なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第三十五話・誓い抱く騎士

 

 

第三十五話・誓い抱く騎士

 

 

 

Side~ゼスト

 

 

 

かつて、俺と俺の部隊を全滅させた戦闘機人事件。

俺の目的は、その事件の指示が、友であるレジアスのものによるのか問いただす事、そしてかつて語り合った正義が今どうなっているのかを確認する事だった。

 

融合していた騎士を破って、目的であったレジアスの元に辿りついた私を待っていた真実は、俺の勘違いという虚しい物だった。

 

どうにか引き離したかった施設を勝手に嗅ぎつけ突撃した俺たちを、防衛名目で戦闘機人達が迎撃したに過ぎず、レジアスはすべてが終わった後でその結果を知らされたようだ。

スカリエッティのようなものとまで繋がってあくまでも力や地位を求めてきたのは、かつて語り合った時のように『登り詰めようとした結果』だと言う。

レジアスは言い訳は一切語らず謝っていたが、後悔の念とかつてのレジアスを感じた俺は、ただの勘違いだと納得する事が出来た。

 

何と愚かな事だ。守らねばならぬ地上の騒乱に関わってまで出した問いの結果がただの勘違いとは。

そして既に手遅れ。スカリエッティとの繋がりも暴かれた今、薬を煽ってまで築き上げた今の権力もレジアスはもう持つ事は叶わず、死者である俺の身体ももう長くは無い。

 

足止めを引き受けてくれていたアギト共にやってきた先に戦った騎士は、元々話を聞くのが目的だと特に止める事もなく全てを語らせてくれた。

 

全てを語った後、レジアスは天を仰ぎ力なく笑う。

 

「守れればいい…全くその通りだ。それだけのはずだったのだ。」

「そしてこの一件がその結果…と言う事ですね。」

 

レジアスの力ない呟きに続くように、唐突に入り口から聞こえて来た声に俺達は振り返る。

 

 

入り口には、上下とも黒で統一された服という、明らかな異装の剣士がいた。

 

 

 

Side~レジアス=ゲイズ

 

 

 

「恭也…何故ここに?」

「済まないシグナム、レジアス中将に少し用事があってな。」

 

突然現れた黒い服の剣士は、話の途中からいた機動六課の騎士と知り合いのようだった。

どう見ても局員では無いようだが…

 

「罪状が確定した彼に用事も何もない。それに不法侵入だぞ?悪いが同行して貰う事に…」

 

騎士の話に割って入るように開かれた通信音。

八神はやての声で届けられた指令は、『機動六課』での白い堕天使、リライヴの逮捕と言う指令だった。

 

急務となる指令を受けた騎士は、ゼストに視線を移す。

 

「同行願います。」

 

ゼストとの話も、儂の地位もコレで終わり。

真相を語った今同行すべきは儂も同じと席を立とうとして…

 

ゼストが騎士から視線を外し、儂を真っ直ぐに見た。

 

「レジアス。俺の最期の戦い、せめて今一度お前と語り合った正義の為に使いたい。俺は…どうすればいい?」

「っ!?」

 

こんな俺を前に槍を翳して告げるゼスト。

 

やつれた身体、死んだ筈なのに今ここにいる不釣合いな現状、間違いなく無理がある。

ゼストが言うように、もう戦えるのは残り僅かなのだろう。

 

地上を…ミッドを守って欲しい。

 

素直にそう言えば、ゼストは残っているガジェットへと向かうだろう。

だから…

 

「地上を…次元世界を混乱させ続ける次元犯罪者、白い堕天使リライヴの逮捕に協力してやってくれ。」

「…それでいいのか?」

「ああ、頼む…」

 

机に張り付くほど下げた顔から、久しく覚えのなかった涙が流れている。

儂が死なせたと言っても過言では無い友が、それでも尚、その最期の戦いを儂の為にと言ってくれた。大の男だが、涙するには十分すぎるほどだった。

 

曇っていた霧が晴れたような気分だったせいか、八神はやてが白い堕天使を自分の部隊だけで引き受けた理由も他の部隊をガジェットの対処に回す為と察しが着いた。

であれば、戦力に乏しいのは間違いなく白い堕天使を相手にする機動六課の方だ。

以前なら手柄の独り占めとでも疑っていただろうに…

 

 

守れればいい…全くその通りだ。

 

 

だが、そう易々と襲撃者の起用など騎士がするはずも無いと、顔を上げて頼み込む為に騎士に視線を移す。

 

「闇の書事件の最後、私も戦わせて頂きました。無粋な真似はしません。」

「っ……」

 

危険要素と嘲った闇の書の騎士の許しが胸に刺さる。

無言で頭を下げ、再び顔を上げたときには既にゼストもあの騎士もいなくなっていた。

ゼストの傍にいた融合機も共について行ったらしく、残っているのは儂とオーリスと…

 

「それで…今の儂に用とは何だ?」

 

恭也と呼ばれた、黒服の剣士だけだった。

 

 

 

Side~ゼスト

 

 

 

「…礼を言う、シグナム。」

「本当ありがとな、旦那の願いを聞いてくれて。」

 

最期の戦いの場をくれた騎士、シグナムと並走しながら礼を告げる。

アギトも礼を言うが、つくづく融合機の鏡のようなその答えに同時に罪悪感を覚える。

俺の願いの為に力を借り、借りた力すら生かしきってやれない。その上…

 

「出来るなら…その礼はこの一件が終わった後に聞かせていただきたいのですが。」

 

シグナムの告げた言葉を実現するだけの余命もなく、アギトとルーテシアを残して朽ちる事になるから。

 

「だ、旦那!そこで黙んないでくれよ!」

 

答えを返さなかった事で、これが『最後』ではなく『最期』だと察したのか、アギトが不安を払拭するかのように声を荒げる。

 

「大丈夫だって!アタシがきっちり力になるからリライヴ一人位旦那の限界まで戦わなくたって」

「アギト、その事だが…今回は融合はいい。」

 

俺の言葉を聞いたアギトが硬直する。

融合相性の事もあるが、今はそれだけでは無い。

 

「俺の力で…アイツと交わした約束を成したい。私欲に過ぎんが…頼む。」

 

つくづく融合機泣かせな話だと承知した上で告げた言葉に、少し悲しそうに表情を歪めたアギトは、静かに頷いてくれた。

 

結界に突入して色が変わる。

その中心地から、少し懐かしい強大な魔力を感じた。

 

「シグナム。」

「何でしょう?」

 

戦いになる前に伝えるべき事を伝えなければならない。

 

「アギトを頼む。死人の俺にはロードは務まらなかった。」

「そんな事ねえよ!旦那は…旦那はっ!」

 

必死で訴えかけてくるアギトの声に答える間も無く、浮かびあがっているリライヴと交戦距離まで来る。

 

 

「3人とも、久しぶりだね。」

 

 

気負いもなく告げたリライヴは、相変わらずの涼しい笑みと共に俺たちを見ていた。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

ここでオーバーS級二人とか正直やってられないと愚痴でも言いたい気分だ。

しかも元から体調が危険なゼストはともかく、シグナムは殆ど消耗して無いようだし。

 

「大人しく同行してくれる気は無いか?」

「お断り。」

 

笑顔で返すと、シグナムは静かに構えた。ゼストは既にその槍を私に向けている。

 

「何だよ…何でだよリライヴ!」

 

そんな中、アギトが一人叫ぶ。

こう訴えかけてくる人を逐一突っぱねるのは少しだけ悲しい。さっさと割り切って戦ってくれるシグナムみたいな人の方が私にとっては楽だ。

 

「ずっと独りで戦って…そんなに管理局が憎いのかよ!」

 

アギトの訴えに対して首を横に振って否定する。

上の全部が全部悪かったり、本当に存在が許せないなら私は真っ先に管理局を潰しにかかってる。

 

「ただ…同じになりたくないだけ。黙ってても誰かがやってくれるならいいんだけど…局にしたがって大人しくしてたら、望み自体が法に触れる人はどんな理由があっても救われないからね。」

 

私の答えを聞いたアギトが目を伏せ、代わりにシグナムが口を開く。

 

「それが…闇の書事件の折に蒐集に付き合ってくれた理由か?」

「まあね。はやての為じゃなくて幻滅した?」

 

答えはなくカートリッジをロードするシグナム。

レヴァンティンから上がった炎が答えなのだと思い…

 

「幻滅はしないが…覚悟は決まった。10年の歳月を経ても不変の信念など、誰が崩せる訳もあるまい。」

 

思い違いだったと知らされ、私は笑みを漏らした。

信念か。古代ベルカの生き証人にそこまで上等な言葉を用意して貰えたのはちょっと嬉しいかな。

 

 

 

 

直後、私とシグナムは互いに加速し、斬り結んだ。

 

 

透明の魔力刃と炎を纏ったシグナムの剣が競り合う。

レヴァンティンが壊せない…さすがに威力も落ちてくるか。

 

「さすがに消耗しているようだな。」

「あの子達強かったからね。」

 

競り合いから剣を流し、開いた胴に膝蹴りを叩き込む。

くの字に曲がったシグナムの後頭部を掴んだ私は、そのまま適当に放った。

 

こっちは魔法なしの業に関してもやる必要があったからね。出力で互角でもそうそう…

 

「はあっ!!」

「ってちょ…くっ!」

 

シグナムが離れたのを見計らってか、間髪いれずに吹っ飛んでくるゼスト。

何か狙おうにも間に合わず、突進からの渾身の一撃をまともに受け止める事に…

 

 

 

 

止まらなかった。

 

 

 

 

思いっきり吹き飛ばされながらもどうにかデバイスの刃そのものは受けずに済んだ私は、吹き飛んだ先で体勢を整える。

 

フルドライブ…死ぬ気なのゼスト?

確かに活動限界を引き伸ばそうにも限度があるけど…少し悲しい。

 

「こっちだリライヴ!受けろ…轟炎!!」

 

えらい大技の名前に視線を移せば、太陽かと思う程の巨大火球が投げられる所だった。

本来ユニゾン中に二人分の魔力と制御で放つ魔法のはずだけど…ああもう!皆して無茶苦茶する!!

 

「スパイラルバスター!!」

 

 

あの手の球体は大抵、雪達磨のように核に外がつく形で制御する。

だから、ど真ん中に穴を開ければ、穴がそのままになるか…

 

 

 

爆発四散する。

 

 

 

結構出鱈目なサイズだった火球は、大爆発と共に炎の雨に変わった。

雨のように降り注ぐ火の粉に軽く腕で顔を隠す。

 

無視するには少し熱く、防御魔法を使うのは少しもったいない火の雨の中…

 

「火の粉全部無視して突っ込んでくるとか、烈火の将とは言ってもやりすぎでしょ!?」

「貴様相手に…過ぎた手などない!!」

 

言葉通り、シグナムが炎を無視して燃え盛る剣を手に突っ込んできた。

ええい…こんなのといつまでも戦ってられるほど魔力に余裕は無いって言うのに。

 

何度か切り結んだ後距離を取ると、またもカートリッジをロードするシグナム。

 

シュランゲフォルムか…炎の雨が残ってるけど丁度いいな。

 

複雑怪奇な軌道の長い連結刃。その軌道から絡まりそうなほど近づいてる部分もある。

 

「イノセント、フリーズボム。」

 

アウトプットされた爆弾を連結刃の中心に向かって放り投げる。

 

爆発と共に、瞬く間に周囲を冷気が満たした。

絶対零度の薬品を散布する科学装備の一つ。分解されて蠢いていた連結刃は、瞬く間に凍り付いて動かなくなる。

爆発範囲を見誤ったせいでシグナム本人も幾らか凍ってるのはちょっと悪かったけど…

 

「さて、それじゃ退場してもらおうか!」

「がっ…」

 

チャンスはチャンスなので動かなくなった連結刃を元の形態に戻している間に斬り付けた。

まともに入った魔力ダメージによって落ちていくシグナム。

 

周囲の温度が下がったお陰で炎の雨が消えて、ゼストが一気に迫ってくる。

 

「まともに受けてられるかっ!!」

 

下手すると重さと威力でヴィータすら上回りかねないゼストのフルドライブを受け流して、通り過ぎた所に砲撃を…

 

「させるか!ブレネンクリューガー!!」

 

放つ前に、アギトから火炎弾が放たれる。

直射のそれを剣で適当に払い、返す刃でソニックセイバーを放った。

 

遠当て魔力刃を直撃したアギトが落ちていくのを横目に、戻ってきたゼストと向かい合う。

 

見た所、もう長持ちしないな…あんな身体でフルドライブなんて自殺行為だ。

 

「…どうしても続けるの?」

「ああ…友との最期の約束だ。」

「そっか。」

 

答えを聞いた私は、納得するしかなかった。

そんなものをゼストのような騎士が裏切る筈が無い。

 

一か八かにはなるけど魔力ダメージで無力化するしかないか。健康体の人間と違ってそれすら危ないけど…

 

「お前こそ…もういいのではないか?」

「え?」

 

ゼストから会話を持ちかけられるとは思ってもなかった私は、その意外な内容に首を傾げる。

 

「独りで戦っていては、いつの間にか道を外れている事にも気付けん。お前に友は」

「いないよ。それに、結果を求める人ならともかく、在り方に外れも何も無いよ。」

「…そうか。」

 

珍しく語りかけるゼストの言葉が終わる前に断ち切る。

外れ云々の話をするなら初めから正道なんて外れているんだ、悪いけど止まるつもりは無い。

 

「ならば…これで終わりにさせてもらう。」

 

構え直すゼスト。

私も剣を両手で握って向き合う。

互いに加速、私の魔力刃とゼストの槍がぶつかって…

 

「はああぁぁぁぁっ!!!」

「っ…バーストモード!!!」

 

さっき吹き飛ばされた時よりも重いゼストの一撃に、私はバーストモードを使い、全身に纏った魔力をブースターのように放出して漸くゼストと競り合う。こんなに強かったのか彼は。

殆ど加減も出来ずに全力を込め…

 

 

 

私の展開する魔力刃が砕け散った。

 

 

 

ゼストの槍は私に当たる事無く振りぬかれ、私も勢いに流され体勢を崩す。

だが、展開中の魔力刃が破壊され短剣となったイノセントでどうにか出来る相手じゃない。

 

まずい…やられる…っ!

 

崩した体勢をどうにか整えようとして…

 

 

 

「え…」

 

 

 

柔らかく接触した感触に、呆けたような声を漏らしてしまった。

ゆっくりと私の体を滑り落ちていく何かを慌ててつかみ、引き寄せる。

 

 

私が掴んだのは、槍を振りぬいた体勢のまま、握った槍も放さず事切れていたゼストだった。

 

 

…強い訳だ、文字通り自分の全てをかけた一撃だったんだから。

 

 

力を失ったデバイスが、光に包まれて待機状態に戻っていくのを眺めていた私の周囲に、緑色のバインドが展開される。

左手でゼストをしっかり掴んで、魔力刃を失い短剣になったイノセントでバインドが閉じる前に切裂く。

 

「さすがリライヴね…奇襲のつもりだったんだけど…」

「シャマルと…ザフィーラか。」

 

声の方向に視線を移せば、シャマルとザフィーラが並んで浮かんでいた。

 

「…逃げないから、せめて彼の遺体を安置させて…ううん、静かな所まで運んであげてくれないかな?」

「この状況でそんな事を…」

 

ゼストを放置するのが嫌で言っては見たが、睨まれてしまった。

 

逮捕に来てる二人がそんな事出来る筈も無い。

第一寝てるだけなら今も先に倒した六課前線の子達やシグナムたちだって…

 

 

 

『私達からも頼む。』

 

 

 

唐突に届く念話。直後、私の目の前に炎が広がる。

 

「シグナム…」

 

収まった炎の中から現れたのは、炎の翼を纏い軽装になったシグナムだった。

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

どうにか意識を取り戻し立ち上がった私が見たものは、落ちてくるアギトの姿だった。

受け止めに入ろうとして、剣を手にしていた右腕が凍り付いている事に気付く。

 

…砕けなかっただけでも幸いか。

 

どうにかレヴァンティンも砕ける前にシュベルトフォルムに戻す事は出来たが、手からは離れそうも無い。

仕方なく空いている左手で受け止め、軽く揺する。

 

「ぅ…」

「気が付いたか?」

 

アギトはゆっくりと身を起こす。魔力ダメージとは言えあのリライヴの攻撃を受けたのだ、この小さな身では厳しいだろう。

だが、アギトは懸命に体を起こす。

 

「旦那の援護を…っ…」

 

余程ゼストの事が心配のようだ。貴方の気持ちも分からんでも無いが…ロード失格などとこの絆を前に誰も思いはしない。

後を引き受けて飛び立とうとした所で、念話が届く。

 

『すまない、俺に説得は無理だった。』

「っ…旦那!?」

 

こんな念話を飛ばす意味が分からず、嫌な予感がして…

 

 

 

直後、ゼストの魔力が信じられないほどに跳ね上がった。

 

 

 

量ではなく、出力。あんな念話を送ったのは、この出力でアームドデバイス本体の一撃が通ればリライヴが間違いなく死ぬからだと悟った。

それは燃え尽きる前の蝋燭にも似ていて…彼の槍がリライヴの刃を砕いた瞬間、その灯が消えた。

 

「…旦那…っ!!」

 

硬く拳を握り俯くアギト。私はその身をゆっくりと降ろす。

 

「…後は私が引き受ける。アギト、お前は休んでいてくれ。」

「っ…待てよ!!」

 

飛び立つ前、アギトの叫びが私を止める。

戦いたい気も分かるが、これ以上は無茶だ。リライヴが非殺傷を切らないと言ってもまた空戦の高度で気絶させられては無事ではすまない。

 

「アンタだって同じだろシグナム…その腕でどうやって戦う気だよ。」

 

アギトは私がその身を案じて止めた事を察しているのか、前置きもなく私の腕を差す。

確かに満足に力を振るえないかも知れないが、だからと言って…

 

「それでも休めねぇんだろ?だから…アタシがアンタの力になってやる。」

 

ゆっくりと私の目線まで浮かび上がってきたアギトは、その小さな手を差し出す。

私は無言でその手を取る。言葉はいらなかった。

 

 

 

 

 

こうして、アギトとのユニゾンを果たしてリライヴと相対した私は、リライヴからゼストの遺体を受け取り、ザフィーラに預ける。

 

「シグナム、その姿は…」

「すぐに終わらせる。彼を…頼む。」

「承知した。」

 

不安を隠さないシャマルに断言する。

六課防衛の際に負った怪我を押して出てきた二人が、リライヴ相手に何処まで出来るものでも無いだろうし、何より返り討ちにされたときに落下の衝撃で重傷を負いかねない。

 

 

それに、負ける気がしなかった。

 

 

凍らされた腕はアギトの炎に包まれ融合した時に元に戻っていたし、何よりアギトとの融合はリインとの融合と違い、暖かく…何かが内から湧いてくるような感覚すらある。

 

察したザフィーラが、ゆっくりと離れていく。シャマルも不安そうにしたままではあったがザフィーラについていってくれた。

 

『旦那の戦いを馬鹿にするような愚痴は言わねぇ…』

 

アギトから何かを押さえ込むような声が発せられ…

 

『けど!最期までアンタを止めようとして叶わなかった旦那のためにも!アンタは絶対…あたし達がぶっ飛ばす!!!』

 

抑え切れなかったのだろうアギトの叫びと共に、レヴァンティンを猛る炎が包み込んだ。

私は静かに燃え盛る剣を構える。

 

「ただの逮捕より好きな理由だ。だけど…」

 

表情を変えずに告げつつ、リライヴはデバイスから魔力刃を再形成する。

 

「私だって倒れるつもりは…ない。」

 

再形成した剣を構えるリライヴ。

さて…始めるか。

 

「アギト、行くぞ。」

『おう!シグナム!!喰らえ…轟炎!!!』

「何?」

 

アギト共に作り出す巨大な炎の塊。

斬り結ぶと思ったのか驚くリライヴを無視して、生成した炎の塊を放つ。

炎熱変換持ちの私と二人掛りでの生成と言う事もあり、生成も射出もアギト一人で撃った先より早く、巨大な火炎球がリライヴの姿を覆い隠す。

 

 

「はあぁぁぁっ!!!」

 

 

高速移動で回避したらしいリライヴが、側面から飛来する。

接近してきたリライヴを迎え撃つ形で切り結んだ私は、確信を得た。

 

「もう限界のようだな。」

「っ…誰がっ!!」

 

競り合いを続ける中、アギトとの融合で増した力は勿論の事、リライヴから感じられる力が弱い。

 

高速移動であのサイズの球体を回避して回った所で、長距離発動する類の魔法ではない以上死角までは届かない。リライヴほどの技量ならば僅かとは言え、停止時に隙が出来る魔法を死角を取る事も出来ないのに使う理由など、相殺を行う余裕が無い位だ。

 

多人数で一人に畳みかかった結果と思えばこれ以上を続けるのは剣士として苦痛ではあるが…

 

 

「先にアギトが告げた通りだ。」

 

カートリッジをロードし、『足に炎を纏い』蹴りを放つ。

同じく足でそれを止めようとしたリライヴだったが、止めきれずに吹き飛ばされる。

 

「お前は…私達が止める。」

 

左手に炎が巻き起こる。

 

『「剣閃烈火!」』

 

型を成さぬ、何処までも伸びる炎の剣。

アギトと同調し猛るその剣を全力で振りかぶり…

 

 

 

『「火龍…一閃!!!」』

 

 

 

リライヴ目掛けて全力で振りぬく。

体勢を整えたリライヴの姿を、辺り一面を薙ぎ払う空間爆炎が飲み込んだ。

 

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

吹き飛ばされて突っ込んだビルの中、私はよろけつつも立ち上がる。

 

融合機の力はその相性次第では倍からそれ以上にすらなる可能性を秘めてる。

魔力光から変換資質まで一緒の古代ベルカ騎士と真正の融合機。現代でここまで相性がいい組み合わせなんて無いって言って過言じゃない。

 

 

オーバーSのなのは達と互角のシグナムの数倍って…笑えないなぁ。

 

 

全快ならともかく、この状態じゃ間違いなくやられる。今の魔力じゃさっきの空間爆撃を数発撃たれたら回避も防御もろくに出来ないまま倒れるしかなくなるだろう。

 

こっちを補足したらしいシグナムが一気に飛んでくる。

 

「しょうがない…切り札使うよ。」

『了解しました。』

 

宣言すると同時、覚悟はしていたらしいイノセントがそれを取り出す。

 

 

 

 

 

ジュエルシード。

単体出力ですら次元震を発生させる、私がなのは達と出会った初めての事件の遺産であり、あの件の時どさくさにまぎれて拾っておいた切り札。

 

 

 

 

短剣形態のイノセントの柄の上、十字の交差部分に当たる場所にそのジュエルシードをセットする。

 

 

願うのは『無制限の魔力』。

 

 

とてつもなく願いの制御が難しい代物だから無敵とか不死身とか妙な事は出来ないけど、消費した魔力を常に全回復させる程度は問題ない。

 

『マスター…身体への負荷が軽くなる訳ではないので、留意してください。』

「分かってる…ロックはしておいてね。」

『はい。』

 

わざわざイノセントにはめ込む形で行使するのは、戦闘中に他の事を思って発動中のジュエルシードに勘違いをされるのを避けるため、願いがジュエルシードに届かないようイノセントに止めてもらう為。

 

これで、一度発動すれば発動したそのまま揺らぐ事がなくなる。

 

「我願うは無限の魔力…」

 

魔法の詠唱と違って意味はなく、願いを固定する為のただの言霊。

けど、自己暗示にもなるそれは願いの方向性を整えるのに有効で…

 

ジュエルシードが輝くと同時、私の魔力が一気に満たされた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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