なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第二十九話・願い踏み出す妹達

 

 

第二十九話・願い踏み出す妹達

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

前に戦ったウェンディとか言う戦闘機人とギンガさん、それから…アムネジアと呼ばれている兄さんの姿をした男の三人と相対する。

 

「引く気が無いなら…押し通らせてもらう!」

 

アムネジアが宣言すると同時、手もかけていなかった銃を一瞬で抜いて、あたしとスバル目掛けて射撃を放つ。

 

「く!」

 

射撃でどうにか迎撃することに成功したものの、向こうは一丁の銃での連射なのに対してこっちは二丁。どう考えても向こうのほうが上だと思い知らされる。

 

「チャージ完了っス。」

「まず…っ!!」

 

ウェンディが手にした盾にもなる大きな砲口から、砲撃が放たれる。当然咄嗟に相殺できるものでもないため回避せざるを得なくなる。

砲撃の狙いは、あたしとスバルの丁度中間。

爆煙に包まれ何も見えなくなり…

 

「うあっ!」

「スバル!!」

 

スバルの悲鳴が聞こえた。

今ここで更に分断されたら…

 

「人の心配してる場合じゃないっスよ?四人揃って漸く一人前の新人さん。」

 

煙が晴れると、アムネジアとウェンディの二人だけが残っていた。

スバルの様子を伺う為軽く周囲に視線を巡らせると、ギンガさんと交戦状態に入っていた。

 

対一でも互角に行くかどうかわからないのはスバルも一緒か…こっちを手伝おうとしてるみたいだけど、ギンガさん相手にそこまで余裕は無い筈。

 

『スバル、そっちはそっちで集中して!こっちはこっちで何とかする!』

 

合流を狙うのは不可能と判断して念話を送る。

と、ウェンディが楽しそうに口笛を吹いた。

 

「大きく出たっスね。」

「馬鹿ばらすな!」

 

呑気な事を口にするウェンディを咎めるアムネジア。

念話が聞かれてる!?

 

「そんなカリカリしなくても…どーせすぐ片付くっスよ。」

「全く…油断するな。」

 

近づいてくる二人を前に、あたしはクロスミラージュを構えた。

 

こんな所で…諦めるもんか。

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

「っ!!」

 

ギン姉の蹴りを防いで吹き飛ばされたあたしは、ビルに背中から叩きつけられる。

追撃に来たギン姉に向かって右拳を突き出すが、かわされて右のボディーブローが叩き込まれた。

 

「っ…」

 

部分展開したプロテクションで防いだものの、左拳が既に振りかぶられていて…

 

「がぁっ!!」

 

横から顔面を殴られたあたしは、窓ガラスを突き破ってビルの中に転がっていった。

どうにか体勢を整え、少し視界が揺らいでいる事を自覚する。軽く頭が揺れたらしい。

 

早くギン姉を助けて皆の援護に行かないといけないのに…

 

ずっと付き纏われている『嫌な感じ』に急かされているように、ビルの外に向かってウイングロードを使って駆け、一気にギン姉に接近する。

 

左手を『溜めずに素早く』ギン姉の顔面に向かって伸ばす。

ダメージはともかく、視界を奪える為連撃に使える手。

 

「あ…」

 

だったんだけど、ギン姉の顔の前に張られた障壁にあっけなく止められた。隙間があるため、視界を塞ぐ事もできてない。

 

一度速人さんにやられた手だったんだけど、狙いが分からない時に唐突にかつ素早く放り込むからこそできる話で、今やる手じゃなかった。

 

蹴りを脇腹に喰らって声をあげる間も無く吹き飛ばされ、体勢を整えようと思っている最中に既に後ろまでウイングロードを伝って回りこんでいるギン姉に再度吹き飛ばされた。

 

「く…ぅ…」

 

何かに背中からめり込んだようだけど、それが何かを判断する間も無かった。

 

『自分の攻撃を相手に当てるのではなく、相手に当たる場所に自分の攻撃を置いておく。』

「え?」

 

マッハキャリバーから発せられた声。この話は、速人さんから聞いた…

 

『そのためには視る事が必要不可欠。ちゃんと視ていますか?』

 

見る…じゃなくて視る。見たままの行動、攻撃に反応するんじゃなくて、呼吸とか目線とか、あるいはそれよりもっと深くまで。

そんなに簡単に出来る話じゃないけど…少なくとも焦ってたら視えるものも視えない。

 

「…ごめん、もうちょっと付き合って。」

『何処までも。』

「ありがと。」

 

構え直したあたしは、再度ギン姉に向かって行った。

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

どうにか距離を取ったあたしは、幻術と共に射撃体勢を取る。

 

「馬鹿の一つ覚え…っスね!」

「っ!?」

 

展開した幻術を見渡したウェンディがあたしを見極めて射撃を放ってきた。

もう通じなくなってる!?そんなに日も絶ってないのに…

 

「そこだ!!」

 

跳躍後退したあたしに向かって放たれるアムネジアの射撃。

逃げてもいられないから撃ち落して…

 

「え?」

 

直後現れた一回り小さな弾丸を受けて地面を転がった。

 

全く同軌道の連射でサイズ調整して視覚から弾丸を隠すなんて…出鱈目すぎる…

 

「っ…んのぉっ!!」

 

横に走りながら乱射。

狙い自体は甘めだが、平射することで弾幕にすれば何発かは当たる。

 

「おっと。」

 

けど、あたしの射撃じゃウェンディが持つ盾にもなるらしい射撃武器を破壊できず、アムネジアを庇うように前に出たウェンディに全て防がれた。

 

けど別にいい、狙いはビルに飛び込むことなんだから。

傍にあったビルに飛び込んで直接見つからないように身を隠す。

 

「ふぅ…」

 

コレで少なくとも真正面から二人相手に射撃の撃ち合いする必要がなくなった。

遮蔽物なんかも使えばだだっ広い場所で戦うよりはましだ。

 

どうせ熱源感知やらで位置もばれてるだろうし魔力弾を展開、姿を見せるのを待つ。

 

そして、アムネジアの姿が見えたところで…

 

「「クロスファイア…シュート!」」

 

あたしが放った得意技は、重ねて放たれた射撃によって相殺された。

ギリ…と、自分でも気付かない間に食いしばっていたらしい歯から不快な音が漏れる。

 

「驚いたな…軌道も性能もかなり近い。前回からそんなに日も経ってないのにもう」

「何馬鹿言ってんのよ…」

 

何かが頬を伝う感触がしたが、構ってもいられなかった。

素っ頓狂なコメントをする目の前の男を全力で睨む。

 

「あたしがどれだけ憧れたと…どれだけ貴方を目指してきたと思ってるんです…なのに!貴方はそんな所で何やってるんですか兄さん!!!」

「え…」

 

答えを求めたアムネジアと名乗っている兄さんは呆けた顔で固まるだけだった。

傍にいたウェンディが面白そうにあたしと兄さんを見比べる。

 

「へぇ!?そりゃまた面白いっスね!まぁ残念な事に記憶喪失なんっスけど…」

 

戦闘中は散々小馬鹿にしてきたウェンディだったけど、今回は茶々入れてこなかった。

それを少し不思議に思いつつ、彼女の告げた、予想出来ていた『記憶喪失』という真実に歯噛みする。

そんな中、兄さんは申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「すまない、何でも脳へのダメージが原因らしいから、忘れてるんじゃなくて記憶が壊れてるんだ。幸い覚えている日常行動から戦闘スタイルまでは扱っているうちに思い出せたんだが、昔の記憶とかは…」

「それはあのスカリエッティの診断でしょう!?いいからとっとと戻ってきて検査受けてください!こっちには医療専門の人だって」

「それは出来ない。」

 

あたしの訴えは、記憶に関して謝る時と違い真っ直ぐに向けられた瞳と強い意志を孕んだ言葉によって断ち切られる。

 

「俺は命の恩人とその家族の力になると誓った。君の様子から察するに、君の兄は少なくとも家族を裏切ったりする人間じゃないんだろ?だったら…俺が他人だろうと、本当に君の兄だろうと…」

 

そこまで告げた兄さんは、改めて銃を構えなおす。

 

 

 

「覚悟を決めてくれ。」

「っ…」

 

 

 

どうしたって説得は無理だ。何でそんな真面目にこんな事になってるのよ…

 

「どうしても嫌ならアンタがこっちに来たらどうっスか?」

「お、おい!」

「あたしらも産みの親のドクター手伝ってる訳っスけど、まぁ家族なら心配っスよやっぱり。お嬢様もリライヴが裏切ったときは随分落ち込んで」

「だから内情をばらすなって…」

 

気楽に語るウェンディと、内情を語られ呆れる兄さん。…成程、それで馬鹿にしたりせずあたしと兄さんを見比べてたのか。

 

一度銃を降ろした兄さんは、少し警戒しつつも問いかけるような目を向けてくる。

 

あたしは一呼吸して…

 

「家族だから止めるのよ。覚えときなさい、常識知らず。」

「コイツ…捕獲対象でもないってのに人が折角」

「いやいい、大丈夫だウェンディ。俺は…ちゃんと撃てるさ。」

 

不機嫌そうなウェンディを他所に、どこかあたしの答えを分かっていたらしい兄さんが再び銃を構える。

 

…そうだ、兄さんの汚名を雪ぐ為にあたしはここにいる。

だって言うのに、『汚名挽回』になったらそれこそ洒落にならない。

何も覚えていない上で恩人に尽くしているだけの兄さんに、これ以上の罪状を着せる訳にも行かない…ここで止めてみせる。

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

木々よりも静かな心で、感覚全てでギン姉を感じ取る。

速人さんのように、誰相手でも予知能力でもあるかのような紙一重の見切りを決めるなんて真似はできないけど…そんなあたしでも分かる事位はある。

 

まして…憧れの一人で、なのはさんと違い型まで同じギン姉相手なら、尚更。

 

「くっ…」

 

攻防の最中振るわれたギン姉の左腕。あたしはプロテクションを展開してそれを防ぎ…

 

「リボルバー…ギムレット。」

 

プロテクションに触れていたギン姉の左手が、突如回転し始めた。

ドリルのようになったそれはあたしのプロテクションを破り…

 

 

 

 

「何…やってるの?」

 

 

 

 

あたしはいたたまれなくなって、向かってきていたギン姉の手を右手で握り締めていた。

 

本物のドリルなら中途にも刃があるから持てないけど、手が回っているだけだから側面からなら掴むことができた。

全力で握って回転がいきなり止まったせいか、むき出しになっている部品から嫌な音が漏れる。

 

無表情のまま右手を振りかぶるギン姉。

あたしは顔面に向かって来るそれを、特に障壁を張る事もなく待って…内側から左腕を立てて無造作に受ける。

 

顔面に届くこともなくギン姉の腕が止まり、止めた衝撃で僅かに姿勢を崩したギン姉。

あたしは左足を少し前に出し…

 

「っ…おぉっ!!」

 

全力で踏み込むと同時に立てた左腕を振りぬいて、ギン姉の顎を打ち上げた。

派手にとんだギン姉は、一回転して展開したウイングロードに乗ったものの、顎から頭にダメージが行ったのか少しぐらつく。

さっきからずっとあった『嫌な感じ』の訳は、落ち着いてギン姉に目を向けて、すぐに分かってきた。

 

 

 

全くあたしを『視て』くれてないんだ。

 

 

 

ギン姉が出向してきた時にやった模擬戦、結局あたしが負けたその試合の最後、止められた拳。

 

あれは、あたしの意識の外の物だった。

 

気が付いたら置かれていたそれは、速人さんとの訓練の時によく受けていた防御を抜けてくる攻撃に似ていて、相手に関係なく急所に正確な一撃を放り込む事だけに集中するって言ってたギン姉の目指す形だと、速人さんが原型といって披露してくれてあたしが全然出来ないアレに近いことがギン姉には出来るのかと改めて惚れ惚れとした位だ。

当然、視て無いと出来る訳がない。

 

けど今は…

 

 

「それさっきも見た。」

 

 

あたしの左手が動くのに合わせて、ギン姉がカウンター狙いの右拳を振るってくる。

左手はフェイントで動かした為それほど勢いもついていなかったからギン姉の右拳を受け止める為に使い、開いた鳩尾に向かって右拳を打ち込む。

左手でガードするギン姉に、あたしは左足で後ろ回し蹴りを放り込んだ。

 

記憶と経験と反応はあたしの憧れたギン姉のものだから、他の誰より知っている自信がある。でも、本当ならギン姉も見て来た筈のあたしに対して、機械的な予測と行動パターンしかしてこない。

 

もっと簡単に言うなら…

 

 

「ギン姉は…そんなに弱くない!!」

 

 

吹っ飛んで体勢を整えてる真っ最中のギン姉の元に向かってウイングロードを伸ばす。

突進から放った右拳はギン姉の張った防御に防がれる。

またドリル状になったギン姉の左手を、胴を半回転させる事でかわすのと同時に左フックを部分展開されている防御膜を避けるようなギン姉の顎に打ち込み、間髪いれずに右のアッパーを繋げる。

 

脳を揺らす為の連撃。動作制御は勿論、魔法のための演算も行う脳を揺らせば、相手の射程でも重い攻撃を受ける事はほぼない。だからこそあえて吹き飛ばすような魔法は使わなかったあたしの攻撃は、ギン姉を軽く浮かせるだけにとどめる。最後の一撃に繋げる為に。

大きく右腕を振りかぶった私は…

 

「一撃必倒!ディバインバスターッ!!!」

 

始まりにして最大の魔法を、ギン姉目掛けて全力で叩き込む。

 

魔力砲撃にのまれたギン姉はウイングロードをはずれて吹っ飛んで、傍の道路に転がった。

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

「あんま時間かけてらんねぇんっスよね。あんな話の後にアムネジアにやらせるのも悪いし、あたしがきっちり殺してやるッスよ!」

「っ…」

 

あんな馬鹿でかいボードを持ちながら、高い身体能力と射撃を駆使して追ってくるウェンディから、あたしはビルの中を上へ上へと逃げ続けていた。

 

「ここまでだ。」

「え!?」

 

と、最上階へ行くための階段から、兄さんが降りてくる。

 

「下がってていいって言ったのに…」

「俺は逃げないさ。単に彼女が上を目指していたのが分かったからな、飛んで先回りさせて貰った。コレで鬼ごっこも終わりだ。」

 

気を使っていたらしいウェンディが少しバツが悪そうに呟く中、兄さんが銃をあたしに向ける。

ビルの中での挟み撃ち。しかも飛び出すにしても空戦適正のないあたしは落ちている最中に撃たれる。

ウェンディの方はともかく、兄さんは射撃で完全にあたしの上にいる。少なくとも、直線状に並べて撃たせたところでミスショットなんて馬鹿なことは間違いなくしない。

 

 

 

ここが限界…か。

 

 

 

あたしは全身の力を抜いて…

 

『すみません、お願いします!』

『応!』

「何!?」

 

念話を送った後、両手に持つクロスミラージュをダガーモードに変化させ、兄さんに向かって駆けた。

 

 

 

Side~ヴァイス

 

 

 

あの馬鹿に加減されたお陰で結構早く治った俺を待っていたのは…

 

「ラグナ…」

 

未だ向き合えていない、俺が失明させた妹だった。

その顔をまともに見れずに目線を逸らす俺に歩み寄ってきたラグナは、握った手を突き出して開く。

 

「っ!?」

 

開かれたラグナの掌の上には、ストームレイダーがあった。

 

「お見舞いに行くって言ったら、届けてって。」

「あ、あぁ…」

 

ラグナの手からストームレイダーを受け取ろうと手を伸ばし…

その手が小刻みに震えている事に、手を見て初めて気がつく。

 

ラグナは一瞬目を伏せ、傍の棚の上にストームレイダーを置く。

 

「あの事故から…私とお兄ちゃん、なんだか上手く話せなくなっちゃったけど…また昔みたいに戻れたらって…あ、眼帯ももうしなくてよくなるんだよ。傷も消えたんだ。」

 

言いながら、ラグナは左眼を覆う眼帯を外す。

綺麗になった、『何処も見ていない』瞳を見た途端に胸が重くなる。

 

「それで…その…また昔みたいに話せないかな…って。」

 

沈黙。

気休めすら言う事が出来ない俺を前に、ラグナは眼帯をしなおして背を向けた。

 

「ごめんね、急にこんな事だけ言われても困るよね。その…待ってるから。」

「あ…」

 

何かを振り切るように出て行くラグナ。後を追うようにのろのろと病室を出た俺は、去っていったラグナの背中に向かって伸ばした手を下ろす。

 

「あの…ヴァイス陸曹…」

「っ!?」

 

と、入り口の影にいて見えなかったティアナに声をかけられる。

慌てて振り向くと、ティアナは見舞い品らしい袋を手にして俯いていた。

 

「聞いてたのか?」

「すみません…退院祝いを届けようと思って来たのですが、先客がいらしたようなので…その…」

 

申し訳なさそうに俯くティアナ。

…懺悔が必要なのは俺のほうだ。

 

廊下で喋っててもいい類の話にはなりそうになかったから病室に戻る。

 

「大体察したと思うが…アイツの眼は俺が撃った。俺が妹から…光を奪ったんだ…」

 

背を向けたままそこまで告げて、振り返る。ティアナはそんな俺の顔を静かに見ていた。

後輩相手に情けねぇ話だが、アイツの妹で俺の話を気にかけてくれたコイツにこれ以上隠すことも出来ねぇ。

 

「言ったろ?エースなんかじゃねぇって。ビビッて身内を撃った挙句、未だに逃げてる情けねぇ男だよ俺は。優秀なエースなんかじゃねぇし、お前さん達が向かってる『勇気と力の象徴』であるストライカーに至っては真逆だ。妹がデバイス持ってきただけだってのに、それをまともに受け取る事すら出来ねぇ。」

 

狙撃手としての昔話に憧れてくれたらしいが、俺から伝えられることはねぇ。それも含めて伝える為に言い切ったが、ティアナは首を横に振った。

 

「逃げてたら…ヘリとはいえ未だにストームレイダーを扱えませんし、局員も続けてませんよ。デバイスも仕事も変えられるんですから。」

 

後輩に励まされてら、ホント情けねぇ…

 

「ただ…一ついいですか?」

「何だよ?」

「妹さんとは…あの娘とはちゃんと、仲直りして上げて下さい。」

 

情けなくて顔を見ていなかった俺は、ティアナの入り込んだ台詞に少しだけ頭に血が上るのを感じる。

 

「俺だって」

 

言い訳じみた事を叫びそうになりながらティアナの顔を見た俺は、そのまま硬直する事になった。

ティアナは硬く目を閉じて震えていた。

 

「ストラーダに残ってた記録、ちゃんと見ました。顔も、クロスファイアも、魔力光も兄さんの物でした…憧れで、たった一人の家族だったから、見間違える訳がない…っ!」

 

頬を伝う涙を気にも留めず、ティアナは続ける。

 

「六課の皆でやれば、きっと全部止められるとは思ってます。でも…記憶がないって…あってこんなこと、兄さんがするはずないってそれも分かってるから!例え止められても兄さんはあたしをもう二度と妹と見てくれない…『誰だ?』って言われた時の事を考えると…どうしようもなく辛いんです。だから…取り返しがつくうちに勇気を出したあの娘には」

 

俺はそこまでで、ティアナの頭を抱えて止めた。

 

震えて逃げ出したい中未だに立ってるこいつ相手に先輩面なんて出来やしねぇ。

それでも、コイツが言ったような逃げたい中逃げずにいた勇気が俺にもまだ残ってるのなら…

 

『馬鹿。妹泣かすような奴、ぶっ飛ばすに決まってんだろ?』

 

事故より前の幼いラグナとの約束すっぽかして泣かれた事を話した時、シスコン極めてるティーダの奴に割とマジで殴られた事を思い出す。

 

妹を泣かした馬鹿野郎をぶっ飛ばす為にも、こんな所でくすぶってられねぇ。

俺は力一杯握り締めた拳を紐解いて、ラグナが運んでくれたストームレイダーを手に取った。

 

 

 

 

 

 

そして今…俺はヘリの中でティアナからの念話に大見得切って答えを返し、狙撃銃となったストームレイダーを構える。

 

人騒がせな馬鹿野郎め…後でティアナに土下座でもしやがれ!

 

内心で悪態一つ吐いた俺は、そのまま意識を研ぎ澄ませて…狙撃を始めた。

 

 

 

Side~アムネジア

 

 

 

ティアナが二つの大きなダガーを手に接近してくる中、念話を聞いたのか慌てたウェンディに向かって、窓から何かが飛び込んできた。

 

 

 

この射撃…特殊部隊襲撃の時の!

 

 

 

銃から展開した魔力刃を使ってダガーを受け止めつつ弾丸の出所に視線をやれば、こっちの射程外に浮かんだヘリから、次から次へと魔力弾が発射されていた。

 

この距離を誘導なしで揺れるヘリから狙撃で連射!?化物かあの狙撃手は!!

 

「くっ…砲撃なら!」

「よせウェンディ!」

 

溜めれば届くとばかりに外に向けてボードを構えるウェンディ。並の相手ならそれでよかったのだろうけど…

 

予想通り、寸分の狂いもなく飛来した狙撃弾がライディングボードの砲口に吸い込まれ、爆発した。

 

「く…っそっ!!」

 

吹き飛んで壁に叩きつけられるウェンディを助け、この状況を抜けるため、競り合いから少し離れた俺は…

 

「ソードバレット!!」

 

展開したままの刃を『発射』した。

ティアナに着弾するも、防がれているのも見た俺は、その間を利用して脇を抜け、ウェンディを抱えてビルの外に飛び出した。

 

「っ…この程度…っ!!」

 

出た瞬間、遠目に見えるヘリから次から次へと飛来する魔力弾。

俺はそれを射程に入った弾から射撃で撃ち落しつつ降下する。

 

 

彼女がビルの上方に向かって逃げたのは、廃ビルに囲まれた地上を避けて狙撃を撃たせる為だったのか…

今改めて見ると、戦闘していたのは周囲で一番高いビルだった。

それまで外を逃げていたのに唐突にビルに逃げた理由について全く考えなかった俺の失策だ。

 

とは言えとりあえず地上に降りる事が出来…

 

「ここまでです。その娘は局で保護しますから、投降してください。」

 

同じく降りてきていたらしいティアナが、数体の幻影と共にそう言った。

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

上で決められるかと思ったのに、まさか近距離戦用に展開した刃をそのまま射撃に使った上、貫通炸裂効果まで持たせて来るとは思わなかった。

執務官志望で汎用性も取り入れなければならない中あの刃も弾丸だったあたり、つくづく射撃型なんだと少し嬉しくも思う。

 

とはいえそんな事も言ってられない、コレで決める。

 

幻影で周囲を囲んだ上で全員デバイスを構えている。ウェンディが寝ている今、そうそう抜けられない筈。

 

けど、やっぱり兄さんは諦めなかった。

 

抱えたウェンディを離し…

 

「はあぁぁぁぁぁっ!!」

「っ!?」

 

高速で次から次へと幻影を撃ち始めた。

幻影に射撃をさせるものの、兄さんは幻影の弾を貫通させながら幻影本体を纏めて撃ち抜いていく。

 

速いし上手い。とても今のあたしでは射撃で敵わない。

幻影射撃を捨てたあたしは、ダガーを展開して駆ける。

 

けど、兄さんがあたしに照準をつける方が速く…

 

「コレも幻影!?」

 

兄さんが放った弾丸を跳躍して回避したあたしは、一緒に走らせた像だけの幻影を打ち抜いたせいであたしの姿を見失った兄さんに上から斬りかかった。

 

障壁も張れずに魔力刃を直撃した兄さんは、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

戦闘機人の拘束も終え、寝ているとは言え放置は出来ない上、二人抱える訳にも行かずに待つことになった。

 

未練がましいのを承知で、記憶を失ってそれでも心根と技はそのままの兄さんの頭を膝に乗せ、その寝顔を見ていると…兄さんがうっすらと眼を開いた。

 

本当は警戒しなきゃいけないそれを、どうしても警戒できずに眺め…

 

「ティ…ア?」

「え…っ?」

 

呟かれた、全ての記憶を失ったのなら知るはずの無い愛称に眼を見開く。

ゆっくりと手を伸ばした兄さんは、その顔を覗き込んでいるあたしの頭を撫でた。

 

「大丈夫…お兄ちゃんが守ってやるから…だから泣くな…」

「っ…ぅ…」

 

完全に記憶が戻ったなら名乗らない筈の、本当に懐かしい『お兄ちゃん』という一人称。

でもずっと…そんな頃からずっと一緒にいたから…記憶の片隅に位は引っかかってくれていたんだ…

 

あたしはスバルと合流するまで、兄さんの暖かさを噛み締めていた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 


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