なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第二十四話・二重の限界

 

 

第二十四話・二重の限界

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

「はあっ!!」

「っ!」

 

長身の戦闘機人の蹴りを受けた私は大きく飛ばされる。

取り急ぎ体勢を整え追撃に備える私を無視して、長身の戦闘機人は私から離れる。

 

彼女の行く先を目で追うと、二対のブーメランを手にしたもう一人の戦闘機人の少女に攻勢に出ていたフレア空尉を止めるように、長身の戦闘機人が攻めかかっていた。

 

 

空の戦局はこんな調子で、とにかく荒れていた。

 

速度では私と長身の戦闘機人が有利で、斬り合いではフレア空尉が一番腕がいい。

けど、私単独では長身の女性に全体的に圧されてしまう。

かと言って彼女が私にかかりきりになれば、フリーになったフレア空尉がもう一人の戦闘機人の少女を墜としにかかる。そんな乱戦が続いていた。

 

 

空尉でも二対一では不利が過ぎるので、すぐに手伝いに向かう。

と、私が追いつく前にフレア空尉から距離を取る戦闘機人二人。

 

向こうが体勢を整えるのであれば此方もと言う事で、フレア空尉と肩を並べて構える。

 

 

 

が、距離を取った戦闘機人の二人は武器を下ろした。

 

いきなり何を…

 

唐突に交戦を止めた二人に疑問を抱くが、長身の戦闘機人はそんな私の様子を気にすることも無く、いきなり語り始める。

 

「我々は本来、貴女と戦う必要はありません。協力していただけませんか?ドクターもそれを望んでおられます。」

 

戦闘機人は、私だけを見て言っていた。

 

「ふざけるな!誰がスカリエッティのような最悪の犯罪者に協力など!!」

 

正気で言っているのかと憤る私を前に、二人の戦闘機人は何故か悲しげに目を伏せる。

 

「悲しい事を言わないでください。ドクターは、貴女やあの少年の産みの親のような物ですよ?」

 

あくまで訴えかけるような長身の戦闘機人。

彼女が言い切る前に、もう一人の少女が少し前に進み出る。

 

「それに…リライヴから聞いています、貴女は犯罪であってもそれが親なら協力できるのでしょう?」

 

 

 

なのに何を怒る?と言わんばかりに首を傾げる少女。

悪気は無いようだったけど、私の中で何かがキレた。

 

 

「ですからドクターにも」

「黙れ!!!!」

 

続けようとする彼女に対してカートリッジを問答無用でロードし、一気に迫ろうと構え…

 

 

 

横から頬を叩かれた。

 

 

 

「っ…フ、フレア空尉?」

「人形風情の言葉に踊らされるな、素人かお前は。」

 

少し呆れたような空尉。

そんな空尉の言葉が勘に触ったのか、今度はさっきまで諭すように語っていた二人がその表情に怒りを宿す。

 

「彼女も同類だ、言葉には気をつけたほうがいい。」

「っ…」

 

長身の女性が告げた言葉は、私の胸に深く突き刺さる。

 

作られた身。

 

そういう意味では私も結局彼女達と変わらず、犯罪を犯していた親に協力していたという意味でも変わらない。

私に彼女達を責める資格何て…

 

 

 

 

「魂が無い。」

 

 

 

 

空尉はその一言で、私の思考も彼女達の怒りも断ち切った。

 

「お前達は高性能だが…それだけだ。意思も願いも感じない。母親を想っていたフェイト=テスタロッサと生産されて起動しているだけの貴様等では訳が違う。」

「フレア…空尉…」

 

思いがけない人から送られた温かい言葉に、胸に湧いた黒い気持ちが霧散していくのを感じる。

と、長身の戦闘機人の女性がフレア空尉を鋭い目で睨む。

 

「戦局を優勢にする為に味方を見捨てた人間に魂などと…」

「当然だ。」

 

思いもしない、でも空尉ならやっていそうな話を告げられ困惑する中、当の空尉は迷い無くデバイスを構える。

 

「無辜の民を守り、災厄を止める為に。それが私の一念だ。」

 

それ以上の問答は無意味とばかりに戦闘態勢に入る空尉。その横で、私は選んでここにいることを示すように静かに構えた。

意図が通じたのか、長身の女性は少しだけ残念そうに肩を落とす。

 

「もし、貴方の魂と言うのがそれであるならば、貴方が真っ先にその槍を向けるのは我々なのですか?」

「何?」

 

そんな私達を前に、新たに問いを投げかけてくる女性。

予想もできなかったはずの問いに、空尉が珍しく反応を示す。

 

「全てが終わった後、機会があればまた…」

 

そこまで告げると、視認限界に触れる程の速さで去っていく二人。

あれは…追えないか。

 

「あの…空尉、先程はありが」

「不要だ、他に行く。」

「あ…」

 

暴走しかけた私を止めてくれた事、想いがあるから人形じゃないと言外に告げてくれた事にどうしてもお礼を言いたかったんだけど、空尉は一切待たずに飛んでいってしまった。

 

空尉が自分で言っていたように、ただこの災厄を止める為に全力を尽くしているんだろう。

なら…お礼を言う暇があるなら動く。それがきっと何より空尉への返礼になる筈だ。

 

私は先行したエリオとキャロに追いつくため、全速力で六課に向かう事にした。

 

 

 

Side~キャロ=ル=ルシエ

 

 

 

ヴォルテールを召喚した私は、ガジェットを焼くヴォルテールをよそに炎に呑まれた六課を眺めていた。

 

フェイトさんに恩返しがしたくて、力になりたくて来た六課。スバルさんとティアナさんのようなパートナーに憧れて、エリオ君とそんな関係に近づけたように感じて、訓練は大変でいろんなことがあった場所。

 

そんな思い出の場所が、ボロボロに壊されて焼かれていく。

 

エリオ君が必死で助けようとしたヴィヴィオも攫われてしまって、私は何も出来ないまま墜とされて…

 

一気にガジェット群を飲み込むほどの炎を放つヴォルテール。こんな力があっても、何一つ戻らない。

泣きながら眺めている事しか…

 

 

 

「…え?」

 

 

 

突然、妙な方向から頬を撫でる風。

空を見ると、『何か』が風に乗って飛んでいくのが見えた。

 

向かう先は、戦闘機人達が去っていった方角。

風に、エリオ君やフェイトさんの電撃のような魔力を感じる。

 

「速人…さん?」

 

変換資質だけでも珍しいのに風なんて速人さんぐらいしか知らない。

でも、もう戦闘機人たちの姿は見えなくすらなっているのに、明らかに深追い…

 

 

 

誰一人見捨てる気が無い。

 

 

 

危険因子と言われても選んできた、速人さんの願い。

ただそのままに動いているだけなんだ。

 

『キャロの魔法は皆を守ってあげられる、優しくて強い力なんだから…ね。』

『んじゃ、そう出来るまで頑張ってみる?』

 

…私は、この問いに何て答えた?

 

「っ…」

 

視界を妨げる涙を拭う。まだ…まだ出来る事はある。

 

「フリード、怪我した人を安全なところへ運ばないと…もう少し、頑張って。」

 

私は私の答えのままに。

フリードが答えるように鳴いてくれたと同時、私は炎に包まれた六課に向かっていた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

ただひたすらに流れを加速だけにつぎ込んで、風を受けて空を飛ばされ続ける。

最大速度にもなると呼吸自体出来なくなるが、どうせ数分なら無呼吸でも耐えられるので無視して加速を続けると、いくつかの光が飛んでいるのを見つけた。

 

 

 

見つけた…間に合ったか?

 

 

 

急停止出来るものでも無いので加速だけを中止する。残った勢いに圧されながら減速しつつ近づいていき…

 

光を放つガジェット群を通り過ぎ、前方の空中にいつも通り着地した。

 

 

「貴様は…」

 

警戒するトーレを無視してヴィヴィオの姿を探す。

少し遅れて飛来するガジェットの一機に、前回の事件の時に現れた召喚士と共に乗っているヴィヴィオの姿が見つかった。

 

 

間に合った…後はこいつらを片付けるだけだ。

 

 

『結局どう転んだって私には普通の母親なんて無理だよ!!』

 

 

ヴィヴィオの幸せのため、護り手を…いつ倒れるか分からない仕事を捨てられない自分の傍にいてはいけないと悩んで泣いていたなのは。

兄さんと戦っても、墜とされて魔法を使えないと言われても、本気で想っていた教え子に罵声を向けられても泣かなかったアイツが、それ以上に苦悩していたトラウマと…何よりもヴィヴィオの母親になれない事を泣くほど悲しんでいる。

ヴィヴィオの方だって、転んで痛がってても起き上がるまで放置されるようななのは相手になついてる位なんだ。

保護者なんて名目でなく、心で繋がってる事なんて目に見えてる。

 

終わらせて…たまるか。

 

「ヴィヴィオは……返してもらう!!!」

「AMFを展開しろ!コイツの魔力ではAMF内での魔法行使など出来まい!」

 

跳躍の瞬間AMFが展開されるが、知った事じゃない。

俺は指鋼線を傍のガジェットに巻きつけて腕を引く。

 

鋼線を引いた力でガジェットに飛び乗った俺に向かって、トーレと先に交戦したノーヴェとか言う格闘系の少女が接近してくる。

 

 

 

神速。残り十秒内でけりをつける!!

 

 

 

寄って来た二人の攻撃が届く前に軽く斬り伏せて、トーレを足場に跳躍。

射撃体勢に入っていたヴィヴィオの傍のガジェットに乗っていた男の肺に徹を叩き込む。

 

後一回の跳躍でヴィヴィオの場所まで届く。

再度跳躍した所で、ガリューとか言うらしい黒い虫が飛来してきた。爪を伸ばした腕を突き出してくるガリューの腕を取って引き寄せ、その頭を足場に…

 

 

 

 

瞬間、視界が弾けた。

 

 

 

「あ…がっ…」

 

頭に電撃でも流したかのように、視界が点滅し頭痛が走る。

 

 

 

神速の使用限界?

 

 

 

それしか原因は浮かばない。まさか身体じゃなく頭にくるなんて…

跳躍し損ねた俺はガリューから足を滑らせる。

 

まだだ…AMF内だからって足場数回作る位!!!

 

全力で魔力を通して足場の生成を行う。

グリフもいないってのに神速使えないくらいで…

 

 

 

跳躍しようとした瞬間、何かを踏み抜いた感触があった。

 

 

『申し訳ありません、魔力限界ですマスター。』

 

身体の奥底から意識を引き抜かれるような感覚の中、最後にナギハからそんな声が聞こえて来た気がした。

 

 

 

Side~トーレ

 

 

 

跳躍用に使っているらしい足場の強度が足りなかったのか、踏み抜くと同時に落下していく男を見ながら、私は戦慄を感じていた。

 

何をされたのかも分からないうちに斬りつけられ、アムネジアも一撃で呼吸困難に貶められた。

この男の魔力値では普通にやったのでは不可能なほどの飛行速度で我々に追いついてきて、明らかな重傷で我々に突撃。

 

しかも…狂気でも怒りでもなく、正気だった。少なくとも瞳を見る限りでは。

 

正気だからこその異常。

完全に多勢に無勢で将の役割を担うだけの戦闘機人である我々も集結していると言うのに単騎で現れるなんて真似を、正気でやる人間などどうかしているとしか思えない。

途中この男に異常が出なければ、合流の遅れているセインとグリフ以外の全戦力が揃っていると言うのに、これだけの人数差でも全滅させられたかも知れない。

 

 

この男…危険すぎる!

 

 

「く…っ!チンク!!」

「分かっている!IS、ランブルデトネイター!!!」

 

 

生かしておけない。

 

 

チンクも悟ってくれたか、一切の容赦なくISを放つ。

多数の金属ナイフが男に殺到した直後、盛大な爆音が響き渡った。

 

「…やったのか?」

 

深めに斬られた腿を押さえながらノーヴェが呟く。

だが、私は残る爆煙の中ではなく、我々が通り過ぎた空を振り返った。

 

 

 

ローブを着た何者かが、意識の無い男を抱えていた。

 

 

 

着弾までの一瞬で男を回収して見せたか…私の全力に迫る速さだ。

しかしあのローブ…確か空港火災の時にも動いていたな。深くまで被っているせいで顔も視認出来ない。一体何者だ?

 

「…たぞ。」

「何?」

 

かすかに聞こえて来たのは少女の声。

ローブの少女は大事そうに少し強く男を抱え…

 

 

 

 

「ボクは!!本気で怒ったぞ!!!」

 

 

 

 

叫んだ後、襲撃した特殊部隊施設があった方向へ向かって飛んでいった。

この速さ…やはり私でも簡単には追いつけないか…

 

「これはまた立派な負け犬の遠吠えですねぇ。」

 

クアットロが嘲笑うように告げたが、私は嫌な予感を覚えていた。

 

ローブの魔導師は空港火災時に確認できているだけで二人、それもどちらもオーバーS級。

あの男ももし全快するようであれば…

 

私は次々と浮かぶ不穏な予感を振り払うように頭を振った。

 

不要な不安など抱くべきではない。何が敵になろうとも破ってみせる、我等は戦機なのだから…

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

オーバーS級の反応があったという『名目』で部隊を離れた私は、反応があった人気の無い場所に向かっていた。

感じた魔力はレヴィちゃんの物だから、別に誰が行ってもさして問題は無いんだけど…

いきなり飛び去ったお兄ちゃんが、敵の逃げていった方向に飛んでいったと聞いている。

混乱しているせいでそれ以上の事が分からなかったけど、今わざわざ現れたのがレヴィちゃんだと言うのなら、何もしないで去る理由なんて誰かを運んだ位しか思いつかない。

 

 

 

勢いよく去る前、お兄ちゃんは確かにヴィヴィオの名を口にした。

 

 

 

嫌な予感が…殆ど確信に近いものが付きまとう。

付きまとうリミッターがもどかしくなる位に気ばかりが焦る中、とにかく速くと願い全力で飛ぶ。

 

喧騒が遠く聞こえるその場所に、一人の人影が横たわっていた。

 

「速人…お兄ちゃん?」

 

応急処置など無駄であったかのように酷くなっている怪我、欠片も感じられないほど小さな魔力、鞘に納めることも出来なかったらしく手元に落ちたナギハ。

そんな状態で、仰向けのまま死んだように何の反応も無いお兄ちゃんの姿があった。

 

見ていても始まらない。

 

とにかく医療班に引き渡そうと思ってその身体を抱え…

 

「……ない。」

「っ!!!」

 

殆ど聞き取れない程小さな、かすれた声。だけど確かに聞こえた。

 

 

すまない…って。

 

 

意識が無いはずなのに呟かれている言葉。

 

 

 

 

ああ…そっか。ヴィヴィオ…攫われたんだ…

 

 

 

 

受け入れるしかなかった。

 

いつも言うんだ、護りきれなかった時とか…それどころか、二箇所の犯罪者と戦って、コンサートに間に合わなかったことに悪かったと言う位の人だから。

その魔力値で追いつける筈が無いとか、一人で撤退した全戦力相手なんて戦力差がありすぎるとか、元々重傷だったとか、そんな理由がいくらあってもお兄ちゃんは護れなかった事を謝る。

出来ない事と知ってる上でヒーローを目指すって決めているから。

 

そんなお兄ちゃんが、無茶をしたこと何て謝る筈が無い。だったら謝っている理由なんて、『何かを護れなかった事』位しかない。

 

 

「っ…ぅ…」

 

 

うわごとのように、本当に小さな声で謝り続けるお兄ちゃんを胸に抱え、堪え切れない声をかみ殺した私はすぐに飛び立った。

 

私には…まだやらなきゃいけない事がある。そういう場所を選んだんだから…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 


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