第十二話・過去の罪と今の未熟を体現した『力』
「レイジングハート、大丈夫?」
『問題ありません。』
ジュエルシードに衝突したときに破損していたレイジングハートは、完全に修復されていた。
自動修復機能とか言うのがあるらしい、まったく便利なものだ。
「よかったよかった。誰かさんの扱いが荒くて半壊したときはどうしようかと」
言ってる途中でなのはに睨まれる。
瞳が語っていた。『速人お兄ちゃんの台詞じゃないの!』…と。
念話ですらない、妹がいつの間にやら見につけていた特殊技能(笑)に驚きつつ、先日の無茶でまだ睨まれてる俺にはなのはに逆らう権力がない事を自覚した。
少し疲労していることもあって、ここ最近よくお世話になっているアレを使うことにした。
「疲れたときにはこの一本ってね。」
「にゃはは…結構助かってるよね。はい、ユーノ君も。」
「ありがとう。」
アリサが送ってくれた栄養ドリンクを煽る俺達(ユーノよく持てるな)。
飲みきってビンを片付けた所で、ジュエルシードの反応があった。
「レイジングハート、封印の時にくたばっちゃっても困るから俺がたた」
「じー…」
「イッショニガンバロウナ!ミンナ!」
俺の意見はなのはの視線によってつぶされることが確定した。
「速人…立場弱すぎるよ…」
ユーノが何故か呆れたように溜息を漏らしていた。
うるさいユーノ、お前が逆らってみろ。
暴走した木の元には、既にフェイトの姿があった。
どうやらバリアに苦戦させられているらしい。
「バリア越しにダメージを与えるのは出来るけど、物理ダメージな上バリアは破壊できないしなぁ…」
「じゃあお兄ちゃんは下がってて、私とフェイトちゃんで何とかする。」
フェイトが既に協力者になってるあたりはさすがな順応力だ。ま、俺らの命の恩人だしな。
「ディバインバスター!」
「サンダースマッシャー!」
…真人間にはキツイ光の柱が二つ激突し、あっけなく木は沈黙した。
俺ここで戦ってるんだなぁ…と、若干自身の境遇を微妙に悲しみつつ、俺はアルフに視線を移した。
何か今回アルフはフェイトの傍を自らはなれていた。…少しはタイマン認めてもらえたのかな?
「フェイトちゃんや、お兄ちゃんに比べてきっと甘いって言われても仕方ないんだと思う。でも、それでも私はフェイトちゃんに話が聞きたいの。だから…」
レイジングハートを構えるなのは。
「ただ甘ったれた訳じゃない、それを認めてもらえたら…私がフェイトちゃんに勝てたら、お話聞かせてくれる?」
それなりに修行も積んできた。だけど一流と渡り合うには圧倒的に期間が足りなさ過ぎる。フェイトのほうもそれを判っているのか、静かにデバイスを構えた。
「…別にいいよ、私にはもう負けてる暇は無いから。その代わり貴女が負けたならジュエルシードを置いて二度と現れないで。」
フェイトの要求に対して、なのはの方も何の躊躇いもなく頷いた。
ったく、勝てる保証も後の考えもないだろうに、よくそんな事に頷けたもんだ。
二人の間に緊迫した空気が流れ…
互いが駆けた。
いきなり接近戦かよ!
と、内心愕然とした瞬間…
「ストップだ!ここでの戦闘は危険すぎる!」
二人の間に、一人の人影が出現した。
「時空管理局執務官、クロノ=ハラオウンだ…詳しい事情を聞かせてもらおうか?」
ぶつかろうとしたなのはとフェイトの間に、クロノと名乗った黒い服の男が割って入る。
フェイトの一撃をデバイスで、なのはに至っては素手で止める。
「フェイト!撤退するよ!!」
アルフが攻撃を仕掛け、その隙に離れるフェイト。
だが…アルフは閃光のような高速の一撃を受けて地面に叩き付けられる。
「時空管理局、フレア=ライト三等空尉だ。」
「く…っ!!」
倒されたアルフを横目にジュエルシードに飛び掛かるフェイト。
だが、ジュエルシードに届く前にクロノの放った閃光に背中を撃たれた。
フェイトのバリアジャケットが破け、外傷が出来ていた。
「っお前ら!何やって」
「止まって貰おう。正当な魔導師でないとはいえ加減は出来ん。」
そう言って俺に槍のようなデバイスの先端を向けるフレア。
フェイトはジュエルシードを諦め飛び上がり
アルフもその後に続き
なのはの悲鳴に視線を移し
拘束されたなのはと、フェイトにデバイスを向けるクロノを見て…
完全にキレた
心拍数が落ちる
殺気も敵意も感情全てが落ちていく
冷えきったまま身体に何かを流し込んだように力が満ちていく
暗殺者として完成した俺のみに許された力―
完全気配遮断
一手目―アルフに視線を移して何かをしようとしていたフレアに接近、耳の裏に刀の柄で『徹』を叩き込んで三半規管を麻痺させる。
二手目―フレアの後頭部を掌打で打ち抜く。
前のめりに倒れるフレア。戦闘不能と判断。次―対象は人質を拘束中。
対象から音声が発せられるが、詠唱の類いでは無いため放置。
接近にあたり、弾膜を張られたため地面に倒れるように回避。地面に手を付け、そこから更に加速。
三手目―投弾丸。デバイスを握る手に直撃。骨が砕ける音とデバイスを取り落とした事を確認。
四手目―溜めをともなった正拳突き『吼破』。その要領で刀を突き出す銃刺突『ガンブレード』。対象の肩を貫き木に縫い止めた。
五手目―もう一刀を抜き、対象の首に添える。
「私はこの地を守る者です。今現在彼等には児童への傷害罪と拉致監禁未遂の容疑がかかっています。任意同行していただけない場合―」
殺すと言う意を伝えようとして…
ふと聞こえた、甲高い音声に視線を移す。
大粒の涙を零す少女の姿を見えて…
馬鹿か…俺は!!
自分の額に全力で拳を叩き付けた。
鈍い音がしたのを確認して、深呼吸。
心拍数が戻るにつれて、冷え切った感情も戻って来る。
今すべきは脅迫でも制裁でも無い。こっちの要求と方針を伝えて、向こうがどうするのか聞くこと。
それに…守らにゃならん妹を泣かせてどうする!!
俺はクロノの首に突き付けた刀をしまい―
「任意同行していただけない場合、高町家による私情満載の裁判により『ネエサンノリョウリ』と言う劇薬を死ぬ程投与されまーす。住民票もパスポートも無い時空管理局の代表さん、ジュエルシードを全部ちゃんと持って帰りたかったらキチンと降りて来て下さいね。」
いつもの笑みに戻して空に向かってそう言った。