なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第三十六話・其は全てを包む風のように

 

 

第三十六話・其は全てを包む風のように

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

「はぁ…く、くそ…」

「ヴィータちゃん…」

 

ヴィヴィオを助けてから殆ど完全と言ってもいいほど魔力が結合しなくなったゆりかごの中、私を助けに来てくれたヴィータちゃんとはやてちゃんとリイン。

けど、私もはやてちゃんもヴィータちゃんに比べれば消耗は酷く無いのに、ガジェットと魔法なしで戦うような技術を持っていないからヴィータちゃんが先導して全部と戦っていた。

 

目の前で身体を引きずりながら戦うヴィータちゃんを見ていることしか出来ないのが情けなかったけど、外に出たらリライヴちゃんの相手が残ってる上、そもそも魔法が無い私はどうする事も出来なかった。

出口に繋がる通路に、わらわらとガジェットが姿を見せる。

 

「…大丈夫だ…ぜってぇ皆はあたしが守る。」

 

ひび割れたグラーフアイゼンを構えなおすヴィータちゃん。

いたたまれなくなってヴィヴィオを抱える手に力が篭って…

 

 

直後、傍のガジェットの出撃口が爆発した。

 

 

「だあぁぁっ…いくら雑魚相手でもこれは無い、絶対無いって。」

 

爆発した出撃口を煙が満たす中、煙の中からよく知った声が聞こえて来た。

 

「お、お兄ちゃん!?」

「速人君か!?」

「おう!風纏う英雄、高町速人だぜ!」

 

私とはやてちゃんが歓喜の声を漏らす中、相も変わらず戦闘中とは思えない、いつも通りの声で煙の中から現れた速人お兄ちゃんは、背負っていた人を降ろす。

 

降ろされたのは、散々人をイラつかせてくれたクアットロだった。

 

人一人背負った状態でこんな所を通って来たのか…つくづく凄すぎる。

 

「んーっ…やっと楽になった。お?何だ、やっぱまだ通路はガジェット結構いるな。」

「お願いです速人さん!魔力結合も効かない中でヴィータちゃん一人で戦ってたんです!助けてください!!」

「は…あたしがこの程度でどうにかなるわけねぇだろ。」

 

リインがお兄ちゃんに泣きつく中、さっきまでと違い軽い声をもらすヴィータちゃん。

なんだかんだでヴィータちゃんもお兄ちゃんのこと信用してくれてるんだと感じて少し嬉しくなる。

 

「あ…速人おじさん…」

「やっぱりそうなるのな…まぁ訂正しないけどさ。なのはのお兄様な訳だし。」

 

呟くヴィヴィオの頭を軽く撫でると、向かって来るガジェットに相対するように前に出るお兄ちゃん。

 

「ヴィータ、休んでていいぞ。寝る子は育つし。」

「よーし、ガジェットのついでにおめぇもぶっ壊す。」

「ま、それはともかく…俺が先行する。壊し損ねたら後を頼む。」

 

気軽に言ってヴィータちゃんを通り過ぎてガジェットに向かったお兄ちゃんは…

 

 

 

唐突にその姿を消した。続いて断続的にガジェットの爆発音が響き渡った。

 

 

結構な数を数秒で沈黙させたお兄ちゃんは、何事もなかったかのように戻ってくる。

 

「お、お前…ここまで戦闘機人背負って来たんじゃ…」

「コレって一日の限界まで使うとフルマラソン目じゃないくらいに消耗激しいんだよ。兄さん達よりも持続時間には自身ある俺は、体力もそれだけあるぞ。」

 

呆けるヴィータちゃんを余所に笑って言ってのけるお兄ちゃん。

その後何かに気付いたように表情を変える。

 

「あのさ、気持ちは分かるけど誰か抱えてやってくれない?」

「「あ…」」

 

呆れた様子でお兄ちゃんが指差した先には、降ろされたクアットロがそのまま放置されていた。

割と本気で流していた私とはやてちゃんが揃って声を上げた。

 

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

ビル内からの反応は、ロストロギアの発動を示す反応だった。

嫌な予感に従い、向かっていたビルから距離を取る。

 

少しの間を置いてビルから出てきたリライヴは、完全に魔力を取り戻しているようだった。

 

「…ロストロギアまで使うか。」

「まぁね。私って犯罪者な訳だし…」

 

力を取り戻した魔力刃を展開したデバイスを真っ直ぐに突きつけてくるリライヴ。

 

「そういう縛りで見捨てないように戦ってるんだ。力に取り付かれる気は無いけど、必要なら使うよ。」

「ならば…その力ごと上回るまでだ!」

 

レヴァンティンを構えなおす私に向かって、左の掌を突き出すリライヴ。

 

まずい…魔力が回復すると言う事は…

 

 

「ストレートバスター・フィフス!!!」

 

 

五本の極大砲撃が、五つの指先から放たれた。

どうにか射線上を外れた私は、リライヴに向かって飛び立つ。

 

予想通り、先の魔力が無い状態と違って放出系を撃ちたい放題に撃てる。

 

さすがにそれでは距離を取られると不利が過ぎる為、全力で接近する。

剣を打ち合わせると、先程までとは比べ物にならない衝撃が響き渡る。

 

「やっぱり全快でも壊れないか!さすがだね!」

「騎士の一撃を…甘く見るな!!」

 

後退を無視して全力で剣を競り合わせ…

アギトが発生させた火炎弾が、周囲からリライヴに殺到した。

 

直撃した火炎弾の爆発に巻き込まれないよう僅かに後退する。

 

効果が分からないが、ロストロギアは以前発動したまま。

魔力の無限回復なのだとすれば長引かせただけ私が不利になる。

 

「一気に決める、もう一度頼む。」

『ああ!』

 

内にいるアギトに声をかけると、即座に力が満ちる。

左手に形成された炎剣を…

 

 

『「火龍一閃!!」』

 

 

一閃。

火炎弾の爆煙が晴れない内に追撃で放った空間攻撃がその周囲を焼き払う。

 

 

直後、火炎の中を突っ切るようにリライヴが姿を見せた。

 

 

本来透明なはずのリライヴの魔力が白くすら見える状態で、魔力光に包まれている。

 

バーストモードか!!

 

「紫電一閃!!」

「っのぉ!!」

 

光と炎を纏った剣が激突し、巻き起こった爆発と衝撃で私は吹き飛ばされた。

 

「く…っ…」

「はぁ…はぁっ…」

 

同じく吹き飛ばされていたらしいリライヴと、また若干の距離が開く。

当のリライヴは、肩で息をしながら此方を見据えていた。

 

私とアギトも魔力の消耗が激しいが、リライヴの方も体力まで無制限とはいかないらしい。

 

自身の持つ以上の魔力を扱う負担は、なのはを見ていればよく分かる。

周囲の魔力を取り込む集束砲は単体でそれを体現する方法で、その負荷は彼女を再起不能にしかけた。

魔力が回復した所で、体が持つかは話が別だ。

 

「全く…冗談キツイよ。魔力全開のバーストモードで振るった一撃と相殺するなんて。魔法の特性をのぞいたら対一戦では管理局最強なんじゃない?」

「自分を除いたらとでも言いたげだな。自慢か?」

 

管理局最強と言う言い方に引っかかりを感じた為聞き返すと、リライヴは首を横に振った。

 

「いざとなったら管理局『そのもの』とすらやりあう事を視野に入れてたから。思い上がりは承知だけど、一人だとそれもありえる話だし。ただ…一人で戦ってるのは自慢にならないよ。」

 

僅かに寂しげに呟くリライヴ。

 

本当に、何処までも説得など届かないだろう。一人きりで戦う事が『想定範囲』になっている。

ある意味戦乱の時代よりも重い。戦乱の最中で孤立したとしても味方の軍はどこかにいたのだから。

 

「長引いたらこっちもまずいし…これで終わりにさせて貰う。」

 

透明ゆえ感知しづらいが、無数の魔力弾が展開される。

シューティングスターか。ならば…

 

 

飛竜一閃にて貫く。

 

 

全てを掻き消すことは不可能。放たれた射撃を貫通させる心積もりで、剣を鞘に収めて構える。

 

「スパイラルバスター!!」

「っ!飛竜一閃!!」

 

だが、リライヴの左手から放たれたのは、予想外に砲撃だった。展開した魔力弾は制御を放棄した為か消えてしまう。

 

魔力が無制限だからと言ってアレだけの大規模魔法をフェイントに使うか!出鱈目な!!

 

恐れ入る程の発想に感心している間に、高速移動で距離を詰めたリライヴが剣の間合いにいる。

飛竜一閃はレヴァンティンをシュランゲフォルムにして放つ技。連結刃となったレヴァンティンはまだ戻っておらず…

 

 

「っらあぁぁぁっ!!!」

 

 

バーストモードで振り下ろされた一閃を鞘で受けたが、鞘ごと切断されて意識を失った。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

全身から発せられる痛みを堪えつつ、意識を失って落ちていくシグナムに浮遊魔法をかけ、ゆっくりと適当なビルに降ろす。

 

どうにかなった…フェイントに使うってだけなら時の庭園時代にフェイトに見せてるからひょっとすると見抜かれるかもしれないと思ったけど…

 

「っ…はぁ…」

 

魔力が回復するとは言え、こうも放出、回復を繰り返しているとリンカーコアそのものも心配になっては来る。

しかも、内への反動は無視したバーストモードでの急制動の連発は、内臓や脳を揺らして痛めていた。

 

…ま、しょうがないけどね。さっきシグナムに言った通り、一人で一組織相手に立ち回ろうって言うなら。

 

いつの間に入って来ていたのか知れない局員の集団を感知した私は、周囲を見渡す。

 

 

 

 

そりゃ、ロストロギアまで使って六課だけに任せるって訳にも行かないか。

 

 

 

 

四方八方にいる局員。結界が消えてない所を見ると、結界に接近するガジェットを止めるのに人員がそれほど必要ないと言う事でもある。もう外も結構静かになってるんだろう。

 

さっさと脱出したいけど…次元転移は結界出てからじゃないといけないし、ガジェットより湧いてくるこの集団を見てると溜息吐きたくなる。

 

「広域次元犯罪、ロストロギアの違法使用などにより逮」

 

迂闊に近づいてきて口上を述べる局員に不可視のシューターを叩き込む。

気絶して落ちていく彼から視線を外し、人数が少なそうな場所を探す。

 

『非殺傷にはしてあげるけど、他は保障できない。落下とかで死んでも責任は取れないからね!!!』

 

全員に届ける為あえて念話で宣言した私は、気持ち人数の少なそうな場所に向かって突っ込んだ。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

ガジェットを片付けながら出口へと向かう。

 

…強がって神速なんか使って見せるんじゃなかったかな?結構やばいかもしれない。

しかも外でアイツがジュエルシードなんて物使ってるとなると、俺も入らないと拙いだろう。

 

今のなのはとフェイトにとっての全ての始まり。

はやては話で知ってるだけだが、発動を感知したなのはは思い出も相まって悲しそうに表情を歪めていた。

 

「お、出口だな。」

 

出口を確認できる所まで来て、ヴィータが膝をつく。

神速が乱発できないと悟るなりすぐに戦闘に混じって来たからな…さすがにもうきついだろう。

 

「その体調じゃリライヴの相手は無理や。ヴィヴィオとクアットロを頼めるか?」

「ごめんはやて…」

「大丈夫やって。ヴィータが頑張って駆動炉破壊してくれたからヴィヴィオも助けられてゆりかごも止めれたんや。」

 

結構微笑ましい話をしている二人だが、ゆっくりとはいっても上昇中の船にいつまでもいるのは拙い。

 

「さっさと行こうぜ!宇宙まで運ばれるのはごめんだぞ!」

「ああごめん!」

 

話していたヴィータとはやてに声をかけて出口に向かい…順次飛び降りる。

 

一応俺も飛行は出来るけど、飛ぶほうは全然やって無いので正直魔力消費ほか色々と効率が悪い。

 

と言う訳で、なのはに背中から抱きついた。

 

「ちょ、ちょっと!」

「まぁまぁ。中で戦闘しっぱなしでちょっと疲れたし、下りだからそんなに大変じゃないだろ?」

「だからって他の局員の人も!あぁもう…」

 

結局諦めたなのはは振りほどいたりせず運んでくれる。

結構な高さまで来てたらしく寒くて空気が薄い。

下を見ればかなり大規模な結界が展開されていた。降下してくるまばらなガジェットを迎撃しているが…その人数が少ない。

 

「た、高町一尉、お疲れ様です。」

 

男が親しげに抱きついてるエースオブエースという異常な状態に表情を歪めつつも、きっちり挨拶する局員。

 

「後ろのは気にしないで下さい。リライヴはどうなってます?」

「はい。ロストロギアの発動を感知したため他の部隊も放置は出来ず、現在幾つかの部隊が結界内部に突入しています。」

 

ゆりかご内部は今魔力リンクが完全キャンセルされる状態だ、念話で報告しようにも届かなかったか。

 

「ですが、手も足も出ないと予測される為、高町一尉達がおられる此方に誘導する事になりました。フェイト執務官もスカリエッティアジトの崩落を止めた為現在此方に…」

「来たみたいだぞ、ホラあれ。」

 

向かっていると言おうとしたのだろう局員の言葉に割り込む形になってしまったが、尋常じゃないスピードで向かって来る黄金色の光を指差して告げる。

 

「お待たせなのは。外の状況は私も把握しています。貴方は引き続き散らばるガジェットの対応を。」

「はっ!」

 

フェイトの言葉に、礼儀正しい敬礼の後去っていく局員の男。

しかし、手も足も出ないと予測されるって…AAやAAAくらいならたまにいるはずなんだけどな…ジュエルシードを制御してるのは間違いないだろうが、一体何やったらそんな馬鹿な差になるんだ?

 

「お待たせ。ヴィータはヴァイス君に預けてきたよ。」

『リインははやてちゃんの制御を手伝うですよ!』

 

リインとユニゾンしてきたらしいはやてが合流する。

出力負けはしないだろうが…はやて単体で行っても絶対撃たせてくれないよな。

結界に近づいたところでなのはの背中から降りて空中に着地する。

 

「とりあえず中に行くぞ、本当に他の局員が相手にならないとすると百単位で病院送りにされてる」

「っああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

かもしれない。とつなぐ前に轟音と共に結界が破壊され、中から飛び出してきた淡い光を帯びたリライヴが咆哮をあげる。

 

リライヴは振り返った後左手を背後から追ってくる局員の集団に向け…

 

「ストレートバスター・フィフス!ワイドバースト!!」

 

五本の指から砲撃を扇形に放った。

一応部隊で連携しているらしい局員が、纏めて砲撃に飲み込まれて魔力爆発で昏倒させられる。

 

リライヴの通ってきたらしい道の下を見れば、ビルの色が変わっているのが分かるほどの数の人影が倒れていた。

赤が目立っていないところを見ると、こんな状況でもまだ非殺傷らしい。徹底してる奴だ。

 

「最初の子供は4人で戦って見せたよ!局員の大人がこれだけいて尻込みか!!」

 

リライヴの叫び通り、一応追っていたらしい局員達だが、目に見えて引けていた。

 

 

…そりゃ引くって、一撃で数十人落ちてるし。

 

 

むしろ蜘蛛の子を散らすように退散しないだけ勇気があると思う。

映画なんかで巨大怪人と戦わされてる戦車とかってこんな気分なんだろうな…

しかも、結界破った一撃はバーストモードで振るっただろう事やその前から戦い通しなのも考えると、魔力の常時回復とかそんな願いなんだろう。雑兵には荷が重すぎる。

 

『考えがある。俺が前に出るから皆は散ってくれ。』

 

これ以上放置も出来ない。

なのは達の返事は待たずに俺はリライヴに近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

「よ、派手にやってるな。二の次を片付けに来たぞ。」

「っ…ここで速人か、全く参るね。けどなのは達と一緒じゃなくていいの?」

 

話しかける前に気付いたリライヴは、俺の挨拶に苦い表情をする。

 

「まあな。お前こそ俺と話してていいのか?この配置、見覚えあるだろ。」

「配置?っ!」

 

不思議そうな声を漏らしたリライヴが、当のなのは達が何処にいるのか気付く。

 

 

 

上方三方から囲むような位置でフルドライブで魔法準備中。

つまる所、トリプルブレイカー。

 

 

 

ジュエルシードの封印とリライヴの無力化を同時にやらないと、リライヴを殺すか体力が切れるまで戦い続ける破目になりかねない為、防御しようが何しようがそれが出来るだけの一撃となると一人分では足りない。だから三人でと言う単純な答え。

だが、なのはが最大威力に傾倒し、はやても出力が高すぎる為簡単に打てず、フェイトは二人より基本威力が低いから増幅工程を踏まなきゃならない為、準備には20秒近くかかるらしい。

会話で時間を稼いだのはその為で、気付いたリライヴは既に近接戦が出来ないはやてに狙いをつけている。

 

 

 

神速。

 

 

 

リライヴの移動前にその眼前に一気につめ、ナギハを一閃。

まともに防げないリライヴは全方位防御を展開する。

 

けど、このままだと防御を切ると同時に高速移動に入られる可能性がある。

 

その準備が終わる前に二刀を構え、『雷徹』を放つ。

 

いくらリライヴの防御が硬かろうが、貫通系の斬撃二つを重ねた刃を全方位防御で止めきれる筈も無い。

 

防御を斬り裂かれたリライヴの表情が変わる。その前に既に追撃の体勢に入っている俺の剣は、フィールド防御越しにリライヴを斬り付ける。

後退しようと背中を少し傾けるのが見えた瞬間背後に回りこみ、その道を塞ぐ。

 

 

 

移動しようとする度先に回りこんで動きを止める事を優先しているが、見えてる世界が緩やかで時間が分からない。

 

 

非殺傷だから俺ごと撃って構わないとは言ってある。撃たれるまで何とか神速をもたせ

 

 

 

 

バチン。

 

 

 

 

何かがはじけるような感覚と共に視界が点滅した。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

数秒位人外の動きを持続した速人だったけど、唐突に声にならない声を上げて額を抑える。何が起こったのかはわからないが…

 

 

速人が戦えないなら転移魔法を使う余裕は十分にありそうだ。

 

 

イノセントを杖の形態に変形させ、転移魔法の準備を開始する。

巻き添えを避ける為に下がったほかの局員に援護は出来ない、これで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、緑色のバインドが私を拘束した。

 

 

 

 

 

このタイミングでバインド!?こんなものバーストモードで一気に…切れない!?

馬鹿な!?こんな強度のバインドがシャマルに使える訳…

 

 

『これだけを鍛えたんだ、悪いけど絶対に破らせないよ!』

 

 

届いた念話は、完全に予想外のものだった。

…ユーノ=スクライア…っ!!

 

 

 

Side~ユーノ=スクライア

 

 

 

リライヴと交戦する事になったと聞いた僕は、すぐにこの場に転移した。

今の今まで一人で地上に隠れて何もせずにいたけど、漸く役に立つ事が出来る。

とは言っても所詮バインド。どの状況で使おうかと思っていた所で、速人から念話が届いた。

 

『俺が止まったら後は任せる。』

 

たったそれだけ。しかも僕に対象を絞った念話。

僕がここに来ていると知ってた訳でも無いのに、見透かされてたみたいだ。

 

 

なのはの傷を知ったあの撃墜事故からずっと、なのはの支えになる為に作り上げたアブソリュートバインド。

 

 

無限書庫から封印拘束減衰衰弱、構成解析防御なんかの資料を調べに調べて空いた時間を使って試行錯誤を繰り返して作り上げた、ただのバインド。

砲撃特化のなのはの力になる為に、放てば全てを打ち貫くなのはの砲撃を撃つ為の時間を稼ぐ為に、僕はこの一つだけを鍛える事を選んだ。

 

構成解析による解除なんてさせないほど途方も無い式で構成され、魔力攻撃による切断を避けるためにAMFとは違う分解式を搭載したり、力任せに引きちぎられないように僕が常時魔力を送って強化できるようにしたり…ただ一回、砲撃の時間を稼ぐ為だけに作り上げたバインド。

 

 

それでも…全力のリライヴの前に少しずつ解けて行くのを感じる。

 

 

「決めたんだ…必ず支えになるって…破らせるもんかっ!!」

 

 

どれだけの時間が断ったのかも分からないまま、ついにバインドが破られる様な感触が届き…

 

 

 

 

三色の強大な光の柱が、リライヴを中心に弾けて視界を光が覆いつくした。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

「スターライト」

「プラズマザンバー」

「ラグナロク」

「「「ブレイカー!!!!!」」」

 

ブラスターも最大の3、カートリッジも残り全弾ロード。ありったけの力を込めて、この最後の一撃を放つ。

 

速人お兄ちゃんが限界近い身体を押して更に駄目押しで使った強化、ユーノ君の魔力値であのリライヴちゃんを封じるだけのバインドを開発する、想像もつかない努力と時間。

 

 

その全てが、この一撃の為に使われたんだ。絶対に届かないなんてあってたまるもんか!!

 

 

 

涙で歪む視界を、三種の光が着弾した魔力爆発が覆いつくした。

 

 

光が収まっていく中、降りる…と言うよりはむしろ高度を維持できなくなるように、ゆっくりと降りてリライヴちゃんに近づく。

 

ジュエルシードの反応は収まってる、封印は確実に出来たはずだ。後は…

 

「っ…ぅ…」

「っ!?」

 

魔力の残滓の中で杖状に変化したデバイスを握っているリライヴちゃんが、ゆっくりと顔を上げた。

トドメの一撃を撃つ所か、もう本当に浮いていることすら危うい私。レイジングハートも負荷でボロボロだった。

 

駄目だ…意識が断ててないと、どれだけ魔力が削れててもジュエルシードを再発動されて回復される。

分かっていたけど、魔力弾の一つも放てずに杖を構えなおすリライヴちゃんを眺めているしかできず…

 

 

 

 

 

風が…吹いた。

 

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

一度、完全に意識を分断された。正直魔力なんて何で浮けてるか分からない程度しか残ってない。

でも…起きるだけなら生きていれば出来た。

 

奴隷の時に使われた、強制的に意識を引き起こすシステム。

 

無間地獄を味わい続けることになるその機能は、思い出したくもない事を思い出すから昔はイノセントに搭載する気はなかったのだけど、速人の過去を知って覚悟を決めた。

使える手を全て使うと言うのなら、たかが自分のトラウマ一つや二つ、使えなくてどうすると。

だから、スカリエッティのアジトで刺された時も起きる事が出来た。

 

後はジュエルシードを発動して魔力を回復すれば…

 

「っ!?」

 

二刀を納めた速人が、私の元へ向かってきていた。

俯いた速人には、意識があるのかどうかも分からない。さっき突然止まった状況を考えれば、意識もなく来ている可能性すらある。

 

 

迫ってくる速人の攻撃を凌いでからじゃないと、ジュエルシードは発動できない。

 

 

杖のまま変化させる事も出来ないイノセントを手に、覚醒させた意識を集中する。

生身だけの修行もちゃんとした、聖十字位なら凌ぎ切ってみせる!!

 

 

 

 

初撃で防御を逸らされないよう最大限に警戒する。

 

 

 

先と違って見える、それでも速い速度で駆けて来る速人のリズムを感じる。

 

 

右、左、右、左、右…

 

 

 

 

左!

 

 

 

 

左逆手で放たれる剣閃を見切ってタイミングを合わせて杖で受け…

 

 

 

 

速人の一撃は、右手で握った左腰の刀だった。

 

 

 

 

逆手じゃ…ない?

 

 

 

 

呆けたのは一瞬。

 

 

 

 

左手によって放たれた一閃が、イノセントを破壊する。

 

 

 

宙を舞う青いジュエルシードを眺めながら終わりを感じ…

 

 

 

 

 

 

 

「薙旋。」

 

 

 

 

 

 

 

呟きと共に放たれた何処か優しい斬撃が、撫でるように体を通り過ぎた。

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

ジュエルシードはリライヴのデバイスから外れ、駄目押しの二撃。

急所は外したとはいえ、魔力も尽きた今もう戦えないはずだ。

 

 

終わった。落ちていくリライヴの姿にそれを感じ…

 

 

落ちて?

 

 

「リライヴちゃん!レストリ…ぐっ!?」

 

魔法を使って落下するリライヴを止めようとしたらしいなのはからも妙な声が聞こえ、その身体を傾けていく。

 

魔力の限界。

 

むしろ今浮けている事が不思議なのは、なのはだって同じだったんだ。

他の面子だって全力を出し切って動けないはず。

 

真下のリライヴと少し離れた位置にいるなのは。

 

 

 

 

 

二人は…拾えない。

 

 

 

 

 

身体を冷たいものが駆け、現実を見ろと叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

 

下に向かって跳躍して、リライヴを抱える。

 

 

 

 

 

その間にも加速していくなのはに視線を移した俺は…

 

 

 

 

「誰が!選ぶかあぁぁっ!!!!」

 

 

 

左足一本で急停止した。

 

 

数階分飛び降りるに等しい衝撃を、緩和させる事もなく受けた足が嫌な音がする。が、それも無視して右足に足場を展開した俺は…

 

 

 

 

『神風』を使った。

 

 

 

一瞬でいい、跳躍一回分使えればそれでいい。アレはそれだけの規格外だ。

右足に全力を込め、一気になのはとの距離が縮まるのを感じた瞬間…

 

 

 

 

頭に電流が走り視界が消えた。

 

 

 

まだ早い!意識は失うな!

感覚だけは残る身体に全力で意識を奮い立たせ、左手をなのはが落下するはずの位置に伸ばす。

 

腕にぶつかった、慣れ親しんだ感触をしっかり掴んだ俺は…

 

 

自分の体が落ちていくのを感じて、ここからどうするのかと言う点に至る。

 

 

何が出来るかもわからない状態でただ両腕に抱えた重さを手放さないようしっかりと力を込め…

 

 

 

 

『毎回だけど、僕の存在忘れすぎだよね速人。』

 

 

 

 

何処か苦笑のような誰かの声と共に柔らかい感触に体が弾む。どうやら無事に済んだらしい。それを自覚した瞬間、意識がプツリと途切れた。

 

 

 


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