なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第二十三話・暗殺者二人

 

 

 

第二十三話・暗殺者二人

 

 

 

Side~ヴィータ

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

リインとユニゾンを行ってまで交戦しているってのに、目の前の男は融合機との相性が悪いくせにあたしと互角に張り合っている。

こっちもリミッターに振り回されてるとは言え、向こうはまだ余裕がある所を見ると普通に全力で遣り合えたとしても勝てると言い切れねぇ。何て奴だ…

 

けど…

 

「む…」

 

向かってきてるシグナムに気付いたらしい男が融合を解く。このまま足止めできれば…

 

『ヴィータちゃん!上!!』

 

リインにかけられた注意通りに視線をやると、冗談じゃすまないレベルの巨大な火球が展開されていた。

 

この距離での大技なんて…間に合わせるかよ!!

 

止めに入ろうと向かった瞬間…

 

「な…」

 

殆ど一瞬で、男が割って入ってきた。

長槍で、アイゼンを抑えるどころか罅入らせる。

 

 

コイツ…ここまでやるのかよっ!?

 

 

さっきまでとは桁外れの魔力と力によってそのまま吹き飛ばそうとしてくる男。

受けきれねぇ…なら!!

 

 

「っらぁっ!!」

「むっ…」

 

 

押される前に逆回転に力の向きを変えてアイゼンを振りぬく。

下がって回避されたが、どうにか弾き飛ばされずに済んだ。

 

こっちだって技巧使いにいつまでもふりまわされてばかりじゃいられねーからって身に着けた抜け方の一つ。

まさかあたしの本来の分野である潰し合いで押し負けて使う事になるとは思わなかったけど…

 

姿勢を整えた頃には、既に男は遠くへ飛び去っていた。

 

…シグナムが向かってなけりゃ、追撃でやられてたか。

 

「くそっ…」

『ヴィータちゃん…』

「分かってる、動かねーとな。」

 

情けなくなって歯噛みしたが、リインに声をかけられて頭を切り替える。

状況が不透明で人手も足りずあちこち騒ぎになってる現状をさっさと沈静化しなきゃならねぇ。

 

『ヴィータ、大丈夫か?』

『アイゼンが損傷したがそれくれーだ、ガジェットくらいはどうにでもなる。』

『デバイスが損傷したなら無理をするな。私が動くからお前は混乱している部隊の統率に回れ。』

『ああ。』

 

リインとの融合を解除したあたしは、通信で入った現状を振り返る。

 

「リインは六課に向かえ、襲撃を受けたなら消火の手もいる筈だ。」

「了解です!」

 

リインと別れ、まだ慌しい本部周辺に降りる。

 

「アイゼン、わりぃ。もうちょっと頑張ってくれよ!」

『了解。』

 

罅の入ったアイゼンを握る手に力を込めて、あたしは周囲をうろつくガジェットに苦戦する局員達の下へ向かった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

「っ…」

 

グリフの斬撃に体ごとはじかれ地面を滑っていった俺は、止まったところで手に痺れを感じつつ構えなおした。

神速使えば速度では勝てるけど、懐に入るタイミングで剣を振るわれると防がなきゃならず、防いだら斬撃が重過ぎて距離が元に戻る。

オマケに受けるとナギハに罅が入る。その度に修復しなきゃならず、魔力消費が馬鹿にならない。

 

「ったく、フレアまでアッサリ倒すわけだ…さすが『先輩』。」

「知っていたのか。」

 

愚痴気味に言ったのだがそんな意図が伝わる訳も無く、グリフは面白い話を聞いたとばかりに笑みを浮かべるだけだった。

 

 

 

 

 

ついこの間、兄さんから聞かされた話。そこでグリフの正体を知った。

 

「奴は―お前と同じ計画で育成された暗殺者だ。」

「は?」

 

俺が育成されていた場所での計画。よくよく考えれば予算組んで行う訳だから何かしら目的はあったはずなのだ。当時は生き残るのが精一杯だったし、救われて嬉しかったで済んでしまってたからそこまで気にしてなかったけど…

何でもグリフの行方を調査する過程で洗った過去の経歴から辿っていって、辿りついた話らしい。

 

「それが、何で俺が勝てない理由になるんだよ?」

「一度目…つまりグリフは、高い戦闘能力を以って敵対勢力を殲滅する事を目的として育成されている。」

 

それだけで兄さんの言おうとしている事が分かった。

俺は気配を絶って気付かれない内に対象を殺害する技術を中心に育成された。

同じ場所で同じ訓練を受けていれば、最も素養の高い者が残るのが普通。そうなると俺が確実に高いと言える素養はあくまで気配遮断。直接戦闘の素養は間違いなくグリフのほうが上だろう。

 

しかも二度目の俺が戦闘主体じゃなくなった理由が、『強くなりすぎた上殺し合いに酔ったグリフが施設の護衛含めた全戦力を壊滅させて脱走した』からという、とんでもない理由だった。

単騎での施設壊滅って、俺が助けられた時の美沙斗さんと同じ事は出来るって事になる。

強い訳だ…

 

「しっかしなんだよ美沙斗さんもリスティさんも。兄さんには教えて俺には何にも言ってくれないなんて。」

 

知らない内に仲間はずれを喰らっていた気分で少し寂しくなる。が、そんな俺を前に兄さんは軽く肩を竦める。

 

「お前がそう返す馬鹿者だと知らなければ、誰だって伝えたくは無いだろう。これから交戦しようとしている相手が嫌な過去に関わってる上に実力が上だという話など。」

 

どうやら、要はいつもの気にして無い部分への配慮だったらしい。

 

「そんなわざわざ伏せられている話を何で話してくれたんだ?」

「ヒーローとやらは99%無理な事でも1%の可能性にかけてやってみせるらしいからな。半分以下だろうとは言えそこまでは悪く無い条件だ、お前なら気にしないだろ。」

 

…ああ、成程。つまり兄さんは全部知った上で気にせず勝って見せろと言ってる訳か。

 

全く滅茶苦茶難度が高い事をサラリと言いやがって…嬉しい限りだ。

 

 

 

 

 

 

 

「楽しそうだな。」

 

かすり傷程度とは言え一応斬撃も届いていると言うのに、傷を負わせることができる相手と会えたことを喜ぶかのように斬りつければ斬り付けるほど頬を吊り上げるグリフ。

 

「ああ…楽しいさ。奇襲とは言え一度は負けた相手、しかも今度は御神の業まで持ってきてくれた。楽しくて仕方ない。」

「そっか…でも悪いな、長い事遊んでる時間も無いんだ。」

 

俺は二刀を抜いた状態で構える。

 

俺の神速の連続使用時間を全力で伸ばせば大体十秒ちょっと。こればかりは兄さんも出来ない芸当。

一撃の重さで打ち負けるなら、とにかく追い切れない手数斬りかかるしかない。

 

幸いこっちは二刀、斬り結んで片腕ごとはじかれてももう一刀を必ず届かせてみせる。

 

「悪いなナギハ、無茶させて。」

『いつもの事です。』

「あらら…そりゃ失礼。」

 

本気で切り結ぶとなると、間違いなくまた罅が入る。って言うか下手すると折れるだろうナギハに謝っておいたのだが、言われてみればリライヴ戦から何から何まで結構無傷で済んでない。魔力が低いとデバイスもいい迷惑だな。

 

「んじゃ…行く…かっ!!」

 

ここで決めないといい加減一日の使用限界に触れる。

必ず届かせて見せると誓い、何度目かも分からない神速に入る。

 

受けに回ったグリフは、剣の角度を僅かに変えるだけの最小の動きで俺の連撃を防いでいくが、二刀で神速を用いての連撃に浅い傷は避けられず、斬りつけた箇所が増えていく。

 

 

右の打ち下ろしを『徹』にして硬直時間を作り、左の一撃で防御を『貫』く。

そう決めて右を振りかぶった瞬間…グリフの剣閃が奔った。

凶悪なまでの一撃に右を腕ごとはじかれる。

 

 

けど、これで左が届…

 

 

 

 

 

視界の左端に、振りぬかれたはずのグリフの剣が映った。

 

弧を描いて斬撃に入っている!?

 

咄嗟に攻撃に入っていた左の刀で受け…

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

ギン姉と通信が繋がらなくなって、あたしは全速力でギン姉のいる筈のポイントへ向かっていた。

ティアから先行しすぎだと注意は入ったけど、躊躇してはいられない。

 

あたしが先行してるって言うなら、ギン姉は孤立しているんだ。あたし一人でも先にたどり着けるなら、間に合うならなのはさんとティアが来るまでの時間稼ぎは出来る!

とにかく間に合わなきゃ話にならないと全速力で向かっている最中、曲がり道から断続的な金属音が聞こえて来た。

 

さすがに様子を確認してからじゃないとこの速度では入れない。この狭い通路じゃ交戦中の味方をひき殺してしまう事になりかねないから。

 

歯噛みしながら急停止可能な速度に抑えて道を覗く。

 

 

 

 

 

通路の先には、防いだ剣ごと斬り裂かれて鮮血を舞わせながら膝をつく速人さんの姿があった。

 

 

 

 

「隠し技が君だけのものだと思うのは早計だったね。これで終わりだ。」

 

重傷を負っているはずの速人さんを眺めながら、つまらなそうに剣を振り上げる男。

 

こいつは…こいつらはこんな風に何も感じないままこんな事を…

 

 

 

「ふざ……けるなああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

グリフとは戦うなって指示とか、使ったら壊してしまうからって封印してた力とか、全部が消し飛んだ。

 

 

すぐにコイツをどけて、ギン姉の所へ行く!!

 

 

あたしはかつて無いくらいに全力を込めて拳を握り、眼前の敵に向かって突撃した。

 

「どけえぇぇぇぇっ!!」

 

割って入るように突っ込んだあたしの拳を下がって回避したグリフ。

斜めから入ったため壁に叩きつけられた拳は、壁を微塵に粉砕した。

 

振動破砕。

 

外部装甲や防御所か、共振を利用して内部骨格等まで完全に破壊する壊す為の力。

当然壁にめり込んで止まるなんて事も無い。右が届かなきゃ左を叩きつけるまで!!

 

回避した先に向かって左拳を握って再び突撃…した所で、何かに横に弾き飛ばされた。

 

「邪魔!を…」

 

壁に叩きつけられたあたしが見たのは…

 

 

さっきまであたしがいた場所で、折れた二つの剣を交差させて斬撃を受け止めている速人さんの姿だった。

 

 

デバイスすら叩き斬るその重さのせいか、受けきれずに斬撃が左肩に食い込んでいる。

 

「っ!」

 

食い込んだ剣がそのままだというのにバックステップで距離を取った速人さんが振るった手から、多量の何かが投げられた。

グリフは追撃にでず、いつの間にか足に刺さっていた針を抜く。

 

「あ…ぁ…」

 

また庇われて、しかもただでさえ酷い怪我だった速人さんに余計に傷を増やしてしまった。

正面から見れるようになった速人さんは、いつかのフレアさんのように胸から広くを斬り裂かれていた。

だって言うのに、速人さんは笑みを見せる。

 

「いらない心配をかけたなスバル。急いでるんだろ?こいつは抑えるからさっさと行け。」

「で…でも…」

「それと、頭は冷やしとかないとどっかの隊長に撃ち落されるぜ。」

「え?っ…」

 

茶化して言う速人さんは、右腕をつつく動作をする。

何をしているのかと思った瞬間、右腕から激痛が響いてきた。

 

思わず視線を移すと、二の腕辺りが半分ほど切断されていた。

 

最初避けられたときに既に斬られていたんだ。そんな事にも気付いてなかった。

ティアが墜とされた時の事を思い出す。

無茶して暴走したら危ないって…知ってたのに、よりにもよって実戦の真っ最中に…

 

唐突に、鈍い音が周囲に響く位の勢いで剣を突き刺すグリフ。

 

身震いするような感覚を感じると同時に、グリフが私を睨んできた。

 

「女…こんな邪魔をしておいてただで済むと思うなよ…」

「余所見するなよ…お前の相手は俺だろ!!」

 

あんな怪我をしておきながら、いつもと変わらない動きでグリフに向かって駆ける速人さん。

 

なのに…

 

「遅い。」

「っ!!」

 

アッサリと捉えられ、辛うじて防いだものの弾き飛ばされて床を転がる。

 

「さっきまでの速さを出す事もできないか…ここまでだな。」

「そういうことですね。」

 

呟いたグリフに続くように、天井の中から戦闘機人が姿を見せた。

 

「セイン?」

「任務完了です。勝てそうだったんで邪魔する気は無かったんですけど、噂のエースオブエースが向かってるんでさすがに引きましょう。んじゃそう言う事で。」

 

止めようと思ったものの、避けろといわれていた相手と交戦した結果また助けられた事を思い出して手も出せず、新たに現れた戦闘機人に連れられて床に消えていくグリフ達を見送る事しか出来なかった。

 

少しの間呆然として…

 

『任務完了です。』

 

さっきの戦闘機人が言っていたことを思い出すと同時、ギン姉が孤立している事を思い出した。

 

「っ!すみません速人さん!手当てはなのはさんに!」

 

返事も待てずに駆ける。

少し進んだ先に広いスペースが見えて…

 

 

周囲には、戦闘の痕と血溜りだけが残っていた。

 

『データ照合…ギンガ=ナカジマのDNAと一致しました。』

 

マッハキャリバーに頼んだ血痕の検索の結果判明したのは、手遅れだったという事実。

 

 

「ギン姉えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

膝をついたあたしは、空も映らない天井を仰いで叫んだ。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

取り急ぎナギハを再度修復した俺は、後から来たなのはに応急処置を受けながら状況を聞いた。

 

「六課の襲撃とギンガの安否確認…」

「ごめん、そういう訳だからあまり手当てに時間かけられないけど…」

 

手早く処置を進めていくなのは。

治療関係はあんまり自力でやらなかったからな…まぁ魔法もなしでの応急手当てなんてこの世界でそこまで意味があるとは思えないが。

 

「問題ない、一日二日で死ぬ事は無いだろ。」

「放っておいて治らない怪我なんて十分問題だよ。」

 

軽口を叩く俺を前に、なのはは肩を竦めた。

 

それにしても、派手な襲撃をした割にはトドメも指さずに任務完了って結構アッサリしてるな。

目立つ地上本部の方が足止めで、地上にとってはオマケの六課への襲撃が本命のような…

 

 

 

 

 

 

生体操作技術者の…本命。

 

 

 

「…ヴィヴィオ。」

「え?」

 

呟いた名に、なのはの手が止まる。

瞬間立ち上がった俺は、全速力で駆け出した。

 

 

 

 

 

くそ…まずい、マジでまずい!!

 

 

 

 

あの娘が乗っていたヘリごと砲撃した位だから大して重要視されて無いのかと思ってた!

なのはの話じゃもう六課は応援が無いとやばい状態らしいし、もしギンガがそれで状況不明なら救援に向かったフェイトやエリオだって…

 

「させるか!!」

 

外に出た俺は、最大速度飛行をこなす荒業を使う。

 

『マスター、その怪我では…』

「言ってられるかよ!!!」

 

風の流れを集め、受ける事で体を吹き飛ばす移動方法。

俺の魔力量じゃいくら変換資質があっても瞬間出力は大して上がらないが、流れを作って徐々に加速させる事は出来る。

問題といえば加速がゆっくりな為戦闘機動にはとても使えない事と、普通飛行している魔導師が空気抵抗の影響なんかを受けないように軽減しているのに対して、風を受けて進まなきゃならない為もろに衝撃を受ける事になる位で、低い魔力でもかなりの最大速度を出せるこの移動方法は結構重要なものだ。特に今みたいな状況じゃ。

 

 

 

間に合え…っ!!!

 

 

 

風を背に、祈るような気持ちで俺は六課に向かって飛び立った。

 

 

 

Side~アムネジア

 

 

 

ガジェットを一人で打ち落としていたらしい局員の狙撃をどうにか凌いで、俺は遮蔽物から上半身を出してデバイスを構えていたその男の額に銃を突きつけた。

 

かなり優秀な狙撃手らしく、あと少し反応が遅れれば打ち倒されていた。

とは言えこの距離での早撃ちなら負ける事は無い、それよりも聞くことを聞かないと。

 

「他の人員はどこにいる?用が済んだら脱出するから気絶して炎に呑まれるよりは早く話したほうが」

「昔っからそうだけどよ…優秀だが…詰めが甘ぇっ!!」

 

まずい。

と思って昏倒させようとしたが既に遅かった。

身を隠していた遮蔽物を蹴り飛ばした男。大してダメージこそ無かったものの、さすがに体勢は崩され、その一瞬でデバイスが向けられていた。

 

まずい…ガジェットを落とすだけの狙撃弾をこの間合いで受ければさすがにもたない。

男から狙撃弾が放たれ…

 

間に飛んできたものがそれを変わりに受けた。

これは…インゼクト。

 

「ち、なっ…」

「ルーテシア!すまない、助かった。」

 

後から来ていたルーテシアが見かねて助けてくれたらしい。

体勢を整え男に視線をやると、何故かルーテシアを見て震えていた。

 

「邪魔…」

 

と言うより、ルーテシアから感じられる魔力がそうさせているのかもしれない。何しろただの魔力波だけで並以上の相手まで倒してしまうくらいだから。

そう丁度今みたいな感じで魔力を…

 

って、大した防御手段も無い狙撃手にあの魔力波は危険が過ぎる!

 

慌てて直線上に割って入った俺は、ルーテシアを見て震えている狙撃手に当身を叩き込んだ後後頭部を殴って昏倒させた。

これで暫く眠ってくれるだろう…間に合ってよかった。

 

「それはやりすぎだよ、女の子一人連れてくだけなんだから」

「リライヴみたいな事言うのね。」

 

この調子で戦闘能力ももたない人たちまでこんな炎の中に寝かせる訳にも行かないから、止めておこうと思ったんだけど…

何処か悲しげに呟くルーテシアに、俺は言葉を飲み込む。

 

「貴方も…裏切るの?」

「そんな事はない!」

 

力強く答える。

リライヴが裏切ったってなんとも無いように言ってるつもりで、傷ついてる様子を隠せてなかった彼女にこれ以上不安を抱かせたくなかったし、何より俺自身裏切るつもりなんて無かったから。

 

けど、これ以上下手な事言うとまた不安にさせてしまうかもしれないし…

 

「…分かった、また俺が先行するから。危なくなったら頼む。」

「いいよ。」

 

要は、加減が利かないルーテシアに任せないで俺が全部やりきればいい。

主力は不在だし、護衛二人は外でオットーとディードが相手をしてくれている。残り位どうにでも出来るはずだ。

 

 

……って、意気込んだまでは良かったんだけど…

 

 

「割と…アッサリ見つかったね。」

 

どうやら、さっきの狙撃手が最後の砦だったらしい。後は女の子や一般人が集まっているだけだったから、出来るだけ怪我させないように梅雨払いだけして目的の娘を拾ってきた。

 

「帰ろう、ドクターが待ってる。」

「ああ。」

 

誘拐めいていて少し後味は悪いけど、ドクターが言うには局のほうが王様を無理矢理玉座から引きずり降ろした結果らしいし、攫われていた娘を連れ戻すだけなんだから気にすることも無い。

少し言い聞かせるようにして、邪気の無い顔で眠る女の子を抱きかかえて僕達は施設から脱出した。

 

施設から出た後は移動用に使っているガジェットに乗って、空に飛び立つ。

後は帰るだけ。これ以上被害を出す事もないわけだし…

 

 

 

「うおおぉぉぉぉっ!!」

 

 

唐突に聞こえた声に視線を移すと、かなりの高速で飛来する赤髪の少年の姿が見えた。

ルーテシアの乗るガジェットからガリューが迎撃にでるが、弾かれただけですぐに体勢を整えだす。

 

見た所まともな空戦能力があるわけでも無いのに…突進用の出力だけで無理矢理浮いてるのか?何て無茶苦茶な。

 

「ガリュー下がって!」

 

彼は全力で行かなきゃならない実力者だ、悪いけど…この一撃で沈めさせてもらう。

 

「クロスファイア…シュート!!」

「な…」

 

対一戦闘には少しばかり度が過ぎる気もするが、先の狙撃手の事も考えれば油断は出来ない。

展開した多数の魔力弾を少年を包囲するように放つ。

あんな奇特な飛行で包囲弾をかわし切れる筈が無いと思っていたんだけど…

 

「でやああぁっ!!」

 

少年は回転しながら包囲弾に向けて突撃、飛来する弾幕のいくつかを切り裂いてガリューに向かって加速した。

数発は掠めたけど、戦闘不能は避けた。何て少年だ…

 

「だったら…」

『もう結構ですよアムネジア。』

 

次を撃とうと思った矢先、念話が入ったと思ったら、少年の背後に姿を見せたディードが二つの剣を振り下ろした。

警戒ついでに周囲をうかがうと、竜に乗った少女がオットーによって拘束されて墜ちるのが見えた。

 

「ありがとう。これ以上追ってが来たら厄介だ、早く離れよう。」

「そうですね。」

 

ディードへのお礼を済ませ、改めて現場を去りつつ思う。

 

どう見ても空中戦主体じゃない少年が、あの射撃を切り抜けた。

 

それだけの腕の使い手が集まってる特殊部隊って事は、どこまで俺の射撃が通用するか…

これで終わりとも思えない、次までに出来る限りの戦法を思い出したり、馴染ませたりしておかないと。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




今はここまでです。

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