第十一話・新たなる魔導師
あの後、俺はユーノの治療を受けて、なのはに運び込まれたらしい。
手の怪我は魔法による治療で見かけ上はほぼ塞がって、内部のダメージ自体もそんなに長くかかるものじゃなかった。
…にしてもなのは、射撃ばっかやってた筈なのにいつのまにデバイス無しの身体強化なんて出来るようになってやがった?
なんて…聞く余裕はありませんでした。
「速人お兄ちゃん…なのははとっても怒っています。」
でしょうね!敬語になってますし、目が据わってますよ?
具体的に状況を説明するなら、回復した俺は『よく寝たー』って感じで部屋を出て、ユーノとなのはに昨日の事情を聞こうとなのはの部屋に来て…
正座させられましたよええ即行で。
「…心配したんだよ?」
「ワリ。でもまぁアレ暴走してたらどの道この町ぶっ飛んでたし、ずいぶん被害少なくなって良かったなー…じゃ駄目?」
「駄目なの!!」
あ、やっぱり?正直今回ノリで突っ込んだ感も否めない上、魔力量に定評があるなのはの助けをすぐに借りようとしなかったのも減点対象だろうし、何より兄さんに帰って来いって言われてたのに、妹に担ぎこまれちゃ…
「本当に心配したんだから…お兄ちゃん…あんまり魔力もないし…何かあったらって…っ…」
泣きながら何気に酷い事を言ってくれるなのは。でも、泣かれちゃ突っ込めないよな。
「速人、ごめん…僕ももう少し力があれば…」
「気にすんな、何とかなったんだし。」
うなだれるユーノに微笑みかけて…
「気にするの!!」
「ハイ…」
泣きながらの妹君に思いっきり怒られました。はぁ…なのはに自分の無茶をやめてくれって言うのは無駄なのにな…
Side~フェイト=テスタロッサ
現状の報告に時の庭園に帰った私を待っていたのは、怒った母さんと…
見知らぬ女の子だった。
「…何のつもり?」
「意味が無い体力の消耗です、フェイトにとっても貴方にとっても。こんなことしてる暇があるなら回復なり研究なりに費やして下さい。」
縛られた私に振るわれる鞭を止めた女の子は、静かにそう言った。
「ジュエルシードを早く集めたいのでしょう?だったらこんな時間も惜しいはず。余計な事をして願いが叶わなければそれこそ無駄でしょう。」
母さんは少し考えるようにした後、私の戒めを解いてくれた。
「そうね、確かに時間は惜しい。早く行きなさいフェイト、今度は母さんを失望させないで。」
「ハイ…」
開放されたものの、私は素直に喜べなかった。
結局、母さんの願いには届いてなかったし、いきなり私の前に割って入ってきた彼女について何も知らないから。
「自己紹介が遅れました。私はリライヴ、ジュエルシード探索の為にプレシアに雇われた流れの魔導師です。貴女のサポートをします。」
「…必要ない。」
私は彼女を置いて戻ろうとする。と…背中から彼女の溜息が聞こえて…
「そうやって、また期待を裏切る結果を持ってくる気ですか?」
「っ!」
私は彼女の言葉に振り返る。私と殆ど変わらない年に見えるその娘は、肩を落として呆れていた。
「私はプレシアに雇われた身です。貴女が無茶をしようと結果がでなかろうと関係はありませんが、プレシアからそれなりの給金を貰っている私に何もさせない気ですか?」
「それは…」
母さんがわざわざお金を払って雇った人。つまり彼女は母さんの判断でいる。
私が言っている事のほうが我侭なのだろう。
と、リライヴは私の傍まで近づいて、私の両手をとる。
癒しの魔力が流れてきて、速人の封印を手伝った時に出来た傷が癒えて行った。
彼女は綺麗に笑う。
「大丈夫ですよ、私はあくまでサポートです。ジュエルシード収集の功績はあくまで貴女のものです。貴女が全力で戦えるようにするだけですから、プレシアを喜ばせるのも貴女の力ですよ。」
「ぅ…」
見透かした様な、それでも否定できないリライヴの言葉。
悪い人じゃないのだろうけど、何か嫌だった。
Side~クロノ=ハラオウン
ロストロギアがらみの事件が起こっている第97管理外世界、地球。
…ロストロギアが絡む事件は、欲に塗れた人間の陰謀にしろ、無力な人間が手にした事による事故にしろ、無条件発動にしろ、その強大な力のせいでろくな事にならない。
「今から気張ってて現地についてダウンしたらまずいんじゃないの?」
「問題ない、相手がロストロギアなんだ。緊張している訳じゃないし、気を張る分には張り過ぎと言う事はない。」
「一人、気張り過ぎな子が居るけどね。」
艦長の言葉に、この場に居るべき役一名がいない事に気づく。…まったく、またかアイツは。
「ちょっと行ってきます。」
「クロノ君も大変だ。」
僕はエイミィの言葉を否定する事も出来ずに、僕は訓練所に向かった。
ロストロギア絡みで現地に魔導師まで居るという状況だったため戦力を貰えないか依頼した結果、僕らが受け取った『厄介者』。
彼は、周りの事を一切気にする事無く訓練場でそのデバイスを振り回していた。
一つ一つの動作が綺麗で、かなりの重さがある攻撃。
細く長い槍状になったデバイスの先端のみが、黒い光を帯びていた。
ミッドチルダ式デバイスを使用しているくせに完全近接戦という異端スタイル。
何気ない一振り一振りが、AA程度の魔導師の防御魔法なら、防御魔法を切り裂き、デバイスを断ち切り、バリアジャケットをパージさせるという馬鹿げた威力。
魔力の全てを先端の一端に折りたたむ事で絶対的な破壊力を得て、立ちふさがる全てを貫く集束刃の使い手。
僕でも遠距離戦に徹しなければ勝つ事が出来ない実力を持つ。
人の気分などまるで考えない任務遂行人。
「いい加減に温存してくれないか?いざと言うときに消耗していては話にならない。」
彼はデバイスを振るう手を止めて僕にまっすぐに向かい合う。
「管理局は慢性的な人手不足。それで今の事件に当たる余裕が出来たとしても今後のためになるかは別問題です。私としては魔力や身体能力の成長の早い現段階で温存などという真似はあまりしたくは無いのですが?」
「本当に相変わらずだね、フレア。」
彼…フレア=ライトは僕が引く気が無い事を察して、デバイスを待機状態に戻す。
彼は僕と同期で、訓練時代を共に過ごした仲だった。
「君の力はかなり頼りにしているんだ、肝心なところで疲れていてもらっては困る。」
「執務官ともあろう方が随分弱気ですね?」
こういう台詞を嫌味でもなんでもなく平気で言うため、誰彼問わず扱いに困られている。
そういう意味での厄介払いなのだが、戦力としてはかなり頼りになる。
「用心して過ぎる事はない、ロストロギアが関わっているんだから。」
「それだけではありません。今回我等が行くのは魔法を持たぬ管理外世界。ロストロギアの様な異物に対する対抗手段が無いはずです。必ずや無辜の民を守らねば。」
どこまでも守る事に真摯な姿勢を見せるフレア。
こういう所も相変わらずなようだった。
地球に下りる時は近い…
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