なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第三十四話・ストライカーズ

 

 

第三十四話・ストライカーズ

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

地上のガジェットの大半が行動を停止したところで入った緊急の連絡に、私は耳を疑った。

 

「クロノ君…それ本気なんか?」

『ああ…本局の方で決定した。』

 

握った手から嫌な音が聞こえた気がした。

 

決定した指示は白い堕天使、リライヴの逮捕。

それだけなら大した問題は無い。けど…

 

 

 

未だに降下しているガジェットや戦闘中の場所がある中で、『リライヴがガジェットを破壊してくれている事を利用して』逮捕すると言うふざけた指示だった。

 

 

 

動いているガジェットのことも問題やけど、止まったガジェットだって長い間放置しておけば何処のやばい奴に回収されるか分かったもんや無いし、止まっているのと破壊したのでは大違い、いつ何が起こって起動するかわかったものじゃないと言うのに。

 

とは言え決定は決定、覆る事も無い。

 

「…ならその役、六課で引き受ける。」

『それこそ本気か?相手は』

「他の部隊は、もしウチらが逃がしそうになったら参加してくれれば大丈夫やろ?いくらなんでも現状ガジェット放置はやりすぎや。」

『…分かった。どの道転移防止に結界を展開する必要があるが、ガジェットが近づいたらそれも分解される。足止め役が要る上彼女と戦える戦力など本当に限られているとなれば、精鋭に任せるしかない。頼む。』

 

決定した瞬間、私はすぐに六課メンバー全員に通信を送る。

皆がどれだけ戦えるかって心配もあるけど、少しは安心感もある。

いくらあの娘相手でも、今の六課全員捌けるとは思えんし。

 

後は…

 

「管理局機動六課部隊長、八神はやてです。応答願います。」

 

もう一つの気がかりである、現在ガジェットと交戦中の宵の騎士のシュテルとレヴィに通信を繋ぐ。

 

『…今更ですね。』

「言うな!こっちにも手順があるんや!!」

 

相変わらず冷めた表情のシュテルちゃんからの突っ込みに思わず素が出てしまった。

 

『それで、何の用ですか?』

「これから、白い堕天使リライヴを逮捕する事になった。」

『…これから?正気ですか?』

 

戦力の大半が疲弊している上、大半のガジェットが動きを止めたとはいえまだゆりかごが稼動している現状で、今直接敵対している訳でも無いリライヴと戦う事に疑念を覚えない筈が無い。

 

『手伝って欲しいと言うのであれば断ります。』

「そうやろな…」

 

予想はしとったけど、シュテルちゃんからは冷めた返事が返ってきた。

宵の騎士の皆にとってリライヴちゃんは命の恩人だし、好感を持って対応してくれる筈も無い。

 

「ただ…リライヴちゃんの手助けする気やったりせんかなと思って。」

『それでもいいんですが、マスターが彼女を止めるのに協力しているのにそんな真似はしません。』

「…そっか、心配して悪かったな。」

 

万が一もあるから確認した訳だけど…シュテルちゃんが嘘を吐くとは思ってないし、速人君がらみであれば尚更大丈夫だ。

 

『首都周囲のガジェットは警戒しておきます。もういいでしょうか?』

「ご協力感謝します。」

『…お役所ですね。』

「言わんといて。」

 

呆れたような呟きを最後に、通信を切るシュテルちゃん。

でも…コレでもう心配は無い。

 

後は、あのリライヴちゃんを止めるだけの戦力を揃える事。

 

「よし!私はゆりかごに突入する!皆ここは頼んだよ!!」

「了解しました!」

 

そうと決まればなのはちゃんとヴィータを速効で連れてこなアカン。

私でもガジェットくらいならどうにでもなるけど、直接交戦系の能力に乏しい私があの娘の前に出るなんて的になるだけだ。

 

突入した皆に、この上アレと一戦やらせるってのもいい気はせんけど、あの娘を止めたいのは私だけや無い筈だ。

 

 

これで最後にしてみせる。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

近くに残ってたガジェットの残り一機を破壊して適当なビルに着地した所で、その異変は起きた。

 

「これは…結界?」

『転移と脱出防止用ですね。』

 

突然色が変わった世界に周囲を見渡した後、イノセントからの指摘に頭を抑える。

 

転移と脱出防止って…それどう考えても私対策だ。

 

「事態は沈静化に向かってるとは言え、まだあの船が普通に動いてる段階でコレとは…やってくれるよ管理局も。」

「すみません。けど、被害の心配していただけるなら速やかに投降していただけませんか?」

 

背後から近づいてきた気配に少しだけ嫌味交じりの言葉を吐くと、投降を呼びかける声がした。

振り返ると、隣のビルで六課前線の指揮官らしい娘が銃を構えていた。

確か…ティアナとか言ったか。

 

「焦らない所を見ると、手柄稼ぎは止めたみたいだね。それにしても、こんなもの用意してくれた割に人が来てないけど…」

「その事で八神部隊長から伝言があります、『六課で当たる事になったから察して欲しい』と。」

 

答えが返ってくるとは思わなかった質問に、きっちり答えが返ってくる。

けど、それは最悪な展開を意味していた。

 

『脱出しましょう。』

「できないよ。はやての小狸…無茶言ってくれる。」

 

イノセントの提案を切る。

 

当然向こうも逃がすつもりは無いだろうから、結界から脱出しようとする素振りを見せたり、結界を破壊しようとすれば、他の全部隊が動くはず。

ただでさえ対AMF戦が可能な魔導師が少ないって言うのに、ゆりかごが止まった訳でも無いのに私相手に戦力を割くなんて馬鹿げてる。

 

最も、はやてもそれは分かってるんだろう。だから私の相手を六課だけで引き受けたんだ。

 

「…貴女が大人しく捕まってくれればいい話なんですけど。」

「尚更出来ないね。町人質に犯罪者捕らえようなんて面白い事してくれる人に、何で頭下げられる?」

「被害規模を比べての結果ですよ、貴女は暴れすぎています。」

「自覚はあるけど…ね。」

 

ティアナからの冷静な指摘に目を伏せる。

管理局としては、町に小さな被害が出たって私を放置するよりは軽いと判断しただけの筈だ。

所詮私はただの広域次元犯罪者なんだから。

 

なのにはやては、ある意味で私を信じて私の相手を引き受けたんだ。状況不利だろうが乗るしかない。

 

「分かった、いいよ。付き合う。ただ…」

 

魔力刃を展開したイノセントを、真っ直ぐにティアナに向ける。

 

「私は貴女達自慢の隊長達の誰よりも…強いよ?」

「上等…」

 

静かに構えるティアナ。

さて、外の騒ぎが収まるまでなのはの教え子の出来でも見せてもらうとしますか。

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

あたしの射撃が戦闘開始の合図になった。

かなりの弾速の筈だったのだけど、リライヴは一歩も動かずに弾を切り裂いたばかりか、魔力刃を放ってくる。

 

 

速…っ!?しかも見づらい。

 

 

受けられる訳もなくて後方跳躍で回避する。単発の魔力刃だと言うのにあたしが立っていたビルが深々と切り裂かれていた。

透明の魔力光と言いデタラメすぎるでしょこの…っ!?

 

 

「もう終わり?」

 

着地所かまだ跳躍の勢いがおさまってもいない空中。目の前に剣を構えたリライヴの姿があった。

 

『っ!今っ!!』

「でやあぁぁぁっ!!」

「うおおぉぉぉっ!!」

 

念話を合図に、それまで潜んでいたエリオとスバルが挟撃をかける形で飛び出す。あたしに向かっていたリライヴはその場で動きを止め…

 

 

一瞬動いたかと思ったらエリオが弾き飛ばされ、スバルが拳を突き出した体勢のまま頭を鷲づかみにされて持ち上げられていた。

 

 

遠目で見てるのに、何をしたのか殆ど分からなかった…何て奴なの!?

 

「アイアンクロー、何てね。」

「あだだだだだ!」

 

どうやらそのまま力を加えられてるらしいスバルが結構痛そうな声を漏らす。

…アレは痛いわ。

 

「っのぉ!!」

「おっと。」

 

持ち上げられた不安定な体勢から、ウイングロードを使った蹴りを放つスバル。

けど、簡単に下がってかわしたリライヴは、上がったスバルの足を掴んで押した。

 

「うわぁ!」

 

ひっくり返ったスバルはそのままウイングロードを外れて落ちて行き…

 

「クロスファイア…シュート!」

「フリード!ブラストレイ!」

 

彼女が馬鹿やってる間に準備した射撃と、キャロを乗せたフリードが吐く火炎砲撃が、彼女に向かって一斉に放たれた。

さすがに防がせるくらいは出来ると思ったのだけど、クロスファイアは途中で見えない何かに次から次へと掻き消され見向きもされず、フリードが放った火炎は、手にした剣で簡単に消してしまった。

 

「っ!」

 

クロスファイアを消した現象の正体、彼女の無色の魔力光による超高性能誘導弾。あたしに迫ってきてくれたお陰でどうにか見えたそれを、ダガーで切り払う。

 

近距離装備で相殺がギリギリって…どんな硬度と貫通力よ…

 

 

「ヴォルテール!!」

 

 

苛立っている間に、キャロの傍に立っていた巨大な黒竜が、防ぎようも無い炎を放っていた。

それはリライヴのいたビル含めてかなりの広範囲を焼き払う。

 

「うわ、すっごぉ…」

「決まっ…た?」

 

隣に来ていたスバルと共に、燃え盛る炎を眺める。

 

「ティアナさん!後ろ!!」

「っ!?」

 

エリオの叫びを聞いたあたしとスバルは、慌てて振り返る。

 

「や。」

「く…っ…」

 

いつの間にか、あたしとスバルが立つビルの一つ後ろに立っていたリライヴが、挨拶でもするかのように片手を上げて声をかけてくる。

 

 

コイツ…遊んでる…

 

 

本気で私達を全滅させてその後六課の人員が誰も来なければ、そのまま他の戦力もリライヴの捕縛に向かう。それを避けるための時間稼ぎ。

 

それで…遊ばれてまだ尚防御魔法の一つすら使わせる事が出来てない。

 

「いい感じ。なのは達なら結構互角の勝負できるんじゃない?勿論4対1でだけど。」

「っ…馬鹿にして!!」

 

あたしはダガーモードの二刀を手に、リライヴに飛び掛る。

アッサリかわされ、ダガーを振るう前に腕をつかまれたあたしは、思いっきり放り投げられた。

 

「ティア!」

「短気なのは相変わらず…か。基本後衛なんだから私と接近戦なんてやってどうなる訳も無いのに。」

 

どうにか空中で体勢を整えたあたしは、着地して構える。

 

 

狙い通りだ。

 

 

『全員聞いて、クロスシフトCで行くわ。』

『『『ええっ!!?』』』

 

表情を変えずに送った念話に返された反応は、ある意味で想像通りのものだった。

それはそうだろう、トラウマもののフォーメーションなんて今使うものじゃない。

 

けど、自棄でもなんでもなく、考えた末の最良の一手だった。

 

怒った『フリ』をしてダガーで突撃してみたが、予想通り倒されなかった。

元々彼女なら致命的な攻撃はしてこないと確信して、その上で魔力ダメージでの昏倒をさせられるかどうかの確認のつもりだったんだけど、あれだけおいしい餌にすら食いつかなかった所を見ると、やはり時間稼ぎで今すぐどうこうするつもりは無いはずだ。だからこそ、少々の無理がきく。

 

それに、クロスシフトCは元々『絶対的な強敵を撃破する』為に考えたシフト。この状況で切るのにこれ以上のカードは無い。

 

全部話す時間なんて当然無いからどうにか一言で皆を説得できないか考えて…丁度いい一言を思い出す。

 

『…大丈夫よ、頭は冷えてるから。』

『『『…了解。』』』

 

あんまり思い出したくなかったけど、説得力はあったらしい。苦笑交じりに皆から了解の返答が返ってきた。

 

…とはいっても勿論四人がかりだからそのままという訳でもないし、何より彼女にまともに効きそうなのはヴォルテールの一撃位だ。タイミングとかは考えないといけない。

 

でもそれも手はある、後は…出来るかどうか…

 

いや、きっと出来る。今のあたし達なら。

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

あたしは手にしたブリッツキャリバー…その中にある筈のリボルバーナックルを見つめる。

ギン姉と二つに分けた、あたし一人には過ぎた力。

だけど…今は!!

 

「マッハキャリバー…お願い。」

 

ブリッツキャリバーに入っていたナックルを左手に装備する。

その重さと本来の力を確かめ…最後の切り札を切った。

 

「ギア…エクセリオン!!!」

 

かつてなのはさんが未完成のまま使用した、ACS搭載のフルドライブ。

デバイスから大きく広がる青い翼がその性能の全てを引き出している事を示している。

 

「うおおおぉぉぉぉっ!!」

 

限界まで引き出した力を以ってウイングロードを駆ける。

接近する透明な魔力弾を感じたあたしは、集中防御で受けて乗り切る。

 

「ちゃんと防御魔法も鍛えてあるのか…けど、力任せに突破した所で!」

 

タイミングを合わせて振り下ろされるリライヴの見辛い透明の剣。

あたしはその魔力刃を左拳で殴って逸らす。

 

速度が速くて全速力で止まらないで出来る攻防が一回一度だけになるけど、防御魔法は勿論、反転含めた基本軌道だって何回も練習したんだ。

 

だから…何度だって当たってやる!!

 

再度突撃しようとしたあたしに向かって剣を振りかぶっているリライヴ。

やば…魔力刃飛ばされたら弾と違って防ぎきれないかも…

 

「こっちだリライヴ!」

「っ!」

 

咄嗟にティアの声がしたほうを向いて、位置を確認した所で剣を振るうリライヴ。

ビルの上に立つ砲撃体勢のティアに向かって魔力刃が…砲撃体勢?

 

「幻影?」

 

いつかのファントムブレイザーの体勢だったから絶対違うと思ったけど、やっぱり幻影だったらしい。

と思ったら、同じビルの物陰からティアが飛び出してきた。

 

同じビルにいて幻影を出しておいて声だけ出して物陰に隠れたのか、やっぱりティアは凄いや。

 

「おおおぉぉぉぉっ!!」

「っ!!」

 

ティアに視線を移している間に距離を詰めたあたしの打撃を、振り返る事もなく左手で発生させた障壁で受け止めるリライヴ。狙い通り!

 

「もう詰めて来てたか…ん?…なるほど。」

 

噛むシールドブレイクによって防御を破れないまでも弾かれる事を防止する攻撃。

当然噛んでいるのはシールドだから、近距離攻防自体が危ないリライヴ相手だと返される可能性はあるけど、丁度ティアが上から飛び掛ってくる所だった。

これならいくらなんでも今防御は外してこないはず。

 

ただ…右手にデバイスをもっているからティアの方が迎撃される可能性がある。

事実リライヴはタイミングを計っていて…

 

 

「でやあぁぁぁっ!!!」

「なっ!?」

「エリオ!?」

 

 

ティアだと思っていた幻影から、エリオが加速して飛び出してきた。

攻撃タイミングをずらされたリライヴが、それでも何とか剣でエリオの攻撃を捌く。

 

「紫電一閃!!」

「っ…重いね!」

 

下降の勢いのままウイングロードに着地したエリオが、カートリッジで増幅した魔力を込めた一撃に繋げる。

帯電した槍を片手で持った剣で受け止めるリライヴ。

 

『着弾と同時に散開!キャロは狙って!!』

『了解!』

 

どうやらあたしだけ知らないままエリオとキャロの二人にも動きを指示してたらしい。着弾したら散開って事はどこかからティアの弾丸が飛んでくるはず。

合図を待っていると、あたしの身体を掠めるようにティアの放った弾丸が飛んできた。ギリギリで通っていったそれは、リライヴの障壁に当たる。

 

魔力爆発に軽く呑まれながら、あたしは思いっきり後方に飛んだ。

丁度着地する当たりのビルに、ティアが立っているのが見えた直後…

 

 

 

 

今度こそヴォルテールの炎が、リライヴを飲み込んだ。

 

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

音声データを送ったエリオのデバイスを使った二重のフェイント、同時攻撃役をスバルとエリオに任せて、シフトの動きを知らないエリオはあたしの幻影を着せつつ誘導する。二人が離れるまでの間に逃げられないようにあたしの射撃で時間を稼ぎ、トドメにヴォルテールの最大出力の火炎砲撃。

キャロには全力でブーストかけて貰わないと…って言うかかけて貰ってもあたし達じゃ勝負にもならないリライヴ相手に決められる最大の一撃。

 

リライヴがあたし達を『殲滅』する気なら危険すぎて使えなかった手だけど…どうにか決まってくれたわね。

 

「悪いわねスバル、ブラインド代わりにして。」

 

少しでも見づらいほうがいいと思ってスバルの身体に軌道を隠すように撃ったのだけど、無断だったから少し悪かったかもしれない。

そう思って謝ったんだけど…

 

「大丈夫、かすりもして無いもん。ティア本当に凄いよ。」

「ま、射撃型だからね…」

 

完全に杞憂だったらしく、笑顔のスバルに褒められてしまった。

照れ隠しを返している間に、キャロとエリオが、フリードリヒに乗って共に合流する。

 

「あ、あの…リライヴさん大丈夫なんでしょうか…」

「あ…」

 

来るなり不安そうに漏らすキャロ。スバルも必死だったからか今気付いたと言わんばかりの声を漏らす。

 

火炎砲撃の為、直撃爆発終了。と言うほど簡単じゃない。

ブレスのように長時間放たれていた火炎は、リライヴがいた周囲丸ごと炎で飲み込んでしまっていて、中心の様子はとても確認できない。

 

とても人間に放っていい攻撃じゃない。けど…

 

「あの人なら大丈夫よ。」

 

多分完全に止める事はできて無いと思ったあたしは、キャロを安心させる為にもそう断言した。

とは言え長時間放置しておいてもまずい。そろそろ炎を解除して貰うべきか…

 

 

 

 

刹那、炎が中心から塗り替えられるように広範囲にわたって消され、光が瞬いたと思った瞬間、離れた場所にいたヴォルテールが倒れていった。

 

 

 

 

嘘だ…そんな筈が無い…

 

呆然と頭に浮かぶ否定の言葉を塗りつぶすような光景を、あたしの…あたし達の眼は既に見ていた。

 

倒れていくヴォルテールの前に浮かぶ、小さな人影。

ゆっくりとあたし達を振り返ったその背中に、一瞬白い翼が見えた気がした。

 

 

 

白い…堕天使…

 

 

 

誰がつけた呼称なのか知らないが、ピッタリだ。

透明なはずの魔力光の残滓か、異名から見てしまった幻覚なのか知らないが、本当にあるはずのない翼が見えたのだ。

 

むしろゆっくりとした速度で近づいてくるリライヴ。細かな所まで見えるようになってきたあたしは、さっきまで必死で否定していた考えが事実だった事を知る。

 

 

 

天使は無傷だった。炎に呑まれたはずなのに煤けてすらいなかった。

 

 

「正直驚いたよ。さっきヴォルテールを倒したのは私の本気、アレを見せたのは敬意だと思ってくれていいよ。本当に凄かった。」

 

笑みを浮かべて言うリライヴに、あたしは悟ってしまった。

 

 

どう足掻いても今のあたし達では届かないと。

 

 

本来なら絶望するはずの事実が、何故だかストンと胸に落ちたように受け入れられた。

これはきっと、本当に天使と人間位の差があってしまうから。

 

例えば、野生動物に身体能力で勝てないことを恥じる人がいない様に。

例えば、生身でヘリや車と競争しようとする人間がいない様に。

 

そんな差の相手から、悪意も何もない綺麗な笑みで褒められたのだ。

 

抵抗と言う言葉が虚しくなったあたしの手から勝手に力が抜けていって…

 

 

 

「ギア…エクセリオン!!!!!」

 

 

 

スバルの叫びが、クロスミラージュを取り落としそうにすらなっていたあたしの手に僅かに力を取り戻させた。

 

「…まだ…戦える。まだ走れるよね…マッハキャリバー。」

『はい、相棒。』

 

並んで立っていたスバルが一歩進み出る。

 

「あたし達はいつだって!諦める事なんて教わってない!!」

 

スバルは一つの気後れも無い魂の叫びと共に構える。

そんなスバルの様子を見たリライヴは、小さく笑った。

 

「なるほど、君がこのメンバーにとっての『なのは役』なんだね。」

「へ?」

 

唐突な彼女のコメントにスバルは意味が分からないのか妙な声を漏らす。

けどあたしは、何となく彼女の言いたい事が分かってしまった。

 

皆に力や希望を与え、中核となるような存在。

 

強さだけならなのはさんも副隊長達やフェイトさんと大差は無いし、部隊の長は八神部隊長だ。そう言うのとは違う『何か』。

 

なのはさんはそれを持っている。そして、スバルも。

 

あたしはいつの間にか力を取り戻し、自然体のまま構えていた。

手もなく魔力も殆ど使い果たしたって言うのに、自棄でもなく戦える気がしてくる。

エリオとキャロも同様らしく、戦闘態勢を自然に取っている。

 

「過去形にしてごめん、君たちは凄いチームだね。さぁ…続けよう。」

 

リライヴが告げると同時に、スバルが真っ先に飛び出す。

 

「ディバイン…バスター!!!」

 

突撃から一気に最大の一撃を放つスバルに続いて、あたし達はそれぞれに飛び出した。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

意外にも強かった物で放置も出来ず、全員叩きのめしてしまった私は、立っているビルの壁に背を預けて軽く息を吐いた。

 

『しかし、マスターの絶望を誘う嫌味も通じませんでしたね。』

「は?」

 

イノセントの妙なコメントに首を傾げる。

 

『…マスター、4人がかりで全力で来た相手を、敵が無傷で褒め称える何て真似をしておいてその自覚が無い…とか?』

「え?いやだって…あ…」

 

無傷とか妙な事を言うイノセントに自分の服装を見直すと、確かに見た目は無傷だった。

 

 

炎の奔流自体はプロテクションで防がなきゃ耐えられない勢いで、一面展開のプロテクションだけだと、周囲の熱と下から上ってくる炎が防げないのでフィールド防御も使う必要があった。

その両方を全力展開した後、バーストモードでヴォルテールに接近、放出魔力による強制動作を使った瞬間三連斬撃なんて真似をした。

 

つまる所、魔力も体力もかなり消費させられたのだ。だから本当素直に驚いたんだけど…

 

『デバイスに心境の忠告をされる人間と言うのはどうかと思うんですが。』

「う…」

『無駄に戦闘を長引かせない為に戦意を削ぐ目的でワザとやっているものかとばかり思っていたのですが…無自覚とは恐ろしい。』

 

イノセントからつつくように放たれる言葉責めに、私は胸と額を抑えて俯く。

自分でやると決めて、その結果もちゃんと覚悟してることについてはこんな事無いけど、やる気もなく悪い事してたとなると良心が痛い。

 

何が良心だ、犯罪者だろ。と言われればそれまでだけど…意図してるかして無いかは、戦争で敵を殺すのと、ドッキリ目的で仕掛けた悪戯のショックで心臓麻痺起こされて死なせる位には意味が違ってくる。

 

しかも、当の四人はもう昏倒させちゃってるから謝ろうにも謝れないし…

 

「それにしても、やけに絡んでくるね?」

 

言葉通り、普段よりも絡んでくるイノセントに疑問を抱く。

戦闘中…でも無いけど、一区切りついた程度の状況でこんなに饒舌なのも珍しい。

 

『私は貴女のデバイスですから。』

 

ただ一言、それだけ返してそれ以上を語らなくなったイノセント。

 

…本当、デバイスなのか疑いたくなるな。

虫の知らせか何か知らないけど、こんな別れ際にやり残しを片付けるような事をしだすなんて。

こんな所で捕まる気は無いんだけどね。

 

「やれやれ…局の魔導師も六課のメンバーもガジェットその他と交戦して消耗してる訳だし、まだ切り札も使ってない。妙な心配しなくたって大丈夫だよ。」

 

いらない心配だと告げて、空に舞い上がる。

新しく結界に入った魔導師がこっちに向かって来るのを感じたから。

近づいてくる人影を正面で見られるように浮かぶ。

 

 

…捕まってあげるつもりは無い。

 

 

改めて意思を固めた私は、手にしたイノセントから魔力刃を展開した。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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