なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第三十三話・血を超え繋がる家族

 

第三十三話・血を超え繋がる家族

 

 

 

Side~クアットロ

 

 

 

グリフが殺してくれるかと思ったあの白い悪魔は、いきなり現れた黒尽くめが割り込んできたせいで僅かな三文芝居の後に先に進んでしまった。

あの二人が兄妹だったとは…まぁそれでも男の方は少し腕がいいだけで大した素体では無いのだけれど。

 

それよりも気になるのは…

 

「高町なのは…何故今ああも力を抜いて動ける?」

 

高町速人が現れてからの三文芝居から、妙に力が抜けている。

ディエチちゃんが砲撃を溜めて待ち構えていた所では、放たれた砲撃を一度通路に下がることで回避、しかも目測で隙間から誘導弾を放り込んでディエチちゃんの砲撃が収まる前に片付けてしまった。

 

オーバーS級の真価を見せていると言えばそれで済む話にも思えるが…

 

「ま、いいわ。あの娘を前に落ち着いていられるとも思えないし。」

 

それよりも警戒を最大にしておかなければならない。

以前リライヴ相手に多対一の模擬戦をやったときに広域索敵、長距離砲撃のコンボで撃ち落された事を考慮するなら、もし此方の位置が判明すればあの悪魔の砲撃なら同様のことが可能かもしれない。

 

予定外の乱入者のせいでゆりかごのダメージも地上の戦局もよくは無い。が、このゆりかごさえ予定位置まで運べればそれで事は済む。

 

「せいぜい踊ってもらいましょうか、エースさん。」

 

これが片付けば後は駆動炉に向かっているあのちびを止めて終わり。それだけだ、何の問題も無い。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

『お前そのままに本音を伝えてつれてくればいい。』

 

私のままに…か。

 

お兄ちゃんから耳にたこが出来るほど聞いた、心を凍らせるなって意味の言葉。

母親をやる資格がどうこうと、色々考えて、色々尻込みして、ヴィヴィオが慕ってくれていたって事実には逐一理屈を引っ張って否定して…

 

そのくせいなくなったら、フェイトちゃんに泣きつくほど辛かった。

 

…きっと、自分そのままに全部さらけ出して、その挙句にヴィヴィオに逃げられる事に怯えてたんだ。まるで告白を尻込みする子供みたい。

 

自分で浮かべた例えが妙にはまって思わず笑ってしまう。

 

 

玉座の間に辿りついた私を待っていたのは、とても王の扱いとは思えない完全に拘束されたヴィヴィオと、幻術を扱う戦闘機人クアットロ。

 

「いらっしゃーい、お待ちしてました。」

「大規模騒乱罪の現行犯で貴女を逮捕します、すぐに騒乱の停止と」

「子供を無視して開口一番定型句ですかぁ?自分は愛しいお兄ちゃんといちゃついてたくせに。ねぇ?」

 

笑いながらヴィヴィオに手を伸ばすクアットロに問答無用でシューターを放り込む。

直撃したクアットロはアッサリぶれて消えた。

 

幻か。そんな事だろうとは思ったけど…

 

『恐い恐い。こぉんな悪魔は…聖なる王様に退治してもらうべきですわよねぇ。』

 

浮かび上がったモニターに表示されたクアットロが性質の悪い笑みと共にそう告げると、ヴィヴィオの体が跳ね、得体の知らない力が流れ込む。

 

「ママ!やだ!!ママ!!」

「ヴィヴィオ!くっ…」

 

悲鳴を上げるヴィヴィオから噴き出した虹色の魔力が周囲を突風のように埋め尽くす。

その力の波に押されてまるで進むことも出来ないうちに浮かび上がったヴィヴィオは…

 

 

 

「うああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

絶叫と共に、変身した。

成熟した身体、長い髪をサイドで結って、どこか私の衣装を思わせる防護服を身に纏っている。

あんまり当たってほしくはなかったけど、ヴィータちゃんに言われてた予想が当たっちゃったな…

 

「貴女は…私のママを…どこかに攫った…」

「ヴィヴィオ、違うよ!私だよ、なのはママだよ!!」

「っ…」

 

一瞬たじろぐヴィヴィオ。

けど、何かを振り払うように腕を振るう。

 

「違う!!!」

「っ…」

「うそつき。貴女なんか…ママじゃない。」

 

ヴィヴィオに真っ向から告げられる否定の言葉は、洗脳なのは分かってるけど、結構来るものがあった。

 

「ヴィヴィオのママを…返して!!」

 

それに、私が名乗った時たじろいだって事は、洗脳って言っても完全に脳を書き換えるものじゃなくて『付け入る隙』をつつくもの。

 

そんなものがあるのは…私のせいだ。

 

 

「あああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

拳を硬く握り向かって来るヴィヴィオ。私はそれを、右手に持ったレイジングハートを使って斜めに張った防御幕で流す。

 

 

「ディバインバスター・インパルス。」

「え…」

 

 

姿勢の崩れたヴィヴィオに向かって左手で放った零距離砲撃は、ヴィヴィオを壁まで吹き飛ばした。

 

 

 

Side~ヴィヴィオ

 

 

 

あの人から受けた一撃に抱いたのは困惑だった。

 

 

『何であの人が私を攻撃するのか分からない。』

 

 

一瞬抱いた疑問を振り払う。あれはママを攫った敵、攻撃してくるのは当たり前…

 

「ヴィヴィオ…ごめんね、不安だったよね。ずっと私の事見てくれてたもん、肝心な所で避けてたの分かっちゃってたよね。」

「う…あぁ!っ!?」

 

潰そうと飛び出そうとしてすぐ、手足を拘束される。

その後すぐに複数の魔力弾が撃たれた。

 

 

コレは…セイクリッドクラスター?

 

 

放った魔力弾を爆散させて小型弾をばら撒く魔法だけど、こんなの…

 

「効かない!」

 

私が撃つならともかく、AMF下であの人が撃った小型弾なんて威力が出る筈が無く、『聖王の鎧』がある私には簡単に防げてしまう。

 

 

 

こんなの時間稼ぎにしか…時間稼ぎ?

 

 

 

「エクセリオンバスター・フォースバースト!」

「え?あ?っ!!」

 

直後、ただでさえ凶悪なあの人の砲撃が4発同時に飛んできた。

 

「プ、プロテクション!!」

 

出鱈目な衝撃をどうにかプロテクションで受け止め…

 

「あ、あ、あああぁぁぁっ!?」

 

プロテクションごと押されて壁にくっついて爆発した。

 

「あ…え?」

 

自分で、息が上がっていて疲れてるのが分かる。

 

 

何これ…どうなってるの?

 

 

私は聖王…ゆりかごもあって殆ど無尽蔵に近い力を扱えて、それでなくても聖王の鎧で殆どダメージは通らない筈なのに…

 

「…ヴィヴィオ、ごめん。もう逃げないよ。私らしく、全部見せる。うるさい人に振り回されてるから今は答えは聞かないけど…ずっと戦ってばっかりだった私でいいなら、また一緒に暮らそう。今はとりあえず…」

 

あの人はよく分からないことを言いながら、とても楽しそうに笑って…

 

 

 

 

「魔法戦、教えてあげる。気兼ねしないで全力でかかっておいで、ヴィヴィオ。」

 

 

 

 

直後、私は売ってはいけない人に喧嘩を売ってしまったのだと悟らされた。

 

 

思い出すのは、ちょっとだけ見た訓練風景。

この人や、もう一人の速い人に撃たれて斬られて吹き飛ばされて地面を転がって、ボロボロで地面に転がってるのに起きろって言われて起きて吹き

 

 

 

「あ…うわあぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

なんか聞こえて来てた声の事は頭から消えた。

やらなきゃ…私がやられる。あの見てた光景のように。

 

 

 

Side~ヴィータ

 

 

 

周囲のガジェットを蹴散らした所でロングアーチになのはの状況を聞いたら『ヴィヴィオ相手に教導中』と引きつった声で返ってきた。

 

「は、はは…可哀想になヴィヴィオ…」

 

洗脳されてるだろうヴィヴィオ相手に交戦する事になったら本気で戦えるのか、そもそも戦って大丈夫なのか心配になったが、完全に杞憂だったらしい。

 

しかし…腹立つもん思い出させてくれたもんだ。

 

串刺しだけは避けた脇腹の傷を押さえながら周囲のガジェットの残骸を見やる。

そこにあったのは、かつてなのはを襲ったステルス搭載機だった。

 

ホント、消耗してたらやばかったな。

 

こうなると外で一切戦わなくてよかったのはディアーチェのお陰だから、アレに感謝する事になるんだが…

 

「…すっげぇむかつくなソレも。」

 

大威張りでふんぞり返るあいつの姿が簡単に浮かんだあたしは、その腹立つ姿を頭を振って消し去った。

 

「っと、ノンビリしてる場合じゃねぇか、さっさと駆動炉ぶっ壊さねぇとな。」

 

あたしは残る一仕事を片付ける為に再び歩き出した。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

戦い始めすぐの一撃で分かった事がある。それは…

 

聖王の力だろうと豊富な保有魔法だろうと、あくまで扱っているのがヴィヴィオだと言う事。

扱うだけの体力と戦闘経験が圧倒的に足りなさ過ぎる。

 

「はああぁぁっ!!」

「視野が狭い!!」

 

無作為に突撃してきたヴィヴィオの周囲に放った誘導弾をぶつける。

魔力爆発にのまれたヴィヴィオは…

 

「効くもんか!」

「でも一瞬見えない!ACSフルドライブ!!」

 

そのまま進んできて、レイジングハートの尖端を体のど真ん中で受ける事になった。

 

突進中に魔法を構築、壁への激突と同時にバインドをかけて…

 

「ディバイン…バスター!!!」

 

砲撃を放つ。

魔力砲撃はヴィヴィオに直撃して爆発し…

 

お返しとばかりにヴィヴィオから砲撃魔法が飛んできた。

 

『フラッシュムーブ。』

「そんな適当に撃っても当たらないよ!」

 

砲撃で一気に晴れた視界の中、間合いを詰める。

ヴィヴィオの右に接した私は再びディバインバスター・インパルスを撃つ為左手を伸ばし…

 

「っ!だあっ!!」

「あ…」

 

伸ばした左腕の内側からヴィヴィオの右腕が姿を覗かせていた。

避けられない…当たる。

 

 

 

 

無視して全力で放ったディバインバスター・インパルスと魔力打撃が引き起こした激しい衝撃で、私とヴィヴィオは互いに吹き飛んだ。

 

「はぁ…はぁっ…」

「っ…」

 

腹立つから聞き流してたクアットロが言ってた聖王の鎧とかいう能力の影響か、振動や魔法使用による疲れは見えるものの、あれだけやっても体にはほぼダメージが無いようだった。

 

お陰でこっちもあんまり気兼ねなく戦えるんだけど、どうやら今の拳で肋骨を少しやったらしい。

折れては無いようだけど…

 

「わ、笑うな…」

「え?」

 

ヴィヴィオが私を睨んでどもりながら言った言葉に、自覚しないまま笑顔だった事に気が付いた。

 

「ああごめん、嬉しくって。今のカウンターよかったよ、相打ち覚悟はいただけないけど。」

「う、うるさいっ!!」

 

一瞬頬を赤くして、ブンブンと頭を振るヴィヴィオ。

とは言え…喜んでばかりもいられない。さすがに向こうは無敵、こっちは一発で瀕死の差はちょっと厳しすぎる。

 

 

「しょうがないね…ブラスター2、リミットリリース!」

 

 

宣言と同時、ブラスターシステムが起動する。

限界を超えて出力を引き上げる自己ブースト。負担は当然大きく、使えば使うだけ体に負荷が来る。

かわりに、今出せる出力は上がる訳だけど。

 

「え…えっ?」

 

目を見開いて後退りするヴィヴィオ。

 

「あんまり驚かない。一定以上の相手は大概切り札の一つや二つ持ってて当然。コレでも今のヴィヴィオの魔力値は出てないし。さ、やるよ!!」

 

後退りしてたヴィヴィオは踏みとどまると、手と歯にこれでもかと言う位に力を込めて飛びかかってきた。

 

 

 

Side~クアットロ

 

 

 

「あの悪魔…何が『教えてあげる』よ、自分の子供相手にあそこまでやる普通?」

 

全体の戦況を見ていた私は、苦々しい思いで高町なのはと聖王の戦いを見ていた。

 

地上の妹達は全滅、基地は敗退して自爆装置の起動済み、現れたリライヴにルーお嬢様の洗脳が解かれ、リライヴは遊ぶかのように気楽に次から次へとガジェットを掃討中。

 

それでも、このままゆりかごさえ軌道上に上がれば…

 

 

瞬間、計器が異常を示す。

 

 

「駆動炉が破壊された?けど、まだまだ…」

 

 

異常を示した駆動炉に対応する為に補助動力を起動させた所で、また一つ情報が入った。

 

「これは…っ、あの悪魔、やっぱりやってくれてた訳ね…」

 

警備用に配置しておいたガジェットが、サーチャーを感知して破壊したと言う物だった。

…やはり本命は此方の攻撃だった訳ね。

 

折角だからこれを利用してあの悪魔の戦意を削げるだけ削いでおこう。

 

「あはははは!お楽しみ中のところ失礼しまぁす、悪魔さん。」

『くっ…』

 

憎憎しげにモニターを見てくる高町なのは。ふぅ…ちょっと溜飲が下がった。

 

「無駄な時間稼ぎ残念でしたぁ。どうします?今からここがどこか分からないまま探して叩きに来ます?そんなの間に合うと思います?無駄な努力ご苦労様!」

 

悔しそうな表情をしてくれて実に楽しい。

あのブラスターシステムは、使えば使うほど自分とデバイスの命を削るほどの代物だ。

聖王を制しながらここまで来るにしても絶対に保たない。

 

「後は…聖王様殺しちゃいます?」

『っ!』

 

そうすれば少なくともこの船は止められる。分かった上で彼女が選べない手を告げると面白いほどに表情を歪めてくれた。

あー楽しい!

 

「恐い顔。貴方達が違法と言った命なんですから、その悪魔じみた性格を大いに奮ってみたらどうで」

『失礼するよ。』

 

唐突に表示されたモニターに、ビルの一角に腰掛けるリライヴの姿が映る。

この状況を望んで無いだろうに余裕があるリライヴに少し嫌な感じを受ける。

 

『私との模擬戦でやられた経験はしっかり役に立ってるみたいだね。』

「裏切り者が恩の押し売りかしら?」

『いや、お節介ついでにもう一つ伝えておこうと思って。』

 

そんな事の為に通信を開いたのかこの天使気取りの穢れた女は。

しかもここに直接繋げる訳も無いから全周波と言う事になる。局員に位置がばれて不都合なのは自分もだろうに、分からない奴。

 

『監視モニターで主要人物と戦局監視してるんだろうけど…一人映って無い奴がいるんじゃない?』

 

そんな奴がいる訳が無い。

改めて全戦局を確認する為展開中のモニターに目を向ける。

 

八神はやては指揮を取りつつ順次出現するガジェットの掃討中。

半人前四人組みは妹達やルーお嬢様の引渡し中。

ゼストとシグナムは地上本部から出現を確認して無い。

ヴィータ、高町なのはの援護へ移動中。

フェイトお嬢様は地下で施設防衛に奮闘中、フレアはそこで戦闘不能。

高町なのはは今聖王の器との交戦中…高町?

 

 

 

高町速人は?

 

 

 

『最後に一つ、後ろには気をつけたほうがいいよ。それじゃ、御武運を。』

 

最後まで綺麗な笑顔のまま通信を切るリライヴ。

 

落ち着け…ハッタリだ…ここは最深部…指揮が取れなければ話にならないからと一番警備網の厚かった場所で、ガジェットも展開してある以上戦闘もなしに通れる人間が、いや、虫一匹ですら通れるはずが無い。

 

嫌な汗が伝うのを感じながらゆっくりと振り返り…

 

 

 

 

 

「おじゃましまーす。」

 

 

 

 

丁度顔を覆う黒い覆面を外した、あのグリフを破った高町速人が私の後ろに立っていた。

 

「な…な…馬鹿な…そんな馬鹿な…」

 

勝てる訳が無い。

第一どうやってここへ来たと言うのだ。戦闘があればさすがに分かる。

 

「俺さ…自分の望みを叶えることにしか執着がなくて結果酷い事を堂々と出来る奴ならいくらでも見てきたんだ。」

 

言い終わり、速人が一歩、歩を進めた瞬間…

 

 

首が斬られた。

 

 

「は…ぁ?」

 

と思った。否、首を斬られるのが見えた。

にも拘らず、手を伸ばした首は普通に繋がっている。

 

「だけど、さすがに初めてだ。単に人が苦しんでるのを見るのを楽しむ奴って言うのは…」

 

カツン。歩を進める音と同時に心臓が貫かれた。

 

「ひ…ぃっ…」

 

心臓を押さえる、異常は無い。普通に機能している。未だに一つも傷は無い。

 

「ああ…ホント、ここまで救い様の無い奴は初めてだ。どうしてやろうか?」

 

カツン。縦に両断された。

そこまでで悟る。コイツが私の殺し方を考えながら歩いているのだと。

 

 

カツン

 

 

カツン

 

 

カツン

 

 

「あ…ぁ…」

 

彼が手にした短い剣が届く距離まで来て、私は腰から崩れ落ちている事に初めて気付く。

剣が真っ直ぐに振り上げられる。

 

「こう言うの楽しいんだろ?笑えよ。」

「ぁ…あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

その手が動くのが見えたと同時、私の意識は消えた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

振り下ろした峰打ちを当たる前に止め、一歩下がる。

 

「天罰覿面…のつもりだったんだけど、ちょっとやりすぎたかな?」

 

何一つ当たってもいないのにグッタリとしてしまったクアットロ。

まさか峰打ちを打ち込む前に失禁して気絶するとは思わなかった。仮にも戦闘機人だろうに…

こんな所にこれる魔導師なんている訳も無いし、彼女運び出すの俺の仕事なんだよなぁ。

 

『ショック死でもしてたら色々失格ですよ?』

「うぐ…反省してる…」

 

耳に痛いナギハの言葉に歯噛みしながら、動いている端末を適当に破壊して…

 

 

警報が鳴り響いた。

 

 

 

『当然ですね。』

「だよな、やってから思った。」

 

来た道からガジェットが動く音がする。来る時は凪形態+気配遮断で来たから途中の倒して無いんだよなぁ…しょうがない。

 

俺は手早く寝ているクアットロを担いで、体から落ちないように縛る。

 

『やっぱり連れて行くんですね。』

「当然だ。俺は人が死ぬのを喜ぶ趣味は無い!」

 

背負っていくとなると俺だけ気配消しても意味無いし、神速だって使えばどうなるか分かったものじゃないし、俺はまともに攻撃当たれば死ぬ身体。

 

だけど、連れてかないと船ごと沈められたら死ぬ。って言うかアルカンシェルみたいなのだと存在自体塵も残らないのか。

 

 

やるしかない。

 

 

「行くぞ!!」

『了解!!』

 

でかい荷物一つ背負った俺はガジェット群に飛び込んだ。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

リライヴちゃんの通信には驚いたけど、私よりお兄ちゃんの事を信用してくれていたのには頭が下がる。

正直、本気でどうしようかと思ってた所だ。全くあの人は…本当いつも助けてくれる。

 

「う…ぅっ…」

「あ…ヴィヴィオ!大丈夫!?」

 

突然頭を抱えるヴィヴィオ。きっと洗脳が解けたからだと思った私は急いで駆け寄り…

 

「来ないで!!」

「え?っ!」

 

ヴィヴィオは拳を振りかぶって振りぬいた。

 

間一髪防御が間に合った私は、滑っていって構えなおす。

 

いきなり通信が切れたけど、まだクアットロを倒せていないんだろうか?

そんな筈無いと思うんだけど…

 

「…謝らなきゃいけないのは、ヴィヴィオの方。」

「え?」

「なのはさんが何処か私を避けてたって話、ちゃんと聞いてた。なのはさん、ずっとこんな戦いしてるから、何かあった時の為に気を使ってくれてたんだよね。」

 

なのはさんという呼び方に胸がズキリと痛むのを感じる。

 

『駆動炉破損、管理者不在、聖王陛下、戦意喪失。』

「これは…」

「私は…ただ守ってくれてデータ蒐集させてくれる人を探してただけの、ゆりかごを動かす為の生きた鍵で、ただの兵器。なのはさんとかフェイトさんをいいように利用して、こんな騒ぎに使われた…っ、避けて!」

 

勝手に動かされてるらしいヴィヴィオが、砲撃魔法を放ってくる。あわせてショートバスターを撃って相殺したけど、やっぱりブラスター使っていると負荷が大きい。

 

「全部作り物の偽者の命、生きたフリをした道具。何処を探してもママなんていない、今の世界にいちゃいけない死んでいるはずの」

「馬鹿!!!」

 

泣きながら叫ぶヴィヴィオのあんまりな言葉の連続に、私は本気で怒鳴っていた。

 

「ば、馬鹿って!ゆりかご壊すんでしょ!?こんな事してたらなのはママだって巻き込まれちゃう!そんなの」

「巻き込まれない!ヴィヴィオも一緒に帰るの!!」

 

暴走は続いてたけど、ヴィヴィオ自身が嫌がってるせいかさっきまでより更に荒い攻撃。

とは言っても、泣きながら完全に操られてるだけのヴィヴィオにさすがに攻撃なんて出来ず、防戦一方なのでちょっと厳しい。

 

「なのはママにはただの兵器の私と違って帰る場所があるんだから!我侭ばっかり言っちゃ駄目だってなのはママが自分で言ってたはずなのに!!」

「帰る場所だったらヴィヴィオにだってある!」

「そんなものある訳」

「だって!さっきからずっと『ママ』って呼んでくれてるじゃない!!!」

「ぁ…ああぁぁっ!!」

 

無意識か、戻ってくれていた呼び方をを指摘すると、何かを振り払うように叫ぶヴィヴィオ。

握った拳を以って全力で突進してくるヴィヴィオの手を、真っ向から受け止める。

 

「ねぇヴィヴィオ…私もママってまだ分からないから困らせちゃうかもしれないけど、ちゃんとママでいられるように努力する。だから、本当の気持ちを聞かせて。私がママになっちゃ…駄目?」

 

私の問いかけに俯いたヴィヴィオが何かを呟く。そのあと、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて…

 

「なのはママがいいっ!一緒に居たいっ!!居たいよぉ…助けて…」

 

息を吐く。

聞きたい事が聞けたからか、力が湧いてくるような気さえする。

 

「助けるよ…いつだって!どんな時だって!!」

 

答えにヴィヴィオが頷くのを確認した後、レイジングハートを構える。

 

「レイジングハート、ブラスター3!レストリクトロック!!」

「っ!?」

 

最大出力での拘束魔法が、ヴィヴィオの全身に絡みついたところで、最後の兵装を展開する。

 

「ブラスタービット展開…ヴィヴィオ!ちょっとだけ、我慢してね!」

「うん…」

 

レイジングハートの尖端に似た、四機の魔法発動体。

必要な魔力が大きすぎてブラスターを使って無いと使用もままなら無いこれは、私の最大の一撃を強化するためにも使える。

 

 

撃つのは最大の一撃。時の庭園のロストロギア級の駆動炉を『消滅』すらさせた集束魔法。

 

 

 

 

 

「全力全開…スターライトブレイカー!!!」

 

 

 

 

 

放ったビット含めて総勢五本の極大魔力砲撃は、ヴィヴィオの体を瞬く間に飲み込んで、その体内からレリックを弾き出して粉々に砕いた。

 

砲撃を終え、魔力爆発が収まった所で体を抱えつつ下降する。

やっぱり…ブラスター3での砲撃は負担が大きい。

 

「っく…レイジングハート…大丈夫?」

『損傷はありますが、軽微で済んでいます。』

 

どうやらレイジングハートは無事で済んでいるらしい。私の方もヴィヴィオのカウンターで負傷してた骨が折れたくらいで済んでいる。なら後は…

 

 

「ヴィヴィオ!!!」

 

 

ブレイカーであけた、粉塵に包まれた巨大な穴の中心に向かってヴィヴィオの名を呼び駆け出す。

 

「来ないで…」

「っ!?」

 

小さく聞こえた拒絶の声。理由が分からなくて不安に襲われた私が、粉塵が晴れた穴の中心に見たのは…

 

 

「一人で…立てるよ…」

 

 

瓦礫に手をつきながらよろよろと立ち上がって見せたヴィヴィオの姿だった。

そんなヴィヴィオの様子に大慌てで飛び出して、抱きしめた。

 

「ヴィヴィオ…ごめん…」

「…何で…あやまるの?」

 

ヴィヴィオが私のお願いを覚えてて頑張ってくれたのが嬉しくて、こんな時まで無理するのが当たり前だと、そんな事を思わせてしまったことが少し悲しくて、強く強く抱きしめる。

 

「ホントはね…無理に強くだけならなくてもいいの。優しい女の子になってくれてもいいんだ。だけど…私にはコレだけで…」

 

自分で選んだとは言っても、気がついたら魔法で戦うのが日常で当たり前になってて、普通の母親になれない自分に悩んで…そんな私と同じ道に進んで欲しい訳じゃない。

望むなら所か、きっと本当はお嫁さんみたいな温かいものを目指してくれたほうがいい。

だけど、それを伝えるには色々置いて来てしまった。

皆が塾や部活、ちょっとお茶目な事だと帰り道の買い食いとか友達連れ立って遊んで回ったりとかしてる時間。

そんな事の殆どを放置して魔法と修行と戦いに明け暮れて、私は今ここにいる。

 

私に後悔は無いけれど、こうあるのが『当たり前』であるようにヴィヴィオに見せてしまっていることが悲しくて…

 

 

 

「っ!ぅ…」

 

 

 

唐突に、優しく背中を撫でる感触。

ヴィヴィオが、精一杯手を伸ばしてゆっくりと背中に回した手を動かしていた。

 

 

大丈夫って伝えるようなその感触に、私は少しの間声にならない声と共に涙を流していた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




今日はここまでです。

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