いいのかも知れないけど、とても交流を交わす意味合いがあるとは言えない状態だった。

 

結局それ以上の言葉を交わすことなくシスターはシグナムと入れ代わる。

勝ち抜けの為フレア空尉は連戦だ。

 

「以前の任務から知ってはいましたが、本当に噂通りの方ですね。関わり辛く…強い。」

「そうですね…」

 

側に来たシスターの言葉に頷きつつ、先の試合を思い返す。

結構な高速戦闘が可能なシスターの攻撃を前に防戦に徹していたはずのフレア空尉だったが、シスターの連続攻撃から一つを選んだ空尉は槍を一振りした。

 

 

それだけで、試合は終わった。

 

 

どう振ったらそうなるのか、体勢を崩して倒れたシスターに槍の先端が突きつけられていた。

相変わらずの並外れた技量に驚いたのは勿論何だけど…

 

 

 

 

迷惑になってしまったのではないか?

 

 

 

 

そんな考えが頭をよぎる。

空尉がしたことは私がエリオ相手に、リミッター無しでも出来る保証がないことだ。

 

つまり…それだけの差と言うこと。

 

シスターシャッハの力量は、地上では私やシグナムとさほど変わらない。

訓練になるかと思ったのにこれでは…

 

「紫電…」

「あっ…」

 

カートリッジをロードしたレヴァンティンから吹き上がる炎に、私は思わず声を漏らす。

フレア空尉相手に大振りは不味い。

 

「一閃!!」

 

振るわれたシグナムの剣とフレア空尉の槍がぶつかり…

 

 

剣と槍が互いに中ほどから折れた。

 

 

空尉は槍の強化を尖端のみに集中させているから、空尉の全力を受けるのに槍本体の強度が足りなかったのか…

とは言え、それで紫電一閃を振るったシグナムのレヴァンティンを折るのはやっぱり相当な事だけど。

 

「狙い通り…ではあるが、痛み分けか。」

「そうだな。」

 

二人は揃ってデバイスを待機状態に戻す。

 

「一応自己修復も出来るが…診て貰ったほうが確実ではありますからね。今日はここまでですか。」

「そうですね。今日はありがとうございましたシスター。」

「いえ、腕のいい方との模擬戦は私としてもありがたいですから。機会があれば是非また。」

「はい。」

 

シスターシャッハに礼を告げ、今日の模擬戦は終わりとなった。

 

もののついでと言う事で六課でデバイスを見て貰う事になった空尉。

シスターと話して帰ると言う事でシグナムが残ってしまった為、六課までを空尉とともに帰る事になったのだが…

 

無言で空を眺めている空尉の気持ちが分からない。

 

 

やっぱり私は少し焦ったのだろうか…

 

 

「あの…模擬戦はどうでしたか?」

「助かった。戦闘機人一機に一部隊が壊滅させられるようなメンバーと交戦した所で何の足しにもならないからな。」

「そ、そうですか…」

 

思い切って聞いてみると、少し返答に困る答えが返ってきた。

武装隊の方々の事なんだろうけど…確かに地上本部襲撃の折にNO7、セッテ一人に一蹴されている。

それを考えれば助けにはなった筈だけど…どうしても馴染めない人で困

 

 

 

「ありがとう、すまなかったな。」

 

 

一瞬、自分の耳を疑った。

 

まさか空尉から御礼の言葉なんて聞けるとは思っていなかったから。

 

「アジトで言っていた礼なのだろう?私との模擬戦と聞いて乗る変わり者を探して機会を用意するのも手間だった筈だ。」

「そ、そんな!手間だなんて!それに私の方がどれほど助けられたか…」

 

驚くほど殊勝にされて私の方が戸惑ってしまう。

 

「空尉は、その…もう少し交流を交わそうとか思う事は無いんですか?」

 

余計なお世話と言われてしまえばそれまでかもしれないけれど、どうしても聞きたくなった。

三度の大事件で関わって、その内一度では思いっきり助けられた。

なのに何も知れないと言うのは…少し寂しいから。

 

「無駄に時間を裂く位なら訓練でもしていたほうがいい。」

「そうですか…」

 

無駄の二文字で一蹴されてしまった私は、結局意味がなかったのかと思って…

 

「そう思っていたが、少し変わった。」

「え?」

 

すぐに、否定の言葉を返された。

 

「お前が招いたエリオやキャロは、お前を慕いあれだけの力を身につけた。今回の模擬戦もそのお陰なら悪くは無い。」

「フレア空尉…」

 

頑なだった彼がこんな事を言ってくれるとは思わなかった。

それも、彼の心を開くのに、私やエリオとキャロが力になれたと言う。

 

「私から進んで関わるつもりはあまり無いが…誘いがあれば善処はしよう。」

「…はい。」

 

旧知の仲で、幾つかの戦いを共にした人。

そんな彼が少しでも心を開いてくれたのが嬉しかった。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

「フェイトと仲良くなったんだ、よかったじゃん。」

「お前もか…誰も彼も邪推ばかり…」

 

暇を取って速人の家の訓練に混ざった休憩中、先日の話をすると速人までもが妙な答えを返す。

局内でも物怖じしない変わり者が妙な事を聞いてきて面倒だと言うのに…

 

「邪推って何だよ、仲良くなったって言っただけだろうが。」

「む…」

 

肩を竦めた速人が告げた言葉に、確かに気にしすぎていたと自覚する。

 

「で、いい事の筈なのになんで難しい顔してるんだよ?」

「分かるのか?」

「俺しかわかんないだろ。お前ただでさえほぼ仏頂面だし。」

 

速人の指摘は当たっていた。少し気がかりがある。

 

「フェイトには変わったと言ったが、彼女を助けたのも消耗した私が戦うより勝率が高いと判断しただけだと言うのに、礼と言ってわざわざあんな機会まで用意した彼女を騙しているようで…なんだその目は?」

 

真面目に話していると言うのにこれ以上ない程妙な物を見る様に目を細めて私を見てくる速人に気付いた私は、話すのを止めて問いかける。

 

「いや、いいんじゃないの?360度変わる…って言うと変わってないって言う奴もいるだろうけど、巡り巡って結論が前と変わらなかったとしても回る前とは意味が違うと思うし。」

「そういう物か?」

「って言うか、正直お前がこんな話を話題に出す時点で十分変わってると思うが。」

 

気がかりを覚えただけで変わっていると思われる程に…話をした覚えは無いな、確かに。

軽く呆れる速人に返す言葉もなく黙りこむ。

 

「気がかりならお前からも何か考えてみたら?模擬戦のお礼とかさ。わざわざ模擬戦企画してくれる位なんだからお前から動けば余程異常な事しない限りは煙たがったりしないだろ。」

 

私から速人の修練に混ざったのも、雑談とナギハがきっかけだったな。

特に困るほどの事でなければ少し位日常に混ざっても問題ない…か。

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

 

教会での模擬戦から数日経ったある日、帰ると荷物が届いていた。

 

「フレア空尉からフェイトちゃん宛て見たいだけど。」

「フレア空尉から?何だろう…」

 

まさかあの人が私宛に荷物を送ってくるとは思わなかった。

テーブルに置かれた肩幅程度のサイズの箱を開く。一体何を…

 

 

 

 

 

「「え?」」

 

 

 

 

 

傍らにいたなのはと揃って箱の中身を確認した私達は、揃って呆けたように立ち尽くした。

 

 

 

薔薇の花束と小さな箱、それと手紙が同封されていた。

 

「えー…と…」

 

困惑しつつも先に小箱に手を伸ばす。その箱をゆっくりと開き…

 

 

 

 

黄金色に光る小さな宝石がついた指輪があった。

 

 

 

 

何これ?一体どうなってるの?

 

訳が分からないまま手紙に手を伸ばす。

自分の喉なのにやたらと渇いている気がする。何だっていきなりこんな…

 

『フェイト=T=ハラオウン様へ。先日の模擬戦は実りあるものになった、ありがとう。私のような関わり辛い者相手だと企画から人集めまで手間だったと思う。少しは関わりを持った方が良いと言う話含めて私なりにも思う所があった為、少しばかり実践してみる事にした。そこで手始めに、助言をくれた貴女にこうして御礼状と御礼の品を送らせて貰った。女性相手と言う事で飾るのに困らない程度の花と手軽に使える装飾品が無難と判断したのだが、もし問題があれば教えてほしい。』

 

手紙を読み終えた所で私は片手で額を抑えて俯いた。

 

 

 

頭が痛い……

 

 

 

「フェイトちゃん、フレア空尉は何て?」

 

私の様子から何となく察してくれたらしいなのはに、額を抑えたまま手紙を渡す。

 

「私、何で空尉と速人お兄ちゃんが訓練したりするようになったのか分かった気がする…」

 

きっと似た者同士と思ったのだろうなのはが、少し呆れ混じりに手紙を閉じて私に返す。

 

 

本人は真面目なんだろうけど…

 

 

「これは酷いよフレア…いろんな意味で…」

 

自分から人と接する事を薦めてそれを前向きに検討してくれたのに、出鼻を挫くのも酷い気がするし、かと言ってこんなものを模擬戦と相談の御礼の品にするような滅茶苦茶なフレアに何をどう話せばいいのか…

 

なんだか地雷を踏んだ気分だった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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