なのは+『風纏う英雄』   作:黒影翼

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第十六話・明暗の中で動く者

 

 

第十六話・明暗の中で動く者

 

 

 

「あたたたた…なんでぇ?」

 

全身ボロボロのスバルが俺の前で転がっている。

何でこんな事になっているのかと言うと…

 

 

 

 

 

 

 

「スバルを借りたい?」

 

俺の頼みに、なのはが訝しげな表情を見せる。

 

「勿論本人の希望も確認した上で構わないが、少しばかり予感があってな。」

 

なのはは厳しい視線で真っ直ぐに俺を見据えてくる。

 

「小手先の技巧ならともかく、フレアさんやお兄ちゃんほど『使える』ようになるのには途方も無い時間と密度の訓練が必要でしょ?魔導師としての戦い方で基礎を埋めてる今いきなりお兄ちゃんの方針に切り替えても効果が薄いよ。」

 

戦闘者側の訓練にも理解があるなのはとしては、ちゃんと考えた上でそれでも意味が無いと思ったんだろう。事実、俺もその辺の魔導師なら数日や数ヶ月訓練するだけならなのはに任せっぱなしの方が効率いいと思う。管理世界では基本、敵も魔導師や武装使いだし。

 

「スバルの名前や技の型、何か思う所は無いか?」

「思う所もなにも、スバルのご先祖は地球出身だって聞いてるけど…」

「それさっさと言えよ!!!」

 

思わせぶりな問いかけをして、かえって恥をかいてしまった。

あーもー、周知の事実だったんかい。

 

「魔導師用に色々弄くられてるものの、基本的にあれは『こっち側』の物だ。スバルが使えるなら選択肢を増やす意味はあると思う。」

 

なのはも相手に戦闘者がいる事は知っている。

加えて、余程規格外な事でもしない限り、人として相対すれば魔導師では手も足も出ないことも。

 

「…分かった、一応薦めてみる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、スバルが祖先の原型を学ぶと聞いてか二つ返事で飛びついてきたため、組み手と相成ったわけだ。

で、何でもいいから格闘攻撃を一撃当ててみろという事で距離を詰めて殴り合い…にもならず、当てただけとは言えカウンター交じりの打撃を何度も受けたスバルは地面に転がる事になっていたのだ。

 

思い返している間に呼吸も整ってきたので、再度構える。

 

「よし、それじゃもう一回。」

「はい!」

 

リボルバーナックルを構えて、突進姿勢をとるスバル。

 

「うおおぉぉぉっ!!!」

 

大した魔力も無い俺が真正面から受ければ例えデバイスで受けても危ない渾身の一撃…

 

「それはもっとまずいな。」

 

切って落とすように腕を落とすと、突進の勢いをそのままに回転したスバルは背中から地面に落ちた。

余裕で捌けるとはいえ、こんな一撃直撃したら死んでるんだが。

魔導師って恐いな、全く。

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

「また見事にやられたわね…」

 

速人さんに、あたしの使っている格闘術、『シューティングアーツ』のルーツになる物を教えてもらえると聞いて、なのはさんに薦められた事もあって訓練を受けてみたけど…

 

一発当ててみろ。と言われ、それすらこなせないまま終わってしまった。

と言うか汗ひとつ掻かせる事ができなかった。

一方あたしは、転ばされたりなんだりで見かけが物凄い酷い有様になっていた。

 

「白い堕天使対策って言う位だから強いとは思ってたけど…」

 

何も出来ないとは、正直思ってなかった。

六課に来てからハードな訓練をずっとこなしてきたし、しかも訓練をつけてくれてたのがなのはさん達。

だっていうのに、あんな風にあしらわれっぱなしだとさすがにちょっと凹む。

 

「何にしても、さっさとモノにして来なさい。」

「…うん。」

 

強くなるって決めて鍛えたシューティングアーツ。

今はまだ見えないけれど、先があるならきっとたどり着いてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼の訓練は通常通りなのはさんの訓練に混ざって、夕食後に呼び出される。

訓練場は森で展開されていた。

 

「身体は動くか?」

「はい!」

 

出撃はいつあっても大丈夫な程度に絞られるのが常だから、疲れてはいるけどキチンと戦える。

 

「朝はいきなり振ったが、そもそも何が狙いの訓練なのかも分からないままだとキツイよな。と言う訳で今度は俺が攻撃するから防ぎ切ってみろ。」

「はい!」

 

実演してもらえるならこれ以上無い位いい機会だ。

今まで通り喰らったら痛い目にあうだろうけど、体験させられた方が印象に残る。

絶対に覚えて、必ずものにしてみせる。

 

 

 

 

と、意気込んで始まった防御訓練だったんだけど…弱かった。

 

 

 

フォームや動きは凄い綺麗だし、全く途切れる事も無いんだけど…軽い。

受けても全く揺らがないし、こんなんじゃ防御崩すなんてどうやったってできっこない気がする。

振るわれる右拳の軌道を左腕で塞ぎ…

 

 

 

 

「ぶっ!!」

 

 

 

鼻先を小突かれた。

大して痛くもなかったから、よろけつつも体勢を整えたあたしは再び構えようとして…

 

 

アレ…今何を受けた?

 

 

多分右拳。それは分かるんだけど…防いだはずだ。

避けられる体勢で防ぐつもりで構えたのに『軌道を見誤る』何てクロスレンジ担当としては致命にも程がある。あれだけ鍛えてもらったし、いくらなんでもそんな簡単なミスする筈が…

 

「これが、なのは達隊長陣がリライヴと戦いにならず、俺やフレアがあいつの対策として呼ばれる理由の一つ…見切りだ。」

「見切りって…」

 

何となく分かる気もするけど、隊長達が出来ていないとは思えない。

 

「強力な防護服、広範囲に及ぶ防御幕、超高速移動、それらを塗りつぶしぶち破る為の攻撃…魔導師の戦闘はこんな大味な物になってるから俺達とは精度が桁違いなんだ。この距離でずっと斬りあい、殴り合いやってると言えば想像つくだろ?」

 

腕を伸ばして手の甲をあたしの頬に当てる速人さん。

少し考えて…とても恐い事だと気が付いた。

どんなになのはさんの砲撃魔法が速いと言っても発射までに一秒前後、着弾までで考えると距離にもよるが倍位の時間がある。シューターなんかも同様だ。

対して、この距離で両手にナイフを持ってその一、二秒で振れる回数は、一般人でも倍以上だろう。

魔導師ならバリアジャケットがあるからそんな程度では死なないけど、速人さんの世界にそんなものは無い。

 

つまり…当たったら致命な攻撃をこの距離で絶え間なく交え続けるだけの見切りが必須だと言う事。

 

「今俺が使ったのは俺が修行してたとこの業だから少し特殊ではあるが、同レベルの力量を持つ相手なら防ぐ事はできる。つまり…」

「今のを防ぐか速人さんに一撃当てられれば、近づいた事になる…ですね。」

「防ぐのはともかく、当てる方はそうそう上手くいかないだろうがな。フレアでも数年がかりの話だ。」

 

すごい物を受けてやる気になっていたのに、数年がかりと言われて少し驚く。

難しいのも、命懸けで修行してきたとも聞いているけど、すぐに力が必要になる今そんなにかかったら…

あたしが不安を抱く中、速人さんは微笑みかけてくる。

 

「まぁヴィータに対一で勝てる位になればとりあえずましだろ。それくらいなら早めに何とかなるさ。」

「うええぇ!!?」

 

そんな笑みから告げられた言葉は、いい加減に驚きなれてきたはずのあたしがまた驚くのに十分だった。

確かにそこまでいければ物凄く役に立つけど…ヴィータ副隊長と一対一で勝つほうが速人さんに一撃当てるより簡単なんだろうか?

 

「重く大型の武器は破壊力こそあるものの、攻撃の型が限られ、連撃に向かない。シグナム位の身長があれば武器の振れない距離で蹴りを駆使して凌ぐ事もできるだろうが、リーチが皆無にあいつには無理だ。第一、お前も格闘で負ける気は無いだろ?」

 

即答したかったけど、隊長戦なんかの光景を…あの出鱈目な強さを思い出すと、ひょっとしてデバイス無いくらいじゃどうにもならないかも知れないと思う。

と、気になった事があるから確認することにした。

 

「あ、あの…でもそれってヴィータ副隊長を倒す為に使えるって意味ですよね?」

 

以前、ティアとなのはさんを倒す為に練習したクロスシフトC。

誰かに勝ったからそれでいいとか強いとか、そういう問題じゃない事はよく知っているし、反省もした。

そうなると、ヴィータ副隊長専用の戦闘法じゃ意味が…

 

「馬鹿、見切りは誰相手でも近接戦闘をするなら必須だよ。その中であいつのが一番見やすいってだけの話だ。それに、見やすいったって隊長陣の中での話だ。楽じゃないぜ、鉄槌の騎士を超えるのは。」

「はい。」

 

身にしみて分かっていた事なので頷くと、速人さんは笑顔で構える。

 

「なら頑張ってくか。」

「はい!」

 

練習を再開したあたしは、その後も暫くよく分からないままに叩かれ続けた。

やっぱり難しい…でも諦めないぞ!!

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

翌日、俺はレジアス中将に内密の呼び出しを受けて、六課を抜け出して面会に来ていた。

 

「や、レジアスさん。」

「貴様」

「礼儀なんていいだろ?公式で明るい話って訳じゃないし。」

 

怒りかけた案内役をしてくれた副官のオーリスさんだったが、それをサラリと押しとどめると、中将の方も話を優先したかったのか片手で彼女を制した。

 

「で?またなんでこんなところに呼び出したんですか?」

「一体何処でどうやってこんな物を入手した。」

 

中将は机の上に置かれた一枚の写真を指差す。そこにはある火災の消化作業を行うリライヴの姿が映っていた。

公式記事で地上部隊によって鎮火されたと報道された物である。

 

査察の前にオーリスさんにこれを渡して、『お互い様と言う事にしてくれない?』と持ちかけたのだ。

 

「現場で普通に。俺これでも探りとか得意だからさ。」

 

あっさり答えると、眉を顰める中将。

 

「こんな物で脅迫のつもりか?」

「違う違う。オーリスさんちゃんと伝えてくれたの?俺は『お互い様』にしてくれって言ったんだぜ?」

「何が違うと言うのだ。」

 

どちらにしろ脅迫だって言いたいらしい。

まぁ言っちゃうとそうなるのかもしれないけど…

 

「俺はもとより、六課自体にも貴方の邪魔をする気がない。って言う点で脅迫とは違うつもりなんだけどな。実際、こういう情報操作っていらない誤解を避ける為にやっといたほうがいいこともあるし。」

「若造が知った風な口を。それとも自身の手柄を隠されたことへの皮肉か?高町速人。」

「あ、やっぱ知ってたのか。なら話が早くていいな。」

 

どうやらさすがに中将ともなれば伏せられているはずの情報なんてものも結構知れているらしい。

けど、それなら俺が地球での幾つかの事件の関わりを伏せる事に関して二つ返事で頷いたことも知ってる筈だから、話が楽だ。

 

「で…結論としてはどう?六課見逃しておいてくれる?リライヴに振り回されてるって点では対して変わらないし…さ。」

 

あくまで笑顔で語る俺を見ながら、恐らくは何かを読み取ろうとしているのだろう中将。

暫くそうしていたが、面白くなさそうに顔を逸らした。

 

「チッ…好きにしろ。」

「ありがとう。」

 

結局、見逃してくれるようだ。

素直に礼を言ったつもりだったのだが、あくまで面白くなさそうだった。

 

「迷惑ついでにもう一つおせっかいを。予言を信じてないって話だったけど、それでも対策をしたほうがいいんじゃないかと。」

「貴様…内政干渉までする気か?」

「善良な一般市民にそんな大仰な事が出来るか。」

 

やっぱり余計なお世話だったらしく、思いっきり睨まれる。

軽く肩を竦め、話を続ける。

 

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。故郷の諺って奴なんだが、レアスキルや他所の口出しをを嫌うのはともかく、その効果に関しては自覚あるんじゃないのか?」

 

強力な魔導師や高等なスキルの保持者をことごとく奪われて来たからこそ怒りを覚えているはずの中将が、そのスキルが信用に値しない物だなんて思ってる筈が無い。

 

「それに…教会やら本局に軽く嫌がらせも出来るしな。」

「何?」

 

六課を庇っているはずの俺がこんな事を言い出したのが不思議だったのか、怪訝な顔をする中将。オーリスさんも少し驚いているようだった。

 

「もし対策して何も起きなければ、『地上の戦力を無意味に借り出すとはどういうつもりだ』とかこれでもかって位言って、ことが起きた時に中将の対策だけで片がつくなら『貴様等は邪魔だ、地上を舐めるな』と大々的な功績に挙げられる。」

 

前者は本当に嫌がらせレベルの話なので高い効果ではないが、後者は結構な宣伝になるだろう。

言ったら怒らせそうだから言わなかったが、仮にしくじるにしてもそれでも無策より対策あったほうが心象はいいだろう。

 

「…何故だ?」

「え?」

「貴様は八神はやての回し者だろう?効果の有無はともかく何故そんな事を言う。」

 

まさかそんな事を聞かれるとは思ってなかった。

第一この話だって見方を変えれば本局からのさりげない対策催促と思われても不思議では無いのに。違うけど。

 

「何でってまぁ…対策取ってくれたほうが安全だし、本局がとか教会がとかは俺どうでもいいんだよ。平和と幸せが護られればな。」

 

そこで区切って真っ直ぐに中将を見る。

 

「噂のはやて達は幼馴染だ、そのために本気で動いてるのはよく知ってる。でも中将だって戦力骨抜きにされながら尚この場を護り続けてきた人だ。讃えこそすれ邪魔なんてする気は無いんだ。これ位のことは何処の大人もやってるし、いちいち騒がないよ。」

 

こっちでも持ってあるリライヴの写真をひらひらと見せながらつげ、背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出るのにあわせてオーリスさんがついてくる。

見送り位するのが普通なのかな?こんな話しに来た奴なんか丁重に扱いたくないだろうに。

エレベーターを下る中、オーリスさんが口を開く。

 

「貴方は何処まで…」

 

冷静で、聞こえやすい声で話す彼女にしては珍しくかすれたような問いかけ。

 

「…失礼、忘れてください。」

「了解。」

 

結局、続きを言うのを止めたオーリスさんとは、それ以上の言葉を交わす事無く別れた。

聞かれれば答えづらい質問にはなるだろうから止めてくれてよかった。

 

 

 

Side~高町美由希

 

 

 

「…という事だから、グリフに関しての捜索は完全に打ち切っていいみたいだよ。」

『そうか…分かった。他方には私から上手く伝えておくよ。』

「うん、分かった。」

 

異界から届いた、脱走した戦闘者グリフを発見したっていう連絡を御神の母さんに伝える。

 

『相手をするのはやっぱり…』

「今の所、速人の予定だよ。私達と修行した事もある人が重傷を負わされたって。」

『何とかなるのかい?』

 

静かに出された問いに、私はすぐに答えを返せなかった。

捕まえた際に見た事はあるけど…捕らえてあるのに背中に寒い物を感じた。

速人が言うには、恭ちゃんと同等に感じたらしい。速人もあれから強くはなっているけど、恭ちゃんに届いているとは…

 

「大丈夫だよ。」

 

それでも、言い切った。

 

「速人は自分で言うようなヒーローをちゃんとやれてるし。あの恭ちゃんに神速を教えてもいいと思わせる位に。」

『…それは、信用できそうだね。』

 

電話越しに聞こえる母さんの声が、少し柔らかくなった気がした。

 

『それじゃあ、また。』

「うん、またね母さん。」

 

電話を切って、夜の空を見上げる。

この世界からずっと遠い、空すら繋がっていない世界で戦っているだろう弟を想う。

 

真っ暗な闇の底から引き上げられて私達の所に来たのに、綺麗事とさえ言われかねないほどに綺麗な場所を目指してあがき続けている速人。

 

事件一つを解決するだけで叶う願いでは無いけれど、それでも…

 

「皆を…護れるといいね…」

 

祈らずにはいられなかった。

どれほどの物を賭して叶えようとしているかを知っている身として…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 


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