なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第二十六話・動き出す暖かな宵闇

 

 

第二十六話・動き出す暖かな宵闇

 

 

 

「本部は必要で六課の施設は暫く使えない上、移動が自由なほうが都合がいい…と言う訳で、今後機動六課は本部をアースラに置くみたいだよ。」

「サンキュー、ユーノ。いや助かったぜ。」

 

治療を兼ねて六課の現状を伝えてくれたユーノに感謝したんだが、当のユーノは疲れた様子で肩を落とした。

 

「気分転換名目でこんな所まで来て、しかも皆アッサリ許してくれるから…なんか後ろめたいなぁ…」

「そう暗い顔するなって、いい事あるさ。」

「君が言うなよ!!」

 

励ますつもりでユーノの肩に手を置いて明るく言ってやると、ご尤もな返事が返って来た。

調べもので無限書庫引っ掻き回してるだろうユーノに治療まで頼んでるんだ、正直悪い気はしてる。

 

「ま、良いけどね。友人の手伝いに来てるのは僕の『矜持』だし。」

「あ…」

 

ユーノと出会ってまもなく起こったP・T事件で話した事。

未だに覚えててくれたのか…しかもそれでこんな森にまで来てくれてるとは。

少し感動してる俺を他所に、ユーノは続ける。

 

「それに、君はまだなのは達の力になるつもりなんだろ?だったら尚更さ。期待してるよ、ヒーロー。」

「ああ、任せとけ。」

 

わざわざ出向いてここまでしてくれた友人に最大限の感謝を込めて、笑顔で力強く引き受けた。

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

アースラの訓練場で、エリオに訓練を頼まれて相手をしているのだが…私はその出来に感心していた。

 

「でやぁっ!」

「む…」

 

私の打ち降ろしを回避しながら、横薙ぎに振るわれたエリオの槍を後方へ跳ぶ事でかわす。

体躯を回転させながら回避と攻撃を同時にやってのけたエリオ。しかも第二形態にしたストラーダの側面ブースターを使用して重さまで加えてくる。

下がった私に向かって突きでの追撃を加えようとしているようだが、ブースターを使って回転した為か少し体勢を整えるのに間が出来る。

 

「はあっ!」

「っ!」

 

整うのを待つほど甘くない私は間髪入れずに斬りこんだが、エリオはそれを辛うじてとは言えデバイスで受けて見せる。

子供ゆえの軽さのせいで押し負けこそしたものの、デバイスを手放す事も無く構えているエリオ。

 

すさまじい成長だな、もう空戦でなければいい勝負をする。

 

「時間だな。」

「ありがとうございます。」

 

肩で息をしながらも、しっかりとした返事に若干の余裕を見せるエリオ。

 

「先程の回転はフレアの物か?」

「あ、はい。」

 

気になったので問いかけてみると、エリオは汗を拭いながら答えた。

距離を離さないまま回避したうえ、攻撃もかねる動作など行う人間はフレアか速人ぐらいのものだ。

扱って見せたのは素晴らしいが…紙一重、首の皮一枚などと言う表現が用いられる程の接近戦を行う世界の技術だ、こんな模擬戦をテスタロッサが見れば卒倒ものだろうな。

 

「模擬戦や戦闘記録から使えそうな動作をいくつか覚えて慣らしては見たんですけど…やっぱりまだダメですね。回転が強すぎて突きに繋げられませんでした。」

「フレアから直接習ったのではないのか?」

「同じ槍使いとして細かく聞きたいって頼んだんですが…突撃用の僕の槍とは用途も扱い方もまるで別物だってあんまり話は聞けなかったんです。」

 

習わずに覚えた理由を聞いてみると、少し残念そうに告げるエリオ。

私達が『クロスレンジ』と一括りにする範囲の技巧だけでどれだけの種類があるかも分からんような世界だ、どっぷりはまっているらしいフレアの返しとしては妥当なのだろうな。

 

「私も人に教えると言う柄ではないし、技巧と言う意味では奴の変わりにはならんかしれんが…」

「変わりだなんてとんでもないです!フレア空尉には変換資質もありませんし、色々盗ませてもらってます。」

 

生意気な事を言うとも思ったが、実際既に見たものを試合で扱って見せるところまできている。

私とてニアSの空戦魔導師だ、その私を相手にああも扱って見せるのだから驚くほかあるまい。

 

「今更だが、休んでもおけ。」

「はいっ!」

 

元気のいい返事を背に訓練室を後にすると、表にテスタロッサが待っていた。

 

 

 

 

 

新たな拠点となった戦艦アースラの通路を、現状をテスタロッサに伝えながら歩く。

 

「え!それじゃあ空尉とシグナム両方と訓練してるんですか?」

「そのようだな。私は他の仕事もあるし、フレアは度々ここを外すから、ペースとしては丁度いいつもりでいるんだろうが…」

 

フレアのほうは予想外だったのか、テスタロッサは少し不安そうに訓練室を見る。

 

「あまり不安そうにしてやるな。極端に疲弊しているようでもなかったし、何より成果は出ている。私も一撃入れられるところだったからな。」

 

訓練中着ていなかった上着をめくって、少し裂けた内側の服を見せると、テスタロッサは改めて驚きを見せる。

 

「凄い…シグナムに一撃入れるなんて…」

「もらってはいない、旋回時の一撃が掠めただけだ。」

「そうですね、それでも凄いですけど。」

 

思わず強く否定してしまった私を見ながら笑うテスタロッサ。

むぅ…つい熱が入ってしまった…いかんな、この調子ではまたテスタロッサと張り合っていた時のようにシャマルあたりに笑われてしまう。

 

「ところで…なのはのほうはどうだ?ヴィヴィオの誘拐といいあの馬鹿の失踪といい、無視するには負担が多いが。」

「大丈夫ですよ、なのはは強いですから。ガス抜きさえちゃんと出来ていれば問題ないです。速人が動くのは…もう恒例行事みたいな物ですし。」

 

無理をするのが得意だから表面上様子がわからない事に不安を抱いて一応確認を取ってみたが、暗にガス抜きはしたと告げるテスタロッサの返答に安心する。

 

「それならばいい。子供にかまけるのもいいが、嫁の面倒もしっかり見てやれよ。」

「な!何ですか嫁って!?なのはに聞かれたら怒られますよ!」

 

とりあえず先に楽しげに笑われた分は返した私は、慌てるテスタロッサの抗議を聞き流す。

お前にからかう側は十年早い。

 

 

 

Side~アムネジア

 

 

 

アインヘリアル襲撃の任を受けた俺達は、三基全てを破壊する為三隊に別れる事になった。

オットーとディード、ウェンディにノーヴェが三号機を、トーレとセッテとチンクが二号機を担当することになった。

そして俺は、クアットロ、セイン、ディエチと共に一号機の担当に回され…

 

 

 

「遅い。」

 

 

片っ端から目に映る魔導師を昏倒させていった。

 

クアットロの視覚操作で俺の姿を誤認しているせいか、護衛についている魔導師達は全く俺を捉えられずに次から次へと倒れていく。

こういう雑魚掃除には連射か広域攻撃がいいから高速射撃が得意分野の俺にはやりやすいな。

 

「いやぁ…楽でいいねぇ。後もあるんだから飛ばしすぎないほうがいいんじゃない?」

 

直接戦闘タイプではないとは言え、それでもかなりの身体能力を誇るセインが気楽に局員を昏倒させつつ笑う。

武装はともかく、皆は動作データは共有できるからな。最前線張るタイプのトーレやノーヴェなんかと殆ど同じ経験を持ってるのと変わらない。

 

「ちゃんとした戦闘機人の皆と違って半端な身だしな、役に立つなら手抜きはできないさ。それに、クアットロの能力が無かったらこうも飛ばせないし。」

「あら。褒めても何も出ないわよ?」

 

一気にデータを増やしていっている皆に対して、俺は身体の部品を作る際に組み込んだだけになる為、動作共有までは上手くいかなかった。

生身が残っていた上半身はともかく、やっぱり繋ぎ目や足の動きにどうしても少し違和感を感じる。そんな身で手抜きなんてしてたら危なすぎる。

 

『撃つから射線から離れててよ。』

 

あらかた片付いたのを見計らってか、チャージに入っていたらしいディエチから連絡が入る。

オーバーS砲撃なんて防げる魔導師がそうそういる訳も無く、ましてや今は殆どの局員が寝ている。

ディエチのイナーメスカノンから放たれた砲撃はアインヘリアルに着弾して爆発した。

 

「任務完了だな、報告しよう。」

「ホント真面目だねアムネジアって…」

 

セインに少し呆れられつつ、俺は通信を繋いだ。

堅苦しくなきゃ真面目で悪い事も無いだろ。…多分。

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

アインヘリアルが潰され、活動する戦闘機人の中にギンガの姿が映る。

歯噛みしながら全域に流されている映像を見つめる私達を嘲笑うかのように、スカリエッティが語りに入った。

 

『さぁ…いよいよ復活の時だ。私のスポンサー諸氏、そしてこんな世界を作り出した管理局の諸君、偽善の平和を謳う聖王教会の諸君も…見えるかい?これこそが、君達が忌諱しながらも求めていた絶対の力。』

 

大地が揺れて裂けて行く中、眠りから覚めるように一隻の船が空に浮かぶ。

 

『旧暦の時代…一度は世界を席捲し、そして破壊した。古代ベルカの悪夢の英知。』

 

浮かび上がった船は、何処か神聖さを感じさせるような彩と、圧倒的な強大さを感じさせるものだった。

あれが…聖地より帰った船…か。

 

『見えるかい?待ち望んだ主を得て、古代の技術と英知の結晶は、今その力を発揮する。』

『ママ…』

「っ…」

 

無理矢理中枢として扱われているらしいヴィヴィオの姿が映し出され、ヴィヴィオはママと呟きながら苦しんでいた。

一番キツイのはなのはちゃんや、私はきっちり頭動かせるようにしとかんと。

 

『さあ!ここから夢の始まりだ!!!』

 

これ以上ない程に楽しげに笑うスカリエッティ。私は止めなければならない船を頭に叩き込むように睨み…

 

 

 

 

 

 

『演説はもういいな塵芥。』

『は?』

 

 

 

 

 

唐突に、割り入るように入ってきた新たな映像と、その中心に浮かぶ見覚えしかないローブ姿に凍りついた。

呆けた顔が映っているところを見ると、スカリエッティですら想定していなかったらしい。

 

『玩具一つで機嫌が取れる安い者に王など務まらん。王は我一人で十分だ!!!』

「だあぁぁっ!何やっとんのやこのアホォ!!!」

 

格好でもつけたつもりか大見得を切ってローブを脱ぎ去り、その幼い頃の私とほぼ変わらない姿を晒すディアーチェ。

私は冷静にと歯軋りしながら堪えていたのも忘れて思いっきり叫んでいた。

 

 

 

Side~ディアーチェ

 

 

 

「ま、待ちなさい!貴女こんな所で何を」

「黙れ下郎。人形と鉄屑しか戦力の無い科学者一人相手にこんな物が浮かぶまでに対処の一つも出来ん役立たずの治安維持組織など一言とて発する権利など無いわ。」

「なっ…」

 

飛行が出来ないのか男に抱えられながら叫んでいる女の抗議を無視して巨大船…やかましい女を抱えている男が言うには『聖王のゆりかご』と言うらしいその船を眺める。

 

こんな玩具に子供一人乗せただけで張り合われるとは…スカリエッティとやらの算段が甘いのか管理局の無能が過ぎるのか…全く、どちらにせよ関わりたくも無いな。

 

「本来どうでもいい連中同士の小競り合いなど放っておくのだが…貴様はやりすぎた。」

 

告げつつ、魔法陣を横一列に展開していく。

 

「よりにもよって我の家族を殺しかけ、しかも親戚の一人娘まで攫っていく始末。防げなかった役立たず共もそうだが、主犯の貴様等は到底許してはおけん。」

 

語っている間に、総数36の魔法陣が揃う。

これだけあれば十分だろう。

 

「まずはその玩具、闇に喰われて絶望するがいい!」

 

全魔法陣からの魔法発動の準備が整ったところで、エルシニアクロイツを振り上げる。

 

「アロンダイト・ファランクスシフト!消し飛べ塵芥!!!」

 

多数の魔法陣から放たれた砲撃が雨のように船に降り注ぎ、着弾と同時に炸裂。瞬く間に船を魔力光が飲み込んだ。

 

「な…なんて魔法…」

「いや凄いね…はやてでもここまでやれば無理が出るはずなんだけど…」

「ふん、小鴉ごときと一緒にするな。それよりも失せろ、巻き添えを食うぞ。」

 

傍で感嘆を漏らす局員らしき二人に一応警告だけしておく。

 

当然と言うべきか感心するべきか、あれだけ撃っても見た目を罅だらけのみすぼらしい物に変えるのが手一杯だったようで、上昇速度が変わる様子が見られない。

よって『次』も撃たねばならない。

巻き込まれたくなければさっさと逃げておかなければならないので一応忠告したのだが、あろう事か男は女を抱えたまま近づいてきた。

 

「待って、いくらなんでもこれ以上は危険が過ぎる。君は魔力を使いきったら」

「要らん世話だ。」

「そんな筈ありません!今の一撃で青ざめているでは無いですか!!」

 

余計なところにだけは気付く女が叫ぶとおり、先の一撃で保有魔力の大半を使いきった上、高出力を放った負荷で身体が悲鳴をあげている。

だが…魔力に関しては策がある。それに…

 

 

身体に関しては、宿主の似非英雄のほうが余程無理をしている。

だと言うのに、我がこの程度で根を上げる等という事はあってはならない。

 

「貴様等の知った事ではないわ!引っ込んでいろ!!」

 

故に騒がしい雑兵の言葉を断ち切った我は、再度魔法陣の展開に入った。

 

 

 

Side~リインフォース・フレイア

 

 

 

リンクによって繋がっている騎士たちの様子に想いを馳せつつ私は…

 

 

「はむ…っ。これで、30個…」

 

机に向かってひたすらにケーキを食べ続けていた。

 

私は、騎士達が闇の暴走体から力を受け取っていた機能と同等の機能を使い、魔力をディアーチェに送り続けていた。

それだけではBがせいぜいの私の魔力量では一瞬で枯渇する為、吸収効率のいい栄養剤で点滴を行いつつケーキを食べ続けている。

 

「大変な機能貰っちゃったねフレイア。ケーキ食べ放題で太らないなんて羨ましいとも思ってたけど…ホールで30個も行くとさすがに見てられなくなってくるよ。」

 

隣に座って見ていたアリシアが苦笑混じりに感想を漏らす。

私自身それには同意だった。さすがにこうも連続で食べ続けていると舌が馬鹿になりそうな気がしてくる。

実際には夜天の騎士達と違い完全なプログラム体の私達はそうそう体質が狂うことなどありえないのだが、それでも頭の中からおかしくなりそうなほどに甘い。

 

けど…

 

「力の無い今の私が…はやてや夜天の騎士達、主や宵の騎士達の役に立つ方法があると言うだけで、私は十分です。」

「そっか。」

 

辛いと言えば前線のほうがはるかに辛いはずなんだ。

しかも、貸せる力があるならいくらでも貸したいだろう雫もすずかも、おとなしくしているしか無い現状を寂しげに納得しているのに、手伝える手がある以上喜ぶべきことだ。

 

「あーもう!それはそれで羨ましい!私が速人の役に立つにはデバイス見るしかないのに!メンテナンスに顔出す位してくれればいいのにぃ!!」

 

パタパタと足を振りながらむくれるアリシア。

こう言ってはいるけど、昨日までずっと宵の巻物のシステム見直しや騎士達のデバイスの調整、整備を行っていた彼女が、力になれていないはずが無い。特に、調整だけで済むデバイスのほうはともかく、この魔力リンクは、機能を使った戦闘を思いついてから使い方の確認、調整を繰り返した為相当大変だったはずだ。

 

『魔力生成遅いぞ!何をやっている!?』

『乱発は負荷が大きすぎる、はやて達がつくまであしらえればいいんだ、あまり無茶は』

『ちっ…まぁいい!追いつかないなら休んでいろ!子供の寝床一つや二つ、我一人ででも潰してみせる!!』

 

最初から最後まで罵声しか無いディアーチェからの通信。態度自体はいつもあんな調子だが、彼女は結構家族を気遣っている。今だって休んでいろと言う位だし。

ただ…それで本当に休むとディアーチェのほうが無茶をやめないだろうから、やっぱり私だけ手を抜く訳にはいかないんだが。

 

私は改めて、傍らでアリシアが切り分けてくれたケーキに手を伸ばした。

 

 

 

Side~セッテ

 

 

 

『外で空戦に特化しているのはお前だけだ。空戦の主体となるが頼むぞ。』

 

私はドクターの護衛に向かったトーレの言葉を思い出し、空を駆ける。

 

外に残ったのは、ノーヴェとウェンディとオットーとディード、それからルーテシアとアムネジアと13番。トーレとチンクとセインはドクターの護衛に向かい、クアットロとディエチはゆりかごを離れたウーノに代わってゆりかごへ向かっていた。

 

「やっぱり来るっスよねぇ?あいつら。」

「どうってことねぇよ、来るなら来るで全部ぶっ飛ばすだけだ。」

 

ドクターも遊び場と言っていたし、ノーヴェとウェンディの言い様も分かると言えば分かる。戦闘機人はただ戦う為の全てを詰め込まれたものだ、生まれながらにしてただの人間が及ぶはずもない。唯一相手にいるもう一機のタイプゼロも、戦闘機人とは言えドクターの改良も無い旧式。

 

だが…それでも油断が過ぎるように感じる。

 

トーレも戦機の力を承知で自身と自負を持ってはいたが、戦機の中でも最強の戦闘能力を誇りながらも一切の油断が無い。それと比べると…

 

『お前はあまりに対応が機械過ぎる、少しは考える事も覚えていけ。』

 

トーレから受けた忠告に従うなら、今『感じた』問題には、私が対処できるようにしておくべきだ。

そういう意味でも警戒をしておこうと改めた所で…

 

「何か来る、オーバーS級が二人?局にしては早すぎる、これは…」

「天破・雷神槌!!」

 

オットーが警戒を指示した瞬間、雷撃が雨のように降り注いだ。

比較的速く動ける私は完全回避した上で現れた襲撃者に飛び掛るが、影に到達する前に私の眼前を砲撃が通過していった。

一瞬でも気付くのが遅れたら飲み込まれていたかもしれないその砲撃を避けた私は、少なからずダメージこそ受けたものの、問題なく動けている他のメンバーから突出しない為一度下がった。

 

「宵の騎士が力の象徴、レヴィ=ザ=スラッシャー。ただいま参上!!」

「不本意ながら同じく宵の騎士にて理の象徴、シュテル=ザ=デストラクターです。」

 

現れた二人の魔導師は、データで見た昔のフェイトお嬢様と高町なのはに酷似した姿の少女達だった。

声からすると、以前速人と言う男を救出して逃げたローブの魔導師がレヴィと名乗った少女なのだろう。

 

「何だテメェら!局員でもねぇ癖に」

「うるさい!!!!!」

 

いきなりの襲撃者に文句を言い出したノーヴェの言葉を完全に断ち切るような、どこから出るのかと思うほどの声量のレヴィの叫びが響く。

 

「言った筈だよ、ボクは本気で怒ったって。マスターがきっと望まないから酷い目にはあわせたくないけど…」

 

レヴィは手にしてたデバイスを魔力刃を展開した鎌状に変形させると、それを一薙ぎした。

 

「これ以上は何もさせない!怪我をしたくなかったら武器を捨てて帰れ!!」

 

大見得を切ったレヴィに対して、ディードが呆れたように頭を振る。

 

「甘く見られたものですね…オーバーS級を軽視するつもりはありませんが、2対8の戦力差をどう扱うつもりですか?」

「逃げます。」

「えぇ!?」

 

呆れるディードに対してシュテルの返答は、味方である筈のレヴィにすら衝撃を与えるほどの物だった。

私達も驚く中、シュテルは話を続ける。

 

「いくら2対8でも魔力差があるので逃げるだけならそう難しくはありません。かと言って貴女達は私達を無視すれば、後程相対するだろう局員と再度現れた私達に挟撃を受ける事になります。そして、先行組と我々の相手の二手に分かれれば戦力分散。しかもオーバーS級2人を相手に出来るだけ裂かなければならない。この状況を作っただけで既にチェックメイトなんですよ。…と言う訳ですから、怒るのは構いませんが勝手に突撃しないで下さいねレヴィ。」

 

手の内を語って追い詰められるとはさすがに予想しなかった私は、理の象徴といったシュテルの手管に驚いた。

しかも、ここでどういう手をとるか考えている時間も彼女たちにとっては時間稼ぎとなる。それも『何の消耗も無く』だ。

 

混乱が落ち着いたり各地のガジェットが鎮圧されたりするほど、局の防御は硬くなる。ここで時間を使う訳には行かない。

 

『オットー、私が一人でレヴィを抑える。シュテルのほうだけどうにかする手を考えて二手に分かれるべきだ。』

 

指揮役も担っているオットーに考えを伝える。

 

『…二手に分かれるのは賛成だけど、大丈夫なのかい?仮にもオーバーS級だよ?』

『トーレから此方での空戦を任されている、戦機として必ず。』

 

侮る訳ではないが、見た目所か中身まで幼い魔導師相手に尻込みするようでは、戦機の名が廃る。

 

『分かった、ならシュテルをノーヴェとディエチと僕の三人で相手にする。残りの皆は先行して。』

『了解!』

 

オットーの指示に対してアムネジア一人のみの返事が聞こえて来たところで、私はレヴィに飛び掛った。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

ディアーチェちゃんが全局生放送状態で親戚の娘とか言うから、私がヴィヴィオをあずかっていた事を知っている人たちには関係性を伏せる事もろくに出来ず、各方面の事情を知らない人達に『説明は事態が収拾するまで待って』としか言えず、はやてちゃんと揃って頭を抑えることになっていた。最もその姿だけで十分に問題なのだけど。

しかもシュテルちゃんとレヴィちゃんがもう既に戦闘機人と交戦中らしい。

こうなるとフォワードの皆に会わせておいたのは良かったと思う。この混沌とした状況で正体不明の相手に頭を悩ませるのはどうかと思うし。しかもあの子達、絶対事情聴取逃げる。

 

私とはやてちゃんは、色々後にすることにした。今はゆりかごを止めるのが先だ。

 

そして、私達六課はアースラから出撃して、三手に別れる事になった。

 

フォワードの四人は地上で戦闘機人とガジェットの相手。

アコース査察官達が発見したスカリエッティのアジトへの突入はフェイトちゃんと、閉鎖空間と言う事でグリフの存在を危惧してフレア空尉が割り当てられる事になった。

シグナム副隊長はゼスト等の想定外対応に回る為に地上に残り…

 

私とヴィータ副隊長が、ゆりかご突入組となった。

 

 

これで堂々とヴィヴィオを助けに行ける、本当はやてちゃんには感謝しないと。

 

出撃に際して別れる前に、スバルが少し暗い表情で一人残っていた。

先に行っていると外してくれたヴィータちゃんがいなくなったところで、スバルに歩み寄る。

ギンガの事もあるし、心配なのだろうと思ったんだけど…

 

「なのはさん!」

「ん?」

「大丈夫ですから、きっと!ギン姉も…ヴィヴィオも!!」

 

決意の表情を新たに力強く発せられたスバルの言葉は、私がかけようとしていた、私にとってあまりにも予想外の一言だった。

 

少しだけ硬直した私は…

 

 

「あはははははっ!!!」

 

 

出撃前なのも思わず忘れて大笑いしてしまった。

ハッとしたスバルは顔を真っ赤にして目の前でわたわたと慌てたように手を振る。

 

「あぁぁのそのえっとごめんなさい違うんです失礼でしたえっとその」

「いいよスバル、そんな慌てなくて。」

 

この娘は、変な所で自信なかったり弱気だったりするくせに、時折とんでもなく前向きで、それこそあの意地と誇りでがんじがらめだったティアナが心惹かれてしまうくらいの『強さ』を見せる。

 

どんな時でも大丈夫だと思わせる、フォワードの皆が辿り付くと思った勇気と力の象徴であるストライカーの強さ。

 

まさかこの土壇場で、そんな強さで私の背を押してくれるとは思わなかった。

 

「ありがとう、スバル。ちゃんとヴィヴィオつれて戻ってくるから、地上はお願いね。」

「はいっ!!」

 

ヘリに向かうスバルと別れて先に離れたヴィータ副隊長の後を追う。

すぐにその姿が見つかって…

 

「…10年早ぇっての。」

「あ、聞こえてたんだ。」

 

不機嫌そうなヴィータちゃんの呟きに苦笑した。

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

頬を染めて少し落ち込んだ、情け無い顔でヘリに乗り込んできたスバル。

 

「10年早いわよ。」

「あぇ!?聞こえてた!?」

 

忠告のつもりで告げておくと、スバルが思いっきり驚く。

 

「そりゃあれだけでかい声で叫べばね。」

「あぁ…やっぱりまずかったのかなぁ…」

 

身の程知らずと思われかねない台詞を大々的に叫んだ事に今頃頭を抱え込むスバル。

 

「何だってあんな事言ったのよ?」

「ただでさえヴィヴィオ攫われてるのに、怪我してる家族…速人さんまでいなくなっちゃって…戦闘はともかく、気持ちの上で平気なはずが無いことでもなのはさんは平気なように笑うのは大怪我の時の映像とか速人さんの話とかで知ってたし…だから…その…」

「どうにかしようとあれこれ考えて、ついいつも通りあたし相手みたいな何の根拠も無いくせにやけに自信満々な台詞が出ちゃった…と。」

 

だんだんと尻すぼみになりながら話すスバル。言いよどんだ辺りから残りを補足すると、スバルは肯定するように小さく頷いた。

 

「ま、相手を考えずにそんな事思うのもどうかと思うけど…」

「あぅ、やっぱり?」

 

やっちゃった感を漂わせてるあたり自覚はあるのだろうスバルが、あたしの指摘に改めて肩を落とす。

 

そんなスバルを横目に、アコース査察官との話を思い出す。

 

強い力や立場を持つ者の重圧と寂しさ。色々とあるが、友人としても接して欲しいとの話。

 

スバルは気付いて無いかもしれないけど、あの馬鹿発言の後に聞こえて来たなのはさんの声からは、怒りも憤りも感じなかった。

 

「けどあんたはそれでいいと思うわよ。あたしも…」

 

何度も助けられてるから。と、続けようとしたんだけど…

言い切る前にきらきらとした瞳を向けてきたスバルを見て言葉を切った。

 

「ありがとティア。」

「っさい。緊張感無いのよアンタは。」

 

少し恥ずかしくなったのを隠すようにスバルから顔を逸らし、少しの間を置いて俯いた。

 

あたしも他人事じゃない。

兄さんが敵だと言うなら…止めなきゃならないんだ。

 

訓練校から今まで…特になのはさんの訓練を受けてから、随分力はついたと思う。

けど、ランスターの弾丸はどんな敵とでも戦っていけるって、証明するつもりで『磨いている力』で、本物に勝てるのか…

 

眺めていたクロスミラージュを握っている手に、そっと手が重ねられた。

いつの間にか、スバルがすぐ隣にいた。

 

「あたしもギン姉を助けてみせるから、ティアだってきっと大丈夫。ティア強いもん。」

 

何一つ曇りないいつもの瞳であたしを見つめるスバルに、一瞬心を奪われた。

 

いくらなのはさん相手でも届かない訳が無い。

一人で全部やりきる気でいた私の心にすら、いつの間にか届いているんだから。

 

…最も、思っても絶対言わないけど。

 

何も解決していないはずなのに、いつの間にか不安は消えていた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

人目につかない森の中で、俺は身支度を整えた。

 

『実体武器での完全装備ですか…』

「まぁな。今回魔力余分に使えなさそうだし。」

 

普段はデバイス同様魔力で修復したり作ったり容易な装備を使っているのだが、今回ばかりはそれじゃやってられない。

全快といえる状態でも無いし、敵も中々出鱈目だ。

 

容量オーバーしない限りいくら装備を詰めても重さが増えないのは魔法技術の恐ろしいところだが、それでも各形態でどのように装備を展開するかの情報は設定しておかなきゃならない。

 

準備は完全。ちょっと怖いと言えば、少しの消耗も惜しかったから神速を使えるか試してない事位だが…ま、頭痛も無いし何とかなるか。

 

 

しっかし…顔出さなかった俺も悪いが見事にやってくれたな皆して。

 

 

ディアーチェの罵声に一瞬でスカリエッティの顔色が変わった時は驚いたが、後の事を考えるとちょっと頭が痛い。まぁリライヴの事も考えるといろいろ後腐れなくなってくれてた方が都合いいと言えば都合いいし、今はこの件終わらせることだけ考えるか。

 

「頼むぜナギハ!」

『了解ですマスター。』

 

人気の無い森の中で凪形態をとった俺は、気配を悟らせないままに駆け出した。

 

 

 


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