なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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最終部最終話・小さく暖かな幸せを

 

 

最終部最終話・小さく暖かな幸せを

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

スカリエッティ一味他の判決。

 

戦闘機人の内、NO5以降の後発組の内、NO7を除く全てと、ルーテシア=アルピーノ、アギトの計9名が再教育を受け入れた為大幅な減刑が成された。

再教育を拒んだ他5名は、例外なく無期懲役として無人世界へ投獄される事となった。スカリエッティも同様である。

 

アムネジアを名乗っていた青年は、検査の結果ティーダ=ランスターと判明。

記憶障害を起こしてはいるものの、常識については記憶したままスカリエッティに協力していた点がマイナスとなる。

だが、他の戦闘機人と異なり被害を最小に抑えるよう配慮しており、捜査にも最大限協力の姿勢を示している点がプラスとなり、再教育とは別の刑を受ける必要はあるものの、いずれ出ることは可能という結論に至る。

 

グリフは、殺人を常識として育成された極めて危険な性質を危惧されたが、同時に正当な教育を選択する事が不可能な環境のまま今に至る事の証明にもなり、更に捕まった当人が粛々と捜査に協力する姿勢を示している為、釈放予定こそ無いものの無期限に確定もしない状態となる。

 

レジアス中将及びその補佐であるオーリス三佐は、罪状を全面的に認める。地上の大半の支持や、更に裏で糸を引いていた局内の膿に全く対応出来ずに破壊されたカプセルを発見することとなった局そのものの問題と、地上の戦力不足の事情を知る局員からの抗議が罪状を指摘する者を超えてしまった為、刑自体は軽くなるものと思われる。

 

 

 

白い堕天使、リライヴは…

 

裁判以前の問題で、『貴方達に裁かれる何て冗談じゃない。』の一点張りで食事を運ぶものすら昏倒させて脱出しようと足掻く為、全身を拘束したうえで誰も近づけない状態となっている。

斬撃の怪我やリンカーコアの消耗も回復していない中食事すら満足に取れない為、どんどん衰弱していっている。

 

局内での考察として、『局や法に従わない事』が目的と言う結論に至り、指一本でも動くうちは戦おうとするであろう彼女への対処を決めかねている。

 

一部極刑を言い出す強硬派もいたが、ルーテシアやアギトが持つ情報にあった、『リライヴが救った者が局の功績に差し替えられて報道されている』と言うのも全て事実である上、リライヴ本人に調査が行えていない関係で彼女達が知っている範囲だけの話に留まらない可能性が高い。

そんな状態で、現在はリライヴ本人より強硬派の裏調査が優先される程混沌としている。

 

駄目押しに、たまたまリライヴに助けられた市民からの開放願いや、局が裁かれるべきと言う意見に乗って回線を潰しかねない勢いで飛んでくる抗議連絡に、リライヴへの罪状の言い渡しが逆に戦火でも呼びかねない状況にすらなりつつある。

実際、スカリエッティの暴露話のせいで、局員に石を投げたりして逮捕、注意を受ける人まで出ていて笑い話に出来ない。

 

 

 

余談ではあるが、リライヴですらその有様なのに、ディアーチェ等に公僕侮辱罪等適用する事は困難な上、『レジアス中将からの依頼を受けた依頼書』があった為、問題点が逸れて彼女達は放置となった。

 

 

 

 

 

機動六課の負傷状況。

 

リライヴと結界内で交戦したメンバーは軽傷か無傷の二択で、魔力ダメージが大きすぎて長めに眠った者は居たが、他部隊の隊員含めて重傷すらほぼおらず、死人は皆無だった。

 

出向中だったフレア空尉が重体だったものの、一命を取り留める。

皮膚が広範囲で焼かれていたものの、培養技術が既にある上重要な内部神経はやられていなかったため処置をすれば以前のように全快する見込みである。

 

ヴィータ三等空尉は疲労が激しく怪我も負ってはいたが、守護騎士システムの性質上問題なく即完治。現在は事後処理活動中。

 

フェイト=T=ハラオウン執務官も、消耗が激しかったものの深刻なダメージはなく、数日の休養の後活動開始。

 

高町なのは一等空尉は、二度のブラスター3の反動がある上、その状態でリライヴを救うため魔法を行使しようとしてブラックアウト。魔力値は回復の兆しを見せているものの、後遺症は未だ残る為魔法使用にはドクターストップがかけられている。

 

 

 

最後に…民間協力者高町速人は、傷を押しての戦闘の結果、癒えていない古傷が開きかけていて、両足も骨折していたものの、致命的な損傷はどうにか免れているように見える。

だが、脳波に異常が見られ、あの事件で無事なメンバーの中で唯一未だに意識を取り戻しておらず、念話にすら応答が無い。

 

 

 

 

これが、事件より一週間経った現状である。

 

 

 

「っ!!」

 

誰もいない一室で、私は全力で机を叩く。

こんな事してもなんにもならんのはわかった上で、やらざるをえんかった。

 

逮捕して尚休む事を選ばず死に掛けてるリライヴに、目を覚ますかどうかすら分からないと言われている速人。

何で…っ!!!

 

リライヴ自身が悪い人じゃないことも分かってるし、速人君は落ちていくリライヴとなのはちゃんを選ばず救って見せた。

なのに何でこんな事になっている。何でただ止めたかった人と救いに全力をかけた人が死に掛けてる!?そんな二人に何で何も出来ない!?

 

「馬鹿…ばっかりや…」

 

色々と慌しい今こんなことをしていられる時間は短い。

早いとこ耐えられるようにするため今流せるものは全力で流す事にした。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

身体そのものは割りとどうにかなってくれていたため、リハビリも含めて多少歩く程度なら許可されている私は、いつもそこに立っていた。

 

 

 

眠るお兄ちゃんの枕元。

 

 

 

ヴィヴィオは検査なんか含めて色々やることはあるけど、今の所問題はなさそうだった。

今は会えないけど、手続きとかやることちゃんとやれば、ずっと一緒に暮らせる。

 

助けた人たちも無事だったし、後は…お兄ちゃんとリライヴちゃんだけ。

 

誰か…と言うよりも、リライヴ逮捕に貢献した私の兄と言う事もあってか沢山の人が気を利かせてくれて暫く休まなきゃならない私とお兄ちゃんを一緒の病室にしてくれた。

けど、検査に来るシャマル先生からも『よく分からない』と言った話しか聞けず、念話にすら一向に答えてくれない。

 

せめてもの救いは、身体には異常が無いらしい事くらいだ。

 

「本当馬鹿だよ…」

 

両手を握り締めて俯く。

 

「リライヴちゃん、食事も食べられないままでもう危ないんだよ?ヒーローさんなら助けに行かないと…」

 

こんな時、本当に言いたい事がどうしても出てこない。

 

「約束破ったら駄目だよ?事件終わったらヴィヴィオと一緒に旅行に行こうって言ってたじゃない…」

 

形ばかり…でも無いけど、本当の言葉が出てこない自分の性格が恨めしい。

 

 

 

ただ『嫌だ』って、『起きて』って。

 

 

 

自分だけの為の我侭な言葉ほど出てこなくて、ヴィヴィオのときにあれだけ言えたのが嘘みたいに立ち尽くす。

 

頬を伝う涙を自覚した瞬間に慌てて拭う。

それは、人が入ってきたときに平気な顔で迎える為の殆ど無意識的な反応で…

 

自分が『そういうもの』だって自覚して、どうにかなりそうになる。

 

「…けて…」

 

魔法の悩みを自分の問題と抱えて語らず、友達の危機に規律を取って何も出来ず、全て失いかけた時にも傍に来てくれる人には笑顔を貼り付けて、落ちていくリライヴちゃんを何とか助けなきゃと焦って限界の体で魔法を使えず落ちて…

 

速人お兄ちゃんはそんな、数えればキリが無い程の我慢とお願いに手を伸ばしてくれた。

 

 

助けてよ…

 

 

このままお兄ちゃんが目覚め無かった時、凍った心で平気な顔する自分になるのも、耐えられないせいで迷惑をかける自分になるのも、どっちも辛くて声にならない助けを求め…

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

いきなり『誰か』にお尻を触られた。

 

背筋がピンと真っ直ぐになるが、触れる感触は撫でると言うより、『何かを抱き寄せる』もので……

 

驚きに上がってしまった顔を恐る恐る下に向け、触れているものが何かを確認する。

 

「あ…ぁ…」

 

その手はベッドから伸びた、お兄ちゃんのものだった。

うっすらと目を開いたお兄ちゃんは、私の顔と伸ばした腕の両方をゆっくりと見て…

 

「いつからこの状況で笑える変態さんになったんだ?なのは。」

「っ…馬鹿ぁ…」

 

いつも通りにすっとぼけた事を言って笑うお兄ちゃんの声を聞いた私は、病室の床だと言う事も忘れて崩れ落ちてお兄ちゃんの眠るベットにぐしゃぐしゃに歪んだ視界を覆うように顔を突っ込んだ。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

泣きながら笑ってるなのはと、無意識に抱き寄せようとでもしたのか普段ならぶっ飛ばされそうな事をしてた自分の手を見た後、急に布団に顔を埋めるなのはの様子に違和感を感じる。

 

 

何か特別な事でもあったのか?そもそも俺なんで寝てるんだっけ?

ぶっ倒れるのが日常的な気すらして、ぼけてる頭を働かせながら記憶を探り……

 

 

 

 

寝てる場合じゃねぇっ!!!!

 

 

「やば…ぐっ!?」

「だ、駄目だよ!回復魔法だって万能じゃないんだからまだ寝て」

「だ、駄目だ…」

 

起き上がろうとして走った痛みに顔を顰める俺を止めようとするなのは。

けどまずい…取り返しがつく内じゃないと…

 

「俺はどれ位寝てた?」

「一週間だよ、いきなり動ける筈」

「リライヴは?」

 

身体を起こした俺を止めようとするなのはだったが、リライヴの名が出た瞬間に硬直する。

けど、そのなのはの様子だけで大体は察した。

 

 

っち、あの馬鹿やっぱおとなしくはしてないか。

 

 

アイツの昔と戦う理由を知ってればそれくらいは予想できる。まさか語る筈も無いから事細かに知ってる奴なんてほんの僅かだし、知ったところで管理局が何の理由も無しに無罪放免になど出来る訳が無い。

簡易裁判だったら一瞬でケリつけるような管理局だ。状況が混沌としてればいいが、色々決まってると手のうちようが少なくなる。

 

身体は暫く動いていなかったせいで馴染んでいなかっただけらしい。

ゆっくり動かせば痛みが残ってるのは左足の脛と右足の甲位だ。包帯ぐるぐる巻きにされてるところを見るとどうやらこの二箇所は折れたらしい。

ま、骨自体は回復魔法でとりあえず繋がってるし、治りきってない神経系の痛みは無視すればいい。

 

ベッドから降りて体を慣らす。さすがに包帯を外す気にはなれないが、バリアジャケットを装着すれば動ける訳だし歩き辛いのは気にしなくてもいいか。

 

「ちょっと行って来る。」

「…うん。」

 

いつも通り、笑って気軽に声をかけると、なのはも笑顔を返してくれた。

 

 

 

 

 

窓から病院を飛び出すと、降りた先にシュテルが待っていた。

 

「あれ?何で…」

「張っていました、起きてすぐ動くでしょうから。」

 

淡々と告げるシュテル。あんまり表情に出さないから分からないが…怒ってるな。

とは言っても今病室に戻される訳には行かない、いきなり強行突破する事になるか?

 

逃亡戦を覚悟する俺に、シュテルは袋を投げる。

袋の中には、いつもの黒い服が入っていた。

 

凪形態で使う実体の服で、完全装備一式が揃っていた。

 

「ナギハはまだ局預かりになっています。退院時に返却されるでしょうが今取りに行けば病院に戻されますから、予備のデバイスを作ってもらいました。魔法陣歩行は出来ませんが、刀としては機能します。」

 

そう言って、ブレスレット状のデバイスを差し出すシュテル。

俺が呆然とそれを受け取ると、シュテルは顔を逸らした。

 

「マスターは…私達を頼らなさ過ぎです。言わなくても動くのでどうせなら貴方が望む命を貴方から下さい。」

 

デバイスなんて用意してくれたのは間違いなくアリシアだし、シュテルがわざわざ張って待ってたのは放っておいたら一人で動くと思われたからだろう。

 

…全く、馬鹿だ俺は。

 

貰った一式をシュテルに向かって軽く投げ渡す。

 

「どの道一回家に行かないといけないからそこで着替えるよ。悪いけどダメージが酷いから俺を家まで連れてってくれない?」

 

用意したものが返されて驚いているシュテルに笑顔でどんでん返しをくれてやる。

軽く息を吐いたシュテルは…

 

「了解しましたマスター。」

 

珍しく分かりやすい笑顔で、俺の頼みに答えてくれた。

 

 

 

Side~クロノ=ハラオウン

 

 

 

『あのアホ!ボケ!考え無しの大馬鹿男!!!』

『は、はやてちゃん落ち着くですよ!気持ちは分かりますから!!』

 

いつの間にか病院を逃亡した速人から『内密かつ重要な話がありますので来訪お願いします。』と呼び出された事をはやてに伝えた結果、はやてが通信越しに酷い叫びを漏らし、傍にいたリインがその叫びをもろに受けて慌てふためくと言った惨状が生まれた。

 

頭に異常があってかつ目が覚めない等と言う状況ではやてなりに気をもんでいたのだろうところでこれでは無理もないか。

 

その上…

 

『しかも何で!?何で指名メンバーに私入って無いん!?あぁもう!どうせ地位も権力も立場も半端やこんちくしょう!!』

『ああぁぁ!手!怪我しますから机叩いちゃ駄目ですよ!!』

 

僕と騎士カリムに声がかかったと言うのに、はやては放置だったのが、荒れ様に拍車をかけている。

後、他の人がいない部屋で事務作業に没頭中だった所にコレだと言うのも体裁を繕わないのに拍車をかける要因になっているようだ。つき合わされているリインにはご愁傷様と言っておこう。

 

「とは言え…そんな台詞が出るならはやても大体想像はついているんだろ?最悪も考えれば君を呼べる筈が無い。」

『っ…』

 

僕の指摘に憤る手を止め、沈黙するはやて。

 

あの馬鹿が今やる事なんて、リライヴの開放要求位だ。当然全うな方法で出来る話ではない。

そうなると、提案内容や速人が取る手段によっては…

 

『クロノ君…』

「分かっているさ、最善は尽くす。僕だって彼を敵に回すのは恐いからね。」

「随分弱気じゃないか、クロノ提督。」

 

か細いはやての声に僕なりに答え、通信を閉じた所で知った声が聞こえた。

 

「ヴェロッサ、君も来たのか。」

「こういう裏事には僕がいるとやり辛いだろうけど…隠し事される訳にもいかないでしょ?」

 

思考捜査の稀少技能を持つヴェロッサは、それで査察官という仕事を選んだ訳だが…内輪揉めの空気もあるこの騒ぎに混ぜるのは少し気が引ける。

最も本気で事が起これば内輪揉めどころの騒ぎではすまないのだが。

 

やがて、呼ばれているレストランがあるビルに辿り付く。

 

「もうちょっと楽しい話で呼ばれたかったけどね。結構お勧めなんだよ、ここの料理。」

 

嬉々としてビルに入るヴェロッサに苦笑する。

 

「相変わらずだな君は…まさか、今回も他の仕事抜けてきたんじゃないだろうな?」

「おいおい…冗談キツイなぁ。」

 

僕の指摘に肩を竦めたヴェロッサは…

 

「こっちの件より危険度の高い仕事なんてそう無いよ。雑務はあとでも出来るしね。」

「…後でシスターシャッハに報告させてもらうよ。」

「そ、それは待ってくれクロノ君。」

 

シャッハの名前を出すと途端にうろたえるヴェロッサ。こんな時でも相変わらずなのは頼もしいのか何なのか…

 

 

 

 

 

 

 

防音設備も整った貸切の一室に入るなり、パンとはじけるような音がした。

 

「待ってたぜクロノ!!」

 

放出された魔力光が、キラキラと色を変えて溶けて行く。

 

魔法技術を使用した、市販のパーティー用クラッカーだった。

 

思わず戦闘態勢を取った僕は、事態に気付くなり眉が吊り上がるのを感じる。

 

「君は馬鹿か?一瞬本気で魔法を放ちかけたぞ…」

 

いきなり疲れさせてくれた速人だったが、使えなくなったクラッカーを置いて笑っているところを見ると危機感は無いようだ。

速人の真正面を一つ隣に空ける形で座っている騎士カリムが申し訳なさそうに目を伏せる。

 

「ごめんなさい。止めたのですけど…」

「いや、彼の姿勢が大体わかったよ。要するに立場は気にせず気楽にやろうって言うんだろ?限度はあると思うけど、僕は好きだからいいよ。局の外だしね。」

 

ちっともよくは無いんだが、ヴェロッサが楽しそうに言うものだからどうでもよくなった僕は、速人の正面に腰掛ける。

話題の予想がついているんだ、僕が正面にいたほうが妥当だ。

 

「そりゃよかった。あ、一応誰か検索かけといてよ。後からここの話漏れてたの俺やレストランのせいにされても困るからさ。機器探査とか出来ない?」

「任せてよ。そう言うのに対処するのに僕が来てる訳だし。あ、今更だけど呼ばれてなかったのに来てよかったかな?」

「自腹で料理を頼むならな。」

「これはまいったね…財布の中身を確認しないと。」

「冗談冗談。適当に座ってくれ。」

 

速人とテンポのいい会話を交わしながら周囲を探査するヴェロッサ。

探査が終わった所で僕の隣にヴェロッサが腰掛け、速人が両手を広げた。

 

「さてと、とてつもなく忙しい中顔を出してくれてありがとな。察しがいいメンバーの筈だから目的は気付いてると思うけど、リライヴ何とか出してやってくれないかなって相談だ。」

 

当然の案件に一様に頷く。

そして、この内容で相談となれば僕とヴェロッサが主に話を聞く事になる。

 

「正攻法の話をするのなら不可能だ。それは君も分かっているな?」

「当然。そこで、とりあえずプレゼントがある。」

 

速人は言いつつ脇においてあった包みを机に置き、包みを開く。

中身は書類の束とデータディスクだった。

 

苦々しい思いを抱きつつ一番上の書類に手を伸ばすと、そこにはどう調べたのか聞きたくなるような、詳細な局高官の犯罪情報が載っていた。

 

予想通りだな…正攻法が無理となれば、管理局が問題となるような情報を持っている事を明かし、それを公表しないようにする引き換えか、あるいは物理的な脅迫を行うかの二択程度しかない。

間に写真も挟まっているようで、ヴェロッサや騎士カリムもその紙に手を伸ばす。

 

「全く…よくやるよ。どうでもいいような内容ばかりなのが幸いだけどね。」

「不謹慎ですよ。」

 

ヴェロッサが言う通り、セクハラや金品の横領等、違法には違い無いがロストロギアの扱い等の危険性の高い話はなかった。

 

「そりゃそうだ。本気で命に関わるような事はちゃんと事前に対処したし。」

「たっ!?」

 

なんでもないことのようにサラリと言って見せた速人は、軽いネタ晴らしをする。

それは、リライヴが潰した事になっていた犯罪組織等のいくつかは実は速人がやったものだったという物だった。

局もリライヴの活躍を伏せていたのだし、逆だっていいだろうと簡単に片付けられて頭を抑える。

 

…落ち着け、速人とまともな交渉なんて昔から出来たためしが無いんだ…こんな事で驚いていてはキリが無い。

新事実に驚愕した頭を整え、渡された資料について考えを巡らせる。

今の所脅迫材料としか思いつかないが…

 

「それで…こんなものを出して脅迫のつもりなら悪いが」

「言ったろ?プレゼントだって。そいつはタダだ、どう使ってくれても構わないさ。」

「どう使うも何も、問題行動を取っていたものについては証拠として全員裁…っ!?」

 

裁くと言い切れずに僕は一枚の資料を手に取った瞬間にそれを叩きつける勢いで立ち上がる。

 

その資料には、恭也さん達を引き入れた際の偽装書類の作成に関わったメンバーとその証拠が事細かに揃えられていた。

 

表立って正当な手続きを踏めば、『魔力を持たない民間人』を引き込んだ事実が関係の無いものも知る事になりかねない為多少ではあるがグレーゾーンを渡る必要があったのだ。

 

「全員裁く?そう言われたら俺もリライヴの解放は諦めるさ。」

「これは参ったね…クロノ君に降りられたら結構困るよ?それに、それだけじゃすまないようだしね。」

 

言いつつヴェロッサが差し出してきた資料には、ヴィヴィオを作成する際のDNAデータの出所と、その関係者が記されていた。

教会司祭の一人である上、聖遺物の取り扱いが可能な人物が女性一人に振り回され遺物を持ち出したなど、直接の罪状ではなくてもあまりいい話ではない。

 

いつどうやってこんなものを…

 

「さてと…さっきも言った通りそいつはプレゼントだ、好きにしてくれて構わない。それでここからが本題だが…」

 

動揺する僕達を前に、速人はなんでもない事のように続ける。

 

「全員…それこそ文字通り、くだらない事やった奴まで全部その内容含めて謝罪会見でも開いてきっちり謝罪し、かつ裁かれるなら俺はリライヴにこのまま厳罰を下すのに何も言わない。レジアス中将みたいに目立って困る人だけ吊るし上げのように発表して、局の存続に関わったり、仕方なくやってる連中なんかも伏せるって言うなら…多少の罪状はあれど、その数倍じゃ利かない位救って回ったリライヴもその温情にあててくれない?って提案さ。」

 

笑顔で締めくくった速人を前に沈黙が降りる。

 

 

前者は当然却下。

僕が逮捕されるとかそう言う話では無い。

 

時効になるような話や、多世界を巡る摩擦に揉まれながら仕事をしている局員には、致し方ないグレーゾーンを渡る事等上層部なら必ずある。おかしな話でもあるがこれは必須だ。

道路の制限速度取締りだって一キロオーバー等で逮捕する人間などいないのだ、メーターを見ながら車を運転する訳には行かないから。

もしそれら全てを公表し裁くなどとなれば、財源でもある民衆の反感などで、公務の管理局そのものが、独裁者にでもならなければ成り立たなくなる。

優秀な魔導師が集まるのは民衆の為になる公務だからだ。基本魔導師しか戦えないルールの中戦力を集めてロストロギアを管理しながら質量兵器を扱うなと言っている管理局の独裁など、反感を買う所の騒ぎではすまない。英雄になぞらえるものが誕生して戦争になるだろう。

 

当然後者になる訳だが…

 

「後者で要求を呑まなければどうなるんだ?」

「どうもならないが…この風纏う英雄高町速人が、組織に不都合だからと言う理由で捕まっている女の子を助けない訳無いだろ?自力で救出させてもらうさ。」

 

あろう事か、これだけの情報を見せておいて実力行使で挑むと言い出す速人。

 

ああ訳が分からない!何なんだコイツは!!

普通情報の暴露とか裏工作で来るだろう!何でここで正面切って宣戦布告なんだ!!

 

「驚いたね。これだけの情報を揃えられる技量があって真っ向から挑むって言うのかい?」

「ああ。でも、管理局の人だって嫌なんじゃないの?『こんな情報を集められる奴を敵に回す』なんてさ。」

「っ!?」

 

ヴェロッサの問いに返した速人の答えに、僕は背に走る寒気を堪える事が出来なかった。

 

聖遺物の強奪と、最高評議会の暗殺の犯人、戦闘機人NO2、ドゥーエ。

これらをやってのけたその情報は、既に局の知る所となっている。

教会にとっても管理局にとっても、彼女の所業は警戒するの一言では済まない。

 

この資料は、速人が本気になれば同じような内部崩壊戦が可能だと言う証明になる。

だから『どう使うかは自由だ』と言ったのか。

各方面に理解を求めるには、速人の力を分かりやすく語れるものが必要になるから。

 

犯罪者にも加担はしているが、非殺傷設定を貫く救済者であるリライヴ一人解放するだけで避けられるなら…本当にそれだけで済むなら、安い買い物ではあった。

 

「俺が敵になってから『実はこんな提案持ちかけられてたんだけど…』何て言ったらどうなるかな?」

 

どうやら、最悪の手を打たなきゃならない状況らしい。

 

「…なら、今ここで君を討てばいい話だ、違うか?」

 

正直公開されているのが此方の悪事ばかりなので心苦しいが、一応不法侵入や恐喝容疑も成立させられる。逮捕するなら怪我もろくに癒えていない今しか無い。

これで引き下がってくれなければ…

 

「そりゃそうだ。下の階で待機してる人やこの三人と部屋の外に紛れ込んでる局員8人で俺と『俺より強い剣士』をどうにか出来るならな。」

 

討つ他無い。そう思っていた僕はまだ甘かったらしい。

 

部屋の外の人数までサラリと当ててのけた所か、下に待機しているシスターシャッハの事まで部屋を一歩も出ず通信もしないで言い当てた速人に僕達は硬直する。

 

部屋の検索はヴェロッサがやっている。妙な機器は無い筈だ。なのになんでそんな事が分かる?

 

「それに、狙撃は先日戦闘機人逮捕に協力した素晴らしい魔導師の方々が警戒してくれてるし、俺一人捕まえるのにこのビル事破壊するような鬼畜な真似はしないだろ?さて…」

 

立ち上がった速人が、持っていないはずのデバイスを取り出し起動する。予備を準備していたらしい。

 

どうやら…このレストランの一室に来た時から既に彼の手の上だったようだ。

 

速人の言う通り、首都のど真ん中でオーバーS級の力をフルに使うわけには行かない。対して速人は、小規模対人戦であれば多対一だろうが最強無比。しかも彼より強い…恐らく恭也さんも待機しているらしい。

奇襲に賭けようにもシスターが下にいることすら言い当てた今の速人にそんなものが通じる望みは薄い。

 

速人はそのまま腰に現れた二刀に軽く手を乗せて…

 

 

 

「全ての罪を例外なく裁くか、温情と和を以ってお前達が見捨ててからずっと一人で戦ってきた女の子を見逃すか…自分の不利益を全て覆い隠すという理不尽極まりない歪んだ心でこの二刀に挑むか。好きなものを選んでくれ、時空管理局。」

 

 

 

何一つ気負いの無い笑みと共にそう告げた。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

とても利口じゃないことは分かっていた。

拘束された状態で食事を運んだりしてきた局員に挑みかかったり、意識がある限り、指一本でも動く限り思いつく精一杯の抵抗を示した私は、無人世界への投獄にはならなかったものの、人気の少ない牢獄に押し込められ判決を待つ…ことすら出来なくなりつつあった。

 

自殺しかねないと思われたのか、口枷まで嵌められた上で完全拘束されている。

 

この状態で栄養が取れなければどの道死ぬとは言え、食事を食べさせる事もままなら無い上放っておけば壁すら延々と叩いていた私は、全身を完全に拘束するしか手がなかったみたいだ。

 

全く…コレは趣味じゃないのに…

口枷の感触が消えないせいで嫌なことを思い出す。

 

そう…嫌だ、どうしようもなく嫌だった。だから助けて欲しかったのに、管理局の一団に放置された。

別に責める気は無い。でも同類には絶対になりたくなかった。私が悪い事をしたと認めるのはともかく、管理局相手に『反省する』何て絶対に嫌だった。

 

その結果がこれか…助けて貰えなかったのが辛かったからこんな風に戦ってきたのに、結局一人で消えようとしてる。

 

私が管理局に助けられなかったのは当然だ。世界間の関係をこじらせない為、内政干渉に当たること何て出来ない。

でも…分かってても…世界平和の為に慰み者にされ続ける何て事を、受け入れるのが正しいなんて…なんで認めなきゃいけない。

 

 

自業自得って言うけど、それでも管理局に逆らった事が業なの?

 

 

そんなの…嫌だ…

 

 

 

「お迎えにあがりました、プリンセス・リライヴ。…なーんてな。」

 

 

 

一瞬、理解が追いつかなかった。

牢が開かれ、当たり前の様に入ってきたその人は、どう見ても速人だった。

 

何で…何を…

 

戸惑っている私に近づいてきた速人は、手にした鍵で拘束を解いていく。

鍵があるってことは、忍び込んだ訳ではないと言う事。

私は、仰向けに拘束されていた体を起こして腰掛けた体勢になる。

 

「どう…して?」

「どうしてって…俺がお前を助けに来たら変か?」

 

アッサリ言ってのけた速人は、隣に座って小さな包みを私の膝に置いた。

包みを開くと、小さなお弁当箱と箸が入っていた。

 

「足りないとは思うけど、栄養剤流し込まれてただけなんだろ?とりあえず食べとけ。」

「……うん。」

 

降って湧いたような展開についていけなかったけど、敵じゃない速人から渡されたお弁当の誘惑に、色々な意味で飢えていた私はアッサリ負けた。

 

 

 

「…ご馳走様。」

 

正直明るい言葉を返せる気分ではなかったけど、しっかり全部食べた上においしかったのだから言うべき事はちゃんと言う。

けど、暗いままだったのが不本意なのか、速人は肩を竦めた。

 

「そんな妙な顔で言ってやるなよ。洋菓子店とは言えこれでも店開いてるフレイアが作ったんだぜ?」

「お弁当はおいしかったよ。そうじゃなくて…なんで速人がここにいるの?戦ったのに…」

 

これが分からなきゃとても明るい気分になんてなれない。

敵対して、捕らえたはずなのに…今更こんなところに来る理由が分からない。

 

「止めるつもりはあったけど断罪なんてさせる気はなかったし、拒絶したお前が死に掛けてるんじゃ尚更だ。立場的にお前の味方できない筈のはやて達もお前の現状に歯軋りしたりイラついてるみたいだったしな。」

「そっか、結局速人は速人なんだね。シュテル達すら救ったくらいだもんね。」

 

速人が来てくれた理由はとても分かりやすくて久しぶりに力を抜いて笑えた。

スカリエッティに協力したりジュエルシード振り回してたりすれば止めもするか。

で、止まったから今度は助けに来た、それだけの事。速人らしい。

 

「それで、どうしたの?あれだけ逆らったのに管理局が素直に私を開放してくれるとは思えないんだけど。」

「今回は局の方が色々揉めてるからなぁ…結構すんなり承諾してくれたよ。」

 

そんな訳が無い。

だとするなら、内容を隠したのはきっと速人が無茶したからだ。

余計なお世話…とかそんな問題じゃない。世話云々と言うより、見知った人を死なせないように足掻くのは私と同じ、自分の目的なんだから。

 

「ま、魔力限定はBまでかけられるらしいけど。」

「Bまで?随分軽い処置だね。」

「能力を封じられた事を理由に命を狙う奴が出るかもしれないからな、自衛能力位は残させるように頼んだんだよ。あ、一応この書類渡す必要があるから渡しとく。」

 

二つ折りにされた紙を渡される。

一体何の紙なのか…

 

「書類の中身は見ない事を勧めとく。」

 

二つに折られた書類を開こうとした所で止められた。

 

 

嫌な予感がする。

 

 

速人が嘘を言う筈が無い、見ないほうがきっと『私にとって』都合のいい内容なんだろう。それでも嫌な予感が止まらない。

 

開けば分かる事だ、そう思って折られた書類を開き…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

話はクロノ達を呼び出した『提案』まで遡る。

 

場合によっては戦うと笑みと共に告げた俺を、カリムさんとヴェロッサは何処か驚いたように見ていて、クロノは俺の宣誓を聞いて少しだけ俯いた。

 

「クロノ君に『素が不真面目なのに敏腕だから恐ろしい』何て言われた事があったけど…君はそれを桁外れに証明してくれているみたいだね。何の害意も敵意も感じないのに、君を捕らえられる気がしない。」

「買いかぶり過ぎだ。師匠は対人地上戦なら体力の続く限り誰が来ても負けないと思うけど、俺はグリフ一人で一杯一杯だったよ。敵意が無いのは…まぁ、信じたいじゃん?」

 

軽く返事をしてデバイスを待機状態に戻して座る。

俺が座り治した事が意外だったのか、カリムさんとヴェロッサは目を見開く。

 

「貴方は…何故それほど綺麗な瞳でこんな事が出来るのですか?」

「何でってそりゃ」

「殺すより汚い事何て無いからだろう!君にとって!!」

 

静かなカリムさんの問いかけに俺が答える前に、クロノが激昂と共に正解を言い当てる。

激昂したクロノが意外だったのか、ヴェロッサとカリムさんがクロノに視線を移した。

 

「彼女を管理局が罰すると言う現状には僕でさえ思う所がある位なんだ。ましてこのままじゃ死ぬと言うのなら君が動かない筈が無い。君にとって『黒』は奪う事、殺す事で、紙や記録に真偽をどう書いたって、それで救えるなら躊躇いも悪意も湧かないだろう。まして、リライヴだって手段と対象はともかく手を差し伸べる事に傾倒している、それこそ敵対中の局員が墜落して死なないように浮遊魔法まで使って降ろす位に。君が見捨てる訳が無い。だが!!」

 

長い説明を切って怒りを露に俺を見据えるクロノ。

 

「君だって『その先』の結果は分かっているだろう!?徹底して折れていない彼女に能力限定でもかけて開放した所で、また救える犯罪に手を染めて再逮捕する事になるだけだし、もし何も制限をかけなければ局員数百人を投入してまで捕らえられなかった白い堕天使がまた敵に回るんだぞ!!そんな相手を解放してまた取り押さえる事が出来ない期間が続くとなれば、結局次元犯罪者に対応できない治安維持組織として管理局の存在意義が崩壊する!」

 

自重しない次元犯罪者を解放して被害に会う人が出れば間違いなくクロノが言った通りになるだろう。

開放したリライヴの再逮捕か、それが出来ずにぼこられた管理局の信用失墜。

 

「君は選ばない。そんな事、先の戦いで落ち行く二人を重体になってまで救って見せたあの映像を見た者全員が知っている。だが、どれを選択しても管理局が危ういか彼女がまた捕まるかの二択しかない現状で、君はどちらを求めてるつもりだ!答えろ高町速人!!!」

 

時空管理局を滅ぼしてまでリライヴを救うか否かの二択。

 

管理局員としては当然局を滅ぼしかねない選択なんて取るようなら勝てる勝てないに関わらず、俺を捕らえにかからないといけないだろうし、クロノはそうする気の筈だ。

それに、俺が管理組織の壊滅を望んでない事も理解してる。

 

つまる所、『結局無駄に被害が出るだけで可能性も何も無いんで頼むから諦めろ』と言いたいんだ。クロノだって身内に近い位置づけの俺を逮捕するのが楽しい訳じゃないだろうし。

 

 

「それさ、これで手を打ってくれないかな?」

 

 

特に気負う事無く、一枚の書類を見せる。

三人はその書類を覗き込み…

 

「まぁ…」

「あっはっは!!」

 

カリムさんが口に手をあて驚いて、ヴェロッサが大笑いし…

 

 

「君は……馬鹿だ………」

 

 

クロノが俯いて額を抑え、力なく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、リライヴの釈放をクロノ達が許可してくれた一枚の紙。

一応見ないほうがいいと念を押したものの、リライヴはゆっくりと紙を開く。

 

 

 

その紙の内容は、『今後リライヴが出した被害の賠償を恒久的に高町速人が引き受ける』という、いわゆる保障人のようなもの。

ご丁寧に血判付きで、指紋もDNAも筆跡鑑定もバッチリな代物…のコピーだった。

 

書類の内容を確認したリライヴが、両手で書類を握ったまま跳ねるように立ち上がる。

 

「な、ば、馬鹿か君は!!」

「クロノには断言されたから馬鹿なんだろうな。よかったよかった、ちゃんと馬鹿になれてるか。しかしだから見ない方がいいと言ったのに、見なきゃ割と好き勝手に出来たんじゃない?」

 

書類をぐしゃぐしゃになる程の力で握りながらぶるぶると肩を震わせるリライヴ。

 

「こんな事を勝手にしても私が遠慮する義理なんて」

「無いよな。」

「っ…」

 

義理が無いと笑顔で肯定する俺から、顔を逸らすリライヴ。

義理が無ければ好き放題出来るとは思ってない。そんな奴だからこれを提示したんだ。

 

リライヴが問答無用で被害を増やすなら俺も止めないと家計がアッサリ崩壊するし、リライヴが大人しくしてるなら管理局も責める意味は無い。

 

加えて俺は、危険因子でもあるが、局員数百人にトリプルブレイカーでも落ちなかったリライヴの足止めとトドメをきっちりこなした映像は局員や一般人の知る所となっている。

被害が発生して止めなければ破産する以上、やばい事になったらそんな俺を半強制的にリライヴの逮捕に借り出す事が出来る。

 

「聞くだけ無駄なのは分かってる。速人は誰かが死ぬ位ならいくらでも賭けが出来るんでしょ?分かってるけど!何で…こんな事するの…」

 

呟くような小さな声で問いかけるリライヴ。

確かにリライヴの言う通りなんだけど、さすがに誰も彼もの肩代わりしてたら俺も首が回らない。

 

何で…か。

 

「しいて言うなら気に入ったからかな?」

「え…」

 

呆然と俺を見るリライヴ。

リライヴと向かい合うように立ち上がった俺は、リライヴの両手を柔らかく掴む。

 

 

 

 

「なぁリライヴ、俺と家族にならないか?」

「ぇ…」

 

 

 

 

こればかりは冗談では言えない。

リライヴは小さく呟きを漏らして呆然としていた。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

リライヴちゃんを解放するに当たってその様子を確認、警戒する役としてはやてちゃんとフェイトちゃんが選ばれた。どうせ魔法が使えなくて仕事にならない私は、気がかりで仕方なくて同行させてもらったんだけど…

 

『なぁリライヴ、俺と家族にならないか?』

「「ええぇぇぇぇぇっ!!?」」

 

通信越しに告白をしだしたお兄ちゃんに、驚きの声を上げるフェイトちゃんとはやてちゃん。

私はその叫びを何処か遠くで聞いていた。

 

『そ、それって…』

『もしよければ…だけどさ。』

 

戸惑うリライヴちゃんの手を握り締め、真っ直ぐにリライヴちゃんを見つめて告げる速人お兄ちゃん。

 

『管理外世界飛び回ったりして人助けしてたんだろうお前はいらないと思ってるかもしれないけどさ、帰る場所があってもいいだろ?』

『それは…うん…けど…私穢れて』

『お前みたいな御人好しが穢れてたらこの世は穢れまみれだっての。大体、そんな事言い出したら俺の事だって知ってるだろ。』

『うぅ…』

 

速人お兄ちゃんに押されたリライヴちゃんが頬を朱に染めて目線を逸らす。

 

「堂々と録画できてええな、これは後から記念映像か何かにしておかんと。」

 

嬉々として語るはやてちゃん。

そんなはやてちゃんの言葉を聞きながら、手を握りあう二人を見ていると妙な気持ちになる。

 

「あの…なのは、大丈夫?」

「ふぇっ!?う、うん…」

 

フェイトちゃんに心配され、慌てて気分を切り替える。

もし二人が上手く言ってくれるならいい事の筈なんだ、気にする必要は無い。

 

『ま…まぁ、嫌なものでも経験はあるから、女好きな速人を楽しませてあげられるとは思うけどね…』

「こ、これはこれ以上聞いてええんやろか?」

「ど、どうなんだろ?き、記録と報告はしなきゃだけど…」

「うぅ…はしたないよリライヴちゃん…」

 

照れながら結構大胆な発言をするリライヴちゃんに、私達は揃って戸惑う。

クロノ君ぐらいしかまともに結婚してる友達がいない私達には少しなれない展開だった。

 

 

 

『えー…と…』

 

 

 

言葉に詰まる速人お兄ちゃん。その様子に、何処か妙なものを感じる。

嫌な予感を抱えたまま様子を見守り…

 

 

『その…同居と言うか縁組と言うか…結婚とかそういう話ではなかったんだけ…ど…』

『え?』

 

 

目を逸らしてばつが悪そうに告げるお兄ちゃんに、予感が当たった事を自覚して頭が冷えてきた。

 

 

 

ああ…そう言えばあったなぁ…確かアリシアちゃんを助けてもらう時、那美さんに…

 

 

 

モニター越しに硬直したリライヴちゃんが、少しだけ赤かった頬をだんだんと真っ赤に染めていく。

嬉々として大胆な事まで言った結果がこれではリライヴちゃんも報われないだろう。って言うかもうあの馬鹿逮捕でいい気がしてきた。

 

「あ、あの…なのは?」

「頭冷やしてくる。」

「ちょ、ま、き、気持ちは分かる!分かるけど魔法つこたらアカンて!」

 

拳を硬く握って監視室を出ようとする私の腕を掴むはやてちゃん。

 

「はやてちゃん離して!あの女の敵の馬鹿お兄ちゃんふっ飛ばしてくるから!」

「気持ちは分かる!分かるから!後で私がラグナロク撃っとくからなのはちゃんはアカンて!!」

「…ごめん速人、今回はちょっと庇えない。」

 

監視室での騒ぎは、リライヴちゃんの悲鳴じみた声が響き渡るまで続いた。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

気まずそうに告げられた速人の台詞に、勘違いを自覚した私は…

 

「あ…ああぁぁぁぁっ!!」

 

勘違いしたままとんでもない事を口走っていたと自覚して、速人の手を振り払って頭を抱えた。

わ、わた…私なんて恥ずかしい事…っ!

 

「ま、待て!気にして無い!俺が悪かったから落ち着いて」

「うるさい馬鹿ぁ!!」

 

止めようとする速人を構えも何もなく振り回した拳で叩く。

数回それを繰り返したところで、速人の黒い服に赤が混ざった汚れがついている事に気が付いた。

 

拘束される前の抵抗の結果傷ついた手から流れる血と、長い間拘束されててろくに身を清める事も出来て無い汚れ。

 

「う…ぁ…」

 

思えばそんな体ですぐ隣に座ってたり手を取り合ったりしてたんだ。

本気で嫌になった私は自分の現状も何もかも忘れてただ速人から離れる為だけに牢を飛び出そうとする。

 

「ま、待てって!頼むから!」

「離して!お姫様扱いされて舞い上がって勝手に勘違いして!恥ずかしくてどうにかなりそうだよ!もうからかわないで!!」

 

逃げ出そうとした私の手を取る速人。

私はただがむしゃらにそれを振り解こうと暴れる。

 

 

 

 

「違う!!!!」

「っ!?」

 

 

 

 

本気の一喝。

 

私の身を…それどころかこの牢屋全体を震わせるかのような速人のそれは、無意味にもがく私の体を止めるには十分だった。

絶対に離さないとばかりに硬く握られている、私の腕を掴む速人の手。それをからかうと言えるほど、私も錯乱していなかった。

 

「…勘違いさせたのは謝る。でも本気なんだ、それだけは間違いない。俺が俺でいられる原点を冗談で持ちかける筈が無い。」

「それって…どういう…」

 

ゆっくり振り返って速人と目を合わせる。本当に冗談を言ってる顔じゃなかった。むしろ戦闘中より余裕が無いくらいに。

 

「暗殺者だった…って言ったよな?正確にはその養成施設みたいな所で完成目指されてた最優良被験体の15番、それが俺なんだけど…」

「っ!」

 

待遇の話で言えば私より余程最悪だろう、名前すらないその呼び名を聞かされた私は身体に走る緊張を自覚する。

 

「美沙斗さん…今の叔母さんにあたる人に拾われた俺は、そのまま親戚の高町士郎さん…俺の父さんに預けられたんだ。そこでなのはや兄さんと出会って今の俺がいる。」

 

言葉を切った速人は、私の腕を掴む手に更に力を込める。

 

「人殺しに疑問すらなかった俺が初めて幸せと日常に触れたのが、なのはや兄さん達家族のお陰何だ。だから…家族にならないかって言ったのは本気だ、冗談で言う筈が無い。」

 

真っ直ぐな瞳のままそこまで言われて、漸く原点と言ったその意味を実感する。

 

『生きてて良かったと、必ずそう思わせてやる。』

 

かつて、消え行くリインフォースをフレイアとして生かす際の宣誓。

大きな意味を持ったと思われたそれは…

 

なんて事も無い、生き繋いで味わった家族との日々がそうだったと言うだけの話。

そして、それを私にもくれようとしてるだけの話。

 

 

単純で大事な…速人の原点。

 

 

言いたい事を言い終えた速人は、掴んでいた私の手を離すと、顔を逸らす。

 

「その…恋人がどうとかは家でもアリシアに色々狙われたりしてても流してる身だし…妹とその友人から惚気話とか出た事も無いから正直配慮が出来なかった、ごめん。」

「そ、それはもう言わないで…」

 

あんまり思い出したくない話題を持ち出された私は消え入るような声で止めるしか出来なかった。

 

「いや、言うさ。バリアジャケットにウェディングドレスのイメージ使うような女の子相手に勘違いさせるには十分すぎる登場だった。反省してる。」

「ぅえっ!?な、何で知っ…っ!!」

 

けれど、割と真剣な声で続けられた速人の予想外な話に、墓穴を掘ったことに気付いてあわてて口を塞ぐ。完全に手遅れだけど。

そんな私の様子を、速人は何処か微笑ましげに見ている。

 

「気にするなって。なのはのバリアジャケット元なんか小学校の制服なんだし、あの歳で。お前の方が全然まともだよ。」

「うぅ…後でなのはに言いつけてやる…」

「真面目に勘弁してください、フラッシュインパクトは嫌だ。」

 

いきなり敬語で謝ってくる速人と見詰め合った私は、互いに小さく笑う。

 

なるほど…本当に、これは楽しそうだ。

思えば速人は闇の書の中であの偽母の笑顔を見たりしてるし、バリアジャケットの事まで感づいてたからプリンセスなんて言ってくれたんだ。速人なりのプレゼントのつもりで。

 

笑みをそのままに、右手を差し出す速人。

 

「で、どうだ?お前の理想には程遠いお子様ヒーローだけど、こんなんでよければ家族にならない?ちなみに断ったからってあの契約取り消したりはしないから安心」

「悲しい事言わないで。その…よろしくお願いします…」

 

差し出された手を取るのに、遠慮はともかく迷いはなかった。

躊躇いなく手を取った私に満面の笑みを見せる速人。

 

 

「よし、そうと決まればもう一つ。」

「え?きゃっ!!」

 

いきなり掴んでいた手を引かれたかと思ったら抱き上げられた。

 

 

俗に言う、お姫様抱っこで。

 

 

「折角の記念日だし、ピュアな天使様には目一杯楽しんで貰うさ。」

「ば、馬鹿!反省するとか言ってすぐこれ!?お、降ろしてよ!!」

「本物の王子様が見つかるまでの代役でも不足か俺は?それはちょっとショックかも…」

 

少し残念そうな速人。だけどまさか『不足じゃないから困る』何て言える筈も無い。

それに…

 

「だって私…長い事身動き一つ取れないくらい拘束されてたから…その……汚い…」

 

最後の方はまともに声にならなかった。

もうやだ、こんなカミングアウトなんで自分からしなきゃいけないの?

でも普通の服で来てる筈の速人にいつまでも抱かせて置く訳にも行かないし…

 

 

何て考えてたら、抱える腕の力が強くなった。

 

 

何でかと思って速人の顔を窺うと、物凄い楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 

「それじゃまずはシャワーとか風呂だな!よし!局員に場所聞いて連れてってやる!」

「え?」

 

嬉々として歩き出す速人。当然牢の外に出るとなると他の牢の前を通ったり巡回してる人に会ったりする訳だけど…その間ずっとこれなの!?

 

「大体囚人服で外出るわけにも行かないもんな、帰りに服も買ってこうぜ!少ないながら小遣いも貰ってるし!」

「ずれてる!ずれてるよ!それに小遣い貰ってるって!?」

「アリシアとシュテル以外はあんまり収入なくてさ。俺フリーの魔導師だけどランクとか魔力値とか低いだろ?あんまり案件なくて…でも大丈夫。半分不法侵入の兄さんは本気で何もして無いし。」

「うわぁ締まらない!!そして何処に大丈夫な要素があるのか分からない!!!」

「あ、そういえば今回の六課からの依頼も病院脱走したからパーになるんだよな…また雫に馬鹿にされそうだな、やだなぁ…」

「現在進行形で嫌なの私だから!本気で恥ずかしいから降ろしてってば!!」

 

結局、着替え一式を受け取ってシャワー室に行くまでずっとこのままだった。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

途中までは…お兄ちゃんが家族になると言ったのが本気だって理由を聞いてるうちは、勘違いもあったとは言え、素直にさっきまでの騒ぎを悪いとも思えた。

 

 

けど…

 

 

『妹とその友人から惚気話とか出た事も無いから。』

『なのはのバリアジャケット元なんか小学校の制服なんだし、あの歳で。』

 

 

ああも呑気に人の逆鱗に触れるお兄ちゃんは、一回絶対ぶっ飛ばして置くべきだと思った。

 

「はやてちゃん、レイジングハート直ってるか確認してもらっていいかな?」

「だから魔法は駄目やて!確かに19、20で小学校の制服はイタいけど!!」

「にゃああぁぁぁぁっ!!!」

 

はやてちゃんにまでイタいとか言われた私は全力で身悶える。

あぁもうやだ、酷い、ありえない。

でもフェイトちゃんは殆ど水着にマントの服装止めちゃったし、はやてちゃんのも騎士甲冑だし、私だけ元が小学校の制服なんてとんでもない物なんだよね…最近はリボンを外したエクシードモードが多くなったとは言っても、アグレッサーが基本ではあるし…

 

「大体反省してるって言いながらやる事が全然伴って無いんだけど!色々言いながらリライヴちゃんも抵抗しないし…」

「大丈夫だよ。」

 

なんでか落ちつかない私の手を取って笑顔を見せるフェイトちゃん。

 

「大丈夫って…なにが?」

「速人を取られるとか心配なんでしょ?勿論変な意味じゃないけど…どうしようもない時、なのはは速人の事頼りにしてるし。」

「それは…そうだけど…」

 

フェイトちゃんの言葉は否定できなかった。

何度助けられたか分からないし、そのたびに安心したのも傷ついてるのをみて不安だったのも嘘はつけない。

そんなお兄ちゃんに、大事な人が出来る事が落ち着かないのだとフェイトちゃんは言ってるんだ。

 

「速人はあんなんだから落ち着けないと思うけど、だからってなのはとの関係は変わらないよ。そういう人だからこんな危ないことになっちゃってるんだけど…」

「うん…ありがとうフェイトちゃん。」

 

少しだけ楽になった私は、やっぱりどこかお兄ちゃんが遠くなる気がして心配をしていたんだと自覚して…

 

嫌な笑みを浮かべたはやてちゃんの姿に気が付いた。

 

「今のフェイトちゃんの話があたりなら…『自分と速人君の関係が変わらんのが嫌』って可能性もぅ!?」

「は、はやて!ストップ!それは…」

 

喋っているはやてちゃんの口を慌てて塞ぐフェイトちゃん。でも手遅れだ。

フェイトちゃんははやてちゃんの口を塞いだままで私の様子を見て…離れた。

 

きっと恐い笑顔なんだろうな、学校時代からフェイトちゃんとかお兄ちゃんと妙な噂されるのには毎回怒ってたし。

 

「はやてちゃん。」

「あ、いや…その…」

「百歩譲ってもうブラコン呼ばわりされても否定しないけど…それは無いんじゃないかなぁ?」

「も、申し訳ありません…」

 

何故か敬語で謝るはやてちゃんを見ながら、私は誓いを立てた。

 

もうこの際リライヴちゃんでもアリシアちゃんでもいいからさっさとお兄ちゃんをくっつけて、お兄ちゃん関係で弄られないようにしよう…と。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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