第三十話・貫き通す『力』紐解く『理』
Side~セッテ
「電刃衝!!」
レヴィの放つ複数の直射魔力弾に向かって、二つのブーメランブレードを投擲して突撃。
投擲した二つがいくつかの魔力弾を掻き消しレヴィに向かっていき、突撃した私は手にした残り二つのブレードを以って残りを捌いて突き進む。
「くっそー!うわっ!」
鎌を振るって先に投げたブレードを弾いたレヴィだったが、振りぬいたところに追いついた私が振るった一撃がレヴィを捉える。
「走破・雷鳴陣!!」
高速移動魔法に入ったらしいレヴィの姿が一瞬消える。
目の前に現れ振りかぶっていた鎌を振り下ろしてきたレヴィ。私はその一撃を手に持つ二つのブレードで受けた。
トーレやフェイトお嬢様クラスの速さだが…脳がないにも程がある。
「な、何で痺れてないんだよ!?」
驚いたらしいレヴィが不満げに口にした言葉に、先の高速移動の終わりに走った雷撃が、錯覚ではなかった事を知る。
高速移動と攻撃を繋げるのは中々だが、理論上オーバーSの接触雷撃すら防げるこのスーツを前には愚策だったようだ。
「耐電仕様だ。」
「うあっ!!」
鎌を受けたブレードをそのままにレヴィを蹴り飛ばし、体勢を整える前に両手のブレードを投擲する。
「また!?この…っ!!」
投擲したブレードを弾き飛ばすレヴィ。私が動いていないから隙が出来ても大丈夫と判断したのかどうか知らないが、だとすれば甘い。
空いた掌から砲撃を放つ。一直線に向かっていった光はレヴィに当たって爆発した。
「はぁ…く、くっそぉ…」
晴れた爆煙の中から、防御魔法が間に合っていたらしいレヴィが掌を翳した体勢で私を睨みつけていた。
先の高速移動といい、魔法そのものの性能や錬度は高い。さすがオーバーS級と言った所か。
だが、肝心の戦いが出来てない。
見たままに反応してその場で対応しているだけの子供。
「弱い。」
「な…」
「どうやったかは知らないがフェイトお嬢様の力を使いこの程度か、見苦しい。」
抱いたままの感想を告げる。
ドクターの研究成果を流用した子供が遊んでいるだけのように見えて正直不愉快極まりない。
レヴィは肩を震わせたかと思うと、カートリッジをロードする。
デバイスが、大剣へと姿を変えた。
「好き勝手言うなブーメラン女!!」
「私はセッテ、ドクターの手によって生まれた戦機だ!」
苛立つ呼称を訂正した私は、空を舞いレヴィと切り結んだ。
Side~シュテル
「無駄だよ。」
牽制に放ったパイロシュータが後衛の使う妙な誘導光線に掻き消される。
しかも貫通した上に此方に迫ってきた。
障壁で光線を防いだ私は、此方に向かってくる赤髪の戦機を捕捉する。
「シャドウムーブ。」
高速移動で赤髪の戦機の背後に離脱した私は、砲撃に入ろうとして…
背後上方で双剣を振り上げる三人目の戦機の姿を見て中止、振り下ろされる剣を防御する。
「やりますね…ですが。」
「いつまでも逃がすかよっ!!」
双剣の戦機が感心する中、すぐさま方向転換した赤髪の戦機が迫ってくる。
回避は…難しい。
「レポーションフィールド。」
展開したフィールド防御越しに、接近してきた赤髪の少女の蹴りが入る。
対打撃フィールドとしては相当な衝撃緩和が出来ると言うのに、気持ち悪くなる程の衝撃を受ける。
フットパーツのブースターによる加速蹴りですか…移動時の加速も可能ですし中々考えましたね。
反発によって距離を取る効果も持つフィールドの加速も含め、一気に小さくなった二人に向けてデバイスを構え…
「っ!」
いつの間にかまた向かってきていた五発の誘導光線。全方位を取り囲むように向かってきた光線を全て防ぐ為に全方位障壁を張る。
レーザーのように障壁に張り付いて各所から力を加えてくる光線は、障壁と共に爆発を起こした。
「距離を取らせてはだめですよノーヴェ姉様。彼女、今の距離からでも撃って来ますよ?」
「分かってらぁ!さっきの防御なんか妙な感触だったが…」
防いでいる間に接近してきたらしい三人の戦機。
一人に砲撃を撃っても残りに追いつかれて墜とされる距離まで詰められている。
やはり…楽には行きませんね。
「衝撃を緩和して反発力で距離を取ってるね。挟み撃ちにするかディードの剣なら問題ないよ。最も…防御の種類がアレだけならだけど。」
「オットーのレイストームでの全方位攻撃も凌ぎきるほどです、障壁の強度もかなりの物でしょう。」
冷静な指揮官らしいオットーと、ディードと言うらしい双剣使いの二人を他所に、格闘装備で空路を走ってくるノーヴェが進み出る。
「要は挟んでディードが当てりゃいいんだろ?動き回るのはあたしがやる、お前は狙え。」
「どの道急がないといけない、ノーヴェ姉様の案で行こう。」
「了解。」
再度戦闘態勢に入る3人。
「っ…っらああぁぁぁっ!!」
先陣を切ったのは、宣言通りノーヴェだった。が…速い。
さっきまでの戦闘ではまだ最大速度で走っていなかったらしい。
「パイロシューター。」
私は誘導弾を展開して弾幕を張る。
「んな豆鉄砲いちいち避けてられっかよ!!」
「な…」
だがあろう事か、進路も変えず光線の援護もないまま突撃を続けるノーヴェ。そしてそのまま、障壁だけでシューターを抜けてきた。
無茶をしますね…
誘導弾制御をしていた私に避ける間はなく、そもそも近接戦は不得手のためノーヴェが放ってきた拳を障壁で受ける事になってしまう。
二本の誘導光線が迫ってきたため、高速移動でその場を離脱し…
「悪いけど、トーレ姉様ほど速くないしね。」
移動終了で止まっている私に、残っていた三本の光線が迫ってきていた。
誘導弾は貫通され、砲撃では複数を消しきれないと言う厄介な数と威力の光線。
その為、向かってきた光線を結局障壁で防ぐ事になる。
「捉えました。」
「っ、しまっ…」
残っていたディードにまた背後を取られ、双剣が振り下ろされる。
直撃した私は道路に叩きつけられた。
「く…」
普通のフィールド防御を全開にして受けた為致命ではないものの、それなりに痛い。
起き上がった私を、降りてきたノーヴェとディードが挟む。オットーは空に待機していた。
と、そんな状況で、私の視界の隅を何かが横切って叩きつけられた。
横切った時自体は正確に見えなかったが、感じられる魔力で誰が落ちたのかは分かる。
「レヴィ…」
「はっ!こっちを叩いて援護に回ろうと思ってたのに向こうは一人で十分な位弱いんだな。」
「最も、此方ももうすぐ終わりですが…」
前後からステレオで聞こえてくる罵声に、私は溜息を吐いた。
「勘違いしているようなので教えておきますが…」
私は黙ってレヴィが落ちたらしい、土埃が巻き上がっている場所を指差す。
「私もレヴィも同じ宵の騎士。性質に違いはあれど戦力としての差はありませんし、彼女と私の試合の戦跡は…ほぼ五分です。」
説明が終わった直後、土埃を吹き飛ばす勢いでレヴィが空へと舞い上がった。
Side~レヴィ
「高速型の割にしぶとい…」
ボクを見ながら嫌そうな顔をするセッテだけど…正直嫌なのはボクの方だ。
一人相手に『普通に』戦えないんだから。
「だが、そんな稚拙な戦い方で」
「知ってるよ。」
「何?」
危ないとか単純とか、散々に言われてきたんだ。それに、シュテルと戦ってれば嫌でも分かる。色々考えた方が確実だって。
でも…きっとそれは違う。
「あれだけ強いマスターが、ボクの事をいつも楽しそうに、時々羨ましそうに見るんだ。」
「…それだけ考えなしの出鱈目でいいなら楽だろうしな。」
「そうだよ。」
ボクが頷いた事が不思議だったのか少し驚いているのを見ると、セッテは悪口のつもりで言ったみたいだ。
「ディアーチェはずっと王様病で、シュテルはいっつも落ち着いてて、ボクはずっと…凄くて強くてかっこいいのを目指してる。」
それはきっと…ボク達がボク達のままでいられるように皆やマスターが望んだ結果。
「考えるのはシュテルがいる。だからボクは…初めから目指した飛び方で飛ぶって決めてるんだ!!変身!宵闇乃建御雷神!!」
瞬間、装甲が全部消えて手足に羽が着く。
服装で変わる見た目はそれくらいだけど、加減しない全開で行く前提だから魔力光が漏れ出るみたいにボクの周りで小さく光る。
凄い疲れるけど、映像で見た時にかっこいいからボクは気に入ってる。
「…正気か?」
「本気だ!!」
フェイトのソニックフォームが余計に悪化した、アリシアが出来れば使うの止めて欲しいって言ってた形態。
セッテも、見ただけで危ないのが分かったのか変な顔をした。
この形態はそもそも長い間出来るものじゃない。だからボクから攻める。それに…
ボクは雷神の襲撃者。ボクから出なきゃ、襲撃にならない。
「い…っくぞおぉっ!!!」
「はあっ!」
普通の飛行で受ける衝撃まで半端じゃないこの形態で、ボクはただ真っ直ぐにセッテに向かって飛ぶ。
投げられたブーメランが一瞬で大きくなったけど、僕はそれも無視して体だけ少し動かして真っ直ぐ飛んだ。
身体に少し当たったみたいだけど、直撃はしてないから骨とか平気。だからまだ大丈夫!
「な…くっ!?」
いつの間にか投げたはずのブーメランをまた持ってるセッテ。けど、それを構える前にボクはセッテの腕を掴めていた。
「何を…」
「言っておくけど…痛いからな!」
ただ適当に腕を掴んだだけのボクを不思議がるセッテに念押しだけして、ボクは覚悟を決める。
高速移動、終点『ビルの壁』。
どう動いたかも分からないほどの速さで、セッテと一緒に動き出したボクは…
次に感じた衝撃で、一瞬頭が真っ白になった。
「ぁ…うぇ…」
一回試した時に本当に大騒動になるほど危なかったから時よりは考えて、終点自体は壁の中じゃなくて触れる程度にしておいたけど、それでも充分酷かった。口の中がまずい。きっと血が上がってきてる。
けど…まだ寝るには早い。
生身で防御の低いボクでも耐えられる衝撃で済んでるんだ、セッテは壁にめり込んでるとは言ってもまだ動けるはず。
「雷神!滅殺!」
数える余裕も無いままカートリッジをロードして、巨大化した光の剣を振り上げて…
「極光剣!!!」
振り下ろした。
ビル一つ丸ごと完全に叩ききったボクは…
「この力で…ボクは飛ぶ!!!」
力の全てをセッテのところで炸裂させて、崩れ落ちるビルに背を向けて剣を掲げた。
よし!決まった!!
「ってわぁ!死なせちゃったらマスターに怒られる!!」
背中からビルが崩れる音が聞こえてきて、慌てて崩れるビルに巻き込まれないようにセッテを連れ出す。
非殺傷だから死なないって言っても、高速移動でめり込んだ時のダメージはあるだろうし、そんな状態で意識もないまま崩れる瓦礫に巻き込まれたらいくらセッテでも危ない。
どうにか助けたセッテが無事なのを確かめて、ボクは一息吐いた。
Side~シュテル
「っ…コイツ等ぁっ!!」
魔力斬撃でビル一つ崩落するのを確認したノーヴェが飛び出し、乗じて背後でも動く気配を感じる。
「ルベライト起動。」
「なっ!?」
設置しておいた多数のバインドを同時に起動させ、三人を拘束する。
三人を確実に同時に拘束できるタイミングを狙ったせいで少し遅れてしまいましたね…確実性が薄れるならもう少し速く動けたのですが。
「馬鹿な…地上で向かって来るノーヴェ姉様とディードはともかく、僕までまとめて拘束するなんて…」
「くそ…切れねぇっ!」
信じられないといった様子を隠す事無く現状を考えるオットーに、拘束された四肢を動かそうと足掻くノーヴェ。
彼女達の様子を眺めながら次の準備を終わらせる。
「私は理を象徴する星光の殲滅者。読みで多数を相手にする事はそれほど不得手でもありません。」
展開した魔法陣は十二。一人四つですが、充分でしょう。
「ブラスト…シューター!」
砲撃級の幅を持つ球体魔力弾。単発でも充分な攻撃力を持ち、操作も効く。
多段放射するには砲撃だとあまりにも消費魔力が大きいと判断した為、取り回しも考えて作った魔法のため、それほどは労せず高い効果を出せる。
巨大な魔力弾は、バインドに拘束された三人を悲鳴ごと飲み込む爆発を引き起こした。
墜落したオットー含めて三人ともを拘束する。
「まさか…三人がかりでこうも綺麗に負けるなんて…」
予想していなかったとばかり呟きを漏らすオットー。
ですが仕方ありません。私に勝てるのは、私の理を上回る事が出来る者か…
理を外れる馬鹿だけなのですから。
歩くのも辛そうな身体で何をする気なのか、此方に向かってきているレヴィの姿に肩を竦め、迎えに飛び立った。
Side~レヴィ
早く…行かないと…シュテルはあんなの三人も同時に相手にしてるんだから…
「ぐ…つぅ…」
頭が痛くてふらついて、近くの何かに寄りかかる。
「全く…またあの無茶な魔法を使ったのですか?」
「あ…」
いつも聞いている、シュテルの声。
俯いていた顔を上げてみれば、ボクが寄りかかったのはシュテルだった。
「少し大人しくしていなさい、私でも気分を楽にするくらいは出来ます。」
言うなり、回復魔法の光がボクを包み込む。
揺れたせいか痛かった頭とか、気持ちの悪い感覚がゆっくり薄らいでいく。
楽になって少し余裕が出てきたボクは、シュテルをよく見てみる。大した怪我もしていないみたいだ。
三人相手にしたのに…
「シュテルは強いね。」
「貴女が相手をした彼女はオーバーSと戦える実力がありましたし…」
少し羨ましくなったボクを慰めてくれているのかなと思って複雑な気分になっていると…
「…私は戦い方で、貴女の様にマスターに嬉しそうにされたことはありません。少し貴女が羨ましいです。」
顔を逸らしたシュテルが、そんな事を言った。
「…ずるいや。」
「何ですかいきなり?とにかく少し休みなさい。」
ボクの気持ちがわかった上で慰める為に言ったのか、知らないで言ったのかまでは分からないけど…そんな言い方されたら羨ましいなんて言えない。
言った者勝ちなシュテルを少しずるいと思いながら目を閉じた。
Side~シュテル
少し離れた場所に拘束した戦闘機人を纏めた後、回復魔法陣の中で眠るレヴィを見ていると、意外なメンバーと顔を遭わせることになった。
「貴女達は、機動六課の前線メンバーですね?」
確か…スバルとティアナだったか。
並走する形でやってきた二人は、少しだけ笑みを見せる。
「シュテル!倒れてた戦闘機人は」
「私とレヴィで倒しました。」
「4対2…一人S近い空戦出来る娘もいたのに…凄いわね。」
感心するティアナ。そのS級なのは私達もですし、普通といえば普通ですが。
「レヴィ怪我してるの?だったら避難したほうが」
「誤解の無いよう告げておきますが。」
心配そうに近づいてくるスバルの言葉を断ち切る形で声をかける。
「私は管理局に協力しているつもりはありません。戦闘も撤退も此方は勝手にやらせて貰うのでそのつもりで。」
「そんな勝手な」
「この一件、主犯格が管理局上層部らしいのですが、それでも『指示に従え』と言いますか?」
管理局としては何処かの魔導師に好き勝手にやられては面目が立たないのは分かる。
が、説得出来たものではない現状を理解したのか、怒りを見せたティアナが意気消沈する。
「あの…じゃあ何で?」
「町には隣人とお得意様とマスターが救った命があります、守るのは当然でしょう?他はすでにディアーチェが告げた通りですね。」
「…そっか。」
心配そうに聞いてきたスバルに答えを返すと、笑みを見せたスバルはティアナの袖を引いた。
「ス、スバル?」
「大丈夫だよ。捕まえなきゃいけないなら八神部隊長がもうきっと言ってる。それでも不安なら捕まえるか聞いてみれば?」
「…分かったわよ。」
渋々と言った感じではやてに通信を繋ぐティアナ。
「あの娘達を止めて…助けてくれてありがとう。」
「殺戮と破壊は…マスターが望みませんから、それだけです。」
「それでも、ありがとう。」
手をとって目を見つめて礼を言って来るスバルに、本気で話しかけてくるときのなのはと同じ類のやり辛さを感じた私は目を逸らす。
と、通信が終わったティアナが此方に目を向けた。
「…八神部隊長から伝言があります。」
「何でしょう?」
「『後から絶対色々言わせて貰う。』と…」
引きつった笑顔で言うティアナ。
局の失態を考えれば言いたい事があるのはむしろ此方の方だが…
この一件が仮に上手く収まっても、伏せた私達の事情説明他色々が主にはやてに襲い掛かることになると考えると、これ以上責める気にはなれない。
「分かりました、覚えておきます。」
「そうしてあげて下さい…行くわよスバル。」
「あ、うん。じゃあ、気をつけて!」
こんな職の割に明るい二人が去っていくのを見届けた所で、私はレヴィを抱えあげる。
「とは言え…一端レヴィを安全な場所へ連れて行かないとこれ以上は」
「大丈夫だよ。」
急に目を見開いたと思ったら、はねるように私の腕から降りて地面に立つレヴィ。
「ディアーチェの魔力が安定したからボクの方に流れてきてる。管理局にはAMF相手に戦える魔導師少ないんでしょ?怪我する人が出ない様に頑張らないと。」
「それはそうですが…貴女ダメージは」
「根性!!」
曇る事を知らない瞳で堂々宣言するレヴィ。
…計算で動く私には絶対言えない台詞がやはり少し羨ましくなる。
「…分かりました。後はガジェット位です、無理をしなければ減らすくらいは容易いでしょう。」
「よし!行こう!!宵闇乃」
「それは止めなさい。」
いきなり馬鹿をやろうとするレヴィを窘めつつ、私達は防衛ラインに向かって飛び立った。
SIDE OUT