第二十七話・エンカウント
Side~八神はやて
ゆりかごとやらに追いついたところで私達が見たものは、局員に近距離を固めてもらいつつ中範囲程度の魔法を連発しているディアーチェの姿だった。
「ディアーチェちゃん!大丈夫!?」
「ふん…やっと来たか小鴉共、思いの他盾共が足掻いたお陰かガジェットは減らせたが…」
真っ先に声をかけたなのはちゃんに悪態吐いてゆりかごを見るディアーチェ。
視線を移せば、ゆりかごから新たに無数のガジェットが出撃するのが見えた。
「見ての通りだ、いくら叩いても出てくる。最早あの中で製造されていると言われても驚かんぞ我は。」
「分かった。中へはヴィータ副隊長となのは隊長に行ってもらうからアンタはもう下がっとってええ。魔力をどう確保しとるんか知らんけど、体はもう限界やろ。」
この短時間でどれだけの無理をしてきたのか、傍目に分かるほどに衰弱していた。
肩で息して弱弱しい魔力と閉じそうな瞳を無理矢理張っている姿は正直見ていられん。
けど、ディアーチェは鼻息一つ返して杖を構える。
その後、デバイスから幾つかのぬいぐるみを取り出した。
「この状況でよく遊べるなお前…」
「黙れ塵芥!軽く持ち運びやすい人型がこんな物しかなかっただけだ!」
呆れるヴィータに怒鳴りつつも取り出したぬいぐるみをゆりかごに向けて飛ばすディアーチェ。
ガジェットの攻撃を回避しながら複数のぬいぐるみを操作するのは中々やけど、一体なんで今そんな事を…
「おい、雑兵を下がらせろ、巻き添えを食うぞ。」
「何を…っ!全員ゆりかごから離れろ!!!」
いきなり何を言い出すのかと思いつつ左手に手にしている本が開いているページを見て、私は即座に退避命令を出した。
「あの馬鹿は、親戚の為なら殺しにかかってきても笑顔で対応するような奴だからな、貴様の子供だろう?必ず連れて帰って来い。」
「言われなくてもそのつもりだけど、一体何を…」
独り言のように話すディアーチェの言葉に、相変わらず名前で呼ばないからか少しばかり不機嫌に答えるなのはちゃん。
だけど、答えを聞いたディアーチェは、一瞬笑顔で私達を振り返った。
「…それでいい、後は任せたぞなのは!!!」
「え?」
「お前…」
初めて名前を呼ばれたなのはちゃんが困惑を、ヴィータが感心を見せたときには、人形は既にゆりかごの横っ腹に接近していた。
私は、ディアーチェがこれからすることが分かっていて、言葉で止められない事も分かっていて、目を閉じ歯を食いしばる。
だって、開かれているページは、私がよく使うデアボリックエミッションそのものだったのだから。
本来は、術者を起点にして発生させる広域魔法。なら、わざわざ複数の人形を接近させた理由は…
「デアボリック・エミッション・ドールズシフト!!!」
起点を人形に変えるくらいしか、理由が無かった。
複数の人形を起点に広範囲を食いつぶす闇が発生する。
単発であればなのはちゃんがかつて防御魔法で防いだが、丁度重なる箇所にゆりかごの外装が来るように調整されたそれは、付近のガジェットを飲み込みつつどんどん巨大化していく。
全てが収まると、ゆりかごの側面に大穴が開いて、通路がむき出しになっていた。
広域攻撃の為、周囲のガジェットの大半も巻き込まれて一直線に道が開けている。
けど、そんな事より…
「ディアーチェ!!」
消費魔力とその結果のほうが問題だった。
魔力光を漏らしながら半透明に薄れたディアーチェを慌てて抱きしめる。
肉体ではないディアーチェが、消耗しきったところであんなものを撃ってただで済むはずが無い。それを承知であんな馬鹿なものを…
「ふん…見くびるな…」
抱きしめているディアーチェから漏れた声に、慌ててその姿を良く見直すと、半透明ではなくなっていた。
気のせい…な筈はない。消耗しているのは明らかで、本当にやっとの事で言葉を紡いでいるのだから。
「我は少し休むぞ小鴉…後は貴様等で何とか…」
言い終わるか否かのタイミングで光に包まれたディアーチェは、バリアジャケットから黒を基調とした私服になっていた。デバイスも待機状態になっているところを見ると少しでも消耗を抑える為に全機能を切ったらしい。
「なのは隊長、ヴィータ副隊長、空域の安全確保は私と航空魔導師隊で引き受ける。突入頼む。」
「「了解。」」
力強い返事か返ってきた直後、二人は空いている空を一直線に翔けて開いた穴からゆりかごに突入した。
「君、彼女を安全で休める所まで、丁重につれてったげてくれんか?」
「はっ!!」
傍にいた局員の一人に声をかけてディアーチェを預けると、これ以上ない程に折り目正しい敬礼と力強い返事の後に、とても丁寧に彼女の身体を抱えてくれた。
口調こそ粗暴なディアーチェだけど、その身をかけてゆりかごと単騎で相対していた姿には心打たれるものがあったらしい。
…ま、私もそうやからな。
「おし!人々の安全と財産を護る管理局員として、民間人にここまで気張らせて敵が多いとか嘆いとれん!気合入れていくよ!!!」
未だに次から次へと湧いてくるガジェットから地上を護る為に号令をかけると、声と言うより衝撃と化した力強い返事が空中に響き渡った。
Side~ドゥーエ
矛盾をかかえ、禁忌に手を出し、そうしてただの肉塊に変わり果てた愚かな最高評議会の三つの『脳』。
その一つを踏み潰した私は、もう用がなくなったこの場を去り、次の任務に向かう為に踵を返し…
「間に合わなかったか…」
「何?」
二つの剣を腰に装備した黒尽くめの男の姿に一瞬硬直した。
よく見た所、軽く息を切らしているようで割と急いでここまで来たらしいことが伺えるが…
魔力も感じられない外部の人間がどうしてここまで来られる?
「一応忠告だけしておく。俺は魔導師じゃないから手が抜けない、五体満足で居たければ素直に投降してくれ。」
少し思考に時間をとられた私の神経を逆なでするような台詞をのたまう男。
私はそこで、男の正体を考える事をやめた。
急がなければゼストとレジアスが生きたまま接触してしまう、それは少々まずい。
「私は優しいから…一瞬で殺してあげます。」
脳が入っていたケースを割った伸縮自在の爪、ピアッシングネイルを装備した右腕を振りかぶり、一気に男に接近する。
心臓を抉り取る気で右腕を突き出し…
「え?」
男の姿が消え、腕から離れて落ちていく肘から先が目に入った所で意識が消えた。
Side~月村恭也
戦闘用に生み出されたと聞いていたので油断は出来ないと判断したが、さすがに殺す訳にも行かなかったので、『閃』で武装を腕ごと切り落とした後に後頭部に『徹』を叩き込んだ。
倒れた戦闘機人の女性の右腕に止血を施した上でアリシアから受け取っていた携帯拘束具を使って拘束する。
人に見つからない事を優先して動いていた為、彼女がカプセルを破壊している所を見つけたときには既に間に合う距離じゃなかった。
破壊されたカプセルの元まで行くと、付近に色を失った脳が転がっていた。
無情な光景に軽く目を伏せる。
人の身を捨てて世界を護ってきたのか…
今はもう語る事も無くなった三つの脳に、俺は黙祷を捧げた。
この偉人を、責め立てる気にはどうしてもなれなかったから。
私欲に駆られた訳ではない事など、この姿を見れば分かる。
クローンを作ったり、不死を求めて人の身体を乗っ取ろうとするものだが、日の目を見ることの無い脳だけを、恐らく自分達で志願して取り出して今までを過ごして来たはずだ。
膝一つで大騒ぎした身としては、ついていけないほどの話だ。
そうまでしたと言うのに、この後諸悪の根源として葬られる事になるだろうと考えると虚しいものだ。
「それで…君はいつまでそこで隠れているつもりだ?」
振り返って声をかけると、俺が入ってきた入り口から、黒いローブから顔だけ出した女性が姿を見せた。
Side~リライヴ
やっとの事で辿り付くことが出来た最高評議会の居場所まで来た所で、中から聞こえて来た戦闘音。
見つかって局員でもいたら厄介だから、身を潜めて様子だけ伺おうとしていたんだけどアッサリと気付かれた。
仕方なしに姿を見せると、今の私が言えた義理でも無いけど上から下まで黒い服装で、二刀を腰に差した怪しい男性が立っていた。
「貴方は…」
「旧姓、高町恭也。速人の剣の師で兄でもある…と言ったほうが、君には分かりやすいかな?リライヴ。」
予想通り、と言うか信じられない相手と向き合っていると初めて知った。
速人の…決して高いとはいえない魔力値でなのは達と肩を並べ、幾度か私を斬った事すらある技量の持ち主であるあの速人の剣の『師』。
私からすればもう偉人のレベルだ。
とは言え、万一捕らえに来るとなるとどうなるかわかった物じゃない為全力で身構え…
「そう警戒しないでくれ。手伝いにきたつもりだし、俺は一応ただの人間だからな。君のような大魔導師相手に出来ることは何も無いさ。」
恭也さんは構えもせずに笑顔でそう言った。
あまりの敵意のなさに呆れる一方で、何を馬鹿なことを言うのかと思った。
傍に倒れているのは服装からして明らかに戦闘機人。彼女達はバックスのクアットロとかでさえ並の局員なら複数人相手に出来るだけの戦闘能力を持っているって言うのに、魔力も火器も使わずにその一人を拘束してのけた人がただの人間な訳が無い。
とは言え、戦う気はなさそうだったのでとりあえず警戒を解いて近づく。
遠目に見えていた割れたポッドの下まで来ると、幾つかの脳が転がっていた。
「すまない、間に合わなかった。」
「いえ…私も今来た身ですから…」
それにしても、脳だけになってまで生き永らえた挙句、利用しようとしていたスカリエッティに殺される何て、自業自得もいい所だ。
幸いにして施設そのものは破壊されていないようだし、『普通の局員』が来る前にデータを消しにかかるような工作員が動く可能性を考えて出来るだけの情報を写しにかかる。
イノセントを機器に接続して作業を開始し…
「それで、君はこの後どうする気だ?」
「え?」
少し経った所で恭也さんから放たれた問いに、私は硬直した。
Side~アムネジア
「例の四人が来るっスね。」
「つい最近加わった俺に、洗脳に近い彼女までいる俺達と、ずっとチームで動いてきた向こうの四人とでまともに組みでぶつかるのは避けたほうがいい。」
「ホント真面目っスねアムネジア…ま、組でぶつかるのを避けるのは賛成っスけど。」
ヘリから降りるデータで見た四人の姿を見た俺は、対処を考える事にした。
気楽なウェンディは勿論、ルーテシアも作戦を立てるって柄じゃないし、13番めの彼女は論外だ。俺が考えるしかない。
「ルーテシア、白天王を出せば向こうの四人の内対処出来るのはあの召喚士だけ。護衛らしい槍騎士もついてくると思うけど、ガリューと一緒に相手できるか?」
「大丈夫、負けない。」
ルーテシアから珍しく強気になっているのが分かる返答が返って来た。結構対抗意識あるみたいだな…まぁルーテシアはオーバーS級だし、AA二人くらいならそこまで心配は要らないだろう。
「けどそれ普通に四人ともお嬢様に向かわねぇっスか?」
「俺達が突っ込む気で素通りしようとすれば向こうも放置は出来ないはずだ。彼女もいるしな。彼女は向こうのタイプゼロの娘より強いんだろ?」
「データ上も戦跡もこっちのほうが上っスね。ドクターが各部の見直しもやってるから装備的にも負ける要素は無い筈っスよ。」
ウェンディに確認を取ると、予想通りの返答が返された。
「なら大丈夫だ、後は俺とウェンディの二人掛りで指揮官のあの娘を倒す。その後で残りに別れて叩けばいい。」
「急造にしちゃ文句ない出来っスね。そいじゃお嬢様、ちゃちゃっとお願いします。」
「分かった。」
作戦が決まったところでルーテシアが少しはなれてビルの一つに陣取る。
少しの間を置いて、白い巨体がその姿を現した。
「これは…壮観だな…」
「見てる場合じゃないっスよ。」
「っと、すまないウェンディ。」
ひょっとするとあれだけで四人とも軽く殲滅しかねないほどの力を持っていそうなその巨体を横目に、俺達は再び駆け出した。
Side~ティアナ=ランスター
とんでもない化物を召喚してくれた向こうの召喚士に頭が痛くなる。
が、いつまでも悩んでいる暇は無い。こうしている間にもギンガさんを含めた三人がどんどん進行してきているのだ。かと言って、あのでかぶつは間違いなく普通の局員じゃ相手にもならない。なるとしたら…
「私が行きます!」
「駄目、他の召喚虫もいるのよ?キャロ一人じゃ危険すぎるわ。」
「でも…」
悲しげに訴えてくるキャロ。
私も分かってはいる、あのでかいのを放置しておく訳には行かないと。けど…
この状況、間違いなくそれを利用した囮だ。まんまと相手の掌に乗って戦うとなると分が悪すぎる。
「エリオ、キャロについて一緒に行って。」
「けどそしたらティアナさん達が3対2に」
「信用しなさい。これでも六課前からのベストコンビなんだから。」
エリオとキャロの不安を一蹴すると、二人は小さく頷いてフリードに乗って飛び立っていった。
「にへへ…ベストコンビ。」
「っさい!二人が不安がってたから言っただけよ!気味悪い笑い方すんな!!」
滅多に口にしない事を言ってしまったからか、ただでさえ恥ずかしいと言うのに隣のスバルがとてつもなく嬉しそうな顔するから余計にしまらなくなってしまった。
…まぁ、嘘を吐いた訳ではないし、しかもそれをスバルも分かっているからこんな嬉しそうなんだろうけど。
「集中、来るわよ!」
「応っ!」
向ってくる三つの影を見据え…
その中に混じる、忘れられない姿を目にした所で強く歯を食いしばった。
Side~フェイト=T=ハラオウン
スカリエッティのアジトへ突入した私とフレア空尉。
道中でシスターシャッハとも合流し、事前調査していただいた経路からスカリエッティがいると思われる場所へ一直線に向かっているのだが…
「先行が過ぎます!あまり無茶をなさらないで下さい!」
たった一人でガジェット群に突っ込んでいくフレア空尉に、シスターが私の横で警告を叫ぶ。
私はそれを、ただ眺めている事しかできなかった。
原因は、移動中に話した作戦にある。
「私が先行するからお前は温存しておけ。」
「どうしてですか?」
いきなり空尉から持ち出された話は、口を挟まずにはいられない話だった。
一緒に来たのに戦うのは空尉に任せるなんて…
「お前個人の実力がトーレに届いていない、内部空間やガジェットにはAMFが働いているからデバイスそのものを武器に技量でも戦える私のほうが魔力刃を構成して魔導師として戦うお前より消耗が少ない等幾らか理由はあるが、最大の理由はグリフの倒し方にある。」
そこで言葉を切った空尉。
グリフ…速人ですら斬り合いで負けた凶戦士。まず間違いなく室内であるアジトにいるだろうと言う事で空尉が此方に来る事になった。
空尉は勝算があるという話だったけれど、その具体的な内容となると真剣に聞いておかなければならない。
「倒し方…ですか?」
「ああ。具体的に言えば、私が奴と切り結んでいる間に避けよう防ぎようの無い高出力広域殲滅で私ごと倒してもらう事になる。」
「なっ!?」
完全な自爆覚悟の突撃だった。
「そ、そんな馬鹿なこと」
「技量では絶対に敵わん。二人掛りでどうにかなるかも怪しいし、そもそも奴が一人でいる保障も無い。であれば、私に出来るのは足止め位だ。」
出来ないと言う前に言葉を封殺される。
「その際私は戦闘不能にならざるをえない。ならば後が残っていた場合にお前の消耗が少ないほうが安全かつ確実という事だ。」
「で、でも!」
理屈はわかる。でも味方ごと撃つなんてそんな馬鹿な真似…
「お前がやらないというのなら、グリフ一人に私もお前も殺され、後続のほかの局員も何人殺されるかわからない。しかも、ゆりかごは止められてもスカリエッティを捕らえられずに終わる可能性すら出てくる。非殺傷で撃てるお前の攻撃で倒れたほうが、あれとまともに交戦するよりも安全なんだ。人命が大事だというなら撃て、賭けに出るなら好きにしろ。」
「っ…」
それ以上空尉は何も言わなかった。怒る事すらなかった。
そして来たアジトで、私は結局空尉に先陣を任せている。
撃つというなら本当に躊躇えない。
タイミングを外せば空尉だけに当たってしまうかもしれないし、時間を稼ぐにしてもグリフのほうが強いと判断しての戦い方なのだから、そう長くはもたない筈。
周囲のガジェットがあらかた片付いたが、空尉は肩で息をしていた。
いくら言っても聞かない空尉にシスターが私を見る。
「フェイト執務官からも」
「いえ、フレア空尉は大丈夫です。」
「そんなはず」
単騎で私達に出番が回らないほどの速度で敵機を葬っているというのに大丈夫な訳が無い。
シスターの言いたい事は分かるけど…
フレア空尉は、数度の深呼吸でアッサリと呼吸を整えた。
「八時間通して戦えるただの人間もいる、魔力だけ節約すればこの程度大した問題ではない。」
「あ…」
空尉はそれだけ告げて再び先行し、私は呆然と手を伸ばすシスターの傍に近づく。
「魔法使用が前提の私達はAMF下での消耗が激しいですが。彼はほぼ身体強化のみで高い戦闘能力を出せるので、温存の為です。戦闘機人が出たら、そのときは…」
「…分かりました。」
今はこれで納得してもらうしか…納得するしか無い。
私達は見失わないよう先行した空尉の後を追った。
Side~高町なのは
突入した私とヴィータちゃんは、内部状況がよく分からないまま調査班からの情報を待つ間、道を作る為に中でガジェットと交戦していた。
けど…やたらとヴィータちゃんが先行してハイペースで戦っていた。
『…あれから一回だけでもいい、ちゃんと本気でヴィータの事見てたのか?』
今更になって、嫌になる程実感する。本当に…思いっきり裏切ってたんだなって。
次のガジェット群が見えて、ヴィータちゃんがそこに突撃しようとしたところで、私は抜き打ち砲撃でその群れを破壊した。
「おい!」
「ごめんヴィータちゃん。見てるだけは嫌なの。無茶するのが自分なら大丈夫って…何にも気にしないでやってきたくせに今さらこんな事言うのは我侭だって分かってるけど…」
不機嫌そうに振り返ったヴィータちゃんに、申し訳なくて俯いたままそう返す。
内部全域にAMFが張り巡らされているこの状態で戦えば消耗が大きいのは分かっているけど、だからこそ余計に見ているだけは嫌だった。
「半分にしよ?ヴィータちゃんが飛ばすなら私も飛ばすから。」
「おめぇそりゃ提案じゃなくて脅迫だろうが…」
不機嫌この上ない事をあらわすように眉根を顰めるヴィータちゃん。
本当に今更だから私は苦笑位しか浮かべられなかったけど、少ししてヴィータちゃんは何かを振り切るように頭をガシガシと掻き乱す。
「…ま、表で何もしなくても良かった分消耗も少ねーし、多少の我侭は聞いてやる。」
「ありが」
「ただ!」
お礼を言い切る前にグラーフアイゼンを鼻先に突きつけられる。
「動かねぇ炉を潰すだけのあたしと違って、オメーはぜってーにヴィヴィオの所で戦わなきゃならねぇんだから、そのこと考えてペース配分しとけよ!」
「…うん。」
ヴィータちゃんの指摘に、私は静かに頷いた。
絶対にこんなところに繋がれてるなんて望んでない筈のヴィヴィオが、この船を動かすだけの力があって抜け出す事が出来ない。間違いなく操られてる。
そして、多分辿り付いたら聖王と呼ばれただけの力を操られたまま向けてくる事に…
覚悟を固め、散策を再開してガジェットを適度に蹴散らしていると、連絡が届いた。
待ち望んだ、駆動炉とヴィヴィオの居場所。
けど、それらは間逆の方向にあった。
「こりゃ、二手に分かれるべきだな。」
「…分かった、気をつけてねヴィータちゃん。」
「言ったろ?動かねぇ炉を潰すだけだ。んで、潰すのは得意分野だ。速効でぶっ壊して援護に行ってやるよ。」
不安は口にしなかった。
私が言えたものでも無いし、私だって信じてくれたほうが嬉しいから。騎士のヴィータちゃんなら尚更心配なんてされたく無い筈だ。
二手に別れ、ヴィヴィオの元へ向かって進む。
特に何事もなく進んで…
「っ…ぁ…」
ある通路を曲がる前に、硬直して地面に降りた。
『マスター?』
デバイスであるレイジングハートにはまるで分からないこの感覚。魔力とかデータに残せる物じゃないこれは…
「っ!ディバインバスター!!」
通路に飛び込むと同時、通路全部を塗りつぶすほどの強大な範囲砲撃を、節約とかは一切考えずに放つ。
砲撃が収まって通路が見えるようになったけど、そこには何の姿もなく…
「AMFとやらのお陰で消耗が激しいんだろう?こんな物を撃っていいのか?」
「っ!!」
通路の少し先に見える十字路の影から、グリフが姿を見せた。
「最も、ここで死ぬ以上関係の無い話か。」
「く…来たら撃つ!!!」
グリフが迫ってきて十字路に飛び込めなくなった瞬間に再度先の砲撃を撃てるように構えておく。
本当なら私が進まなきゃならない事も気にしている余裕は無かった。
殺す事、命を絶つ事を理解した上で、死を作る者だけが持つ気である殺気。
何も知らない局員とかがイライラしているだけの人を指して殺気立ってるとか言うけれど、本当はそういうものじゃない。
それどころか、いくら修行していても実戦に出ていても、真っ当に局員をやるような、誰も殺すつもりの無い人には決して身につかない物で…
生命としての本質を潰すような気質でもある。
だから、全身の筋肉が緊張して冷や汗が頬を伝う今でも、歯の根もあっている状態で立って思考が働いているだけで十分だとすら思った。
何しろ昔恭也お兄ちゃんにコレを向けられた時には本当に真っ白になったから。
「なら…近づかないさ。」
「え?」
一瞬、どういう事か分からなかった。
その一瞬で、どこからか8つの剣がグリフの背中に浮いていた。その尖端の全てが私の方向に向いて…
「っ!プロテクション!!」
一斉に飛来する剣をプロテクションで受ける。結構な衝撃を感じたもののどうにか堪えきり…
その一瞬で彼は接近していた。
彼が手にしている剣を踏み込みと共に振り下ろすと、プロテクションが抜かれ、私は思いっきり後方に飛んだ。
壁の感触を背中に感じ、悠然と歩み寄ってくるグリフを見る。
シューター、仕留めきれずに斬られる。砲撃、チャージすら間に合わない。ジャケットパージ、再構成の間何て無い。
詰められた状況にそれでも諦めたくなくて考えを巡らせ…整う事無く、剣が振り下ろされた。
思わず目を閉じてしまった私が聞いたのは、金属同士がぶつかるような甲高い衝撃音。
ゆっくりと開いた私の瞳に映ったのは…
ふわりとなびいた真紅のマントだった。
SIDE OUT
今日はここまでです。