なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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エピローグ~始まりの地にて解けた心

 

 

エピローグ~始まりの地にて解けた心

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

ジェイル=スカリエッティの頭文字から取ったJS事件の解決から二ヶ月後、ヴィヴィオが正式になのはちゃんの子供となって…

 

完治していないなのはちゃんは一週間、休養を兼ねて速人君と約束していたらしい旅行に行く事になった。

 

なのはちゃんが外れることになるため、折角だからと隊の前線メンバーと私は半日休んでエメラルドスイーツにて祝い騒ぎをする事になった。

 

体調不良の人も結構動けるようになってきてるし、JS事件そのものが片付いてくれたお陰で前線メンバーに暇を作る事が出来た訳やけど…

旧友が集まってるんだから一日位楽しんできて欲しいと皆に送り出された事には、感謝するしかない。

 

部隊長どうぞと言わんばかりに先頭切って久々の顔合わせに意気揚々と…

 

 

「いらっしゃいませ。」

「間違えました。」

 

 

開いた扉を速攻で閉じた。

あれ?おかしいな?何かとんでもない映像が映った気が…

皆が不思議がる中、私は店名がエメラルドスイーツである事を確認して、再度扉を…

 

「……いらっしゃいませ。」

 

一回スルーしたせいか若干機嫌の悪くなった店員さんが、変わらず目の前に立っていた。

 

 

 

「な…なんでレジアス中将がこんな所におるんやあぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 

声の限りに叫んだ私の目の前では、元地上本部の事実上最高権力者であるレジアス元中将が、体に見合ったサイズのボーイの服を着て頭を下げていた。

 

「はやて、いらしてくれたのですね。」

「ドッキリ成功したな、レジアスさん。」

 

レジアスさんの背後に、少し申し訳なさそうなフレイアと楽しそうにレジアスちゅ…さんの肩を叩く速人君が姿を見せる。

 

だ、誰かわかっとんのかコイツ?なんでそんなフランクや…

 

「…やはりこういうのは趣味が悪いのでは無いのか?」

「慣れだよ慣れ。さて、悪いけどウェイターに回ってくんない?レジアスさんが話してもいいけど皆やり辛い事この上無いだろ?」

「う、うむ…」

「『畏まりました』な。」

「…畏まりました。」

 

だから誰かわかっとんのかぁ!!

レジアスさん相手に超気楽に指導じみた事までし出す速人君に、内心で悲鳴じみた叫びを上げる。

 

「ま、適当に座ってくれ。質問ならその後でちゃんと聞くからさ。」

「主…見本になるのであれば案内は…」

「おっとそうだな。お好きな席へどうぞお客様。」

 

丸型のテーブルに適当なグループで腰掛けた私達は、私となのはちゃんとフェイトちゃん、それにヴィヴィオが座ったテーブルに同席した速人君を睨む。

 

「どういうつもりやアレは?」

「どうもこうも、局員を降ろされたレジアスさんを家に誘っただけだよ。今までの高級住宅に住んでられる金も無いだろうし、就職制限なんて無いだろ?」

 

アッサリ言ってのけた速人君の言う通り、別に就職に制限は無い。

中将の罪状は、これまでの功績や地上局員の嘆願、暗躍の果ての目的が正の方向の物だったことなどを鑑みて、罰金と解任で済んだけど…

 

その後の就職先となると、大問題だ。

 

『あの』レジアス中将など抱えられる企業がぽんぽん存在してる訳も無いし、そもそも中将はやり手でこそあるものの本人には魔力も何も無く。オマケが大スキャンダル。

正直、爆弾抱えるようでそうそう手は出せないだろう。

 

そんなものを平然と拾ってのける速人君は…まぁ、そういう人だったなと思って考えるのを止めた。

どうせ『根はいい人なんだしいいんじゃね?』位しか考えて無いコイツは。

 

と、唐突に周囲から感嘆の声が上がる。

なのはちゃんとフェイトちゃんも同様に私の後ろを見て驚いているようだった。

 

何があるのかと振り返った先には…

 

「や、はやて。似合ってるかな?」

 

軽々と複数の料理を載せたトレーを浮遊魔法で制御している、エプロンドレスをつけたリライヴちゃんがいた。

スカートの丈が膝位まであるから、専門店で売っているような妙なものでもなく、淡い水色の服と白いエプロンドレスが童話を思い起こさせるような仕上がりになっていた。

 

くそう、六課に呼んだ時のがここの店の固定衣装かと思って油断しとった。

お子様お断りな類の事を毛嫌いしとるリライヴちゃんが着るからか清楚になっとる。

その癖可愛いのは嫌いじゃないらしいから性質が悪い。飾っときたくなってきた。

 

音も無く、浮かせた十を超えるトレーをそれぞれの席に座るメンバーの前に降ろすリライヴちゃん。

リライヴちゃん、普段魔法は殆ど単発でしか使わんから分からんかったけど…十二個同時の浮遊制御をほぼ完璧に近い形で出来るなら大した技量や。マルチタスクもとんでもないな。

 

「っと、リライヴ。お前も適当に座ってたらどうだ?」

「え?でも配膳は…」

「今日はディアーチェがゴーレム使ってくれるってさ。『我に話す事は無い』だって。」

 

速人君が指差した先では、壁に背を預けて私達から目線を外すディアーチェの姿があった。

ま、仲良しこよしにはなってくれんかな、あの娘は。

 

「んじゃ俺はちょっかい出して回ってくるからここどうぞ。」

「え?ちょ…あ…」

 

サラリと言った速人君は、リライヴちゃんが止めようとするのも間に合わないくらいにさっさと席を離れる。

レジアス中将の事は分かったし、確かにもういいといえばもういいんやけど…

ま、ええか。リライヴちゃんに聞きたいこともあるし。

 

「これで私服の皆と並ぶのもどうかと思うんだけど、お邪魔するね…っと。」

 

リライヴちゃんが席について、私を見る。

 

「音頭取らないの?部隊長さん。」

「おっと…せやな。はい皆注目!!」

 

リライヴちゃんに指摘され、色々衝撃過ぎて忘れてた事を思い出す。

トレーに置かれたグラスを手にとって立ち上がると、皆の視線が集まる。

 

「えー、初めからいきなり色々衝撃やったけど…今日はお祝いやし、店の人は身内みたいな人ばっかやからフォワードの皆も気にせず楽しんでな。それじゃ、JS事件解決と高町ヴィヴィオの誕生を祝して…乾杯!!」

 

宣言と共に、各席から乾杯の声とグラスを合わせる音が響き渡った。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

折角だからと思って前線メンバーの集まっているテーブルに顔を出す。

 

「しかしリライヴ戦見たけど…お前よくあのシフト使う気になったな?」

 

トラウマものの撃墜を無視して、前線全員を組み込んだ形で綺麗に決めたあの連撃は正直感心した。

 

「あの人相手に通じるものなんてほぼ無かったので。後から賭けに近い事は出来るだけやらないように散々言われましたけどね…」

 

けど、その件に関してお説教だったらしく苦い表情をするティアナ。

トドメがヴォルテールの炎じゃ非殺傷利かないし、正直リライヴ相手だから出来たと言う感はある。危険度を考えれば無理も無い。

 

「あそこまでやって無傷だったアイツはやっぱデタラメだな…」

「そんな事言うなら速人さんもですよ!見ましたよ!あの高速移動連続攻撃!!」

 

思わず漏らしてしまった所で、少し興奮したように切り出すエリオ。

そう言えばまともに見せる形で使ったのはあれが初めてになるのか。それまではグリフとの一対一とか以外では少ししか使って無いもんな。

 

「アレが原因で一週間寝込んだって言っても使いたいか?」

「え?あ、すみません…」

「いや悪くは無いけど。」

 

便利なだけの物でもないと言いたかっただけなのだが、意気消沈するエリオを見てると悪いことした気になってくる。

 

「スバルには悪い事したな。なのはの訓練と方向性逸れた事までやった割に俺が途中退場なんて。」

 

訓練まででしゃばるつもりも無かったのに関わった挙句に途中退場になったのでちょっとばかり悪い事した気はしていたんだけど、スバルは笑顔で首を横に振った。

 

「いえ!勉強になりました。時間があったら度々きてもいいですか?」

「ならアイスも用意するように提案してみるよ。」

「ホントで…あ。」

 

格闘訓練に来ると言う話の筈なのにアイスと聞いて飛び上がってしまった自分に気付いたスバルは、恥ずかしそうに座りなおす。

好きなんだなぁアイス。

 

「暇なときにフレアとかも顔出してるし別に問題は無いぞ。リライヴも住む事になったから魔法戦でも出来るしな。」

「けど、リライヴさん魔力Bまで落とされたんじゃないんですか?」

「その状態でシュテルとレヴィ両方に勝ちやがった。一対一だけど。」

 

キャロの質問に、呆れたように両手を上げて答えた俺の言葉を聞いた四人が、呑気になのは達と話しているリライヴに視線を移す。

 

「ま、まぁアレだ。魔力不足でもなのは達とやりあえるって証拠でもある。喜んで置けばいいんじゃないか?」

「そ、そうですね!頑張ります!」

「は、はいっ!」

 

少し乾いた台詞だったが、エリオとキャロが素直な返事を返してくれる。

 

言えないな…魔力集束で出力を補って瞬間的にバーストモード扱うとか。やっぱアイツデタラメだ。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

開放されたリライヴちゃん。

一応牢を出る時とかに少し一緒だったけど、改めて同席で会話するのはその…何と言うか…

 

気まずかった。

 

敵の割に優しくて、でもやっぱり敵でしかなかった彼女。今だって管理局にとっては『厄介払い』に近い扱いで速人お兄ちゃんに回収されただけで更正できた訳でもなんでもない。

でも親しい身内と一緒に暮らす仲間みたいになっちゃって…よく分からない。

 

「さっきの浮遊制御凄かったね、トレー全部を並行で中身を一つもぶれなく降ろすなんて。」

 

結局最初に聞くのがこんな話。

うぅ…やっぱり魔法戦バカになっちゃってるのかなぁ…

あんな砲撃の後に…芝生で転んだのとSLBを一緒にするほど鬼になったつもりは無いのにヴィヴィオに立ち上がられて以来、さすがに色々気にしたほうがいいと思い始めてる身として、最初の質問が魔法制御の話なのは女性としてどうなのかと疑問に思う。

 

「ああ言うのは普段は使えるからさ。戦闘中はあんまり多数の制御ってする気になれないんだけどね。」

「そ、そう…」

 

事も無げに言うリライヴちゃん。

誘導弾同時制御を32個同時に出来るまでに結構な年月かかったって言うのに…便利だからって日常的にあんな事サラリとやられたらちょっと対抗心が湧く。

 

「服も似合ってるし可愛いから、浮いてるトレーと一緒だと、メルヘンだよね。」

「ありがとフェイト。よかった…皆して見てくるから『少女趣味』とか言われるかと…」

「リライヴちゃんの少女趣味は万国共通の認識じゃないん?」

「いつから!?趣味とかの話ってした事無いよね!?」

 

フェイトちゃんの言葉がきっかけで服の話題に切り替わる。

アレ?ひょっとして私だけ特別酷い?

ちょっとだけ置いていかれたと感じながらも話に乗る。

え、えっと…

 

「でもホラ、バリアジャケットとかウエディングドレスが元…あ…」

 

言いかけて、リライヴちゃんが硬直している事に気付いて止まる。

し、しまった…色々考えすぎてつい言っちゃった…私達が監視してた事は言って無いのに…

 

「あ…あの…ひょっとして…」

「予想通り、牢の会話は監視させて貰っとった。」

「ぁぅ…」

 

恐る恐ると言った様子で問いかけようとしたリライヴちゃんは、はやてちゃんの答えを聞いて、俯いて動かなくなる。

 

『ご、ごめんはやてちゃん…』

『どうせ聞かなアカン事もあるからええよ。』

 

軽く流したはやてちゃんは、真面目な表情になってリライヴちゃんを見据える。

 

「こういう席や、お堅い話はなしにしたかったんやけど…一つだけ確認しとかなアカン事がある。」

「…何?」

 

真面目な話と察したらしいリライヴちゃんは、俯いていた顔を上げてはやてちゃんと目を合わせる。

 

「速人君を…裏切らんな?」

「それは私が貴女達に聞きた」

「私の家族の命の恩人で古い友人。フェイトちゃんもそうやし、なのはちゃんにとってはまんま家族や。私達に聞きたいなんて冗談言うな。」

 

はやてちゃんの代弁を肯定するように、私とフェイトちゃんは頷く。

はやてちゃんの瞳に強い意志を感じたのか、リライヴちゃんは少し驚いたようだった。

けどそれも一瞬で、すぐに笑みを浮かべる。

 

「裏切らないよ、約束する。」

「随分軽いな?」

「気負いが無いんだよ。隠してた事なら幾つもあるけど嘘はついた事無いし、約束だったら尚更破らないからね。」

 

リライヴちゃんが自分で言う通り、一見軽くすら見える笑顔での対応。

思えば彼女は、戦闘時ですらこの調子だった。今更そこを追求するものでもない。

第一、軽口で口約束が出来る人なら『反省してる』と言って牢を出てしまえばよかったんだから。

皮肉な話だけど…捕まっても逆らっていたからこそ信用できる。

 

最も、私はそんな理由がなくてもリライヴちゃんは疑わないけど。

立場や経験してきた仕事から私ほど簡単に頷いてあげる事も出来ないだろうけど、はやてちゃんやフェイトちゃんも私と同じ気持ちだと思う。

 

「…分かった、信じるよ。」

「お礼は言わないよ、嘘吐く可能性考慮されるのが心外なくらいなんだから。」

「よく言うわ。」

 

はやてちゃんが同意したと言うのに、重々しかっただけでリライヴちゃんとしてはいい気がして無いみたいだ。

鼻で笑って返したはやてちゃんだったけど、結局の所リライヴちゃんを信用していたのは同じだったらしく、既に表情には笑みが浮かんでいた。

 

「答えも聞けた所で、信頼の証としてプレゼントがあるんだ。なのは。」

「うん。」

「え?」

 

フェイトちゃんから事前に渡されていた、プレゼントを取り出す。

 

完全に修復されたリライヴちゃんのデバイス、イノセント。

 

身内みたいな物になるんだから私から渡したほうがいいと、シャーリー達から受け取っていたそれを取り出して、リライヴちゃんに渡す。

 

「イノセントに感謝したほうがいいよ?データ検分しようとしたら自分で全データ消去プログラムを起動させかけてまで情報を秘匿したんだって。」

「イノセント…」

『結果的にそこまでは必要ありませんでしたから気になさらず。』

 

受け取ったデバイスを嬉しそうに見つめるリライヴちゃん。

10年以上の相棒となると私とレイジングハートよりも長い。愛着だってある筈だ。

イノセントだって、全データを消すとなるとAIである自分もなくなるのに、それを承知の上で自分の存在までかけてリライヴちゃんの秘密を守った。

もうただの武器と使用者の関係じゃない。

 

「その…ありがとう…」

 

イノセントを握りながらお礼を告げるリライヴちゃん。

私達はそれに答えるように頷いた。真面目な話はこれで終わり、後は…

 

「んじゃ後は…恋バナかな?」

「へっ?」

 

唐突に嫌な笑みを浮かべたはやてちゃんが切り出した一言に、リライヴちゃんが素っ頓狂な声を上げる。

恋バナ…って…

 

「なのはちゃんも気になるやろ?速人君の言葉を告白と勘違いして『受け入れた』リライヴちゃんの本音は。」

 

ニヤニヤしながら告げられたはやてちゃんの言葉を聞いたリライヴちゃんが、だんだんと顔を赤くしていく。

私はそんな彼女の様子を見ながら、緊張感にも似た嫌な気分を感じていた。

 

「そ、それじゃそろそろ速人と変わろ…っ!?」

 

私は、言葉を濁して席を立とうとするリライヴちゃんの手を鷲づかみにする。

はやてちゃんの言いように引っかかる物もあったけど、少なくとも気になるのは本当だ。

ブラコンと呼ばれる分にはこの際構わないけど、絶対逃がさない。

 

「ママ…恐い…」

「ヴィヴィオ、ちょっとフェイトママと一緒に離れてようね。」

「しっかり安全圏連れてったげてな!話は私がキッチリ聞いとくから!」

 

周囲の騒ぎを余所に、私は泣きそうなリライヴちゃんの目を真っ直ぐに見続けていた。

 

 

 

Side~カリム=グラシア

 

 

 

事件終結から2ヶ月。高町速人さんの要求を受け入れた上であの密会を無かったこととして扱うことに決めたクロノ提督は、一部の深い知り合いや要人のみに密会での内容を語り助力を請う事にした。

一般には、高町なのは一等空尉の身内にして、単騎でリライヴを制したあの英雄と、ゆりかごに単騎で立ち向かったその家族が責任もって彼女の身柄を預かる。と言う形で話す事になり、危険視こそされたものの能力制限もかけたままとなる為どうにか納める事は出来た。

 

速人さん自身は騙す事もなく全てを語り、その後周囲をごまかすのは権力者の仕事…というあの思い切りの良さには本当に恐ろしいものがあった。

けれど…

 

「速人さんは何故先にあんな脅迫めいた材料を提示してから、保障人の書類を出したのかしら?」

「それは簡単だよ。」

 

独り言のように呟いた私の疑問に、ロッサが簡単だと言い切る。

 

「先に保証人だけ名乗り出た所でそれを僕達が聞いてあげる理由は無い。局にとっては無駄に抵抗したリライヴがその末に亡くなった…と言う展開が一番楽だった訳だし。」

「…そうね。」

 

あまり言いたくは無い話ではあるけれど、楽と言ってしまえば確かに楽だ。

それでも、自分の悪事に近い話を明かすのは後からでもよかった筈なのに…

 

「先にあんな物を提示したのは、後から脅迫に持ち込むより、後から軽い話を出されたほうが僕らの気が楽になるからだよ。『この程度で済むんなら』ってね。」

 

ロッサの話は分かる。

けど、それだけの為に脅迫のような材料を先に出したと言う彼の事が分からない。

 

『殺すより汚い事何て無いからだろう!君にとって!!』

 

クロノ提督が『彼』の笑顔での宣告を本気だと受け取ったことを示す叫び。

私は、なのはさんの御兄妹でいくつかの事件解決に関わってきた剣士と言う事しか知らないが、彼にはきっとまだ何か秘密があるんだろう。

それこそ、クロノ提督が告げていたように普通の人が『黒』と見る事柄すら大した問題に見えない程の何かが…

 

「そう言えば、今日ははやては速人さん達と一緒なのよね?」

「そうだね。様子見てみようか?」

 

人のプライベートに踏み入ってまで知る事じゃない。まして、ロッサはそれが簡単に出来るからこそ尚更だ。

暗い考えを止めて、白い堕天使リライヴがどうしているかの様子見と言う名目で通信を繋いで見る。

 

 

 

 

『スパイラルバスター!!』

『ディバインバスター!!』

 

 

 

通信を繋いだ先から、光の柱が衝突する映像が映し出された。

どうやらなのはさんとリライヴが森の一角で結界を張って交戦しているようだ。

 

あ、あら?食事会と言う位の話しか聞いてなかったのだけど?

 

「はやて、これは一体?」

 

いきなり彼女が交戦している為、緊急事態ならば冗談ではすまないので問いかけると、衝突する二人を眺めているはやては乾いた笑い声を漏らす。

 

『…恋バナからバリアジャケットのデザイン案の話に流れてった後、模擬戦…早い話が喧嘩になった。』

「まぁ…」

 

はやてから返ってきた答えは、緊迫感の欠片も無い話だった。

 

リミッターがAAで済んでいるなのはさんに対してBまで魔力に制限がかけられているはずのリライヴが、互角に渡り合っている。

やっぱりリライヴは凄い人のようだ…じゃなくて。

 

「緊急事態と言う訳ではないのね?」

『それは間違いないよ、こんなんもおる位やし…』

 

はやてが呆れ雑じりに此方に映る画面を切り替える。

 

『おつまみー、お弁当ー、ビールはいかがっすかー?』

『マスター、ほぼ未成年と公務員の席でお酒はどうかと思いますが…』

 

切り替わった画面に、食事類を詰め込んだ箱を持ち歩いている速人さんの姿が映った。

 

周囲にすっかり観戦体制に入っている人たちや、レヴァンティンを手に待ち遠しそうにしているシグナムさんが映っている所を見ると、平和な宴会の一幕らしい。

 

『あ、カリムさん!ヴェロッサ!リライヴの件色々ありがとな!!』

『ちょ!ばっ…何を大声で』

 

通信越しに写る私達を見つけた速人さんが、持っていた箱を上方に放り投げて手を振ってくる。

根回しが関わってくるとなるといい話ではないから、はやてが慌てて速人さんを制止する。

そんなはやてを余所に笑顔のままの速人さんは、振る手を止めて落ちてくる箱をキャッチする。

 

「本当に、邪気の無い笑顔だね。」

「そうね。」

 

あんな会合をした後にも関わらず、やっていた事が根回しだと分かっているのにする笑顔ではない筈なのに…

 

「けど、やらないと彼女が死んでいたって言うなら…たまにはいいかな?」

 

ロッサが差した先では、倒れているなのはさんに手を差し伸べて笑みを見せている、穴だらけになったバリアジャケット姿のリライヴ。

 

あれが、速人さんの理由。

 

「たまににしてくれるといいんですけどね。」

 

組織に立つ者として簡単に受け入れられるものでも無いけれど、逆に言えばそれ以外の理由で非難できない光景を目にして、少しだけ彼の気持ちが分かった気がした。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

ある程度騒ぎもカタがついた所で六課メンバーは隊舎へ帰り、なのはとはやてとフェイトの三人だけが残る。

 

三人に残って貰ったのには、伝えるべき事があったからだ。

それは…

 

「海鳴に帰る事になったから、教えておこうと思って。」

 

すずかが海鳴に帰る事になった事だった。

すずか本人からいきなりもたらされた話に、少しの驚きを見せるなのは達だったが、その後小さく笑顔を見せた。

元々『地元が危険だから』という理由で此方に避難していたのだ、寂しくはなるが祝福するべきだ。

 

「寂しくはなっちゃうけど…海鳴の話落ち着いたんだね。」

「うん。種族的には特殊だけど、後ろ暗い事して生活してた訳じゃないしね。」

 

少しだけ寂しそうなフェイトの言葉に頷くすずか。

そんなすずかを前に、はやてが軽く頭を下げる。

 

「管理局員としても改めてお詫びします。」

「大丈夫だったし、大分昔の話だから気にしないで。」

 

すずかはそう言って流すが、元々地球に出てきた違法魔導師が流した話が原因だ。

魔導師に度々襲撃されては管理外世界の人間としてはたまったものじゃない。

地球一つの監視を完全にするのも無理はあるが、出来るだけ頑張って貰いたいもんだ。

 

「でもすずかちゃんだけ?恭也お兄ちゃん達は」

「下手に帰れんよなぁ?」

 

なのはが言いかけた所で、はやてが横目で俺を見る。

 

「あー…兄さんは、やりすぎた。って言うか、やらせすぎた。」

「速人お兄ちゃん?」

 

顔を逸らして呟いた俺を、ジト目で見てくるなのは。

まぁ大体察したんだろうが…

 

誰にも見つからずレジアス中将他のいる場所まで潜入した上、戦闘機人まで撃破したとなると完全無視も出来ない。

管理世界に裏技できた上、そんな事をアッサリやってのけた実力者。

魔導師ではないが、先のドゥーエの潜入やグリフのせいで無視も出来ない現状。

 

別に兄さんが帰る事までは止められないだろうが、目がつけられてるのは間違いなく、地球にまで魔導師が様子見に出張るのは出来れば避けたいと言う事で、兄さん達は此方に残る事にした。

忍さんと雫も『もう慣れたから別にいい』と言う事で、すずかだけが帰る事になったのだ。

 

ちなみに、俺が頼んだ最高評議会の調査の後、シュテル達に頼まれて、シュテル達の戦闘をレジアス中将依頼のものとして扱ってもらう交渉をしたらしい。

知らん奴が暴れてたと裁判沙汰になるのを避けるためらしいが、兄さん普通の人間なのに無茶させ…いや、普通ではないか。

 

「そういう訳で私だけ帰る事にしたんだ。アリサちゃんも待っててくれてるしね。」

 

アリサの名に、少しだけ寂しげな表情を見せるなのは達。

海鳴の任務の時『六課に帰る』と言って落ち込ませたらしいなのは達としては、思う所があるんだろう。

アリサだって幼馴染の親友なのは間違いないのに、その中で唯一海鳴に残る事になったんだから。

 

「…せやな。落ち着いたら顔出すよ、必ず。」

「うん。」

「俺となのははすぐ行くけどな。」

「え?」

 

少ししんみりとしたまま頷きあうはやてとすずか。その後に続くように告げた俺の言葉に、まるで聞いていなかったなのはが呆けた表情を見せる。

そこで、思い出したようにはやてが手を叩いた。

 

「そうやった。高町なのは一等空尉、シャマル医師と相談した結果も含めて貴女には二週間休暇を取ってもらいます。その間くれぐれも魔法を使わないように。」

「え!?」

 

知らされていなかった、降って湧いた休暇に目を白黒させて驚くなのは。

フェイトも少し驚いたようだったけど、静かに頷く。

 

「休んだほうがいいよ。ブラスター含めて酷使のしすぎで魔力発揮値とか未だに回復して無いんでしょ?」

「で、でも…あの子達に教えて上げられる時間、いくらあっても足りない位なのに…」

 

一年個人指導すら出来るような環境と言う、特別な教え子になる今回の四人には自分の持つありったけを伝えたいと意気込んでいたなのはは、唐突に降って湧いた休暇命令にうろたえる。

 

「基礎メニューと模擬戦をこなすに当たって、集束砲撃と誘導射撃が得意な砲撃魔導師の代役は見つけてある。心配ならゆっくり羽を伸ばして大詰めに入る段階で壊れんようにしておくように。」

「了解しました…」

 

笑顔で告げられたはやてからの宣告に、決定事項と察したなのはが肩を落として俯く。

 

「今回は完全にお前が悪い。ヴィヴィオも引き取った事だし、旅行の為に休暇取らせようと思って顔を出した俺がはやてから聞いた第一声が『丁度よかった』だったんだぞ?どれだけ無茶してんだお前。」

「正論だけどお兄ちゃんに言われるとすっごく納得いかないの…」

 

呆れ気味に口にした俺を、すずかまで含めて皆が一斉に見てくる。

いや、まぁ確かに神風他色々酷いけどさ。そんな皆して見なくてもいいだろ…

 

「明日からすぐなら色々準備があるから帰るね。今日はこっちに泊まるからヴィヴィオにはちょっと待っててって言っておいて。」

 

今頃レヴィ達と戯れてるだろうヴィヴィオへの伝言をしっかり残して早足で店を出るなのは。

 

「何しに行ったか賭けるか?」

「「二週間分の教導メニューと注意事項の編集。」」

「賭けにならないね。」

 

はやての提案した賭けに、俺とフェイトがハモって返し、すずかの指摘と共に俺達は揃って笑い出した。

ホント愛されてるなぁスバル達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅行初日、実家に返ってきた俺は…

 

「な、何でいきなり椅子に縛られたんだ俺?」

 

いきなり翠屋の椅子に拘束された。

ぐるっと周りを囲む見知った一同。まるで尋問だなオイ…

 

「決まってんでしょ!アンタが恭也さんの二の舞に…って言うかそれより酷くなりつつあるからじゃない!なのはと子供つれてきたと思ったら知らない女の子また一人増やして結婚所か恋人ですらないって…馬鹿言ってんじゃないわよ!」

 

先導するアリサの怒声に俺を取り巻く一同が皆して頷く。

 

「ま、待て待て待て!兄さんは結婚してるだろ!!」

「せやからお師匠より酷い言うとんや。」

「あ、なるほど。って納得してどうする俺!!」

 

レン師匠の静かな指摘に納得しかけて首を横に振る。

が、既に女性陣はほぼ完全に敵に回ってしまったようだ。

 

「昔の王様じゃないんだから女の人はべらせるような真似は駄目よ、速人。恭也より酷いじゃない。」

「全く…昔から風呂に忍び込もうとしたりしてたけどまさかここまでずるずると引きずるとはな。師匠より酷いな。」

「駄目だよ速人?いつの間にか沢山の女の人に好かれてるだけでも困ったものなのに確信犯じゃ恭ちゃんより酷いよ。」

「そもそも大前提がおかしい!俺となのはは兄妹だしヴィヴィオはなのはとフェイトが引き取ったの!あと兄さんいないからって皆して好き放題言い過ぎじゃないか!?」

「兄妹ゆーても…」

「なぁ…」

「レン師匠に晶師匠!揃って姉さん見ない!って言うか姉さんも引きずりすぎだって!」

「甘いよ速人、二十代後半まで独身だと前とは別の意味でダメージが…」

「あらあら美由希、目が死んでるわよ?」

「笑いながら言う台詞か母さん!そしてごめん姉さん!俺その方面わかんない!」

「わかんないとか言いながら女の子の取り巻き増やすから悪いのよ!」

「何だこの四面楚歌!?俺に味方がいねぇ!!」

 

女性陣に囲まれ、割と言いたい放題にされ続ける。

そんな俺を、少し離れた席に座るなのはとリライヴが苦笑雑じりに眺めていた。

 

「速人、やっぱり兄妹水入らずの方が良かったんじゃない?」

「リライヴちゃんをつれてくるのは私も承諾した訳だから、それくらいにしてあげて。」

 

どうやら俺の味方は、つれてきた二人らしかった。

味方がいて本当によかった…

 

「女性関係にだらしないからこんな事になるんだぞ?俺みたいに綺麗な嫁さんを貰わないと。」

「もう、貴方ったら。」

 

母さんを抱き寄せて告げる父さん。

これをこの歳で冗談でもなんでもなく本気で言って、やっているから凄い。未だにバカップルか。

 

「アリサ、飛行機は?」

「頼まれた通り準備しておいたわよ。」

「サンキュー。」

 

なんだかんだ言って、昨日頼んですぐ済ませておいてくれた旧友に素直に感謝する。

アリサは小さく笑みを返した後、首を傾げる。

 

「けど…あんな見る物も無い所に行ってどうするの?」

 

観光地でもなければ人もろくにいない場所を指定されたアリサが、当然と言えば当然の疑問を口にする。

 

「ちょっとな…墓参りだよ。」

 

俺は目を閉じて静かにそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、海鳴を離れた俺達は道無き道を歩く。

リライヴとなのはは勿論、ヴィヴィオまで何も言わずについてくる。

どこに行くかは伝えていないが、重い場所だとは察してくれているんだろう。

 

暫くそうして進んでいると、一つの慰霊碑にたどり着いた。

 

 

 

「ここは、俺が救われて美沙斗さんが壊滅させた組織の隠れ家だった場所なんだ。」

 

 

 

俺が死なせてきた数多の子供を眠らせる為に建てられた慰霊碑を前に呟く。

 

「リライヴには闇の書の中で過去を見せてもらった時から機会があれば見せようと思ってたんだが、妙なところ連れて来て悪かったななのは。」

「速人お兄ちゃんの始まりの地…なんでしょ?仲間はずれにされなくてよかったよ。」

 

後回しにしてもよかったのかもしれないが、二の足を踏んでいるといつまで立ってもここに来るのを避けそうだったからすぐに来る事にした。

ただ、旅行のつもりで連れてきたなのはとヴィヴィオまで巻き込んでこんな場所に連れて来たのに悪い気がしてたんだが、真剣によかったと言われて杞憂だったと悟る。

 

慰霊碑を前に並んだ俺達は、静かに手を合わせて祈る。

 

「…こんな事しても意味は無いんだけど、一応な。」

「意味が無いって」

「祈りや呪いが生死を越えて相手に届くものなら、俺が生きてる筈無いからな。」

「あ…」

 

不謹慎な俺の物言いを止めようとしたらしいなのはが、理由を聞いて俯いてしまう。

 

魔法が関わった事件も含めて俺は、たまたま、運よく、どうにか、ギリギリ、無事で済んできた事が多い。無茶も危ない橋も渡った数は知れない。

現実的に考えて…なんて言うつもりは無いけれど、もし生死を越えて届くものがあるなら、どう考えたって呪いで下がった運によって死んでいる。

 

「…私も…そうだね。」

 

重い口を動かしたリライヴの呟きに、俺達は視線を移す。

 

「疑問に思った事無い?私の事、出身世界、一度は管理局が辿りついた筈なのに…私の出身や何かを誰も調べられて無い事。」

「それは…変だね…」

 

リライヴの問いになのはが頷く。

夢で覗いていたはやてから話を聞いたらしく、なのはもリライヴを管理局が救わなかった事を知っている。

けど俺は、何となく想像がついている。

 

「都市一つ空中に存在するような重力操作が可能な装置と、それを動かすだけの出力のエネルギー基盤。私が破壊したそれは、暴走して…」

「っ!」

 

リライヴの話を聞いていたなのはが目を見開く。

だが、目を閉じて肩を震わせているリライヴにかける言葉が無かったのか、何も言う事は無かった。

 

「慌てて私と同じ、玩具にされてた娘数人と一緒に転移した私は、暫く後から様子を見に戻った。けど…戻った先には星すら見つからなかった。何かが爆発したらしい塵が舞ってる宇宙空間だけで。」

 

予想通り…よりは酷い結果。

ただ、聖人君子でもないただの子供が、管理局に復讐とか言い出さずに戦ってきた理由は分かった。

壊したくない物までまとめて破壊してしまう事を身を以って知ってれば、暴走は出来ない。

 

知る者全てが死んだ今、誰が裁く訳でもない。

でも自分自身は奪った物を覚えている。

裁かれない代わりに…許す者も誰一人いない。

 

こんな所でも同じとはな。

俺は負けたら自分が死んでた訳だから、ただの結果と流して…流すように心掛けて殺しに何も思わなくなっていった訳だが、普通はそういう訳にも行かないだろう。

 

俯いて涙を流すリライヴを、俺は特別止めなかった。

前向きにって言っても限度がある。

こういう話を過去の一言で片付けて、俺みたいに気負いなく話せる異常者が前向きだと言うのなら、誰もならなくていいし…俺も泣ける心が欲しい。

 

殺さなきゃ殺されるって現実を受け入れてた無表情の暗殺者が、今涙を流しているリライヴより強いとか、あるべき姿だとかどうしても思えない。

それで子供じみたヒーロー目指してやってたのに…俺は泣けない。

 

お前が殺したくせにふざけるなとか、加害者が被害者面するなとか、そんな事気にしないで泣けばいいのに、この慰霊碑を前にして涙を流す事が無い。

結局、死体の山を築いて顔色一つ変えずにいられる頃と何も変わって無いのか…

 

 

 

唐突に、右手を強く引かれた。

 

 

 

引かれた先ではなのはが、俺の右手を左手で、リライヴの左手を右手で掴んでいた。

 

「怨まれて無いとか、許されていいとか、私が無責任に言う事は出来ないけど…」

 

静かに言った後、なのはは笑みを見せる。

 

「もしお兄ちゃんやリライヴちゃんを呪い殺そうとする人がいるのなら、私はそれと戦える。私は二人に死んで欲しくないし、幸せになって欲しいから。そして、他にきっと戦ってくれる人がいる事も知ってる。だから…あまり自分を責めないで。」

「なの…は…」

 

涙声のリライヴが、空いた腕で涙を拭う。

その腕を下ろすと同時、ヴィヴィオが俺とリライヴの空いた手を掴んだ。

 

手を引かれた俺とリライヴが、揃ってヴィヴィオに視線を移し…

 

 

ヴィヴィオはニッコリと、満面の笑みを見せた。

 

 

いつかなのはと話していた、元気を分ける笑顔。

涙の止まったリライヴが、肩の力を抜いた笑みを浮かべ…

 

 

 

 

自分の頬を伝う、冷たい感触に気が付いた。

 

「速人…」

「お兄ちゃん…泣いて…」

「あ…」

 

驚くリライヴとなのはの指摘に、それが涙だと理解する。

 

俺…泣いて…る?

 

「俺が…殺したんだ…代わりに殺される事もできない俺が謝るなんて…悲しむなんて出来る筈が…」

「馬鹿。」

 

呆然と呟く俺の手を、なのはが強く引く。

円を作るようにヴィヴィオと繋いでいた手を離す事になった俺は、向かい合ったなのはに頭を撫でられた。

 

「迷惑とかを理由に我慢しないようにって私に散々言ってきたのに…自分が出来てないんじゃない。他の事では散々無茶言ったり意地通したりして来た癖に。」

「必要な事と、それが平気かどうかは違うよ。私だってなのは達や速人と戦ってきたけど、戦いたかった訳じゃないし。」

 

苦痛に満ちた断末魔を聞いたとき、流れ出る血の匂いを嗅いだ時、同じ部屋で言葉を交わした子がいなくなった時、暗所で俺が殺した子の素顔が光に照らされた時…

 

 

 

悲しかったんだな…俺…

 

 

 

何かを解きほぐすようにゆっくりと頭を撫でるなのはの手の暖かさを感じながら、俺は少しの間静かに涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

JS事件は終わったけど、どうしようもない事件がそれで終わる事も無い。

むしろ次元世界の数と規模を考えたらその一端でもがいているだけに過ぎない。

 

発端はこの地での殺戮。

罪科と鮮血に染まった身ではあるけど、拾えたものはある。それは天秤の両側に重りを乗せていくような危うさを持っているけれど…

規律守ってちゃんとやってるなのは達も、そのせいで放置されたりしたリライヴのような人も、取捨選択にかけられ無いんだから仕方ない。

 

 

よかったら、呪いでも祈りでも構わないから見ててくれ。

やるだけやって皆に会いに行った時にでも感想を聞きたいからな。

 

 

去り際、誰にとも無く思った心の声に答えるように、慰霊碑から吹いた風が体を撫でた。

 

 

 

 


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