なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十九話・『普通』と『幸せ』

 

 

 

第十九話・『普通』と『幸せ』

 

 

 

「うーん…」

「どうしたんですか?」

 

昼食を食べながらなのはのテーブルを見る。

 

なのはとフェイトにはさまれる形で苦手な野菜に涙目になるヴィヴィオ。

そんなヴィヴィオを宥めつつ、あくまで野菜を食べさせようとする二人。

 

俺の見ているものが分かったのか、問いかけたスバルが納得するように頷いた。

 

「ああ、ヴィヴィオですか。もうすっかり懐いちゃってますよね。」

「大体あんな感じですからね。」

 

楽しそうなスバルに続くようにティアナが微笑ましい物を見るように告げる。

 

「でも何で唸ってるんですか?」

「凄い絵になるだろ?それこそ違和感感じないくらいピッタリと。」

「ですね。」

 

ここまでで俺の懸念が分からないのか、スバルもティアナも不思議そうにしている。

 

 

「『結婚?何それおいしいの?』とか言われたらと思うと頭が痛い。」

 

 

それまでとても微笑ましげにしていたスバルとティアナがピタリと硬直した。

俺にしてみればその前兆のような光景で、正直見れば見るほど寂しくなってくる。

 

「父さんに『なのははフェイトと親子三人、家族で仲良く暮らしてます』とか手紙送るの俺嫌だぞ?友達同士で親役やってる生活に疑問がないとなるとさすがに…なぁ?いっそ一緒に暮らすなら暮らすで結婚式でも開けばま…ば?」

「ストップ!ストップ速人さん!!ここ食堂ですから!!何より二人に聞こえたら洒落にならないですから!!」

 

割と真面目に落ち込んでいるとスバルに口をふさがれた。

魔力云々無しでも単純に滅茶苦茶力が強い。焦ってるのか加減も無いし…あ、今顎の骨からミシッって音が…

 

「アンタもいつまでもパニクってないで放しなさい!速人さん死ぬわよ!?」

「へ?ああっ!すみません!」

 

ティアナの叫びで漸くスバルに解放される。

…口ふさがれて息じゃなくて骨がやばいとか、そうそう経験できないだろうな。

 

「悪いティアナ、助かった。」

「いえ…ですが実際気をつけたほうがいいですよ?ファンクラブとかあるような人達ですから迂闊なことを言うといつ背後から刺され…ませんか、速人さんなら。」

 

忠告をするつもりだったらしいティアナだったが、無意味だと思ったのか途中で言葉を切りかえる。そのへんの人に襲われてどうこうなる心配は無いな、確かに。

 

「なあエリオ、キャロ。フェイトの子供役として現状何とかしてくる気ないか?」

 

要は二人で両親っぽくヴィヴィオにかかりきりだからこんな状況になるわけで、フェイトが二人の対応に移ればまだマシになるかもしれないと思って聞いてみたのだが…

 

「そんな!僕達もう子供じゃないんですよ!?」

「そうです!」

 

結構真面目に怒られた。

背伸びしたいのか?子供じゃないなんて子供の台詞だろうに。

 

「いや、スバルやティアナも正直まだ子供で通るし、なのはやフェイトすら大人かと聞かれれば首を捻るぞ俺は。お前等が子供じゃないと言うのは言いすぎだろう。」

「ってあたし達もですか。」

「何よりお前等に大人になられると俺が繰上げでおっさん扱いされかねない。お前等はそれでも子供じゃないと言い張る気か!!」

 

大げさに身を乗り出して告げると二人が怯んだ。

だが、名前を出されたスバルとティアナが特に反論しなかった為か、顔を見合わせて困るエリオとキャロ。

 

と、背後からハリセンのような物で頭を叩かれる。

景気のいい音に振り返ると、なのはが呆れたように立っていた。

 

「妙な事言って二人を困らせない。」

「他人事みたいに言ってるがな、こいつらが子供じゃない頃にはお前だっておばさんになるんだぞ!?いいのかそれで!!」

 

ハリセンを肩にリズムを取っていたなのはが一切動かなくなる。

暫く硬直していたかと思うと、ハリセンを自分のテーブルに置いたなのははレイジングハートを手にする。

 

「ハリセンじゃ足りないなら…フラッシュインパクトでもいいんだけど?」

『打撃は久しぶりですね。』

「済みませんでした!!!」

 

掌でレイジングハートを転がすようにしながら笑顔で告げるなのはに俺は速効で土下座に入った。

 

逆らえるかこんな恐いの。ってかレイジングハートまで活き活きしてるし。

 

「力関係が分かりやすいです。」

「なのはが説教態勢に入ったときに言い返せたことねーからなあいつ。」

「ある意味速人らしいとも言えるがな。」

 

外野で守護騎士チームがうるさかったが、そこまで言うならお前等が殴られてみろと言いたい。

下手な時には兄さん相手にすら我を通してきたなのはの説教なんて抜けられてたまるか。

目立つからやめろと言われて立ち上がる。

 

「ま、ちゃんと考えないといけないとは思ってるんだけどね。」

「何が?」

 

席に戻る前、殆ど呟くように漏らしたなのはの声を聞き逃さなかった俺は、何のことか分からずに聞き返す。

 

「何でもないよ。」

 

結局なのははそうとだけ言って自分の席に戻ってしまった。

 

やり取りを見ていたフェイトも何か感づいているようだが、コイツがなんでもない何て意味深に言った時は絶対に何でもなくない。

昔ほどバレバレの有様ではなくなったものの、台詞と言い違和感と言い、何かあるのは間違いない。

 

とは言え、今の俺にはまだなのはが何を伏せているのかまでは分からなかった。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

陽だまりの中、教会でシスターシャッハと肩を並べて楽しそうにしているヴィヴィオを少し離れて眺める。

 

「はい、うさぎさんが消えました。…というのは冗談で実はこっちに。」

「わあぁ……!!」

 

お兄ちゃんが次から次へとヴィヴィオの前で早業を披露する。

うさぎのぬいぐるみが消えたり出てきたり、花が出てきたり色が変わったりと結構本格的に手品師のようだ。

魔導師としての才覚があるからかお兄ちゃんが魔法を使っていない事も分かるようで、ヴィヴィオは眼を輝かせて食いついている。

 

一体いつの間に手品なんか…戦闘訓練以外の日常生活ほぼ放置で育ってきたはずなのに…

 

「ママ!おじさん凄い!!」

『ったく…こんな純真な娘に親の兄は伯父さんだなんて知識を教えた奴誰だ?妹にさえ舐められる位の少年の心の持ち主なのに。』

『は、速人…それはそれで自慢にならないと思う…』

 

フェイトちゃん同様お兄ちゃんからのしょうもない念話に呆れつつも、それを顔に出さないように笑顔でヴィヴィオに頷く。

私にもお兄ちゃんが何をしているのかよく分からない。ヴィヴィオじゃないけど本当に凄い技なんだ。

 

『一体いつの間にこんな手品を身につけたの?』

『暗器を飾りに変えただけだ。暗殺術も使いよう…なんてな。』

 

ああ…袖に針とか懐にナイフとか普通に使う技術を磨いてたんだっけ。

それこそジャグリングとかだって朝飯前の筈。

 

シグナムさんとかは、魔法や剣技を宴会芸に披露しろとでも言われれば間違いなく怒るだろう。私もそこまで気分のいい話じゃない。

けど、お兄ちゃんは普通は忌むべき力とすら思うだろう暗器…暗殺の為の技巧を『道具』に、ヴィヴィオを笑顔にして見せている。

火薬を材料に人を殺す兵器を作る人もいれば、笑顔と思い出の為に花火を作る人もいる、お兄ちゃんにとってはそれだけの事なんだろう。

 

私に魔法であんな事ができるだろうか?

プライドや魔法の危険性、言い訳はいろいろできるけど…

 

結果は出ている。

力を笑顔を作る為に使えているお兄ちゃんと、見ているだけの私。

 

少し情けなくなった私は軽く眼を伏せた。

 

「本当に良く懐かれています。」

 

隣に立つシスターシャッハの声に、顔を上げた私はヴィヴィオを見る。

彼女の言う通り、ヴィヴィオは手品に惹かれながらも私に度々顔を向けていた。

俯いたところを見られたのか不思議そうなヴィヴィオに、笑顔で手を振る。

 

「このままご自分の娘さんに?」

「受け入れ先は探してます。あの子を必要としてくれて、受け入れてくれる…温かい家庭を。」

「あの子は嫌がりますでしょうに。」

 

少し残念そうにも聞こえる声で言うシスターシャッハ。

けど…私は…

 

「幸せにしてあげられる自信がありません。」

「どうして?」

「私はいつも自分のことばっかりで、優しい母親になれる資格も、たぶん…ありません。」

 

フェイトちゃんほどの気付きも優しさも無い私。

エリオとキャロを引き取ったフェイトちゃんと一緒に何か調べたり手伝ったりだってできたはずだったのにそれも無いまま、今ヴィヴィオのことで四苦八苦している私はどれだけフェイトちゃんに助けられたかわからない。

こんな有様で、人の人生や幸せを背負える訳が無い。何より…

 

「それになにより、私は空の人間ですから。」

 

これが…一番恐い。

私が支えになると言う事は、私が傷つけば支えが傷つく事になる。

ただでさえきっと、普通に任務に出ているだけで一人ぼっちにしてしまう事が多くなる私が、お父さんと同じ様なことになれば…

 

 

 

 

瞬間、背筋に寒気が走った。

 

 

 

 

一瞬、だけど間違えようの無い感覚。恭也お兄ちゃんと相対した時のあの…

 

「縁起でも…どうされました?」

「いえ…何でもありません。」

 

こんな所でそんなものを扱えるのは一人しかいない。

分かっていながら、恐くて目を向けることができなかった。

さっきの感覚そのものじゃなくて、あの駄々甘の速人お兄ちゃんにそんなものを使わせるほど怒らせてしまったことが。

 

「ママ。」

 

と、悲しげな表情を隠さずに歩いてくるヴィヴィオ。

ひょっとして、ヴィヴィオもさっきのを感じて恐くなったのだろうか?

だとしたら本当に出来るだけ安心させてあげないと。

 

「ん?ヴィヴィオ、どうしたの?」

 

目線を合わせて、できるだけ優しく声をかける。

 

「ママ…しょんぼりしてたから。」

「あはは、ほんと?」

 

胸を打たれるヴィヴィオの言葉。何とか動揺を笑顔で押し隠す。

 

「うん。」

 

と、背伸びして手を伸ばしたヴィヴィオが私の頭を撫でた。

 

「ママ、いい子。」

 

感極まって泣いてしまいそうになる。

安心させる…どころの話じゃない。私の為にわざわざ様子を見に来て励ましてくれているんだ。

 

「ヴィヴィオは優しいね。」

 

でも、こんな時に涙なんて見せられない。

嬉しくても泣くものだなんて分からないと思うし、だとしたら余計に心配かけてしまう。

 

「平気だよ。ヴィヴィオが元気で笑顔でいてくれたら、なのはママもいつだって笑顔で元気だから。」

 

抱えあげてそう言うと、ヴィヴィオは少しの間を置いて、一杯の笑顔を浮かべて見せた。

合わせて笑う私。

他のしがらみを総て忘れた私達の笑い声は、暫く続いた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

教会から帰ってすぐ、ヴィヴィオを部屋に置いてこさせてなのはを人目のつかない所に呼び出した。

 

「…何?お兄ちゃん。」

「歯を食いしばれ。」

 

さすがに察していたのか、明らかに表情に影を落としたなのはの頬を、強化なしでとは言え割と本気で殴り飛ばす。

鍛えてはいるからか姿勢は崩れたものの踏みとどまったなのははすぐに顔を上げるが、俺はそんななのはの襟首を掴んで目の前まで引き寄せた。

 

「お前…自分が何を言ったか分かってんのか?」

「怒るとは思ってたけど…現実何が起こるかなんてわからないし。胸を張っていつでもどこでも大丈夫。何て言えないよ。」

 

俺が甘いだけで、現実をちゃんと見ている自分に怒るのは筋違いだとでも思っているらしい。

この馬鹿…つくづく分かって無いな。

 

「…あれから一回だけでもいい、ちゃんと本気でヴィータの事見てたのか?」

「え?」

 

そこで初めてなのはの表情に困惑が浮かぶ。

結構怒っていたので理解を待つ余裕が無いまま俺は続けた。

 

「あの馬鹿どれだけくそ真面目にやってきたか想像出来ないか?システム体のアイツはどんな頑張った所で魔力値も身体能力も上げられない。強くなるには情報量を増やして戦術や戦略を組むなり、魔法そのものの効率化を図ったりするしか方法は無いんだ。そんなアイツが、よりによってアドバンテージの一つになってる魔力値を封じられた状態でオーバーSの砲撃を凌いだんだぞ?」

「確かにヴィータちゃんは凄いし頑張ってるとも思うけど、何で今そんな」

「分からないか、本気で?ふざけんなよ…」

 

襟首を掴んでいる手が力の入れすぎでぶるぶると震える。

 

「泣いてたんだ、お前の不調に傍にいながら気付けなかったって、護れなかったって。今度は、もう二度と、そんな風にここまで来たから、あいつはあれだけの真似ができたんだ。反対に心配が過ぎて試験に落ちたやつもいたけどな。お前は迷惑だ何だと心配してたけど、早い話悲しかっただけなんだよ、誰も彼も。」

「うん…」

「うん、じゃないだろ!」

 

分かっているつもりか頷いて見せたなのはに対して本気で頭にくる。

 

「もう二度と、今度は絶対に、そう思ってやってるあいつ等を前に、『人間死ぬ時は死ぬからしょうがない』何て台詞を!ましてや『一回死に掛けた』何て台詞を吐けるのかお前は!!」

「っ!!!」

 

ヴィヴィオの事しか、自分を頼るしかないあの娘の事しかまるで頭になかったからか知らないが、とんでもない侮辱だ。

言われて漸くその事に気が付いたのか、口を硬く閉ざして目を見開くなのは。

 

「大体、護りきったとか、やるだけはやったって死んでいったり、自分の為に血に染まる人間がいることそのものが悲しい事だって、お前が俺に教えてくれたんじゃないか!!」

「ぁ……」

 

それまでは辛うじて俺を見ていたなのはだったが、とうとう顔を逸らして力なく地面に視線を移してしまった。

 

誰を殺してでも関係ないと思っていた頃に見た涙、どうしてとの問いかけ、それが今の俺の始まり。

魔導師関係の事件でも前に出っ放しだったり無茶したりで怒られたり心配されたりした事も山ほどある。

だから俺は、『神風』使ったり色々と無茶をしておきながら言うのもあれだが、死んでやるつもりは全く無い。

俺が死んだら宵の騎士四人はマスターを失い休眠状態になるし、俺が預かる事になってるから危険なものの見逃してもらえてる宵の巻物も管理局に接収され、下手したら中身ごと完全に消去される。

 

だって言うのに、なのはの台詞を聞いてると、まるで『自分がいつ死んでも大丈夫なように』ヴィヴィオの母親になる事を拒絶しているように思える。

 

どんな保険だ、ふざけてる。

 

襟首を掴んでいた手を離すと、なのははよろけた後に俯いてしまう。

さすがに、これ以上怒鳴る気にはなれなかった。

 

「大方父さんが怪我してた関係なんだろうけど、じゃあお前暫く家離れるからって理由だけで母親に連れ出されて、どこの誰かも知らん人を新しい母親と紹介されて笑顔で暮らせるか?ヴィヴィオは間違いなくお前を慕ってる、思う所があるのはともかくお前がやろうとしてるのは要はそういう事だって」

「分からないよ。」

 

俯いたままのなのはから、静かに、でも確かな声が聞こえた。

 

「局の仕事は結構命懸けだし、痛いのも別に好きって訳じゃないけど、それでもあの寂しさに比べたらずっとマシだって思えるの。そんな寂しさを味わった原因が、家が『普通』じゃなかったからだって言うなら、今の私がヴィヴィオを引き取れる訳無いじゃない!」

「お前…」

 

久々に涙を見せたなのは。それだけ本気で葛藤があると言う事。

 

確かに、いくら家で忙しいとは言え兄さんと姉さんも居た以上、父さんが倒れた穴埋めとしてとして二人が剣を極めに走る事が無ければ、まだなのはの傍には誰かがいられただろう。

自分は『耐えられた』けど、あの娘をそんな辛い目に『遭わせる』のは、例え可能性でも耐えられないと言う事か。

 

「お兄ちゃんだって言ってたじゃない!友達と二人で母親役やってる状態に疑問が無い何ておかしいって!」

「それは」

「結局どう転んだって私には普通の母親なんて無理だよ!!」

 

泣きながら叫んだなのははそのまま走り去ってしまった。

 

走って追いつけない訳では無いが、いたたまれなくて逃げ出したのだろうなのはをこれ以上追いかける気になれなかった。

 

「みっともない所………と言うか、友人としては頭にくる場面見せたか?」

 

聞こえるように通る声で告げると、少し離れた木の陰からフェイトが姿を見せた。

ヴィヴィオを置いて呼び出されたなのはが心配でつけてきて様子を伺っていた…と言った所か。

 

「なのはも心配だけど、速人が怒る理由も分かるから。シグナムにも、エリオとキャロの生きる意味の多くを占めているのが私だって忘れるなって言われてるし。」

「シグナムの奴…そんないい事言えるんだったら一番忘れてる奴に会う度にでも言ってやればいいのに…」

 

さすがにフェイトはなのはほどの危険はないと思う。

なのはの方にはあの二人ほどわかりやすい人は居ないからかも知れないが、出来ればなのはがあんな事を言う前に注意しといて欲しかった。

 

のだが、フェイトは何故か少し呆れた表情で俺を見る。

 

「そう言ったら、きっと速人が毎日言われると思うよ。」

「うぐ、容赦ないなフェイト。やっぱなのはを殴ったの怒ってる?」

「そうじゃなくて、自分を大事にしてる人が特攻用戦闘機部隊から名前を取った技なんて使わないよ。なのはより余程危ないよ?」

 

なのはに怒りつつ、薄々自分でも思ってたので耳に痛い。

 

「それにしても…そんなに普通って大事か?結構一般度外視でも幸せな人知ってるけど、普通じゃなきゃ幸せになれないって、そういう人全部名指しで馬鹿にしてる気がするんだが…」

 

クローンのフェイトは今幸せだろうし、はやてだって一般的とは何もかもかけ離れてる家族だけど、守護騎士の皆がいて幸せな筈だ。

ボディーガードの剣士なんて明らかに一般からかけ離れてる役職の父さんと結婚した母さんだって超が付くほど幸せに浸ってるし。あの万年バカップルには幸せ『そう』何て予想形式で言う必要が無いくらいだ。しかも結婚に関しては選べるって言うのに。

大半に関わってるなのはにあんな事言われたら皆どう返せばいいんだ?

 

フェイトも何となく察してか、笑みを浮かべつつも少し困ったように告げる。

 

「仕方ないよ、トラウマとか固定観念ってやっぱり簡単にはいかない物だし。それに、速人だって私となのはが親役やってることおかしいとか言ってたでしょ?」

「あー…」

 

なのはの最後の話が聞こえてたのか、朝聞いてたのかは知らないが、フェイトも知っていたようだ。

 

「あれ…さ、ただ兄さんも父さんもなのはの花嫁姿が永遠に見れなくなる事を心配しただけなんだ。」

 

あまりに重い捉え方をされたためバツが悪く、明後日の方向を眺めながら呟くように言う。

フェイトもなんて言っていいか分からないのか言葉が帰ってこない。

 

どちらの物か、暫くの間乾いた笑い声だけが響く。

 

それも収まった頃に、俺は軽く息を吐いた。

 

「…やっぱ、生まれてから今の今まで一瞬だって普通だった事の無い俺に、なのはが気にしてる普通を分かってやるのは難しいのかな?」

「そんな事無いよ。」

 

軽く自嘲気味に呟くと、フェイトが少し悲しげに否定する。

気持ちは嬉しいんだが…

 

「物心付いた頃には殺しが常識で、救われてもまだ護る為には躊躇わず、朝から晩まで殆どを修行に費やした挙句、今目指してるのはヒーロー。普通の要素がどこにある?」

「それは…」

 

答えようがないフェイト。どこにも普通の要素なんて無いんだから当然だ。

局員になってるほうがまだ普通な位だ。戦闘もあるとは言え職業なんだから。

 

「そんなんだから普通について説得力を持って語るのはちょっと無理だよな。だからせいぜい俺に自信を持って言えるのは…」

 

お手上げといった感じで両手を挙げてそこで区切る。

 

「別に普通でなくたって十二分に幸せになれるって事くらいだ。」

「あ…そうだね。」

 

自分を指して告げた内容に、それまで悲しげだったフェイトが明るい反応を返す。

そう、だから正直何が普通云々を気にする理由が全く理解できない。全異常の俺が幸せ堪能出来てるんだから変なこと気にしなきゃいいのに。

とは言え、俺には分からないと泣いていたなのは相手にそんな事言ったら、まるで理解できませんと肯定する事にもなる。どうしたものやら…

 

「毎回であれなんだけど…色々任せてもいいか?」

 

優しく、なのはに近く幼馴染で親友で対等、オマケに同性なフェイトには、俺よりなのはにしてやれる事が多い。

フェイト自身、なのはの事は心配してくれてるから喜んで引き受けてくれてるが、結構頼りっぱなしで兄としてはなんか情けない。

 

そして、当然と言うべきかフェイトは笑顔で頷いてくれる。

 

「うん、速人は幸せだって事も伝えておくよ。」

「それだけ言うと俺がお気楽人間みたい何だが…」

 

冗談交じりに肩を竦めたつもりだったのだが、フェイトのほうは首を傾げる。

 

「違うの?」

「あ、言ったなコラ!!」

 

小走りで追いかける俺から逃げながら笑顔で手を振るフェイト。

まさかフェイトにからかわれるとは思わなかったな、ちょっとビックリだ。

 

しかし、兄さん姉さん…二人の剣は間違いなく凄いものだけど…払った犠牲が未だに続く末の妹のトラウマってのは護る剣士としてどうなんだ?

これは改めて文句の一つでも言ってやらなきゃならないかと考えながら、寮に戻る道を歩き出した。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

半ば八つ当たり気味に泣き叫んだ後そのまま逃げ出すなんて情け無い姿を晒してしまった。

 

ヴィヴィオの事しか頭に無いまま、言ってはいけない台詞を言った。

 

お兄ちゃんの指摘は、痛いくらいに正しかった。

自分の事だからあんな台詞が言えたけど、教え子に…たとえばスバル達に向けて、『どんなに頑張っても死ぬ時は死ぬから家族を悲しませないように考えとこうね。』何て言える訳が無い。

 

「っ…」

 

殴られた頬の熱さから、頬そのものよりも胸が痛む。

お兄ちゃんはヴィータちゃんの事を言っていたけど、当のお兄ちゃんのほうがきっとずっと傷ついたはずだ。

恩を着せるなんて考え自体がまるで無いお兄ちゃんだから自分の事は言わなかったけど、私が墜ちた時命懸けの修行を半年もの間ぶっ通しで続けた挙句、そこから更に神風なんて洒落になってないものまで使えるようにしたお兄ちゃんを、誰よりも裏切る台詞だったと思う。

お兄ちゃんがそうまでして、何を悲しんでどうする為に頑張ったのかなんて、考えるまでも無く分かっているんだから。

 

だけど…

 

そんな事を、言われないと分からない位自分の事で一杯一杯の私が、母親なんてやれるのか?

そこに行き着いたら結局首を縦に振れない私は、最後ヴィヴィオの話を出されて逃げ出す事しか出来なかった。

 

「あ…」

 

落ち込んだままで家に着いてしまう。

…もしヴィヴィオが起きてたりでもすれば、絶対に心配かけてしまう。

完全に体裁を整えるのは無理かもしれないけど、出来るだけ目元を擦ったり、頬を撫でたりしてから扉を開ける。

 

「あ、お帰りママ!」

「ただいま。」

 

寝ていたらと思って声はかけずに扉を開けたんだけど、結局起きてたヴィヴィオが駆け寄ってくる。笑顔で答えた筈なんだけど、さすがに殴られた跡をごまかしきれる訳も無く、笑顔で駆け寄ってきたヴィヴィオが私の顔を見て不思議そうにする。

 

「ママ…ほっぺ赤いよ?」

「にゃはは…ちょっと怒られちゃって。」

 

素直に答える事にする。変な事を言ってもきっと何となくで察してしまうから。

かがんで目線をあわせる。

怒られたって内容じゃやっぱり喜べないのか、少し浮かない顔のヴィヴィオ。

やっぱり直接過ぎたかなと思い始めたところで…

 

ヴィヴィオが唐突に笑顔を見せた。

 

いきなりどうしたのかと少し不思議に思って…

 

「ヴィヴィオ、笑顔で元気だよ。なのはママ元気でた?」

「っ…」

 

教会で私が元気になれると言った、ヴィヴィオからの精一杯の贈り物。

さっきからボロボロで緩んでいた涙腺が、ヴィヴィオの胸を打つ一言でアッサリ決壊した。

 

「なのはママ、痛いの?」

 

そっと手を伸ばして涙を流す私の頬を撫でてくれるヴィヴィオ。

私は小さく首を横に振った。

 

「嬉しくてもね、すっごく嬉しいと泣いちゃうんだよ。ありがとうヴィヴィオ、すっごく元気になった。」

「えへへー。」

 

私はヴィヴィオを抱きかかえてベッドに向かう。

小さな体の重さと温かさを胸いっぱいに感じながら思う。

 

 

やっぱり…どうしても私、この娘を悲しませたくないよ…

 

 

胸を張って告げられる答えは、まだ出せそうになかった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




今はここまでです。

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