なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第二十話・蠢く闇に呑まれる堕天の翼

 

 

 

 

第二十話・蠢く闇に呑まれる堕天の翼

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

グリフとの鍛錬を行う為に顔を出したスカリエッティのアジトで、私はスカリエッティにナンバーズの訓練相手を頼まれた。

データを取られるのは好みじゃないし、実験に付き合ってやるほどの義理は無いんだけど…

 

困った事に私は、ナンバーズの皆自体はあんまり嫌いじゃなかった。

 

殆どがルーテシアと同じで、スカリエッティの…生みの親の手伝いをすることに疑問や躊躇いが少ないんだけなんだ。

NO5のチンクはゼストの命を奪って以来、治せる筈の目を治さなかったり、NO3のトーレは、とにかく姉妹に厳しいものの、NO7のセッテとの会話を聞く限りそれなりに姉妹も気にはしている。と、個性豊かな子達。

 

明らかに悪事を楽しんでる様子すら感じられるクアットロと、人体実験を躊躇わない所か目的にしてるスカリエッティぐらいしか、単に嫌いな人は居ない。

 

そんな理由もあって私は、戦闘訓練に付き合うことにした。

 

 

「おおぉぉぉっ!!」

 

気合と共に突っ込んでくるNO5ノーヴェ。

エアライナーと呼ばれる、局の新人が使っている空中走行帯を展開する事で空戦近い戦闘が可能で、蹴り主体の格闘系。

 

突進からの渾身の蹴り。脚部武装にブースターも組み込まれているそれは、当たれば強力無比な一撃ではあるんだけど…

 

「はい。」

「ってえぇぇぇっ!!!」

 

蹴りのタイミングで近づいて、向かって来る足の脛に掌底を置いておくと、見事に直撃したノーヴェは痛さでのた打ち回りながらエアライナーから落下した。

堪えて途中で体制を整える辺りはさすがかな?それに、やっては見たが私も手が痛い。

 

「相手と状況によっては止めた方がいいかなそれは。脛当ても用意してもいいけど、今の威力をカバーするだけの防具は重くなるだろうし。」

 

解説中に射撃が飛んでくる。

直後、爆音が響いた。

 

「油断大敵っスね。完全に直撃」

「しても向こうのディフェンス役は崩せないだろうし、高速型ならこんなことになってるかもね。」

「あ…」

 

爆音に包まれて一息吐いていたNO11ウェンディの肩を背後から叩く。

防御魔法で受けてから、煙に飲まれる前に高速移動魔法を使った。

彼女達が相手にする予定の前衛にこんな馬鹿なことは出来ないだろうけど、一人が防いで一人が回りこむ位ならできる可能性は十二分にある。教官らしいなのは自身の方針を見ても、こういうチームの相乗効果狙いが好きみたいだし。

 

チームなんて居ない私には無理な相談だけど。

 

ノーヴェだけのた打ち回る事になるのも不公平な気がしたので、ウェンディもきっちり射撃魔法で伸しておく。

 

「貴様等…二人掛りでデバイスすら使っていない人間相手にこれか。たるんでるぞ。」

 

様子を見ていたトーレからの厳しい叱責。

そうは言うけどねトーレ、AA満たない新人担当レベルの力量が二人いた所でなのはとフェイトの代わりは程遠いし。

私その二人にも勝てるんだけど…

 

「や、トーレ姉。リライヴは人間って表現するのどうかと思うよ?」

 

NO6セインが、少し引きつった笑みで私が口に出さずにいた事を告げる。

まぁ堕天使なんて呼ばれるのが当たり前になっちゃった今更、化物扱いされても否定しないけどさ…一応人間だからね?こんな所に一応何てつけるの嫌だけど!

 

「経験や強化レベルの差もあるとは言え、お前達も戦機だ。ドクターが作り上げた『力』を見せてやる。リライヴ、連戦で済みませんが付き合っていただけますか?」

「うん、いいよ。」

 

戦機として誇り高く、自身を磨く事に際限を知らず、忠義に厚く客人への礼儀も備える。

ベルカ式の優れた魔導師を騎士と呼ぶけど、なんかトーレに物凄く似合いそうだ。

ま、先生にするにはちょっと厳しすぎる気もするけど。

 

「所で、私デバイスは使用禁止だよね?」

 

ルールが続いているのかと思って聞いてみただけだったんだけど、少しだけ眉が動くトーレ。怒らせたかな?

 

「…使わせて見せます。」

 

怒りかどうかは分からないけど、火をつけた事は間違い無いようだった。

これは…さっきまでと同じと言うわけにはいかないな。

 

 

 

 

 

 

 

「っ…」

 

最高速での移動中は完全に視認速度を超えているトーレ。しかも通常の戦闘機動も信じられないくらいに速く、上手い。

空戦機動でこれほど速さに特化して、かつこの速度を制御しきる人はそう居ないだろう。

 

成程…デバイスを使わせる…か。

 

確かに使わないと危ないんだけど…デバイスを使わせて見せると意気込んでいる彼女相手に、とりあえず楽になるからデバイス使おう。って言うのはちょっと違う気がする。

 

私は空戦をやめて地上に降りる。

 

こうすればトーレの選択肢から、下からの攻撃を奪う事ができる。

後は…

 

「シューティングスター・アラウンド!!」

 

全方位弾幕射撃魔法。

これだけでしとめられるほど甘くは無いだろうけど…

 

「この程度!!」

 

潜りぬけ、あるいは切り払いで回避させる事で、広い範囲を飛び回れないようにはできる。

 

後は今の内に距離を詰めて、トーレの再加速前に決める。

 

「っ、はっ!!」

 

胴を両断するような右腕のインパルスブレードでの横薙ぎ。

私はその右腕を、左腕で下から上に向かって掴みあげ、空いた脇腹に右手を翳す。

 

「ストレートバスター。」

 

零距離から放たれた直射砲撃に押される形で吹っ飛んでいったトーレは…

 

 

そのまま壁にめり込んだ。

 

 

「えげつねぇ…」

「トーレ姉大丈夫っスかぁ!?」

 

観戦していたノーヴェとウェンディの声を聞きながら、粉塵に包まれて姿の見えないトーレの居るはずの壁を見る。

 

…やりすぎたかな?

 

 

 

Side~ジェイル=スカリエッティ

 

 

 

「あらら…トーレ姉様までデバイスも使わないで倒しちゃうなんて、本当たいした化物ですわね。」

 

モニターで試合の様子を眺めている私の横で、クアットロがつまらなそうに呟く。

 

「ふふふ…本当に素晴らしい力じゃないか。局の特殊部隊に居る『彼女達』もそれぞれ高いポテンシャルを持っているが、彼女は総てにおいて秀でている。しかも能力を持て余しても居ない。」

 

全能力が高いとは言え、魔法制御をデバイスなしに行えば当然能力は落ちる。

そんな状態でトーレの速度と張り合っても互角に届かず、防ぐ為の剣も無い。

だが彼女は自分の能力を過信せずに、自身の持つ技能を生かし、相手の最大能力を使えない状態に持ち込んで戦うという才覚を以ってトーレを破って見せた。

 

これを機械的にインプットされた計算式だけで再現するには限界がある。

だからこそ、素材として生命を使用することにこだわっているのだが…

 

「グリフのお陰で特にトーレも随分その才覚を身につけた筈なんだが、それすら容易く破ってしまうとはね。」

 

全く、敬意なんて縁の無いものだと思っていたんだが、彼女にはそれを払ってもいい気がするよ。

何しろ、生命特有の才覚はともかく、私が作り上げた機能すら、彼女の全力は上回るのだから。

 

彼女を素材にするとしても、手を加える部分が見つからない。

 

手を加える部分が見つからないと言う事は、私の作り出す事ができる力の総てを彼女が上回っていると言う事。

さすがにこれには驚く他無い。

 

「とは言え…そろそろ危険でもあるね。」

 

犯罪者として追われてはいるが、彼女の本質は局員に近いものだ。

レリックの収集程度であれば問題なく動いてくれるようだが、さすがにこれ以上の作戦に大人しくしていてくれるとは思えない。

局員に手を貸すかはわからないが、ルーテシアを連れ去る位のことはやりかねない上、本気の彼女はこれにまだデバイスと幾つ持っているかも分からない化学武装まで使ってくる。

 

大事な作戦を前に、全戦力を投入してもどうにかなるかわからない彼女と正面から渡り合うのは避けなければならない。

 

「では、お嬢様を呼んでおきましょうか?」

「そうだね、頼むよクアットロ。これを機に問題は全て片付けておかないとね。」

 

カードは揃った、そろそろ彼女には退場してもらう事にしよう。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

模擬戦の翌日、スカリエッティに呼び出された部屋に向かっている途中で面白い人に出会った。

 

「あれ?君は…」

「リライヴさんですよね、初めまして。」

 

今まで動いている所を見た事が無かった、ずっとポッドに入っていた青年だった。

ポッド自体は見た事があるため知ってはいたが、彼が言うとおり初めて話す。

詳しい事は知らないけど、何でも昔瀕死のところをグリフが拾ってきたらしい。

 

「あ、俺の事はアムネジアって呼んでください。」

「…文句言ってもいいんじゃない?その名前。」

 

彼は脳のダメージが深刻だった為、生き繋いだものの殆どの記憶を失っているらしい。

だからって記憶欠損障害なんてものをそのまま名前にするのはどうかと思う。

ガジェットも管理局が呼び出した名前を採用したらしいし、いい加減にも程がある。

本人も少しどうかとは思っていたのか、苦笑いするアムネジア。

 

「病院何て行かないから多分困る事も無いでしょうし、命の恩人がくれた名前ですから。」

「真面目だね全く…」

 

十中八九と言うかほぼ間違いなく、スカリエッティにとっては実験に丁度いいからついでに直してみた…程度だろうに。

 

「これから訓練?」

「はい。さすがに何もしないで手伝いに出る訳にも行きませんから。」

 

手にした銃を軽く見せながら答えるアムネジア。

命を救われたんだから、軽々しくでは無いんだろうけど…そんな簡単に犯罪者に加わっちゃっていいのかな?

 

「それより、リライヴさんは用事はいいんですか?」

「あ…っと。それもそうだね。それじゃ頑張って。」

「ありがとうございます。」

 

正直スカリエッティの用事に急ぐ気はあまりしないんだけど、彼の手前それを言うのもはばかられた。

気持ちよく別れた以上ノンビリしてても仕方ない、さっさと用を済ませてしまおう。

 

 

 

 

 

 

案の定と言うかなんと言うか、呼び出したくせにまだスカリエッティ当人が来ていなかった。話した分早足で来たのに損した気分だ。

殺風景な部屋の中で少し待つと、スカリエッティが姿を見せた。

 

「ごきげんよう、リライヴ。」

「前置きはいいよ。で、何の用?」

 

芝居がかったスカリエッティの反応を適当に流して本題を聞く事にする。

当のスカリエッティは、軽く肩を竦めて本題に入った。

 

「そろそろ次の作戦に移る訳だが…」

 

大仰に手を翳すスカリエッティ。

 

「その前に、実験につきあってもらえないかな?」

「断る。今更何を聞いてるの?」

 

私の返答に、額を抑えるスカリエッティ。

 

「そう…確かに君の協力が決まった際、ルーテシアの母親が目覚めるまでのレリック収集の協力で、その後は敵対はしないが手伝わない。と、取り決めた。」

「そうだよ、なのに何で今更」

「だが…」

 

相変わらずオーバーに私の言葉を遮るスカリエッティ。

 

「前回…タイプゼロを含む前線の子供達から、レリックも回収できたのではないか?君の腕なら。」

「手荷物片手に相手に出来るほど、速人は甘くない。」

「引きつけるだけでもセインにチャンスが作れたはずだ。手を抜いたんだろう?ヘリへの砲撃を見て。」

 

…っち、分かり切ってる事を今更。

 

「君は我々が犯罪者であることなど言うまでもなく理解してくれている筈だったから、あの程度は普通にあると受け入れてくれていたのではないのか?」

「兵器でもないヘリにオーバーS砲撃を撃ち込むのがあの程度だって言いたいのか…」

 

怒りを隠さずに告げると、肩を竦めるスカリエッティ。

 

「局員が殺されるのはただの力不足だと言っていたじゃないか。それに、一緒にいた子は特別でね、あの程度じゃ死なないのさ。」

 

否定できない指摘に口を噛む。

局員に関しては確かにそう言っているし、ガジェットが破壊されたことを考えれば女の子の方もただ者じゃない。

 

「…仮にそれが本当だとして、どうして私が実験台になってやる必要があるの?」

「信用問題だよ。最後の最後で管理局に付かれてはたまらないからね。君が嫌がる、『裸体で男性に身を任せる』状態を我慢してまで疑いをはらす気があるのなら…信用するには十分じゃないか。」

 

激昂を自覚する。

おそらく表情に出たのだろう、変化に気づいたスカリエッティは首を横に振る。

 

「もちろん君の心配するようなことはないよ。もしあれば…今頃ウーノ辺りが大変なことになっている。」

「名指ししてる辺り危険としか思えないんだけどね。」

「コレは手厳しい。」

 

何がおかしいのか笑いながら告げるスカリエッティ。

全く悪いと思ってないだろうその態度に怒りがわいてくるものの、あくまで頭は落ち着けておく。

 

「それで…どうかな?」

「断る。そんなふざけた条件のむわけないでしょ?私は貴方達の玩具じゃない。」

 

分かっていたのだろう私の返答を聞いたスカリエッティは、軽く息を吐く。

 

「仕方無いね。」

 

そう言って、スカリエッティが片手をあげた瞬間…

 

「っ!?これは…」

 

全身を包む嫌な感じ。

AMF…それも半端じゃなく強力だ。

魔法発動の阻害何てレベルじゃない、戦闘所か飛行も出来ないくらいだ。

 

部屋唯一となる出入口から、トーレとセッテが入ってくる。

 

「少し大人しくしていて貰おう。トーレ、セッテ、丁重に頼むよ。」

「はい。」

「了解しました。」

 

歩いてよってくる二人。

稼働して日の浅いセッテはともかく、戦闘機人としては最高の戦闘能力を持つ上グリフとの訓練に従事してきたトーレは魔法なしでどうにか出来る相手じゃない。

 

 

仕方無い…使うか。

 

 

「ロック解除、AMFC…起動。」

 

歩み寄ってくる二人を前に、私はイノセントを起動させ…

 

 

魔力刃を展開した。

 

「これは…」

「AMFの影響を受けていないようです。」

 

驚くトーレとセッテ。

だが、悪いけど私が知ったことじゃない。

 

「いくら何でも捕まってあげるつもりは」

「くくくくっ…ははははははは!!!!!」

 

唐突に笑い出すスカリエッティ。

何だ…何がおかしい?

 

「いや君はすばらしい!最高だ!!管理局が何年苦心しているかもわからないAMFをものともしない機能を開発するとは!!!助手に欲しいくらいだよ全く!!!」

 

しばらくそうして笑っていたスカリエッティは、唐突に笑い声を止めると残念そうに溜息を吐く。

 

「とは言え残念だよ。まさかAMFの技術を盗み知るためにルーテシアに近づいたなんてね。」

「な…私がいつそんな」

「どの口で言っている貴様!!」

 

抗議しようとした矢先、歩み寄ってきていたトーレがインパルスブレードを展開しながら怒鳴る。

AMF中和しつつ構えている魔力刃。…確かにどの口でってなるな、これは。

 

弁解は無理。それに、中和フィールドの範囲が自分の周囲のみで、展開に自身の魔力を消費する。

いつまでもこの部屋でやりあうのは得策じゃない。とりあえず部屋だけでも出

 

 

 

「君も残念だろう?なぁ…ルーテシア。」

「な…」

 

 

 

思考中、大仰に告げるスカリエッティ。直後、開かれた扉の先にはルーテシアが立っていた。

 

「待ってルーテシア!これは」

「ドクターは作戦に関係ない所で休んでてもらうだけって…ちゃんと丁重にって言ってたのに…どうしてそんなものまで…」

 

怒りと言うよりは悲しげに問いかけてくるルーテシア。

 

 

完全に嵌められた。

 

 

恐らくスカリエッティは、私が逆らうと想定していたのだろう。

いくら魔法を封じたからと言って、トーレ達がまともに武装も展開しないで近づいてくるのには違和感あったのに…

さすがにAMFCは想定外だったようだけど、むしろ付け入る理由が増えてしまった。

今更気付いてももう遅い。何しろルーテシアは別にスカリエッティ達の事を嫌っているわけじゃないんだから。この状況で私が何を言っても説得力が無い。

 

「ダメですよお嬢様、お嬢様は騙されてたんですから。質問なんてしたらまた都合のいい事を適当に喋るに決まってます。」

 

ルーテシアの背に立つようにして現れたクアットロが、これ以上無いくらいに楽しそうに嫌味を言う。

楽しそう…って言うか、楽しんでるんだろうな。コイツこういうの好きそうだし。ったく趣味悪い!!

 

「く…言いたい放題…っ!!」

「お嬢様をたぶらかしてやりたい放題していた貴女に言われたくありません。と言う訳でお嬢様、ああいう人は…さっさと潰しちゃいましょう。」

 

言葉を濁す事無くクアットロが言い切ったと同時、ルーテシアのデバイスからガリューが飛び出してきた。

こうなったらいっそ全滅させてルーテシアのお母さんは管理局に任せ…

 

『下手な事はしないほうが懸命だよ。ルーテシアの事が大事なら…ね。』

 

る訳にもいかなくなった。

念話なら話が漏れないとはいえ当人を目の前に脅しなんてつくづくやってくれる。

とは言え、大人しく捕まるわけにもいかない。なら…

 

「ちょっとごめん!」

 

取り合えず逃げる事にした。

 

いくらなんでも、『逃げたから』なんて理由でルーテシアに下手な事をするほどスカリエッティも間抜けじゃないだろう。その瞬間に私を縛る理由がなくなるのだから。

 

ガリューを向かって来るトーレとセッテに投げつつ、入り口に向かって高速移動を行う。

部屋の入り口に立っていたルーテシアを転ばせながら驚いているクアットロの鼻に軽く掌底を叩き込む。

 

部屋を出てしまえば後は外まで一気に

 

 

 

 

「え…」

 

 

 

 

何かにぶつかるような感触を感じて首を下げる。

グリフが、私の腹部を貫いていた。

 

彼が剣を引き抜くと、支えを失った私はそのまま通路に倒れ伏した。

 

 

 

Side~ジェイル=スカリエッティ

 

 

 

「いい所にきてくれたよグリフ。」

「此方も試し斬りに向かう途中だったのでね、手間が省けた。一撃と言うのはつまらないが、彼女相手に問題なく使えるのなら十分だ。」

 

そう言って、血のついた剣を満足げに眺めるグリフ。

彼からの要望で、余計な機能の無い、強度と切れ味のある剣を作る事になっていたのだが、どうやら満足してくれたようだ。

 

作るのにこれほどつまらないものも無いのだが、今回彼女を確保できたのはグリフのお陰だ。十分に成果はあったと見て

 

 

 

 

「っあああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

刹那、リライヴの全身から強大な魔力が放たれる。

本来無色透明なはずの彼女の魔力光が白にさえ見えるほど強力な魔力。

 

その一瞬で、彼女は忽然と姿を消していた。

魔力を辿れば、トーレでも追いつけない速度で既にアジトの出口へ向かっていた。

 

「即死しないように気を配る必要があったとは言え、手ごたえはあったんだけどね…」

「構わないさ。あの怪我でここまでやってのける彼女の強さに一本とられたと言う事にしておこう。」

 

少し失敗をしたかのように告げるグリフだったが、私は彼を責める気になれなかった。

倒れていた時間は僅かだというのに床に残る血溜りが傷の深さを示しているし、彼が居なければそもそも止める事自体が出来なかったのだ。

 

予定は少し外れたが、これで舞台は整った。さぁ…祭りの始まりだ。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

数箇所の世界間転移の後に来た光も差さない洞窟の中で、蝙蝠の羽音が聞こえてくる。

これで局にもスカリエッティ達にもつかまれてないはず…

 

「っぁ…はぁ…」

 

血を流しすぎたせいか意識が朦朧とするが、どうにか繋ぎとめた上で簡易結界を張る。

さすがに、小さな毒虫や吸血生命体なんかに寝ている最中に殺されるなんて情けない事態はごめんだ。

 

そこまでやって漸く落ち着けた私は、適当に地面に身体を預けた。

 

回復魔法も兼任しているし、とりあえずはこれで問題ないだろう。

 

『マスター。自身を犯罪者と理解し正義を名乗らない程度はよいのですが、本物が貴女ほど優しく真っ当ではない事は意識した方がよいかと。』

「…だね。プレシアの時もはやて達の時も、相手に不利益な行動さえ取らなきゃ問題なくやれてたから、念押しで排除されるとはちょっと予想外だったな。」

 

イノセントからの耳が痛い指摘に肯定の意を示す。

確かにヘリの事は気分良くはなかったけど、私が望んでる事はそういう事なんだって納得する事にしたっていうのに、その矢先、次の作戦前に排除されるとは。

最悪の時ルーテシアを救うのに用意しておいたAMFCも裏目に出た感じになっちゃったし、全く上手くいかないな…これじゃゼストに申し訳が立たない。

 

「とりあえず休む。何かあったら起こして。」

『了解しました。』

 

幸い打撃と違って潰された箇所は無いし、斬られた傷と失血さえどうにかなれば大丈夫なはずだから、少し休んだらどう動くか考えよう。

 

 

 

…結局また一人か。

 

 

 

目を開けても闇の広がる洞窟に溶け込むように意識が落ちていく中、少し頬を冷たいものがつたった気がした。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 


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