第二十五話・傷ついた翼
Side~八神はやて
「こんのアホ…事件のたびに死に掛けんと気がすまんのか?」
斬撃の怪我、無視して半端な応急処置のみでの無茶な飛行によって傷が開いたせいで失血、限界まで絞った魔力によるブラックアウト、神経系を異常に酷使した反応まであるらしい。
何でこんな状態になるまで単騎突撃かましとるんや…レヴィちゃんがおらんかったら本気でやばかったらしいし。
にしても…速人君でも勝てんかった…か。
スバルから聞いた話だと、デバイスごと斬り裂かれたらしい。
いくら速人君の魔力が高くないって言っても、大した斬撃や。しかも、ただの大振りなら速人君はまず当たらん、度が過ぎるほどタイミングがいいのか、何か特別な技でも使ったのか…
「いずれにせよ、ここまでやな。」
これだけの大事にリライヴを使ってこんかったって事は、ヘリを撃ち墜とそうとした件で逃げたか何かしたんだろう。
そうでなかったとしても、どの道この怪我では参戦させる訳にも行かない。何しろ局員でも無いんだから。
拘束具でもかけて謹慎させとこう。犯罪者って訳でも無いけど放置しといたら脱走しかねんしな。
そうとなれば準備もいる、さっさと指示を出そうと病室を離れ…
『ごめん。』
「っ!」
病室を離れて少しした所で、そんな念話が届き、慌てて病室に戻ると、風が吹き込んできた。
開いた窓から入る風にカーテンが揺れ、速人君の姿がなくなっていた。
「はぁ…本当しょうがないな…」
絶対大人しくしとる訳が無いとは思っとったけど、まさかあの怪我で初日で意識取り戻すなんて。
次間違いなくでてくるだろうと思うと、頭の痛い話だった。
なのはちゃんどれだけ泣かす気なんやろうな…あのアホ…
SIDE OUT
人気の無い森の中、俺はユーノに回復魔法をかけてもらいつつ現状を説明した。
「つまり…完璧に負けた挙句、手伝いの真っ最中に正規の手続きも無いまま脱走してきた…と。」
淡々と告げるユーノ。俺はそれを無言で聞いているしか出来なかった。
全く何の反論も出来ないな、情けない話だ。
暫く黙っていると、ユーノは溜息を吐く。
「余裕無いね…らしくない。」
「正直…余裕は無い。」
絶対になのはを泣かせているし、ヴィヴィオだって今頃どうなっているか分からない。
この状況で余裕を気取るのはさすがに無理がある。
「もう諦めたの?」
「まさか!だったら病院のベッドでゆっくりしてたさ。ただ…それでも今傷ついているだろう人が多すぎるのに変わりは無い。」
今回自体が既に失態だと告げると、また呆れるユーノ。
「傷つくって心配するなら大人しくしてなよ、君が抜け出した事は間違いなくなのは達の心労を増すのに一役買ってるよ。」
「うぐ…」
つくづく正しい指摘だった。
とは言え、あのまま寝てたら最後出れずに後日話を聞いて終わりって感じになりそうだったし、何より今する事がある。
「僕もやる事があるからそんなに出て来れないとは思うけど…あんまり無茶しないでよ?こんな森の中で倒れたらそれこそ誰も気付けないからね。」
「分かってる。治療サンキュー、ユーノ。」
さすがにシャマル先生ほどではないが、サポート全般に凄い才を持ってるユーノは当然回復魔法も結構出来る。
身内はフレイアが少し出来る位で、シュテルも応急処置レベルだし、後の二人に至っては回復魔法なんて論外。かすり傷なら忍さんやすずかに舐めてもらえば治るが、さすがにこうもバッサリ斬られてるとそれも難しいだろう。と言うか、治ったとしても中々頼むには抵抗ある話だし。
そんな訳で無理してきてもらったんだが…治療関係もつて探すなりしておいたほうがいいかな?
「ああ、それと…本番に動ける程度にしておきなよ?」
去り際にそんな事を告げてユーノがいなくなる。
少しして、一つの木の影からフレアが顔を出した。
「私も気付かれていたか?」
「お前がいた事は気付いて無いと思うけど、俺のやりそうな事がわかったんだろ?頼りになる友人だよ、ホント。」
背中を預けていた木を離れて立ち上がり、ナギハを抜いてフレアと向かい合う。
「その怪我でどうする気だ?まさか今更単なる戦闘訓練の為に呼んだ訳でもあるまい。」
「ああ、ちょっとやりたい事があってな。」
疑惑雑じりのフレアに対して手っ取り早く不毛な心配だと証明する為に斬りかかる。
フレアは辛うじて捌いたものの、斬撃の軌道を見て顔色を変えた。
前にナギハを降ろした俺は、驚くフレアに笑いかける。
「ちょっと遠慮して使ってなかった物を完全に使えるようにしておきたくてな。何、おさらいみたいな物だからそう手間じゃないだろ。」
「そう言う事か。」
納得が行ったらしいフレアが構え直し、再び斬撃を交えた。
正直、本当に少しでも拾える物は拾っておかないと。
神速の使い過ぎのせいか鈍痛が頭に残ってるし、リンカーコアのほうも暫く完全回復はしないだろう。別に身体のどこかがぶっ壊れてる感じは無いから暫くすれば治るだろうが…敵の動きが速ければ回復前に次があることも考えられる。
どうせ攻撃直撃する訳には行かないんだし、傷はあってもなくても関係ないが…神速がろくに使えなかったりそもそも空中にいられなかったりしたらかなり戦力が落ちる。
このまま…終わらせる訳には行かない。
Side~ティアナ=ランスター
シグナム副隊長が仕事を変わってくれて、スバルの様子を見に行くように薦められたあたしは、病院に来た。
んだけど、スバル達のところに行く前にヴァイス陸曹に顔を出すよう言われた私は、ヴァイス陸曹の病室へ向かっていた。
正直少し予想外だったのでスバル達用の差し入れしか持って来て無いのは失敗したかな?何て少し場違いな事を考えつつも陸曹の病室に入る。
「よう、わざわざ呼び出して悪いな。」
「いえ。お加減はどうですか?」
「手抜きされたお陰で大した怪我はしてねぇ、後頭部をやられたんで少し頭が痛いがな。」
そう言って笑うヴァイス陸曹は、何処か浮かない様子を隠しきれないようだった。
…無理も無い、こんな事になってしまってシャーリーさんの悲痛な声も廊下まで聞こえていたくらいなんだ、誰だって平気な顔していつも通りというわけには行かないだろう。
「お前もさっさとスバル達んとこ行きたいだろうしとっとと本題に入るが…心して聞けよ?」
「はい。」
珍しく…というと失礼だけど、かなり真面目な話だったようなので答えるように頷く。
わざわざあたしを直接呼んで話すことなんだ、それだけあたしにとっては重い話には違いない。
「敵に…ティーダがいた。」
ヴァイス陸曹が告げた一言は、真剣に聞くつもりでいたあたしの心構えを丸ごと吹き飛ばすほどに衝撃的なものだった。
「まさか、そんなはず…」
「普通に言ったら冗談にしか聞こえねぇか。実際向こうも俺の事を知ってる訳でも無いようだったし、それで死人と同一人物だなんて確証が薄すぎらぁな。」
理解が追いつかないあたしを前に、ヴァイス陸曹は次々と確証が薄い理由を返す。
それは逆に、これだけ確証が薄い理由が揃っていてもまだ尚こんなことを伝える位の何かがあることを示していた。
「けど…多重弾殻狙撃を気付いてない所から撃たれて、それに反応した挙句速射で撃ち落すなんて真似が出来る奴を、俺はアイツとなのはさんのほかに知らない。妙なところで詰めが甘いのもくそ真面目なところもそっくりで、しかもアイツ、エリオにクロスファイアを使ったらしい。」
何処か懐かしむように告げるヴァイス陸曹。
兄が得意としていたのは、高速精密射撃だった。中距離で最速の反応と命中精度を以って射撃を行う、あたしがずっと追って来たスタイル。
さすがに一度見た地球のビデオに映っていたあの人ほど出鱈目ではなかったけど、目を閉じればいつでも思い出せる兄の射撃、弾速と反応はなのはさん以上だったんじゃないかとすら思う。
「記憶は無いんだろうが、動揺を誘うのが目的で似せて作ったなら記録情報位は植えつけるはずだ。となるとまるっきり俺に反応しなかったのもおかしいし、洗脳されている人間のような反応じゃなかった。」
証拠があるわけじゃないけど、可能性のレベルでなら十分に高い。
まして…
「ヴァイス陸曹は…兄をご存知だったんですか?」
これが真実なら。
「…お前の言う通り、昔コイツをやってた関係でちょっとな。」
そう言って、指で銃を形作るヴァイス陸曹。事件前に失礼と分かっていてした質問も流されたし、身勝手に聞き出していい話でも無いんだろう。
ただ、そうなると少し気になることがある。
「何でわざわざ呼び出してこの話を?」
自分の話したくも無い頃の話も関わってくるはずの事を、わざわざ呼び出して聞かせてくれた理由が分からない。
だから聞いたんだけど、ヴァイス陸曹は呆れたように首を横に振った後にあたしを横目で見てきた。
「お前スバルを励ますつもりじゃないのか?んで、クロスファイアを似た顔に打たれたエリオだってこの事を大体は知ってる。急に話題に出てミイラ取りがミイラになったらどうすんだ。」
「あ…」
わざわざ前もって話を聞かせてくれたのにはそんな訳もあったんだ。
「俺からの話はここで終わりだ。あんまりゆっくりもしてられないだろうが、顔出す前にちっとは落ち着いとけよ。」
「はい、ありがとうございます。」
兄さんが生きている?
想像もしないいきなりの事態に確かに混乱があるし、まだ相対して無いから実感が沸かないけれど、もしそれが本当なら…
止めるんだ、必ず。
何一つ責めを負う必要の無いはずの兄さんに着せられた汚名を拭う為に、あたしはここに来た。
だと言うのに、これ以上こんな事件でその力を振わせる訳には行かない。
Side~八神はやて
この期に及んで未だ捜査協力を行う気が無い、明らかに何かを伏せている体の地上本部に確信に近い嫌なものを感じて、オーリスさんへ事情聴取を行う為顔を出したのだが…
「随分な物言いですね、民間人まで引きずり出した挙句に負傷させた部隊の長が。」
「っ…」
あらかたの予測を語った段階で、何の否定も出来ない事実を返された。
リライヴの異常な戦力が知れ渡ってる関係で次元…本局や教会、海にとっては多少彼女が関わった案件の失態は責めに挙げられ無いようになっているとは言え、地上にとっては関係もなく、前回査問を回避されたのは速人君が裏技を使ったから。
確かに人の揚げ足だけ取るにはあまりに無様な有様だ。
「貴女は…闇の書の罪を恐らく否定しない。この場で言及しようと、大々的に明るみに出そうと、全てを被り受け入れるつもりなのでしょう。が…懇意で伏せられている貴女の元家族の事実まで引きずり出す覚悟がありますか?」
「それは…」
間違い無く危険因子である闇の書本体の管制人格だったフレイアと闇の書の闇から生み出された宵の騎士の三人。
事実の全てをとなると彼女達も速人君も纏めて巻き込む事になる。
「別にできなくても構いません。しかし、彼が言うには『お互い様』にして欲しいとの事ですが…自分に関わる全てを開く覚悟が無いまま中将だけ罪人に『仕立て上げよう』と言うのは、あまりにも勝手が過ぎるように思います。」
仕立て上げる…か。
確かに、証拠も令状も無いままの追求にこう返されてはこれ以上は、あまりにも状況が悪すぎる。
「これ以上追求すると言うのであれば、この緊急事態が収まった頃合にでも令状なり何なりを持ってきて下さい。我々も今は地上を護る為に全力を注がなければいけませんので。」
今回はこれ以上は無理だと悟り、去って行くオーリスさんの背を眺めながら歯噛みする。
と、途中でオーリスさんが振り向いた。
「一民間人からの意見ですが…平和と幸せを護るのなら、陸だろうと本局だろうと関係ないそうですよ。貴女もこんなところで暗躍せずに、そちらに尽力してはいかがですか?」
「随分速人君に影響されたようですね?」
一民間人とか言っているが、そんな事を言ったのは間違いなく速人君だろう。
何も出来ずに終わるのも嫌だったので、気になった点で聞けることは聞いておこうと思って聞いてみると、オーリスさんの硬い表情から少し力が抜けたように見えた。
「…忘れた物を、思い出させるような瞳をしていましたから。」
結局返してくれたのはその一言だけだったけれど、それだけで何となく悟った。
裏技…詳細は聞いて無いけど大方脅迫まがいの何かなんだろうそれを、普通に綺麗な瞳でやってのけたんだろう。
普通の人にとっては黒い事でも、『子供の死体作り』に比べれば大した事でも無い。
けどオーリスさん…今の言い方やと速人君に会うまでその『忘れた物』は忘れたまんまやったって事になるけど、それでええんか?
中将がこの事件に関わっている場合手遅れだと言うのに、今更思い出したオーリスさんに少し虚しさを感じつつ、帰り道へと足を向けた。
Side~フェイト=T=ハラオウン
「なのは?」
「フェイトちゃん…」
何をするでもなく夜空を眺めていたなのはに背中から声をかける。それで初めて気付いたように、なのはは力なく振り返った。
「どうしたの、こんな所で。ヴィヴィオの事…考えてた?」
ヴィヴィオの名前を聞いて明らかに表情を歪めたなのはは、顔を背けて再び夜空を見上げた。
「フェイトちゃんも聞いてたよね…『私は空の人間』だって言った事。」
自嘲気味ななのはの呟き。
空を見上げながらそんな事を言われたらさすがに不安になる。
「なのは、それは…」
「心配しないで、むしろ逆だから。」
どういう意味かと問いただそうとした所で、なのはに制される。
「また墜ちるかも知れない…現実何が起こるかわからないから母親と慕ってくれるヴィヴィオを傷つけたくなくて、ずっと引き取るのを渋ってたんだから…そんな私が、ヴィヴィオが攫われた事にどうこう思うなんておかしいんだよね。かもしれない悲劇の一つが起こっただけなんだから。」
「なのは…」
淡々となのはがそこまで話してくれて漸く、何でああも悲しそうにあの言葉を言ったのか分かった。
私は空を見上げるなのはを後ろからそっと抱きしめる。
エースと祭り上げられるにはあまりに不釣合いな小さな肩から、震えが伝わって来た。
「理屈ではそうだって分かってるのに…全然ダメなの。ヴィヴィオが今頃寂しい、苦しい思いをしてるんじゃないかって考えただけでどうにかなりそうなほど苦しいの。自分の怪我ならあれだけ残酷な理屈を平然と言えたくせに…」
私の腕を引き剥がすようにして振り返ったなのはは、私の両肩を掴んで俯く。
「私…今更こんな事…ごめんフェイトちゃん、ヴィータちゃん、皆…」
「大丈夫、大丈夫だよ…」
縋り付いて泣いているなのはをもう一度抱きしめる。
『アイツが無敵のエースでなくてもいい場所になってやっててくれ。』
速人が頼み、私が望んだ事を思い出す。
空戦でオーバーSの魔導師なんて本当に稀少で規格外。しかも二度も大事件を納めた実績もあるなのはに向けられる目は、自然そういうものになる。更に、なのはは人一倍『迷惑をかける事』を嫌っている。
そして…なのはは強いけど、女の子だ。純正の戦士である恭也さんほど戦いだけに生きてはいないし、速人のように壊れてもいない。
なのはが一番今悲しんでいるのはヴィヴィオの事の筈なんだ、失言がどうとか気にして私達に謝る必要なんて無い。
「出る理由ははやてが何とかしてくれる、今は他の隊員もいない。何より私は、なのはの支えになりたくてここにいるんだから…素直に泣いていいんだよなのは。」
「っ…うん…っ!!」
無理しないでと伝えるように、優しくゆっくりと言葉を紡ぐ。
と、頷いて返してくれたなのはは、私の胸に顔を埋めて言葉になりきらない声を上げて泣き続けた。
ヴィヴィオの名前を呼ぶ中で、時折速人に謝る声が混じる。
…速人の馬鹿、なのはの事泣かせてばっかりじゃない。
あんな怪我なのに病院を抜けて、まず大人しくはして無いだろう速人の事を考えると、さすがに少し怒りたくなってきた。
SIDE OUT
「っ…ぅ…」
夜の闇につつまれ殆ど何も見えなくなった森の中。不意に襲ってきた頭痛に、ナギハを振るう手を止め額を抑えて木に背中を預ける。
こりゃ、誰かに呪詛でも送られてるかな?
怒られる心当たりが多すぎる自分に少しばかり呆れつつ頭痛が治まるのを待って…
「ふぅ…っ!!」
痛みが引いた所で、木の背後から首筋に短剣を添えられている事に気が付いた。
前方へ踏み出しつつ旋回して、背を預けていた木を見る。
「や、久しぶり。」
「何だ、リライヴか…」
そこにいたのは、全身を隠すような黒いローブから顔だけ出したリライヴだった。
短剣状のデバイスを待機状態に戻しつつ軽い挨拶をしてくるリライヴに、やばい連中じゃないと知って息を吐いた。
「む…なんだとはご挨拶だね、局と一緒に捕まえるんじゃなかったの?」
「そのつもりだが…今はお前の相手は『二の次』だからな。見ての通りの体調だからさすがにそんな余分に体力裂いてられないんだよ。」
むくれるリライヴの抗議を無視して肩を竦めつつ答える。
「参考までに私より先に片付ける用事を教えてくれない?」
「攫われたなのはの娘と隊員の救出が一、馬鹿科学者叩きのめして局に差し出すのが二。で、お前は文字通り二の次だ。」
「成程、確かに文字通りだね。…ってなのはの娘!?あの娘いつの間に…」
聞いてきたから素直に答えてやると、少しの間を置いて妙なところで驚くリライヴ。
「ちなみに養子な?いつだったかヘリごと撃たれかけた子。」
「だよね…ビックリした。」
念を押して伝えておくと、胸をなでおろすリライヴ。
それにしても、その『子供何ていないはず』みたいな驚き方は何なんだと問い詰めたい。まるでなのはが結婚できそうに無いみたいじゃないか。まぁ、俺も少しは嫌な予感はしてるけど…
「逸れた話題は置いておくとして…お前の現状でも」
「脅迫受けて逃走中の身でね、あんまり向こうの皆が不利になる話は出来ないんだ。」
「…律儀な奴。」
こんな森の奥で俺一人相手に話した所で情報ソースがリライヴだってスカリエッティたちに知られる確率なんてそう高いものでも無いだろうに。
「前回の大騒ぎの少し前に詰問受けて、グリフにやられた怪我を治しつつ潜伏中だったんだけど…速人が負けるようじゃ私も斬られる訳だ。」
「ぐっ…」
楽しそうに告げられたリライヴの台詞に、大見得切ってアッサリ負けた事を思い出して額を抑える。
そんな俺の様子を見ていたリライヴの表情から、唐突に笑みが消える。
「大丈夫なの?私が脅かせる位に接近しても気付けないほどの体調不良なんて普通じゃないよ?」
「おいおい…二の次とは言え交戦予定の相手の心配なんて」
「茶化さないで。本気でそう思ってるなら…これ以上聞かないけど…」
流そうとした俺の言葉を切ったリライヴは、最後少し悲しそうに目を伏せた。
何でかは分からないけど本気で心配されてるようで悪い気がした俺は、胸を張って答える。
「ま、問題ない。ゆっくり寝れば治るさ。」
「こんな森の奥で言う台詞じゃないよ…」
心配かけまいと笑顔で答えた事を察したらしいリライヴが苦笑しながら肩を竦める。
「お前はどうするんだよ。脅されてるから動かないのか?」
「最高評議会。」
コイツがこのまま黙って大人しくしている訳が無いと思って聞いてみると、思っても無い方面の名前を持ち出された。
「それって確か…管理局設立前から動いてる局の裏方だよな?」
「スカリエッティのクライアント。レジアス中将に表を任せてたみたいだけど…」
「あー…レジアスさんやっぱ関わってたか…」
思っても見ないタイミングでのネタバレに頭を抑える。
戦闘機人や人造魔導師を戦力にしたかったんだろうな…地上で戦力増やそうと思ったら方法も限られるし、幾らか妙な情報改ざんもしていたからあたりだろうとは思ってたけど…
「ああまで派手に動いた以上、ただのスポンサーの敵に回ってもスカリエッティの邪魔にはならないだろうし、とりあえず連中を表舞台に引きずり出す…つもりで今日こっちに来た所だったんだ。」
「成程ね。でも大丈夫なのか?脅迫受けて逃亡するようなお間抜けさんが潜入捜査なんて。」
「う…」
ニヤニヤしながらの俺の突っ込みに、意気込んでいたリライヴが目を逸らす。
「…ま、何にしても気をつけろよ。管理局の中核を本気で敵に回すって事は今の所複数世界を敵に回すのと同義なんだからな。」
「裏方を表に引きずり出すだけだよ、暴れる訳じゃないんだから大丈夫。」
握った拳同士を軽く打ち合わせると、ローブを被りなおしたリライヴは森の闇に消えていった。
しかし、全く表舞台に出てこない管理局の中核が主犯か…こりゃ俺のほうも手を打っておいたほうがよさそうだな。
Side~リライヴ
『つくづく変わった人ですね、彼は。』
「そうだね。まさか罵声の一つもない所か心配されるなんて思わなかったよ。」
派手な飛行では目に付きやすいからと言う理由で、イノセントと話しながら森を歩く。
『二の次とは言え…敵に回るのは嫌ですか?』
「んー…でもしょうがないよ。救えればそれで終わり…って訳には行かない一団に協力してたんだし。」
それ以外にも色々やってるし、被害も出てると言えば出てる。速人が止めに回るのも無理は無い。
『しょうがない、と言う事は暗に敵に回るのは嫌だと言っているようなものですよ?』
と、自分で納得しようとしていたところにイノセントから冷や水を浴びせるかのような指摘を受けた私は足を止めた。
「…確かに嫌だけどさ。結構憧れてるし、改めて一人になってやっぱり少し寂しいしね。」
『でしたら』
「でも。」
恐らく投降なり共闘なりを薦めようとしているのだろうイノセントの言葉を断ち切る。
「管理局に協力してやる気も無いし、頭を下げる気なんてもっと無い。」
『…そうですか。』
断言すると、機械音声の癖に何処か残念そうな返答を返すイノセント。
デバイスとして『機能』するだけならここまで感情豊かに喋る必要も無いだろうに、一人でうろついている私の為にか妙に色々と身に着けているイノセント。
そんな相棒を前に暗いままと言うのもごめんだったので笑顔を作って言葉を続ける。
「速人に『もう無闇に動かないからどうにかして』って頼んだら、きっと頑張ってくれるとは思うけど…それはそれで…ね。」
『似合いませんね。』
「そっちに突っ込むんだ、酷いなぁ。」
情けないと言うつもりで言ったのに、似合わないと返された。
どうせ助けられるお姫様役なんて似合わないのはわかってるけど、断言しなくてもいいのに…
SIDE OUT